第29話 「クエスト」
同夜。
ニニコの指示で、トレーラーを走らせるフォックス。
ドドドドドド……どこへ向かっているのか。
一本道。
ひたすら一本道。
町から遠ざかるように、トレーラーは荒れた舗装道を進む、進む。
「これどこ向かってんだ? まっすぐでいいのか、ニニコ」
「ええ、まっすぐよ。ええと……フォックス」
助手席にニニコを乗せ、ひた走ること30分。
あたりには民家も建物も見えなくなった。
がたがたの道路に揺られながら、ひたすら夜の荒れ道を進む。
ドドドドドドドォォ……
※ ※
荷台の最後尾で、トラはコンテナによりかかっていた。
言っとくがコンテナの中じゃないぞ。おなじみの車外の最後尾だ。なんだかんだで、トラはこの場所が気に入っていた。
真うしろに、景色がブッ飛んでいく爽快感。
夜空に星がきらめいて、きらめいて……
だがトラの顔は険しい。
と、いうのも……
「あのガキ、どうすんだコレ……?」
ガシャ、とコンテナの扉を開く。
なかにはダンボールが7つ、乱雑に積まれていた。出発前、ニニコが町の花屋で買い求めたものだ。厳密に言えば、代金を払ったのはフォックスだが。
「ひィっきシ! ちぇっ、鼻ぁムズムズするぜ」
ダンボールには大量のバラ、ユリ、ラン……その他もろもろ。いっぱいに花が詰められている。このダンボール、全部そうだ。
「ヘッ、まるでハネムーンだね」
※ ※
ふたたび、運転席のフォックスとニニコ。
かなり険悪な雰囲気である。
「で、さっきの触手はなんだったんだ? ニニコのアイテムってどういう能力だよ」
「……」
「おーい。10万出して、お花買ってやったのはどこの誰だ?」
「……アイテムって? 鎧のこと? 奇抜な表現だわ」
「どうでもいいよ。スカートから触手が出てきたときゃ、お前が巨大イカでも産んだのかと思ったぜ。ズルズルってな」
左手を伸ばし、ニニコの薄い腹をフォックスが擦る。
慌てて、その手を払いのけるニニコ。
「や、やめてっ……二度としないで! アイテムでいいわ。名前は “ 真っ白闇 ” よ」
「白? 黒かったじゃん」
「最初は白かったわ。吸収すると 、色が変わるの」
「え……なんだって? 吸収?」
意味が分からない。
眉をしかめるフォックス。
ニニコが、うーんと考える。
「えっとね……説明が難しいわ。 “ 真っ白闇 ” は、栄養とか毒素とかを吸い取って、ためておけるの。私の体を通せばだけど」
「?? あァン? どういうこと? ケーキ食ったら、アイテムが太るってことか?」
「ちょっと違うわ。なんて言えばいいかしら。ケーキに例えるなら、糖分を溜めるというか」
「生物濃縮みてえな能力か?」
「? せい……ぶつ?」
今度はニニコが眉をしかめる。意味を知らないらしい。
「いやいい。そんじゃ何か? 黒かったのはつまり……ニニコの体の、鉄分とかミネラルとかを溜めてあるわけ?」
「なんとかいう神経ガスよ。それに枯葉剤と、窒息ガス……」
キキキ、ギャギャ!!
急ハンドル!
トレーラーが揺れる。
「うあわ! な、なんだぁ?」
荷台のトラが落ちそうになった。
※ ※
「危ないわ、フォックス。びっくりするじゃない」
「びっくりしたのはこっちだ! んなモンでアタシを締めつけたのかよ!」
「大丈夫よ。ちゃんと私がコントロールしてるもの」
大丈夫と言われても、ちっとも安心ではない。淡々と話すニニコに、フォックスが疑いの目を向ける。
どこまでマジなんだよ、ったく。
「……とにかくよ、どこに向かってんのか教えろよ」
「見えてきたわ。あれよ、あの建物……」
あの建物―――
荒野のド真ん中に見えてきたのは、場違いなほど巨大な建物。
蔦のように有刺鉄線が巻きついたフェンス。そこには、立ち入り禁止のプレートがかけられているではないか。そのプレートも、ひどくボロボロだ。
ここは……廃棄された施設、だろうか?
博物館のような、県庁舎のような、水族館のような建物。
あちこちの窓ガラスが割られ、壁のコンクリートが剥がれ落ちている。心霊スポットのような不気味な建物。
停車したトレーラーから3人が降り、ゲートの前に立つ。
ニニコが荷台を指さし、トラに話しかけた。
「なかに入りましょう。あ、お花を忘れないで」
「はぁ? 冗談だろ、ダンボール7つもあるんだぞ!」
「おねがいよ、私も2つ持つわ。トラが3つ、フォックスが2つ……」
「つまりトラが5つだな、行こうぜ」
フォックスがこちらを見もせず言い放つ。
だが、ニニコには理由が分からない。
「?? なぜ?」
「……いいんだ、ほっといてくれ。下がってろ、フェンス破るからよ」
金網に、トラが蹴りを入れた。
ガシャア!!
ギ、イイ、ィイイ……ガシャァアアアァン!!
6畳ほどの広さのフェンスが、根こそぎブっ倒れた。
「入口つくったぜ、ニニコ」
「あ……うん。ごくろうさま」
長靴の威力に、ぽかんと口をあけるニニコ。
トラは荷台からダンボールをすべて降ろすと、5つを積み上げて、えいと持ちあげた。
「えい! お、重いぜ……」
ふらふら、よろよろ。
ニニコも、ダンボール2つに “ かたびら ” を伸ばす。
しゅるしゅる。
触手の1本1本は、けっこうな力があるらしい。ゾウの鼻のように器用にダンボールに巻きつき、ぐいと持ち上げてしまった。
トラの作った入口―――
ニニコが先頭に立って、敷地内へと侵入する。
「こっちよ。なかに入りましょう。着いてきて」
すました表情で、2人を先導するニニコ。
トラとフォックスは顔を見合わせ……
「へーい」
「フン!」
ニニコにつづいて敷地に入る、2人。
めざすは建物の……
そういえば、何しにここに来たんだっけ?




