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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第21章「一刻の猶予もないダンジョンを焼き捨てる転落劇へ」
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第188話 「キャンディポップ」




 フォックスの右手が斬られた。

「痛っッッ……ぎゃあ!」

 

 ぶわあ!

 いきなりエレベーターから人間が飛び出してきた!


 超高温のエレベーター内で、ずっと外の会話からスキをうかがっていたらしい。しかし、なんという姿か。消防士のようなマントを身にまとっている。銀色の、ひざの下まであるマントだ。

 その手には剣。エレベーターから(おど)り出るなり、すさまじい速さでフォックスの腕を切りつけた。

 その剣が、次は前後をなぎ払う!



挿絵(By みてみん)



 ガンッ!!

 台車の手すりがブッた()られた。

「うわッ!」

「わあ!」

 かろうじてトラとハムハムは(かわ)す。いや、驚いて台車から転げ落ちた。助かった。


「ヒョッ!」

 たん、とん、とステップを踏んで距離をとるシーカ。危なかった、ギリギリだった。シーカの目の色が変わる。

「(これは……相当(そうとう)な使い手だな。このレベルのがうようよいるんなら、脱出するのは楽じゃないぞ)」



「うあ! こ、こんの……あああ!」

 うずくまるフォックス。

 どうやら剣は、手の甲をカスっただけだったようだ。血がぱたぱたと床に飛び散る。大したダメージではないはず……だがフォックスの混乱はひどい。

「ああああ! この、このクソ野郎が! ぶっ殺してやる、殺すぞァああああああ!」


 

 ……なんだ?

 ふだんのフォックスにはありえない反応。いつもの彼女なら、殺すのなんだの言うより早くつかみかかってるはず。

 だが今日はちがう。傷を押さえながらギャンギャン()えるだけ。まさかこの女、(おび)えている?


 いや、そんな場合じゃない。

 幅の広い剣をかまえる敵は……なんという姿か。頭からフードをかぶる姿は、まるっきり銀色のテルテル坊主だ。

 

 トラは、フォックスとはじめて会った日のことを思いだした。あの日のフォックスも、厚い化学繊維のマントに身を包んだ姿だった。

(第1章を参照)

 


 ばさ。

 謎の剣士がマントを脱ぎはらった。


 現れたのは、女だ。


 濃い色の(はだ)とボリュームのある黒髪の……女だと思う。顔はゴーグルとガスマスクでわからないが、間違いなく女の体型だ。

 そんなことより剣。たしか、ファルシオンとかいう名前の剣。でかい中華包丁みたいな長剣を、女は軽く振りまわす。

 ヒュン!

 ソード女は、椅子にぐるぐる巻きのマオちゃんに視線を向けた。つづけてニニコに視線を移す。


「魔王様を縛ってるその……ロープみたいのが()白闇(しろやみ)だな、幼児体型(・・・・)

 しゃべった。

「魔王様を離せ、ほかのヤツは動くなよ。5秒待つ、魔王様を離せ」



挿絵(By みてみん)



「い、イヤよ! ギャー、フォックス!」

 叫ぶ幼児体型。

 いつものようにフォックスに助けを求めるが……


「コラア! ニニコに近寄んじゃねえ、殺すぞコラァ!」

 わめくばかりのフォックス。



『ハハハハ! 美味そうな女だ』

『食わせろぉおお!』

 ザアッ!!

 朽ち灯がシーカから離れ、ソード女に襲いかかる。


 だが女は、お構いなしにニニコに剣を振りかぶった。

「5秒経過、死になロリポップ」


 ソード女の背後から、朽ち灯のブロック10枚が(せま)る。だが女のほうが速い! ニニコの首めがけ、剣が飛ぶ……よりも早く!


「オウラアアアアアアアア!!」


 トラが長靴を振りあげた。

 一面に敷かれていた絨毯(じゅうたん)ごと、ぐいと引きずり寄せる。4畳はあろう巨大なマットの上にいたのは、ニニコ、マオちゃん、そしてソード女だ。

 

「うわ!」

「きゃあ!」

 とつぜん足場がスライドし、3人がころんとひっくり返る。マオちゃんを座らせていた椅子はキャスターのため、すごい勢いで横転した。


 スッ転んだ女の手から、ガランと剣がこぼれてしまう。

 ガラン!

 カランカラン!


「ぐあッ! うぐ……け、剣……!」

 床に叩きつけられながらも、ソード女は必死に剣を拾おうと手を伸ばす。


 だが。



挿絵(By みてみん)



 ズドォ!!

 ドゴォ!


「こンの、クソが! 死ねババア!!」

 ドコッ!

 バゴッ!

 いまが勝機と、フォックスは女を蹴りまくる。

「オラァ! なんとか! 言ってみろオラァ!!」

 ドガッ、ドガッ!

 

 ソード女は最初の4発まで身を丸めてガードしていたが、後頭部を踏みつけられてからは動かなくなった。

「はあ、はあ、はあ。ナアアア!!」

 ドガッ。

 まだ蹴る。

 ドガッ!

 まだ蹴る。

 

「や、やめて! トラ、止めて!」 

 ニニコは叫ぶ。


「やめろオイ、なに考えてんだ!」

 トラが駆け寄ってフォックスを止めた。

「な、なんだってんだ! どうしたんだよ!」

 

 ニニコもトラも、こんなフォックスははじめて見る。まるで、(おび)えているみたいだ。


「フォックス! ど、どうしたのさ」

 床に転がるハムハムも、大声で怒鳴(どな)る。


「はぁ、はぁ、な、なんでもねえよ。どうもしてねえよ」

 (あせ)

 滝のような汗、なにを興奮しているのかフォックスは。



「ど、どうもしてないって……どうもこうも、エレベーター行っちゃったよ」

 

 ハムハムの言うとおり、エレベーターの扉は閉まっている。階数表示のランプは、地下まで下がっているではないか。

 


「くそ、あの調子じゃエレベーターは使えそうもねえな。どうする?」

「さすがにウロつくわけにいかないよ。その女の人から脱出ルートを聞くしかないけど……起きそうもないね」


 トラとハムハムの言葉に、フォックスが舌打ちする。


「アタシのせいだってのか? 拷問しようが、そのアマは吐きゃしねえよ」


 そのアマ(・・・・)。うめき声すら上げずに、ソード女は倒れたままだ。そこに朽ち灯ブロックが集まってきた。


『美味そうだ』

『足から食ってやる』 

 ザラザラザラザラ。

 おそろしいことを言いながら、本当に女の足に(まと)わりつき始めた。


「く、く、朽ち灯! ヤ、や、めろ」

 シーカが怒鳴る。

「魔王が! ヤバ・い!」



 魔王、の言葉に全員が身構えた。



「シャロン、助けに来てくれたの? こんな火事のなかを」


 マオちゃんが目を覚ましている。


 倒れた女を見るなり、悲痛な声を震わせた。いつのまに目を覚ましたのだろう? いや、そんな場合じゃない。

 まだ椅子に縛られたままだが、そんなの気休めにもならない。細い体のどこにそんな力があるのか、マオちゃんは両腕を広げていく。ちぎれそうなほど、どんどん触手は引き伸びていくではないか。

「シャロンから離れるんだ、朽ち灯。いますぐ離れて」


 ゾッ……!

 悪魔のような声。なぜボロボロの女子高生が、こんな威圧感を出せるのか。


 じりじりと5人は(あと)ずさる。いや、ニニコは触手でマオちゃんとつながっているために逃げられない。さっさとマオちゃんを離せばいいのだが……(ちから)くらべでは勝ち目がない。

 綱引(つなひ)きに負けたみたく、ニニコは床に転がされる。左右の足が触手に引っぱられ、大股(おおまた)開きのすごい姿だ。


「は、恥ずかしい! 助けて!」

 泣き叫ぶロリポップ……


 マオちゃんは許さない。

「これが最後だ()()。シャロンから離れろ」



 朽ち灯の反応は―――


『さて、離れろと言われましても』

『シャロンとは誰ですな?』

『くくく、なんと恐ろしい魔王様』

『お断り致す』



挿絵(By みてみん)



「シャロンから離れろ―――!」


 バキン!!

 怪力に負け、椅子の背もたれが砕けてしまった。(ゆる)んだ触手からマオちゃんは抜け出した。

「朽ち灯―――!!」

 

 激昂(けっこう)

 自由になったマオちゃんが拳を振り上げた。



   しかし。



「マオちゃん、おすわり!」

 ニニコは新たに2本の触手を伸ばした。青とピンクの触手だ。シュバシュバとマオちゃんに巻きつく―――


 青とピンク!?


 ブシュウ!

 ブシュウウ!

 触手から()き出した2色の(きり)が、マオちゃんを包みこんだ。



挿絵(By みてみん)



「ぎゃあ、みんな離れろ!」

「ハイドランジアだ、離れろ!」

 逃げるフォックス。

 ハムハムを引きずってトラも逃げる。


「足を持たないで、痛ででで!」

 引き回しの刑のハムハム。


「ハ・ハ・ハ・ハイド……!?」

 さすがのシーカも、血相変えて逃げだした。


 ハイドランジア。

 軍艦でニニコが吸収した麻薬だ。なんてことを……


 ニニコは叫ぶ。

「なぜなのマオちゃん! どうして暴力に訴えることしか出来ないの!?」

 どの口が言うのか。


 2秒、15秒、30秒、だんだんと麻薬の霧が晴れてきた。ほかの4人は数メートルも避難している。マオちゃんの周囲にいるのは、ニニコと瀕死(ひんし)のソード女だけだ。

 肝心のマオちゃんは、仁王立ちのまま動かない。


 いや動いた。

 ギギギ、と首だけが振りかえりニニコを(にら)む。その顔はまるで―――


 

 恋する乙女のようだ。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] ここへ来てまだ新キャラが。 まあ、魔王の本拠地なんですから、人は一杯居ますよねえ。 さて、焼き籠手がいなくなって弱体化しているフォックスの明日はどっちだ!?
感想一覧
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