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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第23章「願ってもないチャンスを焼き捨てる勇者伝説へ」
211/249

第211話 「マウンテンロード」



挿絵(By みてみん)



 トラとフォックスは……いよいよ車泥棒にまで落ちぶれてしまった。都合よく(アシ)があってラッキー! くらいにしか思っていないらしい。


 じろじろと用心深く車内を物色し始めた2人。フォックスは運転席を、トラは助手席をのぞきこむ。

 このバンは荷台の壁によって、車体の前後が(へだ)てられている。そのカベには横一直線に刀傷が入り、ざっくりと荷台まで貫通していた。



「うひゃあ見ろよ。シートどころか、車体まで切れてんぞ」

「よくもこんな、ざっくりイっちまうもんだな。なんちゅう切れ味だ、おっかねえ」


 2人が言うとおり、座席ごと隔壁を切り裂いたのは、青年の腕刀だ。なんという破壊力……もし彼が不意打ちを食らわず対決することになっていれば、いまごろトラは八つ裂きにされていただろう。

 そんなこと気にする様子も無く、ドアの無くなった車内に、いそいそと乗りこむ2人。


 ギイイイ!!

 トラの乗った助手席側が、大きく沈む。車のあちこちがギシギシと悲鳴をあげた。まだ発進すらしていないのに、今からこんなことで大丈夫だろうか。


「トラ、シートベルト締めとけよ。カーブで転がり落ちても責任とれねえぞ」

「なんかゴルフ場にあるカートみたいだよな。ってことは助手席の俺がキャディさんかよ」


「サービスの悪いキャディさんだぜ、客のアタシに運転させんのか。オッケー、次のラウンドに行きますよ。666番ホールにご案内だ」

「もう打ち上げ行きたい」



 グォン!!

 車は発進した。

 信じられないスピード……時速25キロくらいしか出てない。車はガタピシと動き出した。ニニコらと合流するために。

 グオオオオオオオオオオン!

 のろのろ。


「遅っそ……アクセルべた踏みしてんだぜ。いま逃走中なんですっつっても、誰も信じてくれねえだろうな」

「俺のせいだって言いたいんだろ。このオープンカーの馬力が足りねえんだよ、絶対どっか壊れてるね」


 グオオオオン、ブロロロ!

 エンジン音がすごい。

 魔王城から2人はどんどん遠ざかる。やがて林を抜け、山間(やまあい)の道に出た。

 のろのろ。


「なあトラ、そのへんくまなく(・・・・)見てくれよ。タバコどっかにねえ?」

「ねえってば、もうさんざん探したろ。さっきの野郎、あのナリで健康志向とは恐れ入ったぜ」

 がさごそ。


「さっきのやつ、マジで魔王の下っ端だったのかな。ていうかここ、いったいどこなんだ?」

「さあな……なあ、今いる国の名前がわかんねえなんて信じられるか? 今日この世界に召喚された気分だ」


「地球の()()じゃえらい違いだぜ。夜になったら星座とかでわかるかな、晴れてりゃだけど」

「待てよ、ちょっと待て。ふつうにカーナビあんじゃん、これで見りゃいいんだ。えーっと拡縮を最大にするには、えー、このスイッチか…………このボケナビ! なんでアップになりやがんだ!」


「最大にするからだろが。アタシにやらせろ、マイナスを押すんだよ。こうやってホレ……喜べ、地球の荒れ果ててない側(・・・・・・・・)だ」

「見せてくれ、どこにいんの俺ら……やめてくれ、俺のいちばん興味ない常任理事国じゃねえか。ルディの教会まで何百万キロあるんだよ」


「ルディの教会は市民会館を曲がった先だな、山脈と砂漠を越えて(・・・・・・・・・)すぐのよ。てなわけで教会に戻るプランはボツだ。この国で潜伏しつつ、魔王人質作戦を続けんぞ」

「神様、フォックスを正気にお戻し下さい」


「ブツクサうるせえぞ。とにかくスマホだ、どっかで調達しねえと始まんねえよ。クラウドの電話帳も見れねえから動きがとれねえし、なにより金が使えねえ」

「シーカのやつが全部用意してくれてるのを願うか。もしかしたら、あっちから迎えにきてくれるかもしんねえぜ。ハイヤーかなんかでよ」


「もしそうなったらあいつに()れちゃうね。まあその可能性も期待しとくか」

「やっぱマジにスマホがいるなあ。できれば穏便に、無料で手に入れてえよ」


「話変わるけどよ、この車たぶんあと10キロも走れねえぞ。まっすぐ進まなくなってきてる。不思議だぜ、なぜか(・・・)パンク寸前だ」

「あ―――……そいつはたぶんクギかなんかを踏んだんだ。カーナビで修理屋の検索する?」


「先にスマホだ、そのへんに落っこちてたら教えてくれ。次はヘアサロンに行って、そのあと修理屋に行こうぜ」

「ついでに大使館にも寄ってくれ。亡命するから」



挿絵(By みてみん)



「だったらこのまま真っすぐ行って、突き当たった堤防(ていぼう)を左に曲がるといいよ。1キロも行けばホームレスのたまり場になってる橋があるから、この車と交換条件にすれば、スマホはわけなく手に入るよ」



 ギギギィ!!

 ブレーキ!


 ……車が止まる。



 対向車が1台、バンの横を通りすぎた。むこうの運転手は、不思議そうな顔でドアのないバンを眺めたが、とくにスピードを緩めることもなく行ってしまった。


 だれだ、いま言ったのは?

 フォックスとトラが顔を見合わせ、おそるおそる背後を振りかえる。2人がもたれるシートのすぐ後ろの壁。

 荷台の壁には、鉄板青年が刻んだ裂け目(・・・)が走っている。荷台まで貫通した、幅5センチほどの裂け目。


 その裂け目から、()んだ青い目がこちらをのぞきこんでいた。

 ぱちぱち、きょろきょろ。

  


「……お前、だれだ?」

 息をのむトラ。

 さすがに背筋が凍りつく。

「誰だ、お前? いつからそこにいやがった」


「ご挨拶(あいさつ)だなあ。僕のほうが先に乗ってたんだけど」

 ぱちぱち、きょろきょろ。

「やあフウ。また会えたね、やっぱりこれって運命だよ」



「はあ~……」

 フォックスの顔が歪む。吐き気がするとでも言わんばかりに。


 聞き覚えがある声だった。

 サントラクタの一夜の……ってか2日くらい前の!



挿絵(By みてみん)



「よう勇者殿。その、あれだ。わざとやってんのか、コントをよ」



 ふたたびフォックスはアクセルを踏んだ。ブオオオオオ……ゆっくり、ゆっくりと車は動き出す。

 最悪―――小雨が降り始めた。


「踏んだり蹴ったりだ、ちくしょうめ」



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] グランド・セフト・オート始まりましたね~ 勇者生きてたか~、確かマオちゃんに拷問受けてたような… 大丈夫なんやろか
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