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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
222/249

第222話 「クリーク」



挿絵(By みてみん)



『聞いているのか、フォックス。荷台に隠れているのはわかっているぞ。お前のマントと黒髪が、我にはまる見えだ』


『我のフォックス。返事をしろ…………返事をせんか!!』


 

「黙って聞いてりゃ……ふざけんじゃねえ! アタシに近寄んじゃねえよバケモノが!」

 叫び。

 フォックスの悲痛な叫びが返ってきた。


 穢卑面(エヒメ)の言ったとおり、荷台のなかから―――袋のネズミではないか。


「来るんじゃねえ! 来たら燃やしてやる、燃やすぞコラァ!」

 叫び。

 

『ケケケ! 好都合だ、燃やしてくれ。ルディの体が死ねば、それだけ早くお前に憑依できるわえ、ケケケ!』

 嘲笑。


「誰が……! 冗談じゃねえ、お前なんかに操られてたまるかよ!」

 絶叫。

 コンテナの中を反響し、何度もたまるかよとエコーする。

「アタシの脳みそをナメんじゃねえ! お前にコントロールされるほどヤワじゃねえんだよ」


 ねえんだよねえんだよねえんだよ……


 穢卑面(エヒメ)がコンテナのドアに手をかけた。

 


『ケケケ、その通り……だからお前にはルディ同様、脳死状態になってもらう』


 ギィ……ざばああああ。

 すでに半開きだった扉が、両側とも開け放たれた。真っ暗―――荷台は上50センチを残して水没し、ところ(せま)しとパレットが逆さに浮いている。

 

 そのパレットの山に隠れるように、荷台のいちばん奥にフォックスがいた。真っ暗、だが穢卑面にはフォックスの姿がよく見えた。

 ずぶぬれの黒い髪、ずぶぬれのマント、どこからどう見てもフォックスだ。誰がなんと言おうがフォックスである。


『ケケケ! 心配するな。咲き銛がお前の壊れた脳の代わりに、心肺を動かしてくれようぞ。ケケケ……え?』

 

 荷台を開いたところで、穢卑面(エヒメ)の足はピタリと止まった。

 おかしい。

 なに……この、なに?

『え? あれ?』


「ぞっとしねえな。焼け死んだほうがマシだぜ」

 フォックスが穢卑面(エヒメ)に向かってスマホを突き出した。非常に機械的な音声で、死んだほうがマシだと告げる。

 スマホを持つ右手のゴツいことよ、女の手とは思えない……



 

   ……え?


    右手?




 フォックスの右手に()籠手(ごて)がない。


 フォックスじゃない!!

 

 荷台にいたのはフォックスじゃない。マントを羽織(はお)ってはいるが、頭は黒髪ではない。

 シャツだ。

 黒のシャツを頭にかぶっている。


『ト……!!』

 穢卑面(エヒメ)の絶叫。



挿絵(By みてみん)



 トラだ。

 フォックスの扮装(ふんそう)……と呼ぶにはあまりにもお粗末(そまつ)、かつ不気味だが、誰がなんと言おうがフォックスに化けている。

 その手にスマホを持って。


「ヨク来キヤガッタナ、歓迎スルゼ」

 しぼりだすような高い声で、フォックスの声色(こわいろ)を出すトラ。その声はどう聞いてもトラの声で、濡れたシャツをかぶる姿はどう見てもトラだった。

「アタシノ……ゲホァ! ゴホン! アタシノ作戦勝チダナ」


《やーい、ひっかかった》

 フォックスの声がスマホから流れてきた。さっきまでは荷台に反響して気づかなかったが、ひどく機械的な音声だ。

《アホ丸出しだぜ、化け物》


『化け物はどっちだ!』

 ざばッ!

 さすがの穢卑面(エヒメ)もヒく。いや取り乱しはじめた。

『ど……どこだフォックス! どこだッ!』


 トラのことなど眼中になし。

 バシャバシャ! 

 荷台から飛び出し、周囲を見回す。


『どこだッ! どこにいる!?』


 ぐるぐると川の360度すべてを見まわす。だが霧、霧、霧でなにも見えない……透視、透視、透視! フォックスはどこだ!?

 

 いた!

 岸にいた! 


 川のド真ん中でひっくり返る配送車から、30メートルも離れた岸にいる。

 

「イッパイ食わせてやったぜ、化け物」

 スマホを手に、フォックスは笑っている。

 なんという姿……上半身は半裸だ。花柄のレースをあしらったブラジャーと、下はジャージのすごい格好だ。トラに、マントどころかシャツまで渡してしまったのだから当然だ。

 刺激的な姿と言いたいところだが、あんまりエロティックじゃない。


 恐ろしい炎を右手に(まと)っているから―――



《イッパイ食わせてやったぜ、化け物》


 トラのスマホから、同じセリフが聞こえた。


 と同時!


 ズドンッッ!!

 フォックスは炎を放つ。



挿絵(By みてみん)



 まるで徹甲弾。

 赤き一直線を宙に(えが)き、火炎弾は川面すれすれをブッ飛ぶ。穢卑面(エヒメ)の腹から下は水のなか、よって……炎は顔面(エヒメ)に向かって飛ぶ!


 ボォン!!


『ぅぐあァああ!!』

 ものすごい炎。

 一瞬で炎に包まれる穢卑面(エヒメ)。だが直撃はしていない。

『うおぉお!? お、おのれッ……!』


 直撃はしていない。

 ()(もり)だ。伸ばした10本の槍を、(アミ)のように交差させ盾を作った。



挿絵(By みてみん)



 バッ!!

 ジュウウウウウウウゥウウ!

 炎にまかれた槍シールドは、ふたたびすさまじい速さで縮む。水中に引きずりこまれた火は一瞬でかき消えた。


 危なかった。

 穢卑面(エヒメ)を……仮面を燃やされるところだった。


『フォックス、おォのれァアアアアアアアアア!』

 

 ざぶんッ!

 ざぶンッ!!

 穢卑面(エヒメ)の怒りは頂点に達した。水をかきわけ、フォックスに突撃する……しようとした。 

 だが、後ろから肩をつかまれた。

 


「待てよ。どこ行こうってんだ」


 トラが穢卑面(エヒメ)の肩をつかむ。がっしりと……ていうか、まだ頭にシャツを(かぶ)ったままだ。


 川面を覆っていた霧は、火炎弾の熱がかき消してしまったらしい。まだ深夜だというのに、月明かりと高速道路の照明で、どんどん視界が明けていく。


 だがひときわ明るく光るのは、穢卑面(エヒメ)の目だ。鬼火のような2つの目がギラギラと光る。

 ギラギラ。

 ギラギラ。


 怪物。

 もはや、人間の要素はひとつも残っていない。


『なんのつもりだ、死にたいのか?』

 恐ろしい声。

 声ばかりではない、穢卑面(エヒメ)はトラを見ようともしない。それどころか肩をつかむ手を振り払おうともしない。

 ただ、足を止めた。

 真っ黒焦げになった勇者が、すさまじい異臭を放っている。

『聞いているのか? 手を離せ、死にたいのか』


「うるさい怪物だぜ、ひでえにおいだ」

 顔をしかめるトラ。

 ようやく頭の黒シャツを川に投げ捨てた。

「殺せるもんなら殺してみろよ。長靴に呪われてもいいんならな」


『それはこちらとて同じことだ、ケケケ。我()に呪われたいか?』

 おそろしい穢卑面(エヒメ)の声。

 うわずったように笑う。

『そもそもお前に、ルディの肉体を殺せるのか? 殺せまい、ケケケ!』

 




 プツン。


 糸が切れるような音がした……した気がする。



 トラの顔が豹変(ひょうへん)した。憤怒(ふんぬ)の表情に。

 そして川に怒号が(とどろ)く。



「ルディはもう! お前が! 殺しただろうが!!」




挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] やはり! Tシャツを頭に被っているとは思ってなかったですけど。 ここから穢卑面対トラになるのか!?
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