第17話 「ガントレット」
『久しいな。足枷、焼き籠手……』
背後から、声が聞こえた。
ぞっ…………
この、悪魔のように低い低い声。
地の底から響きわたるような、冷たい声は……
トラとフォックスの背筋が凍りつく。
心臓が止まりそうになる。
完全にフリーズする2人。
そこに、なにかが降ってきた。
ひらひら。
ひら、ひら。
紙幣だ。
硬直する2人の上に、ひら、ひら、ひら……紙幣が舞う。何枚も、何十枚もの万札が降ってきた。
ひらひらひら。
「な、なんだ……あッ!!」
「カネが……あ!!」
トラとフォックスが、金庫の異変に気づく。
トラが抱きかかえる中型金庫に、ぽっかりと20センチくらいの穴が空いている。
まるで角砂糖が崩れるように、金庫の天井が、砂のようにさらさらと崩れているではないか。
いつのまに!?
いや、いったいなんじゃこりゃ!?
風が吹いてきた。
金庫の穴からどんどん、紙幣が舞い飛ぶ。
紙吹雪のように、すごい金額が2人のあいだを舞う。
いや、2人ではない。
3人だ。
「やあ」
にっこり。
男が2人に声をかけてきた。
とてもやさしい声。
「ひい!」
「ひぃ!」
ビクッッ!!
フリーズ状態のところに声をかけられ、トラとフォックスは飛びあがった!
「右手と、両足かい? 大変だね」
スマートな優男。
にっこりと微笑む。
そ、そ、その左手に!!
「あ……!!」
「い……!?」
トラとフォックスは、彼の左手を見るなり絶句した。
男は、左腕に籠手をはめている。
フォックスのそれと、そっくりの籠手だ。
ゴツゴツと武骨な、石造りの籠手。
そして彼の籠手は、ブロックをふたつ掴んでいるではないか。金庫に閉じこめたはずのブロック2枚をだ。
もぞ。
もぞ、もぞ。
2枚のブロックが、男の籠手から逃れようと蠢いている。もぞもぞ。
「ギョッ!!」
「お、おい! なんだよその……籠手は!」
フォックスが男の左腕を指さし、声を震わせる。
ま、間違いない!
呪いのアイテムじゃねえか!
「ままままま! ああああ! しししし!」
「そそそそそ! それそれそれ! てててて!」
言葉にならない。
そろってテンパりまくる。
男はなにも答えない。
さっきまでのフレンドリーな様子はどこへやら、叫びまくる男女に、まるで興味を失ったかのようだ。こちらを見ようともしない。
それどころか、なんと自身の籠手と話しはじめた。
「 “ 朽ち灯 ” 、次はどこへ?」
男が籠手にたずねるや、低い声が返ってきた。
悪魔の声。
『ここからいちばん近いのは……あっちだ』
ガシャ……
ビシ!
『この魔力は…… “ 真っ白闇 ” か。はやく食いたい』
あっちだと答えるや、籠手がパーツ2枚を指に挟んだまま、ビシっと遠くを指差した。
「行きましょう、オーナー」
男が礼儀正しく、籠手に答える。
『いい子だ、シーカ』
籠手は、満足そうな声をもらした。
男はシーカという名なのか?
シーカは自由に籠手と会話ができるらしい。
しかも籠手のほうが、立場が上なのか?
籠手の示したほうに向かって、シーカは歩きはじめた。
「ポカーン……」
「ポカーン……」
呆然とするトラとフォックス。
去っていく男を、ぼんやりと見送る。お元気で。
いやいやいや!!
「まっ、まっ、待てコラ!」
「ざけんな! オイてめえ、戻ってこい!」
あっけに取られていた2人が、飛び上がらんばかりに叫んだ。
「それ返せ!!」
「だまって持ってくんじゃねえ―――!」
男女の絶叫に、シーカが足を止める。
とても、めんどくさそうに。
「オーナー、どうしましょう」
『どうもせんでいい。シーカ……』




