第18話 「ブロッケン」
「か、返せ! それを返しやがれ!」
わめきたてるトラ。
男……以下、シーカと記載する。
立ちどまったシーカは、冷めた目で2人を眺めている。だがなにも答えない。
「おい……聞こえねえのか、てめえ? ブロック返せっつってんだよ!」
刺し殺さんばかりにシーカに凄むトラ。だが、シーカはまったく動じない。
無表情ではないが、うっとうしいと言わんばかりの目を向けてくる。
すると――――――
『シーカ。何をしている、行くぞ……』
また籠手がしゃべる。
いったいなぜ、この籠手だけがこんなに饒舌なのか?
フォックスが、おそるおそると尋ねる。
「なあ、お前のアイテム……なんでそんな喋ってんの?」
シーカの答えは……
「……アイテム?」
はじめてシーカが、表情を変えた。だがすぐに最初の笑顔にもどる。そして―――
「はは……これ、もーらい」
これ。
ぴらぴらと、ブロックの2枚を見せびらかした。
とても無邪気な表情。イタズラ小僧のような笑顔で、とんでもないことをホザく。
もちろん、トラはブチ切れた。
「ナメてんのかてめえええ! 返せえええ!!」
ズドンズドンと橋を揺らし、シーカにかけ寄る。
ブウン!
体を半回転させ、回し蹴りを放った。
だが……遅い。
ひらりと躱される。
バゴォッ!
空振りした蹴りが欄干を粉砕した。
しかし!
「うるああ!」
ガゴォ!
蹴りの勢いそのまま、トラがぐるんと半回転し、大穴の開いた金庫をシーカに向けて蹴り飛ばす。
顔面直撃コース!!
この距離では避けられない!
直撃する……寸前!
シーカが2枚のパーツを右手に持ちかえた。
『アマいわ……』
バッ!
籠手が大きく開き、赤く光った。
光る掌に、金庫が触れる―――
ズバンッ!
触れたとたん、金庫はズバンと真っ二つになって後方に飛んでいった。
ザバン!
ドバン!
落水―――川から派手な音が響く。
『鉄、コンクリート……美味いぃ……』
金庫の素材について、味の感想をとなえる朽ち灯。
さぞかし旨そうな感想。
「ゲ……いぃ!?」
ゲッ、と片足を上げたポーズで固まるトラ。
そこへ!
間髪いれず、シーカが間合いを詰めてきた!
トラに体当たり……
いや!
直前で急停止!
そして身をかがめて、トラの足場にパンと張り手を叩きこむ。その瞬間、彼の籠手は赤い光を放った。
ポウッ。
光にふれた橋床が―――
ドおおおおオオオオオオオン!!!
分解される!!
アリ地獄と化す、トラの足場! 厚さ30センチの木の床が、砂となって崩れる。
タン、トンと2歩下がって、シーカがふたたび微笑んだ。
……トラは?
「うわあああああああああああああああああ」
“ 橋のなか ” に飲みこまれていくトラ。
パウダーのような木屑が、ごうごうと立ちのぼる。まるで落とし穴だ。
川まで真っ逆さま……いや、トラは穴の縁をつかみ、ぶら下がって耐えている。なんちゅう腕力!
長靴の重さが指に、手首に、肩にかかる……両腕の全関節が悲鳴をあげる!
ブチブチブチ……
「ぎゃああ!! フォックス、助けてくれフォックス!!」
血管切れそうになりながら、必死に助けを求める。
がんばれトラ。
「そんなに死にてえかね、左手野郎」
ダン!
フォックスがシーカの前に立ちはだかり、籠手をガシャンとひろげた。
「ヘイ。そのブロック、こっちによこしな。ンなもん盗んで、どうしようってんだよ」
怒りの形相でシーカを睨みつける。
……この女、トラを助けに行きやしない。
右手から噴き出した火が、ぐるぐると手のひらで収束する。
ボッ!!
ソフトボール大の炎が、その手に浮かぶ。
「火!?」
ザッ!
シーカがはじめて、真剣な表情を見せた。両足を前後に広げ、左手…… “ 朽ち灯 ” を引いた。
ふつうなら籠手のほうを相手に向けそうなものを。この男はブロックを握る右手を前にして構える。
武術の心得があるのだろうか? 拳法のような構え。
対峙するシーカと、フォックス。
一方―――
「助けてくれ、メイドックス――――――!」
トラの咆哮。
「も、もう、ダ、ダメ……ああああああああ!!!」
トラが、落下した。




