第242話 「バーニングトースト」
ご高覧くださいます皆様に、心よりお詫び申し上げます。
チャッカマン・オフロード、じつに2年以上も更新をできず、たいへん失礼いたしました。
拙作にお力添えとご愛顧くださいます方々様への背信、重ねがさねお詫びする次第です。
近況、家業に忙殺されており、また何度書いても不満足なものしか作れず、書き直しを続けておりました。
未熟と怠慢、恥じ入るばかりでございます。
このたびようやく、ご高覧いただける品質の続章を草稿できました。
なにとぞご叱咤ご教示をいただけますよう、よろしくお願いいたします。
2025年9月 古川アモロ
動画ファイル5。
「魔王軍 ならびに鎧の近況説明」
再生。
パソコンのモニターに、映像が映し出された。なにもない部屋が映っている。いや、画面の中央にマイクが1本立てられているではないか。
すると―――
パチパチパチ。
女の子ふたりが、拍手をしながら登場した。一気にディスプレイが華やかになる。
以下、モニターの少女の会話。
「どもー、ミナミでーす」
「サキでーす。ふたり合わせてバーニングトーストでーす!」
「はいはい、鎧の物語もえらいことになってきました。ここからが本番ですよ」
「めでたしめでたし。打ち上げ行きましょう」
「終わったらあきません。チマチマひとつづつ解決していきましょう」
「チマチマですね。とりあえず、ここまでのあらすじというか状況教えてもらえますか」
「はい、まず鎧がバグってフリーズしました」
「えらいことじゃないですか。前から思ってたんですけど、鎧って古いパソコンみたいですね」
「ホンマにそうです。煙羅煙羅と水な義肢と、アモロが機能停止してますよ。誰かなんとかしてください」
「なんや、3つだけやんか。なんでそいつらだけフリーズですか」
「これ話すと長いんですが。この3つ、パーツが完全体じゃ無いやつばっかなんです」
「そらおもろいな!」
「どこがおもろいねん。えらいことですよ。煙羅煙羅も水な義肢もアモロも、ちょこっとだけ部品どっか行っちゃってるんですよ」
「えー、部品が無いというのはどういうことでしょう」
「煙羅煙羅の部品は、ニニコちゃんの鎧に吸収されてます」
「ほう」
「ほんで水な義肢のパーツは、トラとバーベキューファイアの鎧に吸収されてるんですね」
「ファー」
「なのでえ、なのでえ。部品がどっか欠損してる鎧だけが、フリーズしちゃってる感じなんですね」
「もうフリーズしたままでいいんじゃないですか? 私はもう、みんなさえよければ」
「誰もいいなんて言ってません。アモロだけは機能回復してくれないと困るんですよ。魔王軍の医療体制が崩壊しちゃいますんでね」
「なんちゅうこった。それマジですか。じゃあアモロのどっか行った部品を探してこないとってことですか。そんで再びアモロを完全体にせなアカンと。どうしましょう、私半分も理解できてません」
「6000%理解できてます、安心してください。さあその無くなったアモロの部品なんですが、これがフルカワと言いまして。フルカワはいまどこにあるのか不明です」
「なんちゅうこった。本格中華」
「大丈夫です。バーベキューファイアとシーカってのを魔王軍で捕獲してまして。こいつらフルカワの居場所を探せるんですね」
「あら便利」
「シーカとバーベキューファイアにフルカワ探させます。大秘宝を探そうみたいな設定でワクワクしますね」
「40年連載しても終わらなさそう」
「そんな余裕ありません。じつはですね、ここだけの話なんですが。鎧って、あと1年以内にエネルギー切れ起こしちゃうんですよ」
「ファファファのファー! そんなんなったらアモロどころか、魔王様もフリーズですやん。とりあえずエネルギー使うのやめましょう」
「それがそうもいきません。なんかね? 魔王様のカブトがえらいことなんですよ。なんか頭に火がついてるらしいんですよ。勝手に鎧のエネルギーを燃やし続けてるんですって」
「そいつはケッサクだ、はははは!」
「笑いごっちゃありません。ドえらいことです。さあ、あなたならどうします!」
「どんどんエネルギーを補充し続けたらいいんじゃないですかね」
「いきなりボケるのやめないでください。正解でびっくりしました、エネルギーの補充で合ってます」
「ボケたつもりが合ってましたか。どうやってエネルギー補充するんでしょうか」
「井氷鹿ですよ。これを誰かに憑依させたいわけです」
「ほほう、憑依したらどうなりますか」
「井氷鹿はすごいですよ。鎧のエネルギーを作れる鎧なんです。自家発電ですよ」
「エネルギー革命だよ、おっかさん」
「誰がおっかさんやねん。そんなわけでとりあえず、だれかに井氷鹿を憑依させたろというわけですね」
「とりあえず井氷鹿さえ活動はじめてくれたら、エネルギー作れるわけですね」
「そういうことです。ただまあ、早いとこフルカワも探してもらいませんと。アモロが使えないままですんでね」
「やめてよ、エッチ!」
「なんもしてません、落ち着いてください。それはそれとして、アモロも復活させないといけません」
「そしたら気合い入れてフルカワ探しましょう。テンション上がってきました」
「お、やる気まんまんですね。その意気です」
「それでは聞いてください。ニューシングル、たそがれベーシックインカム! 君の~手取りは~♪」
「なんで歌うねん、もうええわ!」
「どうも、ありがとうございましたー!」
女子高生2人が、ふかぶか頭を下げる。
そして動画は終わった。
……終わった。
しょうもない漫才が、ようやく終わった。
はじめにも説明したが、いまの漫才は動画内で行われたものだ。
それを見ているのはひとり。
ロドニー博士だけだ。
いや、ロドニーの背には独楽があるので、視聴者は人間ひとりと鎧がひとつだ。
「……」
『……』
ロドニーはなにも言わない。椅子に座ったまま、彫刻のように固まっている。目を見開いたまま、なにも言わない。
皮肉屋の独楽でさえ、なにも言わない。
なんだったんだ、いまの漫才は。
だがまあ動画ファイルの名前にウソはない。鎧の近況はたしかに理解できた。
だがしかし……なんで漫才形式なんだ。




