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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第23章「願ってもないチャンスを焼き捨てる勇者伝説へ」
215/249

第215話 「メイド イン 奈良」





  ■ WARNING ■



 前回に引き続き警告する。


 今回、一文字たりとも読み飛ばさないこと。

 チャッカマン・オフロードの最重要設定である。



  ■ WARNING ■




挿絵(By みてみん)




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 


「さあ目的も果たしたし、ルソンに帰ろう……としたとき、アスカは思いがけないものを教皇から渡された。なんだと思う?」


「サファイアを装飾した宝箱だよ。ランドセルくらいの大きさのね」


「教皇は言った。ルソンに戻る航海の途中、この箱を大海原(おおうなばら)に捨てて来てくれと」


「で、受け取ったその日の夜に、海賊マオは宝箱を開けた」


「中になにが入ってたと思う? ふふふ! もうわかるだろ? アモロさ」


「海賊マオは、箱を見た瞬間に中身がわかったそうだよ。どうやら修道会がアモロを隠し持ってることは、100年以上前から知ってたらしい。魔王が宣教師になったのも、アモロを探すために修道会の中枢に潜りこむためだったみたいだ」


「アスカにしてみれば、なんの関係もない話だけどね」


「アスカはそりゃあ怒ったさ。教皇様から預かった荷物を勝手に開けちゃうんだもの。怒りのあまり、その場で勇者を全開放したそうだ」


「海賊マオは、アモロについて語って聞かせた。この首飾りはもともと、自分(・・)とセットの鎧なんだと。そして、呪いを解く力があるんだと」


「勇者も、鎧のひとつだと」


「そしてアスカに聞いた。勇者の呪いから逃れたいかと」


「アスカは断った。当り前さ! 僕だって断るよ。だれが自分から勇者を手放したりするもんか」


「というわけで、帰りの航海の途中、箱だけ海に捨てることになった。まあ教皇は、箱を捨てろと言っただけだしね。言われたとおりにしたと言えば、たしかにそのとおりだ」


「教皇がアモロを捨てようと考えた理由は簡単だ。教皇自身、中身を知らなかったのさ。ただ先代の教皇から、海のかなたに捨てよ(・・・・・・・・・)と命じられていたそうだよ」


「先代の教皇も、先々代から命じられていたらしい。はじめに封印したのが誰なのかは……どうでもいいことだね。知るすべもないし」



 しゃべる、しゃべる、シルフィードは止まらない。

 2匹に増えた蛾が、なかよく飛んでいる。

 



挿絵(By みてみん)




「海賊マオとアスカは、ふたたびルソン島に戻ってきた。出発してからすでに1年半が経過していた。悲しいことに高山右近の妻はそのとき客死していたが、残った者たちは2人の帰還を涙を流して喜んだ」


「ところが同時に、思いがけないことになってたんだ。高山右近が死んだことで、彼の一族は日本に帰国することを許されたんだ。もちろんアスカを含めた、従者も全員だ」


「だが、内藤ジョアンの一族は帰国を許されなかった。結論から言えば、これが高山一族と内藤一族の、永遠の別れになる」


「アスカは海賊マオに言った。勇者の呪いを解いてほしいと」


「そしてルソンに残される内藤ジョアンに、勇者を渡したいと言った。聖なる剣を、高山右近の友に(たく)したいと言った。もし内藤ジョアンがイスパニアに行くことがあれば、きっと勇者が役に立つはずだからと」


「行くことがあればって! 行けるわけない。内藤ジョアンは島流しを執行されてる本人だよ? いち使用人のアスカならともかく、流刑者が勝手に島を出るなんて許されるわけない」


「ただ、まあ……内藤ジョアンは、アスカの申し出を受け入れた。そりゃそうさ。勇者をくれるなんて、誰だって大喜びするよ」


「海賊マオは、アスカの呪いを解いた。もちろんアモロを使ってだ。つまりアスカの体から、魔力を消してしまった」


「それも一時的にじゃなく永遠に。アスカがもう2度と、呪いにかからないように」


「そして勇者は、内藤ジョアンに憑依した。とは言え、そのあとの生活に変化らしい変化はない。さっきも言ったけど、彼が島から出ることは許されないしね」


「内藤ジョアンだけじゃない。妹のジュリア、そして内藤家の従者も。内藤一党が日本に戻ることは、とうとうなかった。かわいそうにね」


「内藤ジョアンは死ぬ直前、ルソン島の教会の地下室に入り、そして出てこなかった。勇者を封印したってわけさ。勇者がふたたび日の目を見るのは、18世紀に入ってからだ」


「と、なんで僕がこんなに詳しく知ってるかというと、勇者自身に聞いたからなんだ。勇者はときどき、思い出したように昔のことを語る鎧だった。ふだんは、まったく無口なんだけどね」


「だからこのあとの魔王のことは、魔王軍の幹部から聞いた話になる」



 しゃべる、しゃべる、シルフィードは止まらない。

 蛾が、いつの間にか1匹になっている。

 



挿絵(By みてみん)




「どこまで話したっけ……そう、高山一族は無事、日本に帰って来た。もちろんアスカもだ。そして海賊マオも、日本に着いてきた」


「アスカが、海賊マオの子を宿していたからだ」


「ところがアスカの体に、妊娠とはまったく別の変化が起きはじめる。ものすごい怪力になりはじめた。あるときなんか、米俵(こめだわら)を10個いっぺんに持ち上げてしまった」


「当時は魔王さえ知らなかったことだけど、魔力……つまりベータ・ミオスタチンのなくなった体は、どんどん筋力が強くなっていく。アスカは呪いを解かれた副反応で、とんでもないパワーを授かったわけだ」


「で、アスカは無事に男の子を出産。海賊マオは、妻と子を養うために奈良で仕事をはじめた」


「ああ、奈良っていうのは日本の辺境国のひとつだよ。若き日の高山右近が、城を構えてたところさ。彼が異教の洗礼を受けたのも奈良だった。高山一族にとっての聖地だね」


「そして20年後、アスカは死んだ。その後、魔王はふたたび日本を離れた。それからの魔王のことはよく知らない」


「アスカと魔王の子どもたちは、日本に残った。そして400年後の現代にいたるわけだけど……2人の子孫のなかに、アスカの遺伝子を色濃くあらわす者たちが生まれはじめた。つまり、ベータ・ミオスタチンの数値が異常に低い者たちだ」


「彼らはアスカの子孫と呼ばれ、魔王軍でも特別の立場にある。彼らは、ほぼすべての呪いにかからないからね。しかも生まれながらにスーパーマンときてる」


「たしか魔王軍の経営する学校法人では、アスカの子孫だけで編成されたクラスもあったはずだよ。初等部、中等部、高等部とアスカの子孫だらけさ」


「彼らの魔力は、人によるが100から2000ミオ程度。常人の50分の1以下だ。たとえばフォックスの籠手なら、たぶん総体積で10リットルくらいかな」


「こうなると1000ミオ以下の者は、まったく呪いにかからない。体積が大きい鎧ほど、たくさんの魔力が必要になるわけだからね」


「たとえば勇者なら、たしか体積31リットル……だったかな。つまり憑依に必要な魔力は、3100ミオだ。アスカの子孫には、まるで憑りつけないね。必要魔力が足りなすぎる」




挿絵(By みてみん)





   !!


   !!?




「ちょ、ちょっと待った! いや、待って! さっき学校って言った!?」

 がたッ。

 とうとう、とうとうフォックスが聞き返した。

 いまのは本当に驚いた……

「アスカの子孫で編成されたクラスって……なるほどね」


「そう、そうなんだ。魔王もその高校に通ってるってわけ。あの制服見ただろ? すごいよね、ハイスクールで制服なんて。アニメみたいだ」


 シルフィードはにっこり。

 フォックスの反応が嬉しかったらしい。



「ようやくわかったぜ。つまりあの魔王も……いま魔王が(・・・・・)憑依してる娘も(・・・・・・・)、アスカの子孫なわけだな」

 

 おもわず、トラは口をはさんでしまった。腕組みはそのまま、だがさすがに顔色が変わった。シルフィードをにらむ。

 

 シルフィードは、トラをちらりと見上げた。

 だがすぐにフォックスに視線を戻す。


 無視。

 トラの質問に答えることなく、おしゃべりを続ける。



「……10年前、魔王はタータン人の男に憑依していたそうだ。そのときすでに90過ぎのおじいさんさ。なんでも第二次大戦の枢軸国下士官だったらしい。戦後に魔王軍を立ち上げて、世界の裏で暗躍を続けてきたわけさ」


「でも、そんな闇のフィクサーも歳には勝てない。当然さ、肉体はふつうの人間なんだしね」


「魔王……カブトにしてみれば、次の憑依先を決めなきゃいけない。そんなときだ、アスカの子孫のひとりが、事故で二度と目覚めない体になった。あとは死を待つのみ……となったときに、その子の両親が名乗りをあげた。娘を、次期魔王さまにってね」


「さあ、これで魔王の物語はぜんぶだ。今度はフゥ、君の話を聞かせてくれよ」



 シルフィードのお話は、これでおしまい。

 ヘヴィ。

 ヘヴィな内容だった。


 そんなことは、どうでもいい。


 そんなことは、どうでもいい!



   ズゥン!


   コンテナが揺れる。





挿絵(By みてみん)




「俺もアスカの子孫なのか?」

  

 トラは迫る。

 真剣に、真剣な顔で、シルフィードに迫る。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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