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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第6章「にべもないアイテムを焼き捨てる幻想へ」
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第42話 「ホール」



 ドズドズドズドズドズドズ!

 研究所のうす暗い通路に、長靴の足音が鳴りひびく。


「ひー! ひー!」

「ひっ、ひっ、ひっ……」

 ニニコを背負(せお)って、トラは走る。

 おんぶ&ダッシュ!


「殺されるわ! 私たち殺されるわ!」

「ハァ! ゼ! ん、ンなこた、ハッ、ハッ……わかっとる!」

 ドズドズドズドズドズドズ! 

 通路の床を粉砕しながら、ニニコをオンブしてトラは走る、走る。


 

 シーカ?

 冗談じゃない、それどころじゃない。


 現在、2人は全速力で廊下を逃げている。煙羅煙羅(えんらえんら)の能力を見るなり、あまりのヤバさに逃走してしまった。

 ほんとヤバいんだって!


「ハァ! ハァ! こ、おま……自分で、はし、走らんか……」

 ドズドズドズ!


「腰が抜けたの! 抜けたの!」

 背中にしがみついてわめくニニコ。ヒー、ヒー!

 

「ヒィ、ヒィ! な、なんなんだよ、あのアイテムはよぉ!」

 ドスン、ドスン!


 真っ暗な廊下に、轟音と震動と、死に物狂(ものぐる)いの絶叫が響く。

 ドズン、ドズンドズン!



 やがて大きなホールにたどり着いた。

 ()き抜けの、おおきなホール。



 ガレキだらけの床―――

 壁には、機関銃の弾痕(だんこん)が見てとれる。中庭をのぞく大きなガラス壁は(すす)(くも)り、あちこちにひびが入っている。

 ボロボロになったベンチソファ。

 ひっくり返されたオブジェ像。

 通電していない自販機……まともな物はなにもない。


 ズガンッ!

 ズガン、ズガン。


「ぜっ、ぜっ、ぜぇ……」

 走り抜けるトラの足音が、だんだん小さくなっていく。

 もう限界―――

「も、もう、ハア、だ、だめだ、はぁ、はぁ……あ……」

 ついに(ちから)()きた。


「うが……」


 ドサァッ!

 頭からソファに倒れこんだ。



挿絵(By みてみん)



「キャアッ!」

 (ちゅう)に投げ出されたニニコの悲鳴。

 ビタン! 

 落下、ゴロゴロと床に転がる。


「う、う、痛い……う、う。トラ……」

 強打(きょうだ)した(ひじ)を押さえながら、ふらふらと立ち上がってトラのもとへ足を引きずる。

「トラ、トラ……」

 


「……」

 トラは反応しない。

 死体のようにソファに横たわって動かない。

 

 ニニコがその背中をゆする。

「トラ、トラぁ……」

 ゆする、ゆする。


 起きない。

 いや、起きた。


「……ハッ。はぁ、はあ……ニニコ……」

 ゆっくりと顔を上げるトラ。

「はぁ、はぁ、お、お前歩けんじゃねぇか……う、おおおおあァ!」

 ズシィン!

 必死の形相(ぎょうそう)でソファから立ち上がる。

 

「へ、へへへへ。やっぱし()ねえな」

「……え?」

 笑うトラ。

 きょとんとするニニコ。


「オーナーだよ。どっかで待ち()せしてくれてるかと思って逃げたんだけどよ。やっぱ見捨てられたかな。シーカも追ってこねえし……」

 つぶやく。

 そして、意を決したように―――

「しょうがねえ、戻るわ。お前はさっさと逃げな」


 驚愕するニニコ。

「ふぇ!? も、戻るって……逃げるんでしょう? 一緒に……」

 

「冗談じゃねえ。やっと立場がイーブンになったんだぜ? こいつ(・・・)と俺のパーツをトレードするのさ。こんなチャンス2度とねぇ」

 ふひふひと苦しそうに笑いながら、煙羅煙羅のパーツ……指に(はさ)んだ小さなネジを見せつける。

「じゃあな、ニニコ。生きてたら、よ」


 ズシ……

 ニニコの返事を待たず、背を向けて歩き出した。

 ズシ……


「と、トラ……トラあ!」

 ニニコは、呼び止める言葉さえ出てこない。

 私だけ逃げる?

 イヤだ、イヤだ……

 


   と―――



挿絵(By みてみん)



   ドゴン!!!

   ガラガラガラ…………


 タイル()りの壁が、大鉄球を打ちつけたように崩壊した。ガレキがぶちまけられ、もうもうと立ちこめる粉塵(ふんじん)

 その中から……


 しゅう、しゅう、しゅう。

 壁の向こうから、重そうに左半身を()らしてシーカが現れた。

 

 このコンクリートのブッ壊れかた……

 

 ()()のそれとはまったく違う、繊細(せんさい)さのかけらもない破壊。 “ 煙羅煙羅(えんらえんら) ” の()ぎ目から、真っ赤な煙がふき出している。

 しゅうしゅう、しゅう……



「はぁ、はぁ、おいでなすったな……」

 待ってましたと言わんばかりに、トラが立ちはだかる。

 

 シーカが(まゆ)()り上げ、ゆらりと近づいてきた。

「か、か、かえ、せ。ネジ……」

 震える声―――怒りに満ちた顔でトラを(にら)む。



「そりゃ、はあ、はあ、こっちのセリフだ。パーツ返せ……何度言わせんだボケが!!」

 ズドン!

 床を()み鳴らす。

 鬼の表情で立ちはだかるが、すぐに気持ちの悪い笑いを浮かべだした。

「ふ、ふふ、えっへっへ……壁の向こうから登場か? ほかの芸は()えのか、てめえはよ」

 挑発(ちょうはつ)

 またしても挑発する。

 ほかに会話のしかたを知らないのか、こいつは。



 

「だ、だめよ! 挑発(ちょうはつ)しちゃ!」

 (あわ)てふためくニニコ。

 どうにかトラを落ち着かせようとかけ寄り……

「ひッ!」

 凍りついた。


 自分を見る、トラの冷たい目。

 まるで虫でも見るかのような、冷たい目を向けてくる。



「……うるせえな、クソガキ……」

 トラは、ギロリと(にら)みつけると―――


「ト、トラ……あッ!」


 ドン、とニニコを突きとばした。 

 突然なにをするのか、この男は。


 

気安(きやす)く呼ぶな、厄病(やくびょう)神が」


 ()()よりも、煙羅煙羅(えんらえんら)よりも、はるかに恐ろしいトラの声。


「いい子だから、さっきの火事場に戻ってろ。パパとママが待ってるぜ、こんがり(・・・・)とな」 



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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