第184話 「レタリングレタリングレタリング」
ザアアアアアアアアアア!!
ズラズラズラズラズラ!!
マオちゃんを中心に、魔法陣のような模様が広がる!
いや、文字!
文字が……部屋中を埋めつくす文字、文字、文字。
「!?」
「な、なんだ……!?」
「こ、これはマオちゃんの……」
全員が叫ぶ。
壁、床、天井までもびっしりと文字が、いや短文が書き込まれていく。
マオちゃんの能力。
考えたことをプリントする力!
だが床に埋まったマオちゃんは、ぴくりとも動かない。ということは―――魔王が暴走している?
「にゃ、にゃ、にゃんだ、これ?」
シーカは上着を脱ぎ、半分に破って顔に巻きつけた。
意外と器用なシーカ。よく右手だけで自分の顔に包帯が巻けるものだ。忍者みたいな覆面姿で、じろじろと部屋中を見まわす。
「これ・にゃんだ? く、く、朽ち灯」
『フン、これはプロパティだ』
『魔導士チャッカがインストールした設定だな』
『なるほど。我も全容を見たのは初めてよ』
ザラザラザラ……
苦々し気に吐き捨てる朽ち灯。
『……フン。面白い』
『ク、クハハ! じつに面白い』
パニックのトラとニニコ。
「な、なんだよこれ! いきなし妙なことすんじゃねえアホ!」
「ちょっとマオちゃん、これ消してちょうだい! ちょ……スイッチどこにあるの!」
短文、短文、短文!
すべての頭に数字が振ってあるではないか。
「なんだ、こりゃ……?」
周囲をびっしりと埋め尽くす文字。フォックスは足元の文章をナナメ読みしていく。
・321番 アモロによって解呪された場合、煙羅煙羅は魔王の被呪者には憑依できない。
・689番 朽ち灯は、ほかの鎧の能力を取りこむことができる。
・271番 穢卑面はチャッカの体内だけは透視することができない。
・122番 煙羅煙羅は魔王に忠実であり、決して裏切らない。
・904番 アモロ本体は、鎧から永遠に追放する。
「こいつは……なんなんだ。この……ハア?」
904番。
904番にフォックスが固まった。
な、なんだこりゃ?
まさか、鎧の取説!?
――――――アモロ、本体?
フォックスが叫ぶ。
「全員、119番のワードを探せ! グズグズすんじゃねえ!!」
「12番でも666番でも1939番でもいい!! ノルマだ! ノルマの数とおんなじナンバーを探せ!」
怒鳴る、怒鳴る!
ビクッ!!
怒号に、トラとニニコは飛びあがる。
「え……あ!」
「な、なるほど……」
2人で顔を見合わせる。あわてて床に四つんばいになった。
なるほど。
ノルマと一致する番号に、なにか特別なキーワードがあるかもしれない。特に1939番、魔王のノルマに。
必死に探すトラ。
必死に探すニニコ。
「14番……177番……トラ、スマホ持ってない!? だれかビデオに撮っといてちょうだい!」
「ねえよ、ここに来るとき取り上げられちまった! って、おいシーカ! ボケッとしてないで、お前も探せよ!」
「う、う、うるはい・やつだ」
ミイラ男みたいなシーカが、ダルそうに壁の文字を追う。正直、一刻も早くここを脱出すべきなのに……と思ったが、まあいい。
「は・は・はは」
朽ち灯が復活した今、自分は無敵だ。重傷を負ってなお、シーカは最高に幸せを感じているらしい。にんまりと笑いながら、周回する朽ち灯群をうっとりと眺める。
『ふん、不気味なやつめ』
『シーカよ。我を眺めているヒマがあったら、もっと真剣に1939番とやらを探したらどうだ。使えん奴め』
口の悪い朽ち灯。
シーカに先行するように壁一面にザアと広がった。
『ふむふむ、なるほど』
『ほう……クハハハ!! これは傑作だ、見ろシーカよ』
『89番、井氷鹿、真っ白闇、勇者は、憑依中に喋ってはならない』
ザラザラ……
『252番、アモロによる解放の際は、どのパーツも喋ってはならない。ただし朽ち灯だけは例外とする』
『ハハハ、ワケがわからんルールだ!』
わけのわからないルール?
いや、なんの意味があるのかわからないルールだ。
いや、いやいや、それ以前に。
なぜ鎧にルールなど存在する?
なぜ朽ち灯はそのルールを初耳なのか?
……そんな場合じゃない!!
「じゅ、12番、666番……そうだ、ロドニーとかいう博士の鎧のノルマは、たしか100だっけ!?」
折れた足を引きずりながら、ハムハムも床に這いつくばる。
「ねえ、ほかにわかってるノルマは? トラ!」
「えー、待てよ……そうだ、穢卑面だ! 穢卑面のノルマは1だ! あとは……くそ、俺のもハムハムのも数字がデカすぎんよ!」
一文字の大きさが、約3センチくらいだろうか。縦に横にナナメにと、まさに縦横無尽に書き殴られた文字列は、模様のように見えて目がくらくらする。
トラは子供のころ、父に買ってもらった絵本を思いだした。
ひとつのページに1000人ほどのキャラが描かれている絵本だ。おびただしい群衆のイラストの中から、ひとりの主人公を見つけ出すという楽しい絵本である。
幼いトラは愚かにも、せっかく見つけた主人公をマジックで塗りつぶして大はしゃぎしていた。ルールをいまいち理解していなかった。
その絵本よりも、いまの作業は難しい。
と、床にうつぶせるハムハムの絶叫。
「あったよ、119番!」
発見の知らせに、4人が駆け寄る。
「でかした!」
「ど、どこだ。読んでみろ」
5人、仲よく床をのぞきこむ。そこには―――
・119番 鎧は人間以外の生物には憑依できない。
「……なにそれ。当たり前じゃないの」
「しょーもな、なんじゃそら」
「どうやらノルマの数とは関係ないみたいだね」
「だ・だ・誰だ。最初に・言い出した・のは」
がっかり。
拍子抜けする4人。つまらなそうに、のろのろと立ちあがる。
「んだよ! アタシが悪いってのかよ、ああ!?」
逆ギレのフォックス。
まったく的外れな推理だったらしい。
そのとき!
ジリリリリリリ!!
ジリリリリリリリ!!
ジリリリリリリリリリリリリ!!
「ぬお!」
「ぎゃ!」
「ヒッ!」
「ぽぅ!」
「じょ!」
飛びあがる5人。
ジリリリリリリリリリリリリ!!
警報機の音が鳴り響いた。
ジリリリリリリリリリ……!




