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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第27章「立つ瀬もないブーツを焼き捨てる魔王へ」
244/249

第244話 「ファイヤーヘッド」

 


 ずいぶん時間がたったような気がする。

 そうでもないような気もする。


 マオちゃんが、四天王と会合したのはいつだっただろうか。あれから、時間の経過がわからなくなるくらい大変だった。


 だから残念ながら、この章は時系列をメチャクチャにして紹介せざるをえない。

 お許しいただきたい。

 それくらい、マオちゃんは忙しかったのだ。



 この数日、マオちゃんはたいへんだった。

 いろんな作戦を立てるために。

 いろんな人間と会うために。


 まずやらなきゃならないことは “ フルカワ ” の捜索だ。


 かつて鎧から追放したパーツ「フルカワ」を探し出し、機能停止した「アモロ」を復旧させねばならない。

 まるで切除した腫瘍(しゅよう)を、ふたたび自分に移植するような話だ。しかし、いまの鎧にはそれが必要なのだ。

 マオちゃんは、魔王軍総員に指令を出した。


「全軍、総力をあげてフルカワ回収のために行動せり」



 魔王軍全員、目の色が変わった。当り前だ。アモロが機能停止してしまったら、魔王軍の医療体制が崩壊する。

 ただちに、全隊全部署が一丸となって捜索のタスクフォースが結成された。



 マオちゃんはフルカワ回収作戦を発令するにあたり、魔王軍のみんなに念を押した。


 フルカワの能力が、肉体の再生であるということ。

 だが、それはウソであること。


 フルカワが人体の欠損を修復しているのを、魔王である自分も見たことがない。フルカワ自身が出来ると言ってただけだ。

 きっとウソなのだろう。

 きっと出来ないのだろう。


 マオちゃんはみんなに責められるのが怖かった。

 みんなに誤解されるのが怖かったのだ。


「なぜ、いままで再生の鎧があることを黙っていたのか」

「そんな鎧があるなら、なぜ真っ先に回収をしなかったのか」

「肉体が欠損している者も魔王群には多い」

「なぜ我々のために、いままでフルカワを探してくれなかったのか」


 みんなに問い詰められるのが怖かった。


 ……そう。

 魔王軍のなかには、肉体を欠損した者が山ほどいる。


 任務で。

 内乱で。

 戦争で。

 病気で。

 事故で。

 彼ら彼女らが失った肉体を、もとに戻してあげたいと思わなかったことは無い。


 できない。

 できないのだ。


 フルカワには再生の能力などない。どうせ無いに決まっているのだ。



 マオちゃんはみんなに謝った。できる限り、直接みんなに謝った。会えない者たちにも、動画で謝った。

 失った部位を再生できるのではないか、という期待をさせてしまうかもしれないことを。


 残念ながら、フルカワにそんな能力はない。

 だからこそ大昔に鎧から追放されたのだ。


 しかしいま、魔王軍はフルカワを必要としている。

 アモロ復旧のために、鎧は完全体にならねばならないのだ。



 マオちゃんはフルカワが大嫌いだった。


 1600年くらい前にも、魔導士チャッカの右目を再生してみせると豪語したことがある。結果はひどいものだった。10日がかりでも再生できなかった。


 上手くいかないフルカワは、おかしいおかしいと言っていた。

 おかしいのはお前だ。

 怒ったチャッカによって、フルカワは追放されてしまった。追放されるそのときでさえ、私は人体を再生できるんだと(わめ)いていた。


 マオちゃんは考える。

 なんでフルカワは、あんな残酷なウソをついたのだろう。人体の再生という、究極の希望とも言うべきウソを。

 そして最後の最後まで、それができないことを認めなかった。



 会いたくない。

 ホントはフルカワになんか会いたくない。まして、再びひとつになんかなりたくない。アモロ復活のために協力してほしいなどと、頭を下げるなんて冗談じゃない。

 というか、57年前の私を殺しやがって。

 本当ならキラウェア火山の火口にでも放りこんでやりたい。


 マオちゃんはムカムカしていた。

 彼女の出した結論は―――


「ま、いいや。出たとこ勝負でなんとかなるか」


 マオちゃんは深く考えないことにした。

 そんなこと、フルカワを探し出してから考えることにしよう。



 と―――



「魔王様、いかがなさいましたか?」

「ふにゃ?」


 びく。

 マオちゃんはようやく我に返った。思わず周囲を見回す。ここは……リムジンの後部座席だ。セカンドシートにはタヌイ局長がいた。心配そうにマオちゃんを見ている。



挿絵(By みてみん)



「あれ、タヌイくん? ここは……」

「いかがされましたか。いまはもう国道502号線です、あと20分ほどで魔王城に到着いたします」


 魔王城……?

 そうか。ここは車の後部座席だ。そうだ、いまは車で移動してる途中だった。



「魔王様?」

「あ、ああゴメン。ちょっとボーっとしてた。私、なんか言った?」


「出たとこ勝負と聞こえましたが」

「あはは。私そんなこと言った? ちょっと真剣に考えごとしてたよ」


「ひどくお疲れのご様子です。すこしお休みになられないと」

「大丈夫だよ。うん、大丈夫ありがとう」



 マオちゃんはだんだん状況を思い出した。

 いまは空港からの帰り、第47魔王城へ向かっているところだ。そうだそうだ、空港でタヌイくんと合流したんだった。


「ごめんね、タヌイくん。なんか私に報告があったんだっけ? なんだったかな」

「いえ、サントラクタの作戦の経過報告ですので早急ではございません。明日にでもいたしましょう。ただ、これだけはいまご覧いただけますでしょうか」


 タヌイはスーツの内ポケットから、封筒を取り出した。

 請求書在中と表書きされた封筒だ。


 マオちゃんの表情が、わかりやすく(くも)る。

 カブトの炎もぴこぴこ(・・・・)と揺れた。



「ああ……これかぁ。なんだっけ、ルディ神父のお仲間から来たとかいうお手紙だっけ?」

「はい。請求書と(ただ)し書きがございますが、中身は……魔王軍の内部事情の詳細でございます」


 ボッッ!

 魔王(カブト)から吹き上がる炎が、ドンと屋根まで立ち上った。たちまち車内が青い炎で充満する。

 熱くはない。

 そして、すぐに()き消えた。


 炎は(カブト)のうえで、さっきとおなじように小さく(とも)っている。いちいちマオちゃんの感情に反応するらしい炎。


「見せて。えー、マジでウチのこと書いてあんの?」

「はい。どうか落ち着いてお読みください」


 マオちゃんは封筒をシートに投げ捨て、便箋(びんせん)を広げた。

 1枚目、ざっと目を通す。

 2枚目、ざっと目を通す。

 3枚目……


 


挿絵(By みてみん)



 ぶおっ!

 すさまじい炎がカブトから吹き上がった。車内はもちろん、あらゆる車体のスキマから爆炎が漏れる。マオちゃんの火は熱を持っていない。爆発の危険などまったくない。だが知らないものには、炎上しながら走る車にしか見えなかっただろう。

 やがて炎も落ち着いた。


「タヌイくん」

 おそろしく低い声。

 マオちゃんは、タヌイを見ようともしない。便箋をじっと(にら)んだまま動かない。


「はい、魔王様」

「この手紙送ってきた連中さ。これから “ ルディ軍 ” って呼ぶことにするね」


「周知いたします」

「うん。じゃあルディ軍の代表者にアポ取ってよ。来いって言っといて」


「は……よろしいので?」

「うん。会うことにするよ」


「……承知いたしました」

「ふう……参ったな。なんでこいつら、魔王軍(ウチ)がサントラクタでやったこと全部知ってんのよ」


「は……それは」

「ああ、もしかしてニニコちゃんのメールかな。なんだっけ、ルディ軍のシスターに、いろいろ情報送ったらしいじゃない。ジェニファーくんのスマホで」


「いえ、通信会社のサーバーまで確認しましたが、そこまで大した情報はありませんでした。まったくべつの理由で、彼らは魔王軍の内情に精通しております」

「気持ち悪いなあ」


「もしや魔王軍内に内通者がいるのでは……」

「あんま考えたくないけどね。まあ、そのへんも会ってから聞くことにするよ」


 マオちゃんを乗せたリムジンは、まもなく第47魔王城に到着するだろう。20、21、22章にてメチャクチャになった魔王城。

 すでに復旧のために大工事が始まっているはずだ。

 

 マオちゃんの、いや魔王軍のフルカワ回収作戦は、いよいよ動き出す。

 それではここから2カ月の出来事を紹介していこう。


 あいにく時系列があやふやなのだが、お許しいただきたい。

 もう、そういうのにこだわっている場合ではないのだ。



 だって、マオちゃんは2カ月後に死んでしまうのだから。




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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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