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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第5章「見る影もないラボを焼き捨てる涙へ」
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第34話 「ベッドマン」




挿絵(By みてみん)




「へっへっへ……でかしたぜ、ニニコォ」

「ハハハ、来るんだよそれが。この場所がわかるから、なァ」


 ウヘウヘと、耳まで裂けるような笑いを浮かべる2人。


「この場所がわかるって……わかるはずないわ、だって教えてないんだもの!」

 おびえるニニコ。


 シーカが来る?

 ここに?

 どうやって?


 ニニコの不安をよそに、フォックスはさっさと今後の方針を決める。


「そうと決まったらニニコ。しばらくここで寝泊(ねと)まりだ。メシと水くらいあるんだろうな?」

「そ、そうと決まったらって……なにが決まったの?」


ぜんぶ(・・・)決まった。それよりメシは……いや、いいや。車に戻りゃ、レトルトの買い置きがあるしな。ベッドと風呂はねえのか?」

「あ、え……こ、この部屋を出て、右に曲がった通路の奥が医務室よ。ベッドならそこにあるわ。お風呂はないけど、機材洗浄用のシャワーならお湯も出るわ。けど、あの……」


「んじゃトラ、運んどいてくれ。ついでに晩メシの支度(したく)も頼んだぞ。あの、アレだ。冷凍のアレあったろ」


「はいはい、ミックスグラタンピザでしょ? トレーラー戻って取ってきます」


 雑用を命じるフォックス。

 もう、従うのが当り前のトラ。

 


「ちょっと! グスッ、聞いて! どうしてシーカが来るってわかるの!?」


 半泣きのニニコ。

 必死にうったえる彼女に、トラは―――


「ニニコ。ピザ()っためるけど、カマンベールとチリソース、どっち好き?」

「え……カマンベール。じゃなくて!」

 

 ついにニニコは怒鳴(どな)ってしまう。

 戸惑(とまど)う彼女に、フォックスがさらに質問を重ねる。



「ところでニニコ、ここの電気ってどうしてんだ? こんな廃墟なのに、電気止められてねえのか?」

「え? こ、ここは屋上にソーラーがあるの。昼間に作った電気を蓄電器に溜めてるから……じゃなくて! シーカの話は!?」


「よし、そんじゃ先にシャワーだ。(ほこり)っぽくてかなわねえ。行くよ、ニニコ。ホラ案内して」

「ちょ、ちょっと待って。引っぱらないで!」


 ニニコの片袖(かたそで)をつかみ、強引に連行するフォックス。

 さあ風呂だ。

 

「ま、待って。まさか(むか)え撃つ気じゃないでしょう? だってシーカがここに来るなんて、絶対ないわ。場所を教えてないんですもの。ねえ、トラ、トラ……」


 困惑状態のまま、ニニコは引っぱられていく。

 必死にトラに助けを求めるが……

 

「行ってらっしゃー」


 笑顔で見送られた。

 あっという間に、フォックスはニニコを連れて行ってしまう。



「さてと。やれやれ……いそがしい日だぜ」

 ひとり、水槽(すいそう)室に残されるトラ。

 中腰(ちゅうごし)の作業を続けたせいか、背中が痛い。


「ん、ん―――!!」

 背伸(せの)び。

 ん、ん!

 ぐーっと肩甲骨(けんこうこつ)まわりの筋肉がほぐれていく。


「ああ! ふー、やれやれ。さきにベッド取りに行くか……おっと、言い忘れたぜ」


 こぽこぽと、不気味な音を(かな)でる水槽。

 それを見上げ―――


「埋めてやっからな、お前!」

 



挿絵(By みてみん)




 ひとりごと。

 水槽にぎっしりと(ただよ)うアイテムに「埋めてやる」と吐き捨て、トラは医務室へ向かった。

 ズシン、ズシン、ズシン……

 


 誰もいなくなった。

 誰もいない部屋に、水槽のポンプの音だけが不気味に響く。


 こぽ、こぽこぽ。

 蛍光灯の光に照らされながら、ぷかぷか浮かぶアイテム……


 3人の誰ひとり、これの正体について議論しなかった。

 議論してもしょうがない。

 だって、埋めてやるんだから。


 こぽ、こぽこぽ。

 こぽこぽこぽこぽ……




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 


 ズシ、ズシ、ズシ……


 真っ暗な通路に、長靴の振動が響く。

 

「ふぅふぅ。ここか? けっこう歩いたな」

 

 汗びっしょりのトラ。

 今日は一日中、歩きっぱなしだ。


 ニニコの指示したとおりの通路を進み、ようやく医務室に着いた。廊下の電灯はぜんぶ切れているらしく、ここまでずっと真っ暗だった。

 でも非常灯がポツンポツンと光ってくれてたので、歩くのに不便はなかった。


 カラカラと医務室のドアを開く。

 すると、自動で電気がついた。


 パッッ!!

 まぶしい!

 急に明るくなって、目がくらむ。だが助かった。暗いままだったら、なにも見えないとこだった。

 

「さて、ベッドは……あった! って……おいおい、なんだよコレ」


 なんと医務室のベッド5台のうち、4台が血まみれだった。

 血痕(けっこん)弾痕(だんこん)だらけで、とても使えたものではない。おそらくテログループの襲撃によって、恐ろしいことが起きたのだろう。

 なにがあったのか想像するのもイヤだ。


 かろうじて汚れてないベッドは1台しかない。


 しかたないので、その1台だけを運ぶことにする。不幸中の(さいわ)い、ベッドの(あし)にはキャスターがついていた。

 

「トホホ……」


 ゴロゴロゴロ。

 ズシンズシン!

 

 薄暗(うすくら)がりの通路を、ベッドを押して進む。キャスターの転がる音と、長靴の足音が、長い長い廊下に反響する。

 さらに、トラのひとりごと。


「やれやれ。ひとつのベッドで、どうやって3人寝るんだ? 交代制かよ、まったく……」

 ズシン。

 ズシン。


「いや待てよ。それならそれで……い、いや! も、もも、もしかして逆のパターンもあったりして! うふふ」

 

 妄想。

 なにが、それならそれでなのか?

 逆のパターンとは?

 果てしなく(ふく)らむ卑猥(ヒワイ)な妄想。


 だが、すぐに現実に戻る。


「……ならないな、なるわけがねえよ。オーナー、い、いや、フォ、フォ、フォックスの言うことだ……」


「ハァ? これはアタシのベッドなんだけど。え、トラの寝るとこ? そのへんにティッシュでも敷いて寝れば? ギャハハハハ、いーっひっひっひ」


「とか言いやがるに決まってる。この前だってそうだ……」


 ブツクサブツクサ。

 フォックスのモノマネまでして、臨場感たっぷりの愚痴(グチ)をこぼす。


 最近のトラは、ストレスのせいか(ひと)り言が増えた。

 体にも心にも非常によくない。


 さらに悪いことは重なる。



 バキ。

 バキャッ!


 とつぜん(にぶ)い音が鳴り響き、ベッドが動かなくなった。トラの足元に、コロコロと小さなタイヤが2つ転がる。


「うわ、なんだ? ちょ……ちょっと待ってよ。キャスターとれたよ、やめてくれ……」

 

 キャスターが2個いっぺんに外れてしまった。

 しかたがないので、ベッドの下にもぐりこみ、えいと背負(せお)う。


「よ、よいしょ。むぐっ……!」


 け、けっこう重い。

 ていうか、ま、前が見えない。


 ふらふら、ズシズシ。

 よろよろ、ズシズシ。


「こ、腰が、腰が。はあはあ。肩が、肩が」

 悲鳴のようなうわごとを()らしながらも、必死に進む。


 なんという根性……彼を動かすのは、フォックスに怒られるという恐怖のみ。ピラミッドの石を運ぶ奴隷(どれい)のごとく、ベッドを背負(せお)って歩く、歩く。



 ―――すると。


 ドシン。



「んん??」


 ベッドがなにかにぶつかった。

 お次はいったいなんだ?

 かがめた腰を上げ、前方に目をやると……


「なんだ? 廊下のまんなかに……うおぉッ!!」

 


 遭遇(そうぐう)

 いや衝突(しょうとつ)!!




挿絵(By みてみん)




「ぎゃあ! もう来たのかよ!」

 トラが悲鳴をあげる。



「あ、あ、あ」

 立っていたのは、シーカ。

 どしんとベッドをぶつけられて、尻を(さす)っている。 


「やあ」


 向こうから声をかけてきた!

 ちょっと待て、唐突(とうとつ)すぎるだろ!!




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。


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