第27話 「パニッシャー」
「ンな……火ィイイイイ!?」
ズシン!
トラが1歩、いや2歩、さすがに引いた。
こ、これはオーナーの!
「な、なんでテメエが……!」
驚くトラの肩のうえで、女の子のスカートが翻った。シュバシュバと “ かたびら ” が大きく12方向に伸びる。
まだ肩車されてるよ、少女。
窓から工場のなかに侵入した触手たちが、工具やら斧やらを掴んで戻ってきた。
まるでタコの足。
否、12本のムチ。
「あっちいって!」
女の子の叫びに呼応するように、12の凶器がシーカに向かう。
串刺し―――!
いや!
シーカは火球を放ち、いちばん近い凶器を、ボン! と消し飛ばした。
と、同時。
シーカは残る11の凶器へ左手を振るう。シュバシュバと目にもとまらぬ速さで、朽ち灯による手刀をくり出した。
触れた瞬間、砂のように崩れて消えてしまった。
やはりシーカは、相当な武術を使えるらしい。あっという間に、すべての鉄器を消し去ってしまった。
朽ち灯が嬌声をあげる。
『斧、槌、カッターナイフ……美味いィイイ。もっと食わせろ、シーカァ……』
まるで、地の底から唸るような悪魔の声。
「ひ、ひ……」
ぞっと女の子が声を漏らした。
だがトラは怯まない。
「うんだらぁ!」
ガゴォ!
足もとの巨大な廃材を、シーカの顔面に向けて蹴飛ばす。
ズバンッ!
当たらない。
当たるわけない。
以前の金庫と同様に、直撃するまえに真っ二つにされた。
『ヒノキ……美味いィイ……』
木材の味を堪能する朽ち灯。
ふ、と余裕の笑みを浮かべるシーカ……
の、目の前に!
「うッ、わ、わ!」
別の木材。
いや丸太ン棒。
いや、柱!
「木でも食らえやアアアアアア!」
長靴に廃材を貼りつけ、シーカの頭にフルスイングを見舞うトラ。
5メートル超の、長大な、まるで丸太のような廃材。
バギャ……!
今度こそ直撃!
「が、は……」
ブッ飛ばされるシーカ。
顔面をゆがめて、ドブ川へ落下した。
「うるああああ! どうだコラァ!」
トラの雄たけび。
やった、倒した!
川へ叩き落としてやった!!
しかし……おかしい。
水音がしない。
「あれ?」
ドスンドスン。
ドブ川をのぞきこむ。
だがシーカの姿がない。
そんなバカな、どこへ……あ!!
「あ!! 穴!?」
堤防に空洞がある。
いや空洞ではない。
排水溝。
人間ひとりが立って歩ける大きさの、排水溝が見えた!
あそこに逃げこまれたに違いない。
「い、いけねえ、逃がしちまう……! そうだガキんちょ、その黒いのでアイツ探せ!」
頭上の少女に、どなりまくるトラ。
「いや! いやよ、怖い……!」
フラフラの少女が拒否する。
「この……言うこと聞け!」
女の子のスカートを掴んで、あろうことか引きずり下ろした。馬乗り―――
「イヤッ、イヤッ!」
ジタバタ。
「暴れんじゃねえ! 大人しくしやが……グベッ!!」
ドガァ!!
衝撃!
ガン! と、背後から後頭部を殴りつけられた!
トラの視界がゆがむ。
激痛。
やられた……油断した!
背後にまわりこまれた。
死ぬ……いや、殺されてたまるか!!
ズドンと振り返り、身構える!
「くそっ、回りこみやがったな……ゲ!!」
トラの顔が、一瞬で凍りつく。
「お、オーナー!」
オー……ナー……?
オーナー!?
いつの間に。
フォックスが立っていた。
……鬼の形相で。
「そんなに死にてえとは驚きだ、トラ……」
「こ、これはオーナー、どうしてここが??」
顔面蒼白のトラ。
「あんまり遅いから、探しに来てやったんだよ。コイツでな……」
コキコキと籠手を振るうフォックス。
そうでした。
「○○はどこだ」で、探し物ができるんでした。
「一向に戻ってこねえと思えば、てめえ! アタシの金でガキを買うつもりだったんだな!」
「い、いやそれは……グゲッ!」
弁解するトラ。
聞いてくれないフォックス。
飛んでくるパンチ―――
「ち、ちがうんですグベッ! き、聞いてくださブグッ!」
「聞いてやる! さあ言え、ホラ言えったら!」
「ゴゲ! ぐは! ち、ちが……」
ボカスカ殴られ、トラの顔面は歪む。
とんでもない誤解をされてしまったらしい。違うんです、オーナー。
「なにが違うだ! この子が10万持ってんだろが!」
「ぐへ! こ、こんなことしてる場合じゃボゲッ!」
女の子は、目の前で執行される百叩きの刑を無視し、ドブ川をのぞき込んでいる。
「シーカ……どうして……?」
少女は目に涙を浮かべながら、うつむいてうつむいて……じっと排水溝を眺めていた。
そのうしろで処刑は続く。
ドガッ、ボゴッ!
「や、やめて……ギョヘ!」
「あと50発だ、ボケ!」
ドガッ!
バキッ!
トラが気を失った――――――




