第175話 「ウィ アー ヒューマン」
「アモロは、人間の身体機能を一時的に消せるんですって。ヤバくない?」
ついに明かされたアモロの秘密。
ニニコの言葉に、トラとフォックスは―――
「もう意味がわからん。フォックス、俺にもタバコくれ」
「あいよ」
トラに煙草を差し出し、火をつけてあげるフォックス。
「……え? え??」
目を丸めるニニコ。目の前で起こったことに、信じられない様子だ。
トラが、フォックスにタメ口……からの指図!?
「なんだ、お前ら。そ、そ、そういう・関係に・なったのか」
ここでようやく、シーカが話に入った。
「おい・クリクリ。こいつら・出来てるのか?」
クリクリに目を向ける。
……クリクリ?
ため息をつくハムハム。
「アンタとは合いそうもないね……誰がクリクリなのさ」
ぱん!
手を打つフォックス。
「はいそれで! アモロの能力だけど、もうちょっと補足してくれ!」
ちょっと照れてる。
「マジなの、2人とも……そう言えば、トラがフォックスのこと、オーナーじゃなくってフォックスって言ったわ」
目を輝かせるニニコ。
「なんてエッチな関係になったの……!」
「なってるか! 続きを言え、ボケっ!」
怒るフォックス。
「えー、アモロの能力ですが……」
敬語になるニニコ。
「たとえば、爪が伸びるのを一時的に止めたりできるそうです。ほかにも、しゃっくりを止めたりできます。以上です」
沈黙。
あー、沈黙。
「えーっと……それ、だけ?」
「なんじゃそら?? なんの役に立つんだよ」
トラもフォックスも呆れ顔だ。
最後のアイテムにしては、大したものじゃないらしい。
だがニニコの演説は熱を増す。
「どうして? すごく便利じゃないの! 肉体の機能を消せるのよ。小麦アレルギーの人の、アレルギー反応を消すこともできるわ」
興奮。
「フォックスだってそうでしょ。サバを食べたら、必ずジンマシンが出るじゃない。きっとアレルギーだわ。知ってるかしら、アレルギーっていうのは免疫機能の過剰反応が原因で起こるのよ」
「知っとるわ」
「知ってる知ってる」
「アモロなら、それも消してくれるわ。サバへの過剰反応を消してもらうの。フォックスも、もうブツブツが出る心配しないでサバが食べれるわよ」
「死んでもごめんだね。誰が食うか」
「いや……でも」
「なるほど、なるほどね」
……なるほど。
納得するトラ、フォックス、ハムハム。
たしかに。
トラは、かつてテレビで見たホラー映画を思いだした。
ナイフを持った怪人に追われたヒロインが、物陰に隠れるシーン。物音ひとつ立ててはいけない状況……にも関わらず、ヒロインは足もとにいた毛虫に驚いて悲鳴をあげてしまう。そしてメッタ刺しにされてしまった。
トラはその演出を見た瞬間、あまりのアホな展開にキレた。夜中にもかかわらず、脚本家を殺してやると叫びまくり、隣人に通報された。
もしもそのヒロインが、声をアモロで封印していれば?
殺されずに済んだかもしれない。
自分でも制御できない反射運動や疲労感、中毒症やアレルギーを消すことが出来る能力……いや、待って。
「いや、ちょっと待って。その能力でどうやって呪いを解くのさ」
ハムハムが挙手。
「はい、とてもいい質問です」
先生みたいなニニコ。
「そこなのよ。ロドニーもそれがわかんないって半ギレだったわ。アモロにはまだ秘密の能力があるのかも」
「わかんねーのかよ。それで? アモロのノルマは?」
「とてもいい質問だわ、トラ」
先生みたいなニニコ。
「アモロのノルマは、3つの身体機能を永遠に消すことよ。アモロに肉体の3つを捧げるって感じかしら」
ぞっ。
全員の顔がこわばる。
いや、青ざめる。
身の毛がよだつようなノルマ……
「おっかねえ……なんちゅう代物だ。マジの呪いじゃねえか」
「なんつうの。アタシは籠手で、まだよかったぜ」
「怖すぎるよ。下手なホラーよりイカれてる……」
「どうして怖いの? 自分で自分の欠点を消せるのよ!? 私だったら消してほしいものが山ほどあるわ」
興奮するニニコ。
「まずはワキの毛よ、ホントいらない。2つ目は……あ、そうだわ。ホクロもこれ以上いらない。それからペンダコもいらないわ。これで3つよ、余裕じゃない」
全員が、なるほどと顔を見合わせる。
「え? いや、そんなんでいいのか? けど、たしかに……言われてみれば、人間なんていらない機能だらけだよな」
「そんなんだったらアタシだって。生えてこなくていい毛なんか3つ以上あんぞ。サバのアレルギーも、一応いらねえしな」
「そう考えるといいことづくめなのかな。本当にアレルギー反応まで消せるんなら、すごいよ」
「ね? これでまた宇宙服説に、一歩近づいたわ。宇宙にはどんなアレルゲンがあるかわかんないもの。フフン」
なぜか威張るニニコ。
眉をしかめるトラとフォックス。
「は……ハァ? なに言ってんだ、お前。なんだよ宇宙服って」
「まーたトンチンカンなこと言い出したぜ」
ムッ、とするニニコ。
「なによ、またって! それもロドニーが言ってたのよ。鎧の正体はなんなのかって。それがね……」
かくかくしかじか。
・ロドニーが鎧の正体を知るために、研究を続けていたこと。
・鎧の正体は、作業服だという結論に至ったこと。
・ヨロイは、宇宙からやってきたかもしれないということ。
「……」
「……」
「……」
ぽかんと口を開きっぱなしの3人。
「……」
「なーんじゃ、そら」
「ものすごすぎる……なんて有りえないんだ」
気が遠くなるハムハム。
「そのロドニーって博士の言うとおり、鎧は宇宙服なのかな。そんなの考えたこともなかったよ」
誰が誰に振るともなしに、鎧の話へ。
答えたのはニニコだ。
「でも、ロドニーはこうも言ってたわ。宇宙服のはずがないって」
ムッ?
首をかしげるハムハム。
「どっちなのさ。宇宙服かもって言い出したのは、その博士なんだろ?」
「だって……ねえ、シーカ」
ちょっと気まずそうな顔で、助けを求めるニニコ。
「鎧は、放射線も空気も素通りするらしいの。宇宙服になんか、まったく使えないってロドニーが言ってたのよ」
「……ああ。言って・たな」
足を組んで黙っていたシーカが、低い声をもらす。
話に続いたのはトラ。
「その、なに? 空気だの放射能だのが素通りしちまったら、宇宙服としてはマズいのけ?」
「……」
「……」
アホな質問に、フォックスもハムハムも頭を抱える。
「マズいに決まってんだろ」
「死んじゃうよ」
そう。
そんなスカスカの服で宇宙に出たら、確実に死ぬ。
だが……
「そう考えるのは、俺たちが地球人だからじゃねえか?」
「前にテレビで見たぜ。なんか、放射能を浴びても平気な生き物がいるらしいじゃねえか。もちろん地球の生き物だぜ?」
真面目な顔のトラ。
「ってことはだ。広い宇宙には、生身で宇宙遊泳とかできる宇宙人がいても、おかしくないんじゃねえか?」
「……ふむ」
「……」
「……それで?」
「べつに? もしもそういうスーパー星人が、この鎧を作ったとしたらだ。放射能の遮断だの、気密性だのっていう発想自体がまず出て来ねえと思ってよ。それなら耐久力だけのスーツになっても、おかしくないんじゃねーの?」
珍しく饒舌なトラ……
「なんの話だっけ? そうだ、SF話してる場合じゃねえ。ニニコ、その魔王軍ってのはどういう目的で動いてんだ?」
「えー……シーカ、どういう目的?」
目が泳ぐニニコ。
「さあ・ね。どうせ・鎧を・結集して・悪だくみ・だろ」
ギシ、足を組みなおすシーカ。
フォックスがため息をつく。
「おいおいおい……まさか、連中の目的も知らずに仲間に入ったのか? あきれたぜ」
じろりと睨むシーカ。
「お互い・さまだ。お前らも・ここにいる、だろ」
「ハァ? 今なんつった?」
じろりと睨み返すトラ。
「ちょ、ちょっとシーカ」
「ちょ。ちょっとトラ」
あたふたとなだめるニニコ、ハムハム。
と―――
ガチャン。
また、ドアが開いた。




