第25話 「ブラックホワイト」
「ぬわ! なんだなんだ?」
「はなしてえ!」
触手がトラの体に、ぐるぐると巻きついた!
おもわず悲鳴をあげる。
なに?
なにこれ???
ぐにょぐにょと黒い、ゴムみたいな感触の……マジでこれなによ!
少女のスカートから、あとからあとから現れる触手。トラの首、腕を絡めとり、ギュウと締めあげる。
「痛だだだ!」
タコに関節技をかけられるがごとし。触手に縛りあげられるトラ。
う、動けない!
「聞こえないの? 離して!」
「ど、どの口が言いやがる! そっちこそ離せ! な、なんなんだよコレ……く、くるし……」
叫ぶトラ。
叫ぶ少女。
喚きちらす2人……
と――――――
ドパンッ!!!!
背後の壁が、砂状に崩れた。
サラサラ、ガラガラと崩れるコンクリ壁。
大量の塵と化すコンクリート。石の粉が、もうもうと立ちこめる。白煙のむこうから現れたのは―――
現れたのは、シーカ。
ボウと " 朽ち灯 " の掌が、煙幕ごしにボヤけながら赤く光った。
女の子が怯え、その小さな両手をぎゅっと握る。
「あ、あ……」
シーカに恐怖しているらしい。
そのシーカは、少女を見つけ……
「ニ、ニ、ニニコ。つか、つかまえ、た、た……」
……なんだ、この口調は?
一方、トラ。
「ちょっと待てよ、なにが起こってる!? 誰かいるの? どちらさん!?」
トラは “ ぐにょぐにょ ” に絞めつけられ、首をねじ曲げられている。状況がぜんぜん理解できない。
「いえ違うんです! 僕はべつに女の子を襲っていたわけではなくて……聞いてます!?」
暴行魔と間違われたのではたまらない。
必死に弁解するトラ。
そんな彼を無視し、 “ 朽ち灯 ” の声が路地裏に響く。
『どうしたことだ、その黒さは? ……聞いているのか、“ 真っ白闇 ” よ』
がちゃがちゃと指を鳴らして、朽ち灯が少女に語りかける。
――――――マッシロヤミ?
その言葉に反応するように、ズルズルと触手が波打つ。
少女のスカートが、ぶわりとまくり上がった。
そのフトモモには―――アイテム。
太腿がアイテムに覆われているではないか。
これが「真っ白闇」か?
「長靴」や「朽ち灯」とくらべれば、すとんとシンプルなデザイン。
その側面に6つ、縦にならんだ穴から生える触手が、ヘビのように、ひゅるひゅると蠢いている。
それが左右に、全12本。
ぐにょぐにょ。
ひゅるひゅる。
「ムゥ~! ほ、ほどけ……」
触手に締めつけられ、もがくトラ。
女の子はそんな声など、まるで耳に入っていないらしい。
真っ青に凍りついた表情で、シーカにひたすら怯えた目を向ける。
だがシーカは、無表情で女の子を眺め返すばかりだ。
いや、無表情ではない。
ひく、ひくと目を歪ませている。まるで痙攣のように、口元がそわそわと動いている。
ひく、ひく。
「ニ、ニ、ニニコ……」
やはり口調がおかしい。
つっかえるように言葉が震えている。
吃音のよう……だが、以前のシーカはそうじゃなかったはずだ。
近づいてくるシーカ。
今度はしゃべらない。
なにも言わず、まっすぐ少女に向かってくる。つか、つか、つか。
「や、やめてシーカ。やめて……」
女の子がおびえて後ずさる。
混乱する少女の心が伝わったのだろうか、トラを拘束する " ぐにょぐにょ " が緩んだ。
「ぷは……はぁ、はぁ、はぁ!」
ゆるんだスキを逃さず、トラは首に巻きついた触手を引きはがした。深呼吸―――……ぜいぜいと息を荒げるトラの目に、見覚えのある男の姿。
「ぷは…………アッ! て、てててて、てめえ!」
ノドが裂けるほどの絶叫。
憎っくきシーカが、目の前にいるではないか。
「この野郎オオオオオオオオオオオ!」
シーカも、トラに気づいたらしい。あっ、みたいな表情を浮かべて、声を震わせる。
「あ、あ、ああ、あのときの…………やあ」
ニッコリ。
すごくフレンドリーな返し。
「おああああああああああああああ!」
ズドォ!!!!
トラが石の地面を踏み砕いた!
ブチ切れた!
振動する窓、壁、柱、そして少女……
「みな殺しだァああああああああああああああ!」
トラが叫ぶ。
「いやアアアアア!」
少女も叫ぶ。
3人の温度差ときたらどうだ。




