第162話 「サンダーボルト」
前回出されたクイズ。
「朝は4ページ、昼は1ページ、夜は100ページ以上になる魔導書は?」
バカがバカを怒ってら。
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ズドォン!
ズドオン!!
ズドォォ!
建設現場に爆煙が立ちのぼる。数十メートルにも。まるで戦争―――5秒間隔で、ドカンドカンと轟音がひびく。
ニニコとシーカの悲鳴もすさまじい。
「やめろ・このバカ!」
「なにするの、やめて! バカじゃないの!」
逃げまどう。
「ひ―――!」
煙羅煙羅の手を乱暴につかみ、ニニコは逃げる。おそるべきダッシュで、でっかいコンクリートのうしろに隠れた。
「ドラゴンテイル発動! ワーワー!」
フトモモの鎧…… " 真っ白闇 " から伸びるふわふわのシッポに包まれるニニコ。
なにがドラゴンやねん。
『無駄な抵抗だと思うが』
毛玉ニニコを前に、煙羅煙羅はため息をつく。
ドゴォオオオオオオオオン!!
また爆音、そして衝撃!
ミサイル弾のごとく飛んできた岩が、コンクリ壁を粉砕した。無情にも、巨大な毛玉と化したニニコの姿は丸見えになる。
「なに、どうなったの!? 私ちゃんと隠れてる!?」
『まる見えだぞ、お前。まあいい。我はシーカの応援に行くぞ』
「え! ま、待って煙羅煙羅! いまなんて!?」
『まる見えと言ったのだ』
わめく毛玉を放置し、トコトコと煙羅煙羅は行ってしまった。
まる見え……誰から丸見えなのか。
もちろんロドニーだ。
数十メートル向こうにいるロドニーだが、その怒りの形相はここからでも見て取れる。下半身を覆う独楽の大バサミが、また巨石をガッチリと拾いあげた。
「バカにしやがって! 貴様ら、生かして帰さんぞ!」
ロドニーの絶叫たるや、なんという肺活量だ。
まるで雷……
「殺す―――! 殺ッ殺す!!」
「落ち・着け! なにが・シャクに・障ったんだ!」
さすがのシーカもなだめる。
まったく自分の責任だと思っていないところが、じつにコイツらしい。
「言って・みろ! なにが・気に・いらないんだ」
ニニコをかばうように立ちはだかる。あろうことかシーカは、発狂状態のロドニーにどんどん近づいていく。
「殺してやる! 殺してやるぞ!」
怒り狂うロドニー。
当たり前である。
「死にさらせ! 死にさらぁせァ!」
スターターが引かれた。
独楽のブレードが、ギャンギャンと唸る。
発射―――
ズドンッッ!!
直線軌道!
空気を切り裂いて、バケツほどもある石はシーカに飛ぶ。
着弾。
死―――いや!
ボンッ!!
直撃したかに見えた石が、消えた。
「い、い、いまのは・きわどかった・な」
額に汗。
さすがのシーカも、九死に一生だったらしい。朽ち灯の手のひらをいっぱいに広げ、石弾を消し去った。
「俺には・通じない・けどな」
ガチャン。
真っ赤に光る " 左籠手 " を突きだし、不敵に笑う。触れたものを分解する、必殺の光だ。
「なめるなよ若造、なめるな若造が!」
ひるまないロドニー。
独楽から生えるレバーをガコガコと動かし、大バサミを持ち上げた。
バシャン!!
厚さ15センチ、全長1メートルを超えるハサミ。その側面の一部がバシャンと開き、機関銃がこっちを向いた。
鳩時計のごとき仕掛けだ。
「……へえ。へえ!」
シーカは立ち止まる。そして感心したように微笑んだ。
「すごいな・それ」
この状況で、本気で言ってるからすごい。スキだらけで立ちつくす。
「死ね!」
ドガガガガガガガ!
掃射された機銃弾15発が、シーカに飛ぶ。
直撃……いや当たらない!
シーカの左手は恐るべき速さで動き、ガンガンと機銃弾を消し飛ばした。銃弾を見切っている……いや違う。
オートで動いている。
フォックスの " 焼き籠手 " と同様に、朽ち灯が自動でシーカを守っている。
「き、き、効かない・ぞ」
不敵に笑う。
「6発も・外れてたぞ。ヘタクソ」
「な、なに!?」
今度はロドニーが驚いた。
まさか機関銃が効かないとは……いや、いやいや!
「ナメるなよ、ならばこっちだ!」
ガガガガガガ!!
ふたたび発射される弾丸。狙いはシーカではなく…………最悪。
カンカンカン。
カン。
『グエッ』
煙羅煙羅に当たった。
「ハッハー! どうだ、全弾命中だ!」
喜ぶロドニー。
「あーあ・やっちゃっ・たな」
ため息をつくシーカ。
『貴様……貴様! 我に!』
プシュー!!
湯気を吹きだす煙羅煙羅。
『行くぞシーカ!』
「待って・ました」
笑う。
不敵に。
一直線。
一丸!
ひとかたまりになって、シーカと煙羅煙羅は特攻する。
「合わせろよ・煙羅」
『黙れ! 我に……我に、よくも! 許さぬ! 許さんぞォ!!』
ドシュー!!
ロケットのごとく飛翔する煙羅煙羅。
『くらえぇアアアあああ!』
ドゴォォオ!
独楽の投石にも劣らない威力。煙羅煙羅が、ロドニーに体当たりを食らわせた。ドゴォオオン!!
さらにロケット加速!
「おおおおおおおおお!?」
煙羅煙羅の特攻を、ロドニーは独楽を盾にして防いだ。間一髪、防御が間に合った! だがその突進力に、どんどん後方に押される。
後ずさること数十メートル。
ドシィン!
「ぐえっ!」
高さ6メートルもあるコンクリートの柱に、ロドニーは背中から叩きつけられた。それでも煙羅煙羅の突進は止まらない。
『このまま押しつぶしてやろうか?』
「殺しちゃ・だめだ! マオちゃんが・怒るだろ!』
シーカも追撃に来た。
ロドニーの絶叫。
「ぐ……むぅう、舐めるなァ!」
鞄!
ロドニーは攻防の間も、ずっとアタッシュケースを左手に提げていた。そのアタッシュケースを大きく振りまわす。
ドガァッ!
煙羅煙羅を思いきり引っぱたいた。人間なら頭蓋骨陥没しているほどの衝撃。
『ホゲ!』
ぶん殴られて、煙羅煙羅の軌道が変わる。下に……つまり地面に叩きつけられた。いや、自身のジェット推進で地面に埋まっていく。
ズボボボボ!!
『ぎえええええ!』
ズボズボと、もぐらのように土の中へ消える。さようなら煙羅煙羅。
「あ! よ、よ、よくも!」
続けざまシーカも突撃する。
とにかく独楽と闘うには、距離を詰めないといけない。離れたらハチの巣にされる。
「く・らえ!」
矢のようなドロップキックを見舞う。
だが当たらなかった。
ロドニーの背後に立つ柱に、シーカの蹴りはドシンと当たる。
ロドニーは?
上空にいた―――
「な、なに!?」
宙を見上げるシーカ。
なんとロドニーは、独楽の大バサミで石柱を挟んだ。そのままスターターを引く。
高速回転するハサミの車輪は、がっしりと挟んだ柱をレールにして、ロドニー自身を上空に打ち上げた。
飛翔―――
飛翔!
ピッチングマシンと、まったく逆の現象と言えば理解できるだろうか。マシンのほうが飛びやがった!
「これは驚いた。上から見ると笑ってしまうな。お前はなんて小さいんだ」
上空、約20メートルの距離にいるロドニーが挑発する。
そして……独楽の声。
『クイズの答えはわかったのか? 朝は4ページ、昼は1ページ、夜は100ページ以上になる魔導書は?』
「うるさい・鎧だな」
見上げるシーカ。その顔はゆがむ。
「俺のも・たいがい・だけどな」
『オアアアアアア! よくも、よくもォ!!』
ボゴン!
地面から抜け出した煙羅煙羅。
『もう、もう許さん―――! つかまれシーカァア!!』
ドォン!!
はるか上を飛ぶロドニーを撃墜すべく、煙羅煙羅もロケットで飛んだ。その煙羅煙羅をつかみ、一緒にシーカも飛ぶ。
飛翔―――
飛翔!




