第29話 「クエスト」
同夜。
ニニコの指示で、トレーラーを走らせる。
ドドドドドド……どこへ向かっているのか。
一本道。
ひたすら一本道。
町から遠ざかるように、トレーラーは荒れた舗装道を進む、進む。
「これどこ向かってんだ? まっすぐでいいのか、ニニコ」
「ええ、まっすぐよ。ええと……フォックス」
助手席にニニコを乗せ、ひた走ること30分。
あたりには民家も建物も見えなくなった。
がたがたの道路に揺られながら、ひたすら夜の荒れ道を進む。
ドドドドドドドォォ……
さて、トレーラーの最後尾。
トラは、荷台のコンテナによりかかっていた。
言っとくがコンテナの中じゃないぞ。毎度おなじみの、荷台の上だ。なんだかんだ、トラはこの場所が気に入っていた。
真うしろに、景色がブッ飛んでいく爽快感。
夜空に星がきらめいて、きらめいて……
だがトラの顔は険しい。
と、いうのも……
「あのガキ、どうすんだコレ……?」
ガシャ、とコンテナの扉を開く。
なかにはダンボールが7つ、乱雑に積まれていた。
出発前に、ニニコが町の花屋で買い求めたものだ。厳密に言えば、代金を払ったのはフォックスだが。
「ひィっきシ! ちぇっ、鼻がムズムズするぜ」
ダンボールの中身は、ぜんぶ花だ。
大量のバラ、ユリ、ラン……その他たくさん。ここにあるダンボール、すべて花だ。
「ヘッ、まるでハネムーンだね」
ふたたび、運転席のフォックスとニニコ。
かなり険悪な雰囲気である。
「で、さっきの触手はなんだったんだ? ニニコのアイテムってどういう能力だよ」
「……」
「おーい。10万出して、お花買ってやったのはどこの誰だ?」
「……アイテムって、もしかして鎧のこと? 奇抜な表現だわ」
「どうでもいいよ。スカートから触手が出てきたときゃ、お前が巨大イカでも産んだのかと思ったぜ。ズルズルってな」
左手を伸ばし、ニニコの薄い腹をフォックスが擦る。
あわてて、その手を払いのけるニニコ。
「や、やめてっ……二度としないで! アイテムでいいわ。私のアイテムは “ 真っ白闇 ” よ」
「白? 黒かったじゃん」
「最初は白かったわ。吸収したら 、色が変わるの」
「え……なんだって? 吸収?」
意味がわからない。
眉をしかめるフォックス。
ニニコが、うーんと考える。
「えっとね、説明が難しいんだけど。 真っ白闇は、栄養とか毒素とかを吸い取って、ためておけるの。私の体を通せばだけど」
「あァン? どういうこと? ケーキ食ったら、アイテムが太るってことか?」
「ちょっと違うわ。なんて言えばいいかしら。ケーキに例えるなら、糖分を溜めるというか」
「生物濃縮みてえな能力か?」
「? せい……ぶつ?」
今度はニニコが眉をしかめる。
意味を知らないらしい。
「いやいい。そんじゃアレか? 黒かったのは、つまり……ニニコの体の、鉄分とかミネラルとかを溜めてあるわけ? だから黒になったってことか?」
「なんとかいう神経ガスよ。それに枯葉剤と、窒息ガスと……」
キキキ、ギャギャ!!
急ハンドル!
トレーラーが揺れる。
「うあわ! な、なんだぁ?」
荷台のトラが落ちそうになった。
※ ※
「危ないわ、フォックス。びっくりするじゃない」
「びっくりしたのはこっちだ! んなモンでアタシを締めつけたのかよ!」
「大丈夫よ。ちゃんと私がコントロールしてるもの」
大丈夫と言われても、ちっとも安心ではない。淡々と話すニニコに、フォックスが疑いの目を向ける。
どこまでマジなんだよ、ったく。
「……とにかくよ、どこに向かってんのか教えろよ」
「見えてきたわ。あれよ、あの建物」
あの建物―――
荒野のド真ん中に見えてきたのは、場違いなほど巨大な建物。
フェンスには、蔦のように有刺鉄線が巻きついている。そこには、立ち入り禁止のプレートがかけられているではないか。そのプレートも、ひどくボロボロだ。
ここは廃棄された施設……だろうか?
博物館のような、県庁舎のような、水族館のような建物。
あちこちの窓ガラスが割られ、壁のコンクリートが剥がれ落ちている。心霊スポットのような不気味な建物だ。
停車したトレーラーから3人が降り、ゲートの前に立った。
「なかに入りましょう。あ、お花を忘れないで」
ニニコがトラを指さす。
「はぁ? 冗談だろ、ダンボール7つもあるんだぞ!」
「おねがいよ、私も2つ持つわ。トラが3つ、フォックスが2つ……」
「つまりトラが5つだな、行こうぜ」
当たり前みたいにフォックスは言い捨てる。
だが、ニニコには理由がわからない。
「?? なぜ?」
「……いいんだ、ほっといてくれ。下がってろ、フェンス破るからよ」
ガシャア!!
トラが金網に蹴りを入れた。
ギ、イイ、ィイイ……ガシャァアアアァン!!
6畳ほどの広さのフェンスが、根こそぎブっ倒れた。
「入口つくったぜ、ニニコ」
「あ……うん。ごくろうさま」
長靴の破壊力に、ぽかんと口をあけるニニコ。
「お次はダンボールか。よいしょ! お、重いぜ……」
トラは荷台からダンボールをすべて降ろすと、5つを積み上げて、えいと持ちあげた。
ふらふら、よろよろ。
ニニコも、ダンボール2つに触手を伸ばす。
しゅるしゅる。
触手の1本1本は、けっこうな力があるらしい。器用にダンボールに巻きつき、ぐいと持ち上げてしまった。まるで象の鼻だ。
「なかに入りましょう。こっちよ、着いてきて」
ニニコが先頭に立ち、2人を先導する。
トラとフォックスは顔を見合わせた。
「へーい」
「フン!」
ニニコにつづいて、敷地に入る。
めざすは建物の……
いや、知らん。
そういえば、なにしにここに来たんだっけ?




