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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第5章「見る影もないラボを焼き捨てる涙へ」
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第39話 「ベイキング ホット」





挿絵(By みてみん)



 トラとニニコが、火炎地獄で漫才(まんざい)やっている―――そのあいだに。



 その間にブロック群は、すっかりシーカを取り囲んでしまった。

 ただし、距離を置いて。


 約3メートル……それ以上は近寄ってこようとはしない。明らかに、()()を警戒している。


『朽ち灯よ……さっき逃げて行った女(・・・・・・・・・・)の右手にあったのは「()籠手(ごて)」ではなかったか?』

『しかもなぜ、お前が「足枷(あしかせ)」と「焼き籠手」を含んで(・・・)いる? まさか食ったのではあるまいな。状況がまったくわからんぞ』


 落ち着いた口調。

 ブロック群が、かたかたと上下する。


 対して、朽ち灯は興奮した様子だ。


『そのまさかだ、食ってやった。お前も食いたい。お前を(・・・)1枚よこせ、煙羅煙羅(えんらえんら)ァ……』

 中空のブロックをつかもうと、手を伸ばす朽ち灯。

 それっ、それッ!


 だがブロックは逃げる。

 ザアアアア……!


 ブロックのすべてが、シーカの腕では届かない高さに逃げてしまった。



『裏切りだ。我らの望みは、再びひとつとなること。それを忘れたのか』


 ザアアア。

 ブロック群……以下、煙羅煙羅と記載する。

 

 煙羅煙羅の言葉に、朽ち灯がすこし冷静になったらしい。自身の心情をぽつぽつと答え始めた。


『我は……独力で世界に()って出たいのだ。世界のすべてを(しょく)したくなったのだ』

『誰の手も借りず、誰にも邪魔されず。そうしたくなったのだ。わからんか? わからんだろうな』

『なにしろ我にもわからんのだから……』

 

 狂気。

 狂気の朽ち灯。

 

 だが煙羅煙羅は……



『わかるとも。かつて我が憑依(ひょうい)していた赤子(あかご)が、成長して同じ病にかかった。青い青い、自立心と自我の芽生(めば)えだ』

 

 まるで子供に言い聞かせるような言いかた。


『お前まで、我を人間に例えるのか? 許さんぞ。降りて来い』 

 怒る朽ち灯。

 

『許さんでいい……それで? 我らの力まで欲したのか? 馬鹿すぎて話にならんわ』

 バカにする煙羅煙羅。


『な、なんだと? なんと言った貴様!』

 怒る朽ち灯。


『興奮するな朽ち灯よ。ふむ、お前は1600年で変わったな。(おさな)くなった』

 バカにする煙羅煙羅。






「ちょっといい?」

 トラが話に入ってきた。

「無機物だけで会話してんじゃねーよ。この世の光景じゃねえな、まったく」

 


『……なんだ、お前は?』

 浮かぶブロック……いきなり割りこんできた男に、ドスの()いた声を浴びせる煙羅煙羅群。

 

「ここのアルバイトだよ。見りゃわかんだろ」

 威風堂々(いふうどうどう)とウソをつくトラ。

 

『……朽ち灯よ。アルバイトとは何だ?』

 困る煙羅煙羅。


『知るか!』

 怒る朽ち灯。




 あきれるシーカ。


(こいつはホントに……)


 口には出さないが……いや、出せないが、本気で困った表情を浮かべた。


(さっさと逃げればいいのに、バカだなあ)

(お前のオーナーは、煙羅煙羅(えんらえんら)が解放された瞬間、(しり)に火がついたキツネみたいに逃げて行っちゃったぜ。なかなかの上玉だったなあ)

(ところでこいつの名前なんだっけ。そう、トラだ。まあコイツはどうでもいいや)


(ニニコ……この子もかわいいな。すごくいい子なんだ)

(初めて会った時も、俺の話を3日も聞いてくれた。優しい子だ。もしかしたら、人間との会話に飢えていただけかもしれないが……俺もそうだけど)


(お茶も出してくれたな。なのに、朽ち灯(オーナー)が食うと言い出したから、さんざん怖い目に合わせちゃった)

(女の子は何十人も殺したけど、この子は殺したくないなあ)


(2人とも俺を(にら)んでる。無理もないな)

(いいんだ。どうせ、伝えようにも伝えられない。朽ち灯には逆らえないし、どうせ俺の胸中(きょうちゅう)は、俺の胸の中だけだ)

(ああ、それにしても暑い……)


 ぐるぐると交錯する、シーカの心の声。


 と――――――……



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



「それにしても暑ちぃな、シーカ」



「ッッッ……!!」


 ……ビックリした。

 トラに、胸中を言い当てられた。

 もちろん「ああ」などと答えられるはずもない。だが、わずかに口元が開く。


(……おどかすな、バカ)

 目を丸くして、トラの顔を眺めつづけるシーカ。


 

 ざぁ……

 ブロック群が、トラとニニコの方を向いた。


足枷(あしかせ)()白闇(しろやみ)。久しいな―――』

 ふわりふわりと上下に揺れながら、徐々(じょじょ)に広範囲に広がるブロック50個。


 トラの後ろに隠れるニニコ。

 彼の上着の(すそ)をぎゅっと握る。

 触手で。

 ぎゅっ。



『ふむ、「覚醒(かくせい)」しておらんようだな。会話は無理か』

『だが(なつ)かしいぞ、諸君。さて―――……誰に憑依(ひょうい)してやろうか?』

 品定(しなさだ)めするように、ブロックは3人の周りを舞う。



「ケッ……! 積木細工が恐ろしいこと言ってやがるぜ」

 態度最悪のトラ。

 ぐい、と鼻血を(ぬぐ)い、シーカを指さした。

「今日はここまでだ。焼け死んだら(ワリ)に合わねえからな。いいかシーカ。近いうち必ず、耳をそろえて(・・・・・・)返してもらうぜ。さ……行くぞ、ニニコ」


 ずしゃり! 

 ブロックなど無視。

 背を向けて歩き出すトラ。


 撤退―――


 イヤだ!


 ニニコは納得できない。

 イヤよ、イヤよ!


「う……ううう!」

 ぶわああああ!

 ズルズル、ズルズルズル!!

 触手(かたびら)12本が、高く伸びあがった!

 そして……!!



   ズルリ。

   ぶくぶくぶく……!!


 かたびらの色が変わっていく。 

 ぶくぶくと、あざやかな水色(・・)に染まっていく。


 

挿絵(By みてみん)



「ニニコ、やめろ!」

「し、死ぬわよ! 私が本気で怒ったら、みんな死ぬわよ!」


 水色に染まる触手。


 今度はなにが飛びだすってのよ?



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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