第31話 「スパァク」
とぼとぼ。
ズシズシ。
真っ暗な廊下を3人は進む。
トラとフォックスの足取りは重い。落ちこみまくりの2人に、ニニコはなんと声をかけていいのかわからない。
さっきも、しりとりをしようとか言ってスベったばかりだ。
ようやくトラが口を開いた。
「ねえオーナー。あの左手野郎……シーカって名前なんスけど、どうしましょ?」
ズシン、ズシン。
「どうって? なんだよ」
カツン、カツン。
ぶっきらぼうに、フォックスが吐き捨てる。
「オーナーはホラ、人殺せないんでしょ? だから死人が出ないように放火してたんでしょ?」
ズシン、ズシン。
「はあ? なんの話だよ?」
カツン、カツン。
「ほ、放火……? なんのこと?」
ニニコが、ギョッと2人の顔をうかがう。
トラもフォックスも答えない。
無視。
しゅん、と口をつぐむニニコ。
「だから俺を旅に同行させたんでしょ? もしも、シーカを殺さないとパーツを取り戻せない、みたいな状況になったら、俺にあいつを始末させるつもりだったんでしょ」
ズシィン。
ズシィン。
「…………ああ! ああ~、なーる! その手があったか。ちっとも思いつかなかったぜ」
カツン!
カツン、カツン、カツン!
「俺ね。シーカをとっ捕まえりゃ、なんとかなるみたいに考えてたんスよ。けど今、なーんか雲行きがあやしくなってきてません?」
ズシ。
ズシ。
「……知るか!」
ダン、ダン、ダン!
「俺たちのアイテムのパーツ……跡形もなく消されてたら、どうしたらいいんスかね?」
「やめろ、ボケ!」
ダン!
「……あいよ、やめます。なあ、ニニコ」
「ひゃっ? な、なに?」
ビク!
いきなり話を振られて、ニニコがびくりと足を止めた。
こ、怖いわ。
2人ともなんだか、ケンカモードだし……
「なあニニコ。なんでシーカのやつに襲われてたんだ?」
「え、ええと。あの、その……」
テンパって答えが出てこない。
「けッ……」
フォックスが、不機嫌そうにタバコを咥える。スパー。
「ええと、あのね。シーカは3日前に突然、私のところに来たの。それで “ 真っ白闇 ” を食べさせてほしいって言ったの」
「うん、それさっき聞いた」
「それで私、真っ白闇を食べてもらえたら、呪いから解放されるんじゃないかなって思ったの」
「そりゃずいぶん冒険したな。それで?」
「でも3日後に……つまり今日だけど。 “ 朽ち灯 ” が、私のことも食べたいって言いだしたの。私、びっくりして逃げたわ。その途中でトラとぶつかったの」
「ふうん」
「朽ち灯は怖いわ。なんでも灰みたいにしちゃうんだもん。まるで……」
「まるで、なんだ?」
「……ううん、なんでもない」
急に口ごもるニニコ。
「なんで3日も経ってから? そのあいだ何してたんだ?」
フォックスがようやく落ち着いたらしい。
話に戻ってくる。
「なにもしてなかったわ。だってシーカの喋りかたは、その……すごく聞き取りにくいでしょう? 普通に会話してただけで3日かかったわ。そのあいだに朽ち灯の興味が、私に向いたみたい。すごく怖かったわ」
「え? 喋りかた? なんだそれ」
眉をひそめるフォックス。
「なにって……ほら。タヌキだったら、タ、タ、タヌキみたいな」
「吃音症のことか? いや、あいつ前に会ったときは、普通にしゃべってたぞ。なあトラ」
「それがホントなんですよ。あいつ、針の飛んだレコードみたく、たどたどしい話しかたになってたんスよ。橋から落ちたときに、頭でもぶつけたんスかね?」
「……ま、アイツのことはいいや。で、鎧ってのは?」
「真っ白闇も、フォックスの籠手も、トラの長靴も、朽ち灯も。もとはひとつの鎧だったんですって。それが大昔に、13個に分かれたらしいの」
「じゅ……13個!? こんなのがまだあんのかよ!」
フォックスが自分の右手を見る。
「それがなんで人間を呪うんだ? そもそも、なんで13個に分かれたんだよ」
眉間にしわを寄せるトラ。
「さあ? わかんないわ。あ、そうそう。トラとフォックスのノルマってなに? シーカに取られちゃったパーツが揃えば、カウントがまた始まるんでしょう?」
「……揃えばな。俺のノルマは歩数だ。1億歩歩けとさ」
「アタシは……フン! さっき言ったろ、119軒に放火することさ。ニニコのは? おっと……」
3人が歩みを止めた。
行き止まりだ。
通路の突き当りが、ゲートで閉ざされていた。大きな大きな、見ただけで分厚いとわかる鉄のゲート。
格納庫か……?
いや、まるでシェルターだ。
「ニニコ、ここか?」
「……2人とも下がってて」
ニニコはダンボールを床に置くと、スカートから触手…… “ かたびら ” をズルズルと伸ばした。
すると―――
バチバチバチバチ……!!
鞭のように揺らめく触手から、バチバチと音が鳴った。
なんの音だ?
トラとフォックスが眺めていると……
「え?」
「うわっ!」
触手の色が変わった。
根元から先っぽへ、鮮やかな黄色に染まってゆく。
バチバチバチバチ!
けたたましいスパーク音。
火花が飛び散る。
目がくらむような閃光を放つ。
これは―――電気!?
電気を纏った触手の1本が、ゲートに向けて伸びる。
しゅるしゅる。
バチバチバチ!!
亀裂の入った電子パネルに、するりと侵入する触手。
うにょうにょ。
バチバチ!
パァッ……
数秒して、電光板が発光した。
スピーカーのランプが点灯し、機械の音声が流れる。
《 ざ、ザザザ、ざ…… 》
《 ロックパターン、225、承認、ざざ…… 》
《 ザ、ザ……パスワードをどうぞ…… 》
ニニコがすぅっと息を軽く吸い、歌う。
「ちぃっと通してくだしゃんせ―――」
《 パスワード確認。ドア、ヒラキマス…… 》
ゴゴゴ……
巨大な扉が、ゴンゴンと派手な音を立てて開いてゆく。




