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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
201/248

第201話 「フリーク」



『背だ。背がある。4242隻の船を沈めろ……』


『と、言いたいところだが……』


足枷(あしかせ)()籠手(ごて)(にえ)……会いたかったぞ……』


『よくも我をこんな目に……殺してやる……!』



挿絵(By みてみん)



「うぎゃあ! なんでこうなるんだよ!」

「きゃあ! マ、マ、マリィの……オエエエ!」

 逃げ出すトラ。

 吐くフォックス。無理もない、軍艦かしはら(・・・・)では殺されかけたのだ。(第10章 を参照)


 ザアアアア!!

 どうしたことか。さっきまで大人しかった焼き籠手群が、いきなりフォックスを守る。水な義肢に奪われまいとしているのか?

 だが()義肢(ぎし)の興味は、もうひとりの女に向かった。


『女……女、女だ……4242隻の船を沈めろ……』

 バシャ。

 べしゃんと(シリ)モチをついたキッカに、水な義肢のアームが伸びる。


「す、水槽に戻りなさい。いますぐ……」

 気丈(きじょう)に命じるキッカ。しかし恐怖で動くこともできない彼女は、水な義肢の格好(かっこう)餌食(えじき)だ。

 巨大なアームがキッカの肩に触れる。

「ひぃッ!」


『おお、()いヤツ……これは楽しめそうだ。来い、来い』

 カシャ、ガシャ。

 キッカを呪うべく、水な義肢が大きく腕を広げる。だが、アームの動きがピタリと止まった。

『はて、憑りつけん。これは……なんだ!? なんだ貴様は!』


「あ、ああ……クイック。クイック、助けて……」

 


挿絵(By みてみん)



『魔力がないだと? 信じられん、こんな人間がいるとは……呪えん、これでは呪えんではないか! 貴様、ぬか喜びさせおって!!』

 激高。

 身勝手に怒りながら、大腕をブンと振り下ろした。

 

 ズドン!!

「はぎゃ!」

 アームに()りとばされたキッカは、そのまま反対側のガラスに叩きつけられる。そして気を失ったらしい、吐血―――

「ぐ……げ……」

 

『ふん、役立たずめ。まあいい……』

 ガシャ。

 もうキッカに興味を失ったらしい()義肢(ぎし)。両アームを支えに、ガシャンと振り向いた。

『ふむ……そこな2人、どこへ行く気だ……』


「びく!」

「びくぅ!」

 トラとフォックスは、まさに封印室を抜け出るところだった。ヘビに(にら)まれたカエルのように、扉に手をかけたままビクリと固まる。

 

『逃がすとでも思ったか? 貴様らのせいで我は……絶対に許さんぞ。こっちを見よ』

 ガシャ。

 ガシャアア!!

 ()義肢(ぎし)のアームが床がたたく。その威力たるや、タイルをブチ砕いてしまった。

『聞こえんのか。我を見ろ。こっちを見よ』


 恐ろしい声。

 2人は……



「いやだ!」

「やなこった!」

 脱出。

 2人は封印室を飛びだした。

「それ押せ!」

「ひい、閉めろ閉めろ!」

 ワーワー!

 ギィ……バタン! 大急ぎで扉を閉じる。ぎっりぎり、水な義肢を閉じこめたまま脱出に成功した。


『開けんかあああああああああ!』

 ドガン!

 ドガッ!

 中から扉を叩きまくる()義肢(ぎし)。ものすごい力……ドシンドシンと合金のドアが揺れる。


「た、助かった……間一髪だったぜ」

「ふう。やれやれ」

 ホッと一安心。

 トラとフォックスが胸をなでおろす。よくとっさに外に出たものだ。水な義肢(あんなの)と密室で対峙など、命がいくつあっても足りるものではない。



挿絵(By みてみん)



「おのれ、貴様ら……!」


 と、ぐるぐる巻きに縛られた老人が床にいた。サンダース二等兵だ。後頭部に大きなコブをふくらませて、腹ばいになっている。なんとか起きようとするが、足までガムテープで縛られていてはどうしようもない。

「ほ、ほどかんか!」


 サンダースだけではない。

 インターンの女子大生2人も、なんとかいう主査も倒れているではないか。この3人は完全に意識を失っているらしく、縛られたままピクリとも動かない。いや動けたとしても、口に猿ぐつわ(・・・・)()まされては(しゃべ)れまい。


「おいトラ。なんでこのジイさんの口を縛らなかったんだよ」

「しょうがねえだろ。倉庫にあったテープはこれで全部だったんだ」

 

「お、おのれ! このままでは済まさんぞ」

 サンダースの怒声。

「そこの女がバーベキューファイアか!? おのれ、その鎧は魔王様のものだ! 返せ!」



「鎧……あ、これぇ? ちがうね。こりゃ前からアタシのだぜ、変な言いがかりやめてくれよ」

 意地悪く笑うフォックス。まだ右手に憑りつけず、周囲を舞う焼き籠手を()でてみせた。

「お前ら、この城でいちばんザコかったぜ。殴られるまでアタシ達に気付きもしねえんだからな。向いてねえからやめちまえ」


「おのれ~、誰が天井から降ってくるなんぞわかるか! このバケモノどもめ」

 怒るサンダース。


 どうやらトラは、お得意の天井逆さ歩き(・・・・・・)で4人の真上に忍び寄ったらしい。なるほど、サンダースの言う通りだ。そんなもん気付くわけない。



「フォックスお前な、なんか変にテンション上がってんぞ。まさかハイドランジア吸ったんじゃねえだろうな。どうかしてるぜ、ホント」

 あきれ顔のトラ。

「悪かったなジイさん。いい年なんだし、軍人ごっこもいいかげん卒業しろよ」


「ヒヒヒ、どうよお爺ちゃん。アタシの連れは優しいだろ」

 トラの腕にからむフォックス。


「おいおい、なんだよ」

「いいじゃねえか。魔力とかいうのが戻ったら、またアタシの右手はゴーレムみたいになっちまうんだぜ。いまのうちさ」

 やっぱり変なテンションのフォックス。

 ちょっと照れてるトラ。

 

 サンダース老を完全無視―――


「おのれええええええええ!」




 その声をかき消すように、封印室の扉はドカンと吹き飛んだ。



 ドガアァアアアアアアアアアア!!

 爆発!

 分厚い合金の扉がドンと開いた。


 内側からのすさまじい空気圧で、トラもフォックスも飛びあがった。全蛍光灯がブチ割れる―――ガシャアアアア!! 

「ぎゃあ!」

「ひゃあ!」

 ガラス片が降りそそぐ。

 


挿絵(By みてみん)



『おぉのぉれぁ……貴様ら、どこまで我を怒らせる気だ……!!』

 ザシャ!

 バシャッ!

 恐ろしい声を震わせ、水な義肢が()い出てきた。宿主もいないのに、アバラ骨みたいな骨格だけで歩く、歩く!

 怒りに打ち震える声……

『こ、この我がこんな屈辱を……八つ裂きにしてくれるわぁああああ!』


 ザシュ、ザシュ!!

 不気味に2本腕を駆使し、トラとフォックスに襲いかかる。

 床に倒れた人間など眼中になし。目指すは(にっく)き、足枷(あしかせ)()籠手(ごて)の被呪者2人。

 

『首をもぎ取ってくれる……!!』

 ザシュ!

 ザシュ!

 切り裂くような足音が迫る。ザシュザシュザシュ!

『殺す……殺す!』

 

「おわあ、助けて!」

 すさまじい奇声を発しながら逃げるフォックス。トラを置き去りだ。


「俺を置いてくな、このクソ女! ひぃいい!」

 ドガドガドガ!

 トラは死にもの狂いでフォックスのあとを追う。

 

『待たんかぁああああああああ!』

 ザシュザシュ!

 ザシュザシュ!



 恐ろしいことになってしまった。

 ()籠手(ごて)を奪還したはいいが、水な義肢の封印まで解いてしまった。魔王城の地下1階で、アイテムと人間の追いかけっこが始まる。


 捕まったら最後の鬼ごっこ。

 水な義肢が2人の背後に迫ってくる。

 ズシャ、ズシャ、ズシャ!



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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