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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第21章「一刻の猶予もないダンジョンを焼き捨てる転落劇へ」
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第191話 「トルネード」




挿絵(By みてみん)



「きゃあ()せて! グレネードが来やらるあわ!」


 ガシャン!

 ボシュ、ボシュウウゥゥウウ!!


 ガラスを(つらぬ)いて煙幕弾が撃ちこまれた。

 ブワァアアアアアアアアアア!


 一瞬でスモークに包まれた。数メートル先も見えない。いや、もっとヤバイことにこの煙、どうやら催涙(さいるい)成分を含んだものらしい。ものすごい刺激臭に、全員パニックだ。


「ゴホゴホ! へっ―――きし!」

「吸うなよ、やばいぞコレ! ぶえっくしょ!」

「鼻がムズムズする!」

 

 そして次の瞬間、一面に広がっていた煙が消えてしまった。


 え!?

 煙が消えた! いや……消えたわけではないが、明らかに消えつつある。


「ゴホゴホッ! あ、あれ!?」

「へっくしゅん! 煙は??」


 視界が晴れる。

 なぜ……


 ズオ! と吸気音が聞こえた。



「煙羅煙羅、第7形態チェーンジ!!」

 マオちゃんの左肩に、巨大な換気扇のごとき(ヨロイ)があるではないか。高速回転するプロペラは、すべてのガスを吸収してしまった。

 これが煙羅煙羅……?

 ブロック群は結集し、とんでもなく不格好(ぶかっこう)(つばさ)……のような鎧に変形している。これが煙羅煙羅!?



挿絵(By みてみん)



 いちばん驚いたのは、煙幕弾を撃ちこんだ2人だった。屋外にぶら下がったまま(さわ)ぎたてる。

「はあ!? おいおい、CSガスが消えちまったぞ!」

「ちょっ魔王様、なにやってくれるんです!」



※CS……クロロベンジリデンマロノニトリル。催涙ガス。



「どうだ見たか! あ、あれ? 2人とも、そんなとこにぶら下がってないで入っておいでよ」

 銃撃者らに手招(てまね)きするマオちゃん。


「なんなんだ!? どういう状況なんだよ!?」

「くそ、もう一発だ! 魔王様に当てるなよ!」


 宙づりの2人が次弾を装填……するより早く、彼らを吊り下げるワイヤーに朽ち灯が飛ぶ!

『くだらん……死ね』

 

 ガシャァン!

 窓を粉砕した朽ち灯パーツ2枚が、ロープを切断した。

 ブツッ!

 ブツン!

 悲鳴をあげて2人組は落下する。


「うわあああああああああ!」

「ひゃあ魔王さまアアア!」

 悲鳴―――



挿絵(By みてみん)



「あ……バ、バネッサ? コールトン?」

 硬直。

 誰もいなくなった窓に向かって、マオちゃん手を伸ばす。だが、だがもう遅い。へらへらと笑っていた顔は、一瞬で凍りついてしまった。現実を直視したかのように。

「あ……あ……お、落ちた……2人が落ちた……わ、私は、私のために……なんだ。なにを言ってる。いま私はバネッサとコールトンを……み、見殺した?」


 ぺたん。

 ぶるぶると震えながら、床にへたり(・・・)こんでしまった。


「い、い、いまは西暦何年なんだ? 落ち着け、2人を助けに行かないと。アスカが生きてるわけない。ア、ア、アスカ? なんだ、なんでいまアスカの名前が出てくるんだ。なんで私はこんな幸福感を感じてるんだ? まるで強烈な薬物の症状みたいに……な、なにがどうなってる……」

 頭を抱えながら、ブルブルとつぶやく。



 それどころなもんか!



「逃げろぉああああああああ!」

 フォックスの号令で、全員が走り出した。


「ヒー!」

 一目散(いちもくさん)に逃げるニニコ。向かうのは、いちばん近いドア。なんの部屋だろうか……気にしてる場合じゃない!


「こ・こ・来い! モゴモゴ!」

「ほげ」

 シーカは、マオちゃんの腕を引っつかんでニニコのあとを追う。そのあとに続くフォックス、トラ、ハムハム。

 駆ける、駆ける。

 ドシンドシンドシン!!

 全員が恐ろしい速さで、謎の部屋になだれこんだ。



 その0.04秒後―――

 


挿絵(By みてみん)



 ガシャアアアアアアアアアア!!

 窓ガラスを突き破り、特殊部隊みたいな連中が飛びこんできた。ロープを使い、上階から飛び降りてきたらしい。先行した2人の落下を見るや、直接突入してきやがった。

「左右を見張れ!」

「資料室に入りやがったぞ!」

「まだ撃つなよ、魔王様もドアの向こうだ!」


 

「ひゃあ、来たわ!」

 バタン!!

 ニニコが勢いよくドアを閉め、半泣きでみんなに訴える。

「ど、どうしよう。どうしたらいいの!」


「どけニニコ! オラアアアア!!」

「ぬあ・あああ!」

 ガリガリガリ、ズズズズズ!!

 トラとシーカが、本がぎっしり詰まったスチール棚を押してきた。そのままドアを(ふさ)いでしまう。

 ズシーン。


 どうやらここは資料室らしい。小さなコンビニくらいの室内には、書棚、書棚、書棚が並んでいる。その奥にはちいさなドアがあるが、ここを出たらさっきの通路に戻ってしまうだろう。

  

 トラとシーカは、室内のあらゆる重量物をドアの前に移動させた。もちろん前後の2か所ともふさぐ。

「うるあ!! はあ、はあ!」

「ハッ、ハッ……」

 なにげにこの2人のタッグは初めてだ。それほど今の状況は切迫(せっぱく)している。



 それよりもマオちゃんだ。

 ガタガタとふるえながら、必死に今の状況について唱えていた。


「私は魔王。ここは私のホーム。職業は美少女料理人。私の周りでガチャガチャ浮いているのは煙羅煙羅。100均で買って来た」

 

 ところどころ記憶がおかしいのは、まだハイドランジアの効果が続いているのだろう。最悪なのは、アモロのことを思い出されること。肉体機能を消すちからで、トリップ状態を解除されたらマズい。すべてが水の(あわ)だ。

 そうなる前に……


「あ、マズイわ! えい!」

 ニニコの触手がふたたび。


 プシュウ。

 プシュプシュ。

 青とピンク、2色の霧がマオちゃんを(おお)う。


「ぬ……む……!! あはぁ、パパだよー」

 再度トリップ。

 アヘ(・・)りまくるマオちゃん。超ハッピー。

「むむ……じつにすがすがしい気分だ!」



「きみ、なかなか(ムゴ)いことするね」

 ドン引きのハムハム。

 もう知らんと、ほかに出口が無いかと周囲を見まわす。だがうしろを振り向いて驚いた。

「……フォックス? フォックス!?」



「てめえ! てめえ、今すぐ外にいるアクションスターどもをなんとかしやがれ! 殺すぞ、殺すぞてめえ!」


 みんなが大わらわ(・・・・)しているなか、なんとフォックスは、マオちゃんにつかみかかったではないか。

 ズイ、と剣先をマオちゃんの首に押し当てた。ものすごい形相……本当に殺しそうな勢いだ。いやパニックを起こしている。

「なにヘラヘラしてやがる! てめえの手下どもをなんとかしろって言ってんだよ、聞いてんのか!」


「聞いているとも。あれは私が、砲兵隊を(ひき)いていたころだ。部下のひとりが、捕虜とデキてるのが発覚してねえ。2人とも毛むくじゃらの大男だったもんだから、ベッドシーンを想像して一個中隊みんなが吐いちゃったの。もう、そこらじゅうでオエーってなってた。マズいことに、その日たまたま本部の監査があってね。食中毒が広まってるのを隠蔽(いんぺい)したと誤解されて、隊長の私は無期限の減俸に……」

 


「そうか、よぉぉくわかったよ……う、腕の1本も落としゃ、人質の自覚を持ってくださるだろうぜ」

 フォックスの顔が、みにくく(ゆが)んだ。

 そして剣を振りかぶる。

「い、い、痛えぞ。覚悟しな」

 血走った目。


「フォックス!!」

「フォックス、おい何やってんだ!」

 ニニコとトラが叫ぶ。

 


挿絵(By みてみん)



 剣が振り下ろされる。

 だがそれより早く、プカプカ浮いていた煙羅煙羅の1枚が、フォックスの右手に飛びかかった。


  ズドォ!!


    ボギィ!


「うぎゃあ! ぎゃあ、ぎゃあ!!」

 フォックスの白い腕が粉砕……されていない。煙羅煙羅が叩き折ったのは剣だ。刀身が真っ二つに折れてしまった。

 うずくまって悲鳴をあげるフォックス。なんのダメージも受けていない右手を押さえ、痛い痛いとくり返している。

「痛え、痛え! 折りやがったアタシの手を、アタシの手を!」

 くり返しになるが、折れていない。


「……何やってんのフォックス?」

「……なにやってんだ、お前?」

 ハムハムとトラは、助けにも行かない。だってケガなんかしてないんだもの。



「く、く、朽ち灯・頼む。下に、おりる・しかない。モゴモゴ」

『フン。最初からそういう態度でいればいいのだ』


 冷静なのは、シーカと朽ち灯だけらしい。逃げ道がないと判断し、ふたたびトンネル作戦に出た。


 朽ち灯のパーツたちが、床にぴたぴたと降りていく。直径1メートルほどの円を描くようにブロックが並んだ瞬間……

 

 ボン!

 粉塵(ふんじん)が舞い飛んだ。

 朽ち灯のサークルは、ドリルのように回転しながら床材を消していく。階下への脱出口が掘られていく。


『塩化ビニール……美味いぃい』

『ウッドチップ、美味い……』

『コンクリート、美味いぃいぃ……』

 穴の奥から、おそろしい声が響く。どうやら魔王城の味を堪能(たんのう)しているらしい。あいかわらず化け物すぎる。


「ふう……モゴモゴ」

 ほかの4人の様子を見て、シーカはため息をついた。


「(ニニコはともかく、トラがまともに役に立ってる……信じられないな)」

「(それよりこのハムハム、足止めにしかなってない。置いていくか)」

「(それに……チッ!)」


 フォックスに、失望の目を向けるシーカ。ゴミでも見るかのような目だ。


 


 これがみんなの運命を分けた。



 数秒。

 ほんの数秒の油断。


 シーカが気を緩めたのがマズかった。

 朽ち灯が床を粉砕していたために、室内にいないのがマズかった。

 


   バァン!!



 天井の一部が外れ、さっきの特殊部隊が上半身をのぞかせた。にっこりと笑顔で……ちがう! フェイスシールドに、スマイルマークをペイントしているのだ。

 (さか)さのそいつ(・・・)は、一瞬で6人の配置を認識したらしい。マオちゃん以外の5人に向けてフルオート拳銃をブッ放す。


 パパパパパパパン!!



「ギャー」

「ひぃ、マジかよ!」

「うおお!?」

 悲鳴!

 完全にフイを突かれた。

 

 だが弾丸は誰にも当たらなかった。

 煙羅煙羅だ。

 煙羅煙羅が弾丸を(ふせ)いだ。



挿絵(By みてみん)



 ガガガガガガキン!

 ガガガギィン!!  

 跳弾した銃弾が、あたり一面に飛び散る。



 マオちゃんは!?

 マオちゃんは無事か!


「あ……いまの音なに? ここどこ??」

 マオちゃんはボーッとしていた。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] やっと・・・ 追いついた。 やっとだ! [一言] ば~べきゅうファイアもトチ狂う。 マオちゃんがトラップし続ける。 トラちゃんがまともだ・・・・が。 しかし! 切迫する事態の解決…
[一言] 最後のシーン、跳弾が結局誰かに当たりそう(汗)。 >「(それよりこのハムハム、足止めにしかなってない。置いていくか)」 誤記なのかわざとなのか分からなかったのでここへ。 「足止め」は、もし…
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