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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第2章「紛れもないジョークを焼き捨てる決意へ」
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第19話 「エンブレム」


 


「ああああああああああああ……!」

 ついに力尽(ちからつ)きたトラ。

 握力だけで、かろうじて橋にぶら下がっていたが……悲鳴とともに奈落へと消えていった。



 そんなことより、橋の上―――

 

 対峙(たいじ)する、シーカとフォックス。

 おたがいに構えたまま動かない。フォックスの籠手から吹きあがる炎の球が、ごうごうと空気を()がす。

 ものすごい熱波(ねっぱ)

 橋の上にぐらぐらと()れ動く、男女の長い影。



『 “ ()籠手(ごて) ” 、炎を引っこめろ……だめか、眠っているな』


 (にら)みあいの静寂を破ったのは、シーカの籠手(こて)だった。

” が、フォックスに……いや、彼女の籠手にかたりかける。

『フン……おおかた、限界(・・)まで飛びおったな。どうせ足枷(あしかせ)もだろうて。バカなやつらだ。いつまで眠ることになるやら……』



 ()()の言うとおり、()籠手(ごて)……フォックスの籠手はなにも答えない。

 勝手にしゃべって、勝手に納得している。

 籠手がだ。



 代わりにフォックスがぴくりと反応した。


「ヤキゴテ……この籠手の名前か? いや、そんなこたどうでもいい! 聞いてんのか、黒コゲにすんぞテメエ!」

 ギシと歯を(きし)らせて、フォックスが声を(あら)げた。


 さきに言っておくとハッタリである。実際には、彼女に人を焼く勇気はない。これには彼女の過去のトラウマが関係しているのだが、いまはよそう。

 

 無論、シーカにはそんなことわからない。

 じりじりとフォックスの(すき)をうかがう。 

 


 ふたたび膠着(こうちゃく)状態になる2人。緊迫(きんぱく)を破ったのは、また “ 朽ち灯 ” だった。

 すっ、とフォックスを指さす朽ち灯。


「!」

 身構えるフォックス。

 と―――……



『焼き籠手よ――― “ アモロ ” は今、どこにいる?』



「あ……はぁ??」


 フォックスが(まゆ)をしかめる。

 朽ち灯からの、唐突(とうとつ)な質問。 

 意味が分からない。


 アモ、ロ―――?

 

 その直後!   



   『あっち』


    グルン……


    びし!! 

 

 

「ンにゃ!!」


 どこにいると聞かれるや、フォックスの右腕が肩からぐるりと回転し、籠手が「あっち」と空の彼方(かなた)を指さした。

 ビシッ!!


 ゴォウッ!!

「あっ……」


 火球が飛んでっちまった!

 遠心力で火炎弾がヒュンとすっぽ抜けて、飛んでいく。


 ドオオオオオオオオオオオオオン!!

 炎は放物線を(えが)いて、100メートル離れたとなりの橋を、ドオンと炎上させた。

 爆音―――


 ごうごうと炎をまきあげる、となり(・・・)の橋。



挿絵(By みてみん) 



 あさっての方角に右手を伸ばすフォックス。

 う、腕が勝手に……なんじゃこりゃ!?


「な、なんじゃこりゃ……うわ!」

 おどろく()もなく、シーカが一瞬で間合(まあ)いを()めてきた! 


()() ” が “ ()籠手(ごて) ” の手首を押さえる。

 ガシッ!!


「は、はなせ!」 

 動けない……ビクともしない。

「な、なにしやがったテメエ……」

 至近(しきん)距離にせまる、シーカの顔。


 シーカが、ふふんと笑い声をもらす。

「フン…… “ 2回目 ” だろ、その籠手。 “ (もん) ” でわかるよ」


 余裕しゃくしゃくの、端正(たんせい)な顔のシーカ。

 


 対してフォックスの顔は、ゆがみに(ゆが)む。

「にぎぎぎぎ……」

 危機を脱するべく、彼女の脳はフル回転を始めた!


(だ、だめだ。腕力(わんりょく)勝負に持ちこまれてる!)

(押さえこまれる、なんとかしねえと)


( “ 紋 ” ……この変なマークか!?)

(2回目……同じ呪いに2度かかると、一層(いっそう)ヘンなことになる??)

(いや、そんな場合じゃねえ。ヤ、ヤバイ……)



美味(うま)そうだ、女……食わせろォォォ』

 朽ち灯の(てのひら)がボウと光る。毒々(どくどく)しい真っ赤な光。これに触れてしまったら―――


「ひ……」


 食うとか言ってる、食うとか言ってる!

 冗談じゃない!

 ぐぐぐ……押し返そうと、全腕力をこめる。だが、シーカのほうが強い。だんだん力負(ちからま)けしてきた。

「や、やめ……」

 とうとう(ゆる)しを()う。


 しかし……



『ダメだ』

「ダメだ」

 朽ち灯とシーカが、ハモる。


 シーカの表情の恐ろしいことよ。

 穏やかに笑っている。いまにも死にそうなフォックスに、()みを浮かべているではないか。


『そうら! そうら……!』


 顔面スレスレまで(せま)り来る、死の(あか)り。

 もうすぐ鼻に()れる。

 (ほお)に触れる。

 死ぬ、死ぬ……!


「ト……ト……」

 ついに、フォックスが悲鳴をあげた。

 よほど錯乱(さくらん)してしまったのだろう。

 あろうことか、もういない男の名を(さけ)ぶ。


「トラああああああああああああ!」



挿絵(By みてみん) 




   『 下…… 』


   ぐるん、ビシ……!


 フォックスの右肩が、いや “ 焼き籠手 ” が、彼女の意志に(はん)してグルリと回転した! 

 ビシィ、と足もとを(ゆび)さす。


「うわッ! な、なに……!?」

 まるで合気道の技のごとく、シーカの左腕をねじりあげた。いきなり形勢(けいせい)が変わる。


()ぅ…………!」

 たまらず(ひざ)をつくシーカ。はじめて苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 う、うごけない。


 

『な、なにをしている、シーカ! 立て、立たんか。立て!』

 突然のピンチに怒る朽ち灯。


「い、いますぐ、オーナー……」

 うめき声を()らしながら、なんとか立ち上がろうと体勢を変えるシーカ。


「はれ……? なにコレ??」

 きょとんとしながら、シーカの左手をねじり続けるフォックス。




 そのとき、トラの声が響いた。


「テメ……死ぬかと思ったじゃねえか!!」


 いつもの、ブチ切れたときの、いまにも飛びかかってきそうな(うな)り声。

 どこから聞こえるのか?


「こ……! どうやって上がるんだコレ!」



 トラは、どこにいるのか?


 トラは橋の真下(・・・・)……いや真裏(まうら)にいる。


 例えではない。

 形容ではない。


 本当に、橋の裏側にへばりついている(・・・・・・・・・)

 2本の足で。



挿絵(By みてみん) 


 

 トラは、橋の真裏に貼りついていた。

 あろうことか2本の足で、まるで長靴の底に磁石(じしゃく)でもついているかのように、

 

 ――――――逆さに立っている。


 長靴の側面の “ 紋 ” が、光っている。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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