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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
202/248

第202話 「ドット&ハイフンコード」




挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※




挿絵(By みてみん)




「諸君! そこにある車は我々が使わせてもらう。ジェニファー君は人質としていっしょに来てもらおう」

 えへんと胸をはるマオちゃん。



 言い忘れたが場面が変わっている。



 ここは裏庭。

 ニニコ&シーカが、魔王軍と対峙していた。

 

 状況覚えてる?


 シーカはジェニファーを人質に取っていた。背後から、彼女のワキをわしづかみだ。

「ちょちょちょ、くすぐったい! どこ触ってるんです!」

「た、た、頼むから・暴れるな!」


「おい、ジェニファーを離せってんだ!」

「くそ、はやく銃を……くそったれ、このブロック動きゃしねえ!」

 ハワード隊の面々は、地面に落とした銃を拾おうとしていた。だが銃の1丁1丁に煙羅煙羅ブロックが貼りつき、撃つどころか拾うこともできない。

 いや、もう銃どころではない。

 

 さっきから魔王さまは、ティッシュを美味そうに食べているではないか。

 もぐもぐ。

 あろうことか、ニニコがどんどん与えてしまう。どこにこんなにポケットティッシュを持っていたのだろうか。もう2袋目だ。


「はい、マオちゃん。どんどんおあがり」

 シュッシュッ。次から次にチリ紙を与えるニニコ。ヤギに(エサ)をあげてるみたいだ。

「聞こえなかったの! マオちゃんの命令よ、車のキーを渡して! さもないとティッシュ地獄よ―――!」

 

「もぐもぐ。ティッシュ美味しい!」 


 この世のものとは思えない会話……しかしマオちゃんの顔色が変わる。口にティッシュを詰めこんだまま、鋭い目で空を見上げた。

「むぐッ、この波動は……水な義肢! まあいいや、もぐもぐ」

 ふたたびティッシュを食べ始めた。

 まだまだハイドランジアの効果は消えそうもない。



挿絵(By みてみん)



「ニニコてめえ、魔王様になんてもの食わせやがる!」

「アタマ狂っとんのかお前は!」

「おい、魔王さまの首に巻きつけてんの! それ " ()白闇(しろやみ) " の触手じゃねえだろうな!」

「この野郎、魔王様をヤク漬けにしやがったな! 絶対に許さねー!」

 叫びまくるハワード隊。

 

 マオちゃんの首には、まだピンクの触手が絡みついたままだ。さすが、ロドニー戦で行動を共にしていた面々。()白闇(しろやみ)の能力については、百も承知らしい。


「俺の車は渡さないぞォ―――!」

 アントニオの怒りはもっとすごい。

「いざとなったら車を破壊して俺も死んでやる―――!」


 なんでやねん。


「こ、こ、こら! き、聞いてん・のか! ジェニファーが・どうなっても・いいのか!」

「私に構わず魔王様を!」

 怒るシーカ。

 勇敢なジェニファー。

 朽ち灯ブロックが周囲を取り巻いているところを見るに、シーカの魔力はまだ回復していないらしい。


『いい度胸だ、女』

『どこから食ってやろうか』

『美味そうだ』

 殺す満々の()()……



 と。

 アントニオ副部長はじめ、ハワード隊の15人はあること(・・・・)に気づいた。

 

 全員の視線がマオちゃんに……いやマオちゃんの、やや上に集まる。


「……魔王様にそれ以上ゴミを食わせてみろ! ただじゃ置かねえぞ!」

「お前のアタマは春かよ、ニニコ!」

「コイツの親は毎日泣きどおしだったろうぜ。気の毒に」

「こんな娘生んだんだ、製造者責任だろ」


 あえて暴言を吐き続けるのは、自分たちが注目している場所を悟られないようにするためだ。はたしてニニコをダマせただろうか。


「よ、よくも言ったわね! こっちにも考えがあるわよ、ワーワーウギャー!」

 顔を真っ赤にして怒るニニコ。

 マオちゃんの口に、さらなるティッシュを詰めこみ始めた。完全に相手の術中……



挿絵(By みてみん)



 美味そうにティッシュを食べるマオちゃん。その頭上に煙羅ブロックが、ずらずらと整列していた。


 100個余りの煙羅煙羅のうち、20個はハワード隊らを攻撃し、いまも彼らの銃を地面に押さえつけたままだ。うち5個は、アントニオのトランク砲を封じている。


 残る80個がマオちゃんの頭上に、スクロールするかのように広がっていた。いや、この整然とした縦5横16の配置は……



「!!」

「!?」

「……!」 

 ハワード隊員らの目がきらりと光る。


 これは " ドットハイフン式信号 " か。


 (ドット)(ハイフン)で単語を表す、無線通信の符号。なぜ鎧がこんなのを知っているのか……いやそんなことどうでもいい。ブロックは正面と側面を使いわけて、文章を伝えてきた。


" ジョウナイ ミナギシ カイホウ キケン "

" ミナギシ マオウサマニ テキイ ツヨシ "  

" スミヤカニ シャリョウ ヨコサレ タシ "

" ジェニファ レンラクインニ ヒツヨウ ナリ "

" ワレ エンラエンラ キグンニ ミカタス "

 

 ざわ。

 一瞬、ハワード隊に動揺が広がった。すぐに治まったが、その変化を見逃すシーカではない。


(なんだ、いまのざわめきみたいな反応は?)

 (まゆ)をしかめるシーカ。

(さっきからどいつもこいつも、視線がちょっと上っぽいな。煙羅がなにかしたのか? くそ、俺たちに不利なことしてないだろうな)



「……」

 アントニオの頭脳がフル回転する。いま、一番に考えるべきはなにか? 魔王様の安全に決まっている。

 


" 城内 水な義肢 解放 危険 "

" 水な義肢 魔王様に 敵意 強し "  

" 速やかに 車両 よこされ たし "

" ジェニファ 連絡員に 必要 なり "

" 我 煙羅煙羅 貴軍に 味方す "



 ()義肢(ぎし)……本当に解放されたのか? まさかこの火災で? だとすれば緊急事態どころではない。

 であるならば……


 誰がその手に乗るものか。


 魔王様を人質にされたまま、みすみす逃がすバカがどこにいるものか。いますぐ救出できる体制をととのえ、なおこの場でシーカとニニコを始末するスキをうかがうには……ダメだ、さすがにすぐにそんな上手い方法は思いつかない。

 

 時間稼ぎだ。

 とにかく魔王城にいるほかの連中がかぎつけるまで、ここに釘付(くぎづ)けにするしかない。


「……オーケー。オーケーだ」

 がしゃんと機関銃を投げ捨てるアントニオ。そしてポケットからキーを取り出した。

「これが車のキーだ。見えるか? くれてやる」


「な……副部長!」

「そんな……!」

 どよめくハワード隊。


「やかましい! 全員黙ってろ!」

 アントニオの命令。

「おいニニコ! シーカ! 車を貸してやる。それでいいな!」


「……!」

 ニニコとシーカは、離れた位置から顔を見合わせた。いきなりなんだ……? 急にこっちの要求を。いや、そ、それでいいのだ。

「そ、それでいいのよ! キーをちょうだい!」

「……ああ。妙な・マネ・するなよ」


「そうだ! 早くしないと私ここで脱いじゃうよ!」

 ()かすマオちゃん。

 もう脱ぐどころじゃないほどボロボロの姿だが、このうえストリップまで始めると言い出した。部下の苦労も知らず、いい気なものだ。

 って本当に脱ぎはじめた。

 それもカブトから。

「さあどうだ……くそ、この魔王(わたし)脱げない」 

 ぐいぐい、脱げない。



 その場にいる 全 員 が 無視。



「ただし条件つきだ! ジェニファーを離せ。代わりに俺が人質になってやる!」

 アントニオの(ひたい)の汗が飛ぶ。

「こいつは絶対条件だ。イヤだってんなら、車のキーはへし折っちまう(・・・・・・・)ぜ」


「副部長……」

 感激のあまり泣き出すジェニファー。あいかわらず感情的になりやすい女だ。


「ふざ・けんな。魔王を・殺すぞ」

 にらむシーカ。

「それだけ・じゃない。()()の・能力は・知ってるな。お前らを・粉にすることも・出来るん・だぞ」


「へえ、そりゃ傑作だ。俺もろともキーを消し飛ばすってのか? ふるってるね」

 アントニオは……笑う。

 丸腰で、部下の先頭に立って笑う。

「さあシーカ。ジェニファーと魔王様をこっちへよこせ」


「じょ、じょ、条件・変わってる・ぞ! どっちも・渡すか」

 

 にらみ合いは続く。

 社員食堂の壁にあいた大穴からは、白煙が立ちのぼっていた。さっきまで、もうもうと黒い煙が吹き出していたのに。どうやらスプリンクラーが作動し、火は消えつつあるらしい。

 ということは―――背後のトンネルからも、魔王軍が来るかもしれないということだ。いや来るに決まっている。火の手が消えたかどうか、誰も確認に来ないわけがない。

 

 いずれにせよもうすぐ、裏庭の(にら)みあいは終わるだろう。そう信じたい。

 


挿絵(By みてみん)



 さぁて……


 トラとフォックスはまだ生きているだろうか。安心していただきたい、ちゃんと生きている。

 そう信じたい。



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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