第181話 「ボールデッド」
「いざとなったら、トラ君の魔力を消しちゃうよ? ドヤァ」
微笑む。
「足枷に呪われたくないよね、みんな」
―――全員の顔がゆがむ。
なるほど。
それでトラの呪いだけは解かなかったのか。
なるほど。
それでわざわざ、マオちゃんがひとりで来たのか。魔王軍ひしめくこの城で、たったひとりで……
「あーでも、しまったァ~。うっかりみんなの魔力を消しちゃったんだっけ。ってことはトラ君の魔力を消しちゃったら、足枷に呪われるのはニニコちゃんだね」
ザアアアアアア……!
煙羅煙羅のパーツに守られながら、マオちゃんは笑う。
「最低よ、マオちゃん」
冷たく言い放つニニコ。刺すような目でにらむ、にらむ。
「最低だわ」
マオちゃんは……しばらくニニコの顔を見つめていたが、やがて、うつむいた。
「うん、ごめんね」
さみしそうに呟く。
「このくらいできないと、魔王なんかやってられないんだ」
さみしそうに笑うマオちゃん。
だが。
だがすぐに真面目な顔になった。
「……あれ?」
視線が泳ぐ。
きょろ、きょろ。
「なにこの感じ。なんかすごく、朽ち灯以外の気配がするんだけど」
イヤなにおいがした。
なんだかとてつもなく、コゲ臭い。
人間が燃えるようなにおい。
「アッ、しまった」
ロープが燃えている。
フォックスを縛りあげていたロープが、ブスブスと燃えている。
なぜ?
フォックスを縛るロープに、もぞもぞと寄り添うブロックがある。朽ち灯のパーツ……ではない!
焼き籠手。
かつてシーカに奪われ、朽ち灯に吸収されていた焼き籠手のパーツ。そのブロックが、ロープをごしごしと擦っている。まるで火をおこすように……ってか、火がついた!
ボッ!
ぶすぶすと燃えるロープはついに切断された。そのすさまじい臭い……人間が燃えたときの臭い。
「はー、なるほどね。なんで鎖なりワイヤーなりを繰り出さねえのかと思いきや……このロープはあれか? 人間の死体でも加工してんのか」
笑うフォックス。
悪魔の笑み―――
「それとも死体じゃなかったりしてな」
「人聞きが悪いなあ。これは化学的に培養した繊維だよ。ナマで剥ぎ取ったみたいに言わないでほしいな」
ムッと睨み返すマオちゃん。
「アモロの力を伝達させるには、人体を使わなきゃならないんでね。ホントは有刺鉄線でも使って拘束したかったよ」
「そっちのほうがよかったぜ。このにおいだけはマジで慣れねえ」
よっこらしょと立ちあがり、その右手をまじまじと見つめて笑う。フォックス自身、数カ月ぶりにハダカの右手を見た。
トラとはじめて会ったとき以来だ。
「あー……こりゃなんとも複雑な気分だぜ。こんなあっさり呪いが解けちまうとはな」
もぞもぞと、右手の上で蠢くブロックが1枚。
もとの籠手はどこ行ったの? とでも言わんばかりに、もぞもぞと腕を這いまわっている。
そして、そして、炎が吹き上がった。
ボッ!!
「物知りの魔王様。何百年生きてるか知んねえけどよ、これはご存知なかったろ?」
炎。
フォックスの右手に炎が宿る。
「今日がお前の命日だ」
「ふむ、それは……知らなかったよ」
マオちゃんはまだ余裕。
パシ!
近くに浮いていた煙羅煙羅のパーツをつかみ、フォックスに投げつけた。
「えい」
ビュンン!!
弾丸のような速さで飛んでいったパーツは、フォックスの炎板を弾き飛ばした。
カーン!
ゴッ!!
弾かれたパーツは、ビリヤード玉のようにフォックスの頭部にブチ当たり、そのままどっかに飛んでった。
「ぃやん」
ドサ!
フォックスはかわいい悲鳴をあげ、ニニコのひざの上に倒れてしまった。気絶。
……え?
これで終わり?
「おっとゴメン。一塁にどうぞ」
余裕のマオちゃん。
冗談言ってる場合じゃない。どういう筋力をしているのか。軽く投げたようで、球速150キロは出ていた。
フォックス、リタイヤ。
「なんじゃそら! なにそれ!」
さすがのニニコも怒る。
「ワーワー! ワーワー!」
「最ひょ、から・期待・ひてない」
ため息をもらすシーカ。
「グー! うぐー!」
床でうめき声をあげるハムハム。
頭に巨大なタンコブが出来ているではないか。飛んできた焼き籠手ブロックが落下してきたらしい。
縛られたまま拷問みたいな目にあう、かわいそうなハムハム。
「あはははは!」
笑うマオちゃん。
『アーハッハハハ! ネコより使えんな!』
笑う朽ち灯。
シーカを周回しながら、ジャラジャラと高笑いをあげる。
「ンオ―――! ンオ―――!」
床で喚くトラ。
いや、その目に涙。
あまりの屈辱ゆえか……わからない。なんの涙かわからない。
「ンオ―――!! ンオ―――!」
ドン!
ドン!!
足をバタつかせる。
ドン!
ドンッ、ドンッ!!
「あっはっは……ちょっと、うるさいな。静かにしててよ」
怒るマオちゃん。
『ふむ……ほう』
『これは! これは面白い』
ザラザラ!
ザアアアアア!
朽ち灯の反応はちがう。なにかを見つけたかのような反応だ。
「ンンンオ―――!!」
トラはどうしたのだろう、尋常な暴れかたじゃない。ドン ドンドン!
「にゃ、にゃんだ?」
シーカの位置からは、トラの姿が見えない。なにをわめいているのか分からない。
「な、なになに?? トラ!?」
パニック状態のニニコ。
なにが起こっているのかわからない……
と。
ツン、ツン。
ニニコの肩を、フォックスがつつく。
まだソファに沈んだまま、なのにフォックスは笑っている。白目をむいた状態でトラを指さした。
いや、トラの長靴を指さす。
そこには、
「アモロ」の文字。
靴底に、アモロと書かれている。
反対の長靴には、ブロックが貼りついているではないか。もちろん足枷のパーツだ。
なんと器用な……足の裏にパーツを貼りつけ、ガリガリと片足の裏を擦って文字を書いたらしい。
アモロの文字を。
正気か?




