第179話 「ラスト ナンバーズ」
『ま、魔王様……いま封印と仰せに?』
煙羅煙羅の、おびえた声。
『もしや、我も封印なさるおつもりで……?』
カタカタ。
カタカタと震える。
「まさか、心配しなくていいよ。煙羅煙羅は特別だからね」
微笑むマオちゃん。
ギュ。
ギュッと煙羅煙羅を抱きしめる。
「封印なんかしないよ」
煙羅煙羅は……
『ま、魔王様もお人が悪い! 心臓が止まるかと思いましたぞ』
ホッ。
ご冗談を、魔王様。
「それよりさっきから、シーカ君とニニコちゃんが黙ってるのが気になるな。2人は魔王軍の一員としてここに残ってくれるんだよね?」
『もちろんですとも! そうだな、お前ら!』
忠犬、煙羅煙羅。
だが。
「俺たちは・帰る。た、た、タクシー・呼んでくれ」
じろりと睨むシーカ。
「それから・いいかげん・ロープを・離してくれ」
「帰っちゃうの?」
さみしそうな目を向けるマオちゃん。
「じゃあいいよ。ただし " 朽ち灯 " と " 真っ白闇 " は置いてってもらうよ。もちろん煙羅煙羅もだ」
「約束が・ちがうぞ。朽ち灯は・俺のだって・言ったろ」
ものすごい目を向けるシーカ。
笑っている、にっこりと。まだアゴに朽ち灯をつけたまま……というか、ずっと頬杖の体勢のままだ。
「いいかげんに・しないと・殺すぜ」
にっこり。
「殺せないよ。ていうか動けないっしょ?」
笑うマオちゃん。
だが……
だが。
だが!
ハッと目を見開く!
「……あ! なるほど。その手があったか」
なにが、なるほどなのか。
笑うシーカ。
その顔は汗だく……ギュッと目をつぶる。だが笑う。引きつった笑い!
ま、まさか―――
「い、い、痛くない・痛くない・痛くない」
呪文のように三度つぶやき、シーカは一気に……
ベリィッッ!!
自分の顔を剥がした!
アゴから耳まで裂けるほどの……顔の左半分を、自分で引っぺがした。ブチブチブチ!!!
出血―――いや、霧状に飛び散る血!
ちょっとニニコにもかかった。
「ギャ―――!」
叫ぶニニコ。
「い、い、痛え」
涙と血でシーカの顔はメチャクチャだ。
その激痛で、なぜこんなことが出来るのか、
左腕がぐるりと弧を描き、
ズバッ!!
足を封じていたロープを切断した。血だらけのおそろしい笑顔で立ちあがると……
ダンッ!
一足飛びに距離を詰め、マオちゃんに襲いかかる。
そして。
渾身の左ストレートが、マオちゃんの顔面に直撃した。
ドガッ!
直撃。
すべてを粉砕する朽ち灯の一撃。
マオちゃんの顔が、ざらざらとパウダーになって消えた……
とでも思うか?
「な……!?」
シーカの驚いた声。
朽ち灯を食らって、平気な人間などいるはずがない。だが―――
「痛いじゃないか」
笑っている。
その顔に朽ち灯を食らい、それでも平然と笑っているマオちゃん。
いや、マオちゃんは朽ち灯を食らっていない。
なにかが朽ち灯の攻撃を防いでいる。
「許さないよ……」
うぞうぞ、モゾモゾ。
魔王の隙間から、ミイラのような3本の指が、ぞろりとはみ出した。
モゾモゾ。
虫のように、虫の足のように蠢く、蠢く。
モゾモゾ、モゾ。
マオちゃんの顔をかきむしる、細長い3本指。
前髪が垂れ下がるように、カブトの隙間から這い出る " なにか " 。
マオちゃんの顔面を隠すように、掻きむしるように、人間のホネのようななにかが、
アモロが。
マオちゃんの顔を守っている。
防御するかのように、保護するかのように、マオちゃんを朽ち灯から守った。
「ガチ許さないよ」
―――マオちゃんは笑う。




