第182話 「ストーム」
正気か?
トラの靴底に、アモロと書かれている。
「しょしょ、正気?」
真っ青になるニニコ。
「ンンオ―――!!」
ドン!
ドン!!
早くしろと急きたてているのだろうか、なおも暴れるトラ。
「……なに? どういうこと?」
マオちゃんの顔からは、笑みが消えている。彼女の位置からは、トラの靴底は見えない。なにが起こっているのかわからない。
わからないはず。
その間も、フォックスはニニコの腕を叩きまくる。
バシバシ!
早く、早くとトラを指さす。
「い、痛いわ! わかったからやめて!」
覚悟を決めるニニコ。
「ほ、ホントに言うわよトラ。いいのね?」
「ン! ン!」
必死にうなづくトラ。
「ン! ン!!」
ニニコの顔色が変わる。
シーカの目の色が変わる。
言え、と言っているらしい。
……なにを?
『あははははは! あははは!!』
『面白い、これだから人間は面白い』
『殺さんでよかったわ!』
朽ち灯は笑いっぱなし。
シーカの周りを飛び回っているが、その軌道はメチャクチャだ。よほどツボに入ったらしい。
『あははは!』
ザアアアアアアア!!
「もう……なに言ってんだか」
うんざりした顔のマオちゃん。
ハムハムは―――
「????」
なにが始まろうとしてるのかわからない。みんな、何をしようとしているのだろうか……どうせロクなことではないだろうが。
わからない。
本当にわからない。
「ふ、ふうう」
ニニコは意を決し……言ってしまった。
「な、長靴さん、長靴さん。アモロはどーこだ。ワー! 言っちゃった!」
言ってしまった。
「お・あ」
シーカの顔色が変わる。やりよった、と言わんばかりに。
ズン。
ズシン。
立ちあがるトラ。
いや……勝手に動いている? 足が勝手に!
ズン!
ズシン!!
ゆっくり、ゆっくりとマオちゃんに歩み寄るトラ。
その顔はどうだ。
目はギラつき、首から上は真っ赤っか。
髪は逆立ち、湯気が立ちのぼっている。
「ンンンンン!! ンンンン!!」
その体にロープは絡みついたままだ。すなわち、まだマオちゃんの支配下にある。
……だが長靴は止まらない。
「ゲッ!」
はじめてマオちゃんの顔が……引きつけでも起こしたように固まる。
「え、待って! 足枷って " 探索 " できたの!?」
今ごろ、とんでもない事実を知るマオちゃん。ガチで知らなかったらしい。情けない魔王……叫ぶ!
「おすわり!」
" 着荷 " 発動!
ガチリ!
ガチィン!!
トラの両足が、床に結着した。
だが、ムダ……
バキッ!!
バキィ!
長靴が床に貼りついた……それがどうした!!
ブチン、ブチィ!
じゅうたんを引きはがす!
ズシン、ズシイン!!
バキッ!
バキイ!
その下のタイルごと引っぺがし、トラは進む。
止まらない。
ズシン!
ズシン!!
「フシュウ~~~!! シュウ~~~!!」
バッファローのごとき鼻息を漏らしながら、ズシンズシンと歩くトラ。マオちゃんに……いや、アモロに向かって。
ズシン!
ズシン!!
「フシュウ~~~!! シュウ~~~!!」
トラの目はもう、
イっちゃってる。
「ンモオオオオ! ンモオオ!!」
ズシン!
ズシン!!
ちょっと引いてるマオちゃん。
いや、マジで怖がってる。
「近づかないで! 煙羅煙羅に当たったら、ただじゃすまないよ!」
ギュルギュルと旋回するブロック群。
まるでチェーンソー。
まるでブロックの嵐。
マオちゃんを守るように、煙羅煙羅シールドは立ちはだかる。
が。
ガシャ―――ン!!
「ぎゃぅ!」
マオちゃんの顔に、車椅子が直撃した。
車椅子!?
ハムハムが……ハムハムのどこにそんな力があったのか。重さ15キロはあろう車椅子を、折れた足まで使って蹴りあげた。
放物線を描くように宙を舞って、車椅子はマオちゃんの頭に―――
魔王にゴチンと当たった。
ガガガガガガガガ!!!
車椅子が、煙羅煙羅の嵐に砕かれる!
そして、バランスを崩したマオちゃんも嵐に倒れこんだ。
「うあ! 煙羅煙羅、止め……!!」
もう遅い!
ドガドガドガドガ!!
マオちゃんの全身に降りそそぐ流星群!!




