第50話 「スピア」
『プランその2だ。14個目のパーツを作る』
『だれにでも装着できる靴』
『どこにでも到着できる靴』
『なににでも吸着できる靴』
『 " 着靴 ” と呼ぶのがふさわしい』
壮大かつ、馬鹿げたプランを提唱する煙羅煙羅。しばらくの沈黙のあと、ふたたび穢卑面との会話が始まった。
『……それでどうする。そのために何をすればいい』
興味をそそられたのか、あるいは呆れているのか。
抑揚のない声で、穢卑面は聞き返す。
しかし、煙羅煙羅の答えは……
『さあ? わからん』
『わからんだと!? では今の話はなんだったのだ!』
怒る穢卑面。
『魔王様なら出来るのではないか? たぶんできるだろう』
『……確かなのか?』
『さあ? とりあえず魔王様に会いに行こう』
『ケケケケ、あきれたな。さすがに杜撰すぎるぞ』
『かまわん、我らには時間がたっぷりある。試して損のない話だろう? どうだ、穢卑面よ』
『……』
しゃべらなくなる穢卑面。
「…………」
「…………」
人間ふたりも、なにもしゃべらない。
『お前の意見も聞きたい。咲き銛よ、お前はどう思う?』
煙羅煙羅が、今度は咲き銛に意見を求める。
興奮していた口調が、すこしは落ち着いたようだ。
……は?
サキモリ?
静寂を破るように、もうひとつのアイテムが言葉を発した。
『お話はわかりました。しかしその場合は、だれに鎧を着せるのですか?』
ルディの黒いコートの下で、もうひとつのアイテムがささやく。
ゴツゴツとした、胸全体を覆い隠すアイテム。
地の底から唸るような声。
それでいて、丁重な言葉づかい。
ルディはアイテムを、ふたつも纏っているらしい。
……ということは、だ。
いまこの礼拝堂には、4つのアイテムがあるってことか?
「お、お、俺が、着る」
シーカが口を開いた。
ぎし、と足を組み直し、笑顔を向ける。
「あ、あ、あんたも、セットで、呪われ、てるのか?」
口元を引きつらせ、ルディに対して馴れなれしく話す。
どういうわけかコイツの場合、初対面の相手にフレンドリーに話しかける癖がある。トラもフォックスも、それで怒らせちゃったんですけどね。
「き、気づ、気づかな、かった。ふたつ目、が、あること、に」
シーカがふたつ目と言った瞬間!
神父が叫んだ。
「よせ! 咲き銛!」
ズドン!
ズドン、ズドンッッ!!
槍だ!
シーカの脇腹をかすめ、椅子の背もたれに槍が突き刺さった。
それも3本も!
目にも止まらぬ速さで飛んできた。
いや、伸びてきた!
シーカが悲鳴をあげる。
「ひゃあ」
……悲鳴をあげるシーカ。
槍。
とてもとても長い槍だ。
いったいどこから……
ルディのコートの袖から、3メートルを超える長い槍が伸びている。槍は、昆虫の足のようにカクカクと動いているではないか。
まるで触手のようだ。
『ふたつ目ではありません。私がひとつ目です』
コートの下で、アイテムが唸る。
なんという恐ろしい声……
『それから鎧を着るのはあなたではありません。私の宿主、ルディ神父です。殺しますよ青年……』
「すまない、シーカ君……槍を引っこめろ、咲き銛!」
声を荒げるルディ。
ふたたびアイテムの非礼を詫びる。
「……にっこり」
シーカはなにも答えない。
気にしてませんよと言いたげな微笑みを返すばかりだ。
「咲き銛、槍を引っこめろと言ってるんだ! いいから彼に謝罪しなさい!」
ルディは、“ 槍のアイテム ” を戒める。
1秒。
5秒。
アイテムはしばらく黙っていが、ようやく謝罪の言葉を口にした。
『……失礼しました、青年。失礼しました、ルディ神父』
ズボッ!
ズボ、ズボッ。
椅子から槍が抜かれる。
『神よ……短絡な私を、どうかお許しください……』
しゅる、しゅる、しゅる。
槍が縮んでいく。
みるみる槍は短くなり、しゅるんとルディの袖に3本とも引っこんだ。
『天に存します、我らの神よ……』
アイテムの祈りが、礼拝堂に響く。




