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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第23章「願ってもないチャンスを焼き捨てる勇者伝説へ」
210/249

第210話 「レイクサイド」

 

 さて。


 さて……


 魔王城からの大脱出劇から10分後。

 鎧の真の物語は、魔王城の湖畔より、いま幕をあげる。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




挿絵(By みてみん)



「アイシャ、まだ写真撮る気か。魔王城を出発してから、もう2時間だぞ」



 魔王城。

 その周囲は断崖絶壁であり、さらに湖に囲まれている。


 その湖に沿う道路に、1台の車が止まっていた。ワンボックスのバンだが、車体には “ 産業廃棄物収集運搬車 ” と書いてある。

 バンの荷台のドアは厳重に閉ざされている。どうやら保冷車のようだ、外見は。


 運転席に座るタンクトップの若者は、どう見ても産廃業者には見えない。服装の問題ではなく、なんと説明すればいいのか……両腕にいくつも鉄板が突き刺さっている。ガラス窓に頭から突っ込んだみたいな、と表現すればいいだろうか。10数センチの(とが)った金属板が何枚も腕に刺さり、さながらヤマアラシのように剣先を突きたてている。


 あろうことか、額にも鉄板が1枚刺さっているではないか。まるでツノ……よく生きてるものだ、この青年は。

 青年は運転席の窓からトゲトゲの腕を伸ばす。

「いい加減にしろ。そんだけ撮れば十分だよ、カワセミだってウザがってるぞ」



「ブブ」

 湖のほとりでスマホを構える女。どうやら鳥の写真を撮っているらしい。


 また強烈な女……レザーのライダースーツだが、インナーを着ていない。お腹丸出し……にもかかわらず、ベールで口元を隠している。そのうえ、頭にはこれまた2枚の鉄板が刺さっている。まるでネコ耳だ。


 女は、青年にブブとだけ答えた。どうやらあともう5分、という意味だったらしい。スマホを持ったまま、離れたバンに向かって指を5本立てる。

 青年はやれやれと腕を車内にひっこめた。


「まったくいまの世の中、なにが金になるかわかんないな。素人のお前が撮った写真に、素人のお前が書いた詩を載っけただけのブログだよ? それが月42万の広告収入なんて、真面目に働くのがバカらしくなるよ」

「ブブ!」


 イヤミな青年。

 女はムッとした表情でブブ! と答えた。


「はいはい、わかったよ。お前には才能がある。お兄ちゃんも誇らしいよ」

「ブブ。ブブ、ブブ」


「俺の才能? 霊柩車(・・・)の運転に才能なんかいらないさ。ゆっくり撮れよ、まだ時間はあるから」

「……ブブ」



 女……アイシャと記載しよう。アイシャと青年は兄妹らしい。しかもアイシャは言葉をしゃべれないようだ。だが意思の疎通はできてるっぽい。そう信じたい。


 この湖は、よほど多くの水鳥が集まる環境なのだろう。アジサシ、カイツブリ、シギ、マガモ、コガモ、オナガガモ、トモエガモ、ヨシガモ、ハシビロガモ、ツクシガモ、アカツクシガモ、ホオジロガモなどが、優雅に水面を泳いでいる。



「カモをいじめた奴が行く地獄だな、ここは」

「ブブ!」


 ぼそっと(つぶや)いた兄の言葉に猛抗議する、耳のいいアイシャ。美しい景色に水を差されたことに腹を立てたようだ。だがやがて気が済んだのか、スマホをポケットにしまい車に近づいてきた。


「もう撮影はいいのか? お前はほんと木だの鳥だの花だのが好きだな。魔王様と気が合うのがわかるよ、こないだも蘭の品評会にお供したんだって?」

「ブブ! ブブ!」


「いや、ちが……誘ってくれなかったとかそういう話じゃなくて! あのな、花のコンテストなんかに俺が行きたがったことあったか?」

「ブブ?」


「なんだってそう、変なふうに解釈するんだ。いいから早く乗れ」

「ブブ」



 ほほえましい会話、と表現していいのだろうか。アイシャは、ブブと5回ほどくり返して助手席に乗りこんだ……そのとき。


「ちょっと待て! な、なんだ、ありゃ!?」


 車内から、鉄板だらけの腕を林に向ける青年。その指さす先、生い茂る木々のはるか向こうに、黒煙が立ちのぼっているではないか。細ながい煙が空いっぱいに広がっている。

 手前の山に隠れて魔王城は見えない。

 だが位置的、距離的に魔王城しか考えられない。湖の反対側には、第47(・・・)魔王城しかないのだから!



挿絵(By みてみん)



「煙だ! 見ろアイシャ……って、アイシャ! こら待て!」

「ブブ!」


 アイシャは兄を待たずに走り出した。車で向かったほうが絶対に早いのに……なんて冷静さを、彼女は持ち合わせていない。すぐそこに見えるカーブを猛ダッシュで走り去り、もう見えなくなってしまった。


 ブルン!!

 エンジンがかかる。

「戻ってこいアイシャ! くそ、まったく……まさかほんとに魔王城か? 大変だ、まいったぞ大変だ!」




「おう大変さ、真っ赤っかだぜ」

 ぬ。




「え、うわっ!」


 誰だ!?

 いきなり車の前に、ずぶ濡れの女が! 全身、水浸しの女が現れた。



挿絵(By みてみん)



「な、なんだ!? 誰……」

 青年は、ハンドルを握ったままギョッと固まった。だが次の瞬間……!


 ズガァっ!!

「ぐはッ!」

 ドガァン!


 青年は車外にブッ飛んでいた。ブッ飛ぶ、としか言いようがない。とてつもない衝撃を受けた運転席のドアは内側にひしゃげ、青年を反対方向……助手席のドアぐるみ、車の外へと(はじ)き出してしまった。


「があッ!」

 2枚のドアにはさまれた青年。サンドイッチ状態の彼はがらんごろんと転がり、ガードレールを乗り越えて、湖の反対側の土手に落ちていった。

「うぐ、くそ、この……アイシャ! アイシャ―――!」


 生きている。

 なんと丈夫な……いや、全身を埋めつくす鉄の刃が、鎧となって彼を守ったようだ。しかし今度は、そのトゲだらけの体が前後のドアに刺さって動けないらしい。

「誰だ! ちょっと待て、いまいったい何した!」

 土手の下で叫びまくる。

 がらんごろん。



挿絵(By みてみん)



 そして土手の上では、2人組の男女が車を物色していた。ドアが無くなったバンの、ボックスやシートの裏を(あさ)りまくる。


「ラッキーだ、救急箱があったぜ。こっちのバッグは……着替えだ! 待てよオイ、なんで女物まであるんだ? さっきの男が着るってのか?」

「ていうか助手席のシート見てくれよ。サーベルタイガーが爪でも()いだみてえにボロボロだ。あいつが飛んでいくついでに(・・・・)引っかきやがったな」


「あいつはいったい何だったんだ。トリケラトプスの生まれ変わりか? ああいうゲテモノのアクセサリーが流行ってんのかな」

「ハロウィンでもねえのにあんな姿になりたがる奴いるか? 変身ヒーローか魔王軍のどっちかだよ。どっちにせよ変態だってことに変わりねえ」


 トラとフォックス。



 トラとフォックスだ!



 どうやらフォックスが青年の注意を引いたスキに、トラが思いきりドアを蹴飛ばしたらしい。それにしてもやりすぎだ。


「ちょっと力が入りすぎたな。あんなに飛んでくなんて思わなかったぜ。助けに行った方がいいかな」

「お前は人が良すぎるんだよ。あんなに元気に叫んでんじゃねえか。アイシャアイシャってよ。お前はお呼びじゃねえとさ」

 ずぶ濡れのトラ。

 ずぶ濡れのフォックス。


「アイシャ―――! アイシャ―――!」

 がらんごろん。

 土手の下から叫びまくるサンドイッチマン。

 


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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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