第21話 「ゴゥ イースト」
翌日、早朝―――……
と言っても、あのバカ騒ぎから5時間しかたっていない。
町から外れた、なにもない荒野。
ただただ東に向かって、まっすぐまっすぐアスファルト道が続いている。
はるか向こうの山から太陽が昇りはじめた。
まぶしい―――
ボロボロのメイド服で朝日を浴びるフォックス。
なんと、まぶしいのだろう。
なんと心地いいのだろう。
川に転落した彼女は、全身ズブぬれ……水分を含んだ黒髪が、キラキラと朝日を反射している。
ずくずくのスカートが彼女の体にへばりつき、豊かなボディラインを浮かび上がらせている。
荒れ野にメイド。
じつにミスマッチだ。
朝の日も、
地平も、
彼女も、
なにもかも気高く、したたかで、美しい。
いや彼女はもうメイドではない。
彼女はもう誰にも使われたりしない。
自由―――……いや。
たったひとつだけ、彼女を縛るノルマがある。
たったひとつだけ、彼女を呪う籠手がある。
どこまでも清い空に、フォックスの凛とした声が澄みわたる。
「籠手よ、籠手よ、籠手さん。おまえのパーツは、どこにある?」
『あっち……』
ビシィ!
籠手が、道の向こう……はるか遠くを指さした。
「ふ……ぅ」
手の甲に “ 紋 ” が光るのをじっと見つめ、フォックスはため息をつく。
「便利……っつっていいのかな? ま、関係ねえ。かならず外してやるからな」
にっと笑う。
※ ※
5時間前。
橋の崩壊とともに、川に落ちたフォックス。
マジで溺死する寸前だった。
命からがら岸に上がったとき、「左手野郎」の姿はどこにもなかった。
もちろん “ 焼き籠手 ” のパーツも、どこにも見つからなかった。
あの左手野郎は普通じゃない。
間違いなく生きてるだろう。
そして間違いなく、奴はパーツを持っていったはずだ。
川の流れが激しくて見失いました……なんてマヌケなことにはなっていないだろう。
それは “ 朽ち灯 ” とやらが許すまい。
なにがなんだかわからなかったが、あいつはアイテムに使われてるらしい。
バカなやつ……
一生そうしてろ。
アタシは、きっと自由になってやる。
まずなにをおいても、籠手を完成させなければならない。
奪われたパズルのピースを探すんだ。
そして再び、119軒を燃やして呪いを解く。
そのとき、アタシの本当の人生が始まるんだ。
「行くか……アタシの右手」
ズシンズシンズシン!
「ま、待って……待ってくれ!」
フォックスが決意をこめるその背後から、あわただしく足音が近づいてきた。
「お、お願いだ、俺を見捨てないでくれ。一緒に連れて行ってくれ……」
フォックスにすがりつくトラ。
彼女のスカートの端をひっつかみ、行かないでくれとわめく、わめく。
「……」
あきれてモノも言えないフォックス。
正直、こんな姿のこいつは見たくなかった。ってかスカートが脱げる!
「足手まといなんだよ! はなせバカ」
「いやー! いやあー!」
フォックスは冷たく突きはなすが、トラは引き下がらない。
「ま、また俺を見殺すのか? 俺は命がけでお前を助けてやったのに!」
「その代わりにアタシをメイドにしただろ! よくもこんな恰好させやがったな!」
「その代わりにうちで匿ってやったんじゃないか!」
「その代わりにアタシを殺そうとしただろ!」
「な……なんでもするから! ここにいたら俺は懲役食らう! 一生呪いも解けない! オエエエ!」
「なんで吐く! ああもう……」
泣くトラ。
諦めたように、やれやれとため息をつくフォックス。額をかきながら、小さくつぶやいた。
「……オーナーって呼びな」
※ ※
かくして、失ったパズルのピースを探し求める旅は始まった。
マスターとサーバントはその立場を逆転し、東を目指す。
東を目指す。
朝が、完全に明けた―――




