第46話 「バンパー」
『アモロ、アモロだ……アモロならば……』
『煙羅煙羅の呪いを解ける……』
呪いが、解ける?
「…………は? ちょっと待て! 今なんつった!!」
ガン、ガン、ガン!
鉄の床を鳴らして朽ち灯に近づく。いや、近づいてはいけない。
「おおおっと! あぶねえ、触るとこだった……おい、アモロってなんだよ!」
『わ、我は、独力で、自分の力だけで、生きていけると……自由を……』
どうやら聞こえていないらしい。
独り言をくりかえす朽ち灯。
「おい聞いてんのか! こンの……言うこと聞け!」
責めたて続けるトラ。
こいつも相手の話を聞いていない。
『この世界のすべてを……食いたかっただけなのに……』
「ぶひいいいいいいいいい! こ、ワレ、これでも食らえ!」
ついにキレたトラが、朽ち灯に蹴りを叩きこむ。
ドガァ!!
その衝撃で、コンテナの扉はバキバキと歪んだ。
「うるあああああ!! あ、しまった」
もう遅い。
バキィィン!!
扉がコンテナから外れた。
一緒に落下するシーカ、ニニコ……
「う、あ…………あ!!」
「きゃ―――!」
落下する2人……いや!
ニニコが空中に投げ出された。
落ちる。
地面に激突する―――寸前!!
シーカが左腕を引き抜く。
ズバン!!
扉を砂解した。
「ニ、ニ、ニ……」
ニニコは!?
ニニコを探すシーカ!
どこへ……
いた!
真うしろ!!
あわてて右手を伸ばす。
「シーカ……!」
ニニコも手を伸ばす。
もう少しで届く!
しかし―――
ニニコは一瞬、迷った顔を向け……手を取るのをやめた。
「シーカ……さようなら……」
消え入りそうな声で、別れを告げる。
迫る地面……
「ニニ、ニニ、コ、コ……!」
叫び声を詰まらせながら叫ぶシーカが見たものは……
シュルシュルシュル!
わらわらと風にたなびいていた触手が、ニニコの左足に巻きついてく。
束ねられた触手が筒状……いや、ロケットのノズルのように、片足を覆った。
ブシュウウウウ!!
地面に激突するまさに直前、触手の束でできた噴射孔が、煙を吐き出した。
真っ赤な、
血のように真っ赤な、
煙羅煙羅とまったく同じ、赤い煙。
プシュ、プシュ、プシュ……!
煙を何度も吐きながら、ニニコが宙に浮く。
ニニコとシーカの距離が開いていく。
「ニ、ニニコ……!!」
「……シーカ。いつか、いつか……呪いを解いてちょうだい」
プシュッ、プシュ……
飛んでいく。
呪いを解いて……と、悲しそうな目を向けたのを最後に、ニニコが飛んでいく。
トレーラーを追って、飛び去って行く。
―――追いついた。
「トラ……!」
「ニニコ!」
トラの手を取る、ニニコ――――――
そして、煙羅煙羅。
『シーカ、体勢を戻せ! ええい、噴くぞ!』
呆然とするシーカを怒鳴りつける煙羅煙羅。
ブシュウウウウウウウウウウウウウウ!!
ニニコのそれとは、比較にならない量の煙を地面に吐き出す。
ぶわアァァア!
滞空、シーカが浮く。
赤煙に包まれる視界――――――
「あ、あ、あ……く」
宙に浮きながら、左腕をガシャンとトレーラーに向けるシーカ。焦りに満ちた目、すがるような目で、その手を伸ばす……
「え、煙、煙、お、お、追……」
『よけろ、シーカ!!』
「え……ゲ!!」
「追ってくるんじゃねえええええええ!!」
トラの絶叫。
ニニコを捕まえたまま、足元に蹴りを放った。
ドゴォ!!!
バンパー。
トラが蹴とばしたトレーラーのバンパーが、外れて飛んできた。
直撃――――――ドガッッッッッ!!
シーカの顔面に直撃した。




