第51話 「テレスコープ」
『神よ……』
礼拝堂に、咲き銛の祈りが続く。
あれから10分……だれも止めない。
いや、とうとう煙羅煙羅が呆れた声をあげた。
『穢卑面よ。その、なんだ。咲き銛のやつはどうしたのだ? いつまでブツブツ言ってる』
『フン……このルディの影響だ、放っておけ。それよりも煙羅煙羅。お前が会ったという3人組はいま、どこにいるのだ』
『我に聞くな。朽ち灯よ、あの連中はどこだ』
煙羅煙羅は、朽ち灯に質問する。
連中はどこだと。
がしゃり。
シーカの左腕が持ち上がった。
『あっち……』
ビシ!
南東の方角を指さす。
『北緯34度29分18秒、東経135度47分12秒……北接海、海上……』
ガシャッ。
必要なことだけ言って、朽ち灯はまたガシャンと腕を下ろす。
……驚くべきことである。
朽ち灯は眠っているにも関わらず、" 探索 ” の能力を発揮した。
いやそれ以前に、煙羅煙羅の質問に素直に従った。
他者のために働くなど、朽ち灯のプライドが許さないはずだ。
もしかして眠ってるからこそ、か?
寝てるあいだに便利に使われてると知ったら、朽ち灯はどんなに怒るだろう。
「か、か、か、海、上……?」
首をかしげるシーカ。
『ヤツら、身投げでもしたのか』
恐ろしいことを言う煙羅煙羅。
と!
「シーカくん! 今のは!?」
やり取りを見ていたルディが大声を上げた。
興奮した様子で、シーカに接近する。
「お、こ、ちょ……」
ガイコツの仮面で迫られて、さすがのシーカもビビった。
『 “ 探索 ” という機能だ。探し物に便利だろう? もっとも探せるのは、「朽ち灯が見たことがあるもの」に限られるがな』
シーカの代わりに、煙羅煙羅が答えた。
説明を聞いたルディは、なぜか肩を落とす。
「朽ち灯が見たことがあるものだけか……いや、すまない。そうか……」
力なく答えるルディ。
なんだか知らないが、がっかりしたようだ。
『もういいか? おい穢卑面よ。いま朽ち灯が言った場所を見てくれ』
煙羅煙羅が穢卑面に、見るように催促する。
『ケケケ、お前に言われるまでもない。どうれ…………ふむ、見えたぞ』
穢卑面が静かに答える。
見えたと言うなり、ブツブツと独り言をはじめた。
『ここは……なんだ? 明るいぞ?』
『ああそうか、時差か。向こうは昼のようだな。うむ、女が2人、男が1人いる』
『これがトラか……ほ、本当だ! 本当に足枷を履いて歩いているぞ!』
『そして娘がふたり……焼き籠手と真っ白闇に呪われとるな』
『しかし、ここはなんなんだ? もしかして船の上か? ルディよ、わかるか?』
ルディに、ここはどこかと尋ねる穢卑面。
答えるルディ。
「近すぎてよくわからんな。穢卑面、すこし視界を遠ざけろ。望遠にしてくれ。うん、そのくらいでいい。いや、ちょっと離れすぎだ」
ぶつぶつと、仮面と会話するルディ。
と、いきなり声のトーンがあがった。
「そこだ穢卑面、そこで止めろ。なんだここは……? 軍艦!? ここは軍艦の上だ!」
軍艦……?
なに言ってるんだ、ルディは。
「待て、穢卑面。彼らにピントを合わせてくれ、拡大してくれ。そこだ、そこでいい。なにか話してるな。唇を読んでみよう、なになに……?」
「ハカセ・データヲ・マトメマシタ」
「ゴクロウ・トラクン・キミハ・ジツニ・ユーシュー・ダナ」
「オネーサマ・ショーサガ・ヨンデマスワ」
「ニニコチャン・ショーササント・オヨビ・シナサイ」
ぶつぶつと、何事かを呟くルディ。
……いったい、なにを見てしゃべってるのだろうか。
『ルディよ。こいつら3人は、なんの話をしているのだ」
いぶかしげに尋ねる穢卑面。
「さっぱりわからん。このメガネの娘……フォックスという名前か? 博士と呼ばれてるな。どうやら科学者らしい。若いのに大したものだ」
感心するルディ。
『我はこのトラという男に驚いた。まさか、本当に足枷を履いて歩いてるとはな』
感心する穢卑面。
「トラという青年は、フォックス博士の助手らしいな。なんか……本当に虎みたいな髪だな。それでこっちのニニコという少女は、博士の妹か」
『ぜんぜん似とらん姉妹だな。いや似てないとか以前に、人種がちがうぞ。養子か?』
ぶつぶつ。
ルディと穢卑面の会話はつづく。
そのあいだシーカは…………ずっと、ポカンとしていた。
「…………え、あ? え?」
ポカーン。
シーカは目を丸くするばかりだ。
ルディはいったい、なにを言ってるのか?
あらぬ方向を向いて、ガイコツ面と会話している。それも、わけのわからないことを延々とだ。
トラ?
フォックス?
ニニコ?
ど、どこにいるって?
軍艦?
博士?
助手?
妹?
なんのこっちゃ……
穢卑面とルディの会話を、不思議そうに聞いているシーカ。いや不思議っていうか、ワケがわからない。
幻覚でも見てるんじゃないだろうな。
いやしかし、ちゃんと3人の名前を言ってるし。
……見ている?
遠視!?
「こ、こ、これが……?」
(これがエヒメの能力か? 千里眼ってやつかな?)
(ということは、実際にあの3人を見てるのかな)
(けど、軍艦だの博士だのってなんのことだ? 本当に見てるのかな)
(しかし変な光景だな。横で見てると、ひとりで喋ってるアブない人だ)
(……人のことは言えないな。俺も気をつけよう)
(う、ダメだ。笑いそうになってきた)
(我慢しろ、いくらなんでも失礼だ。笑っちゃだめだ)
(で、できない! もうダメだ)
「う、く、うは、あはは」
笑いだすシーカ。
一瞬こらえようとしたようだが、もうあきらめたようだ。ふつうに笑ってる。
「あはは。あ、はは」
『シーカ、やめんか!』
煙羅煙羅が、強い口調で叱りつける。
だが突然!
ズドン!
ズドンズドン、ズドンズドン!!
ズドンズドン!!
槍!
槍の雨!!
胸甲 “ 咲き銛 ” が、槍を何十本も伸ばす!
ルディのコートが、ちぎれ飛ぶ。
禍々しい咲き銛の姿が、露わになった。
まるで、槍が咲いているかのように。




