第159話 「ブランチ」
保安官の口から出た言葉は……
「俺は、魔王軍さ。聞いたことないかい?」
「ま、まおうぐん…………魔王軍!?」
「うぇ!?」
バッと顔を見合わせるニニコ&シーカ。
「ま、前に・どっかで・聞いたな」
「魔王軍って、あの……なんだっけ? レインショットが言ってたわよ!」
そう。
第91話 「NGワード」にて、レインショットがたしかに言っていた。
困惑する2人。
だが……それにもまして、煙羅煙羅の驚きようは凄かった。小さな体をガタガタと揺らし、声を震わせる。
『お、おおお、な、な、魔王……魔王だと……』
いつも人間を小馬鹿にしている煙羅煙羅が、人間の言葉に動揺している。はじめてのことだ。
『な、なんと言った人間。魔王さまが……おられるのか、魔王さまがこの空港に……』
ガタガタと震える。
『いや、ちがうな……感じない。魔王さまは、ここにはおられん……』
かつてないほど取り乱す煙羅煙羅に、さすがにシーカもニニコも声をかけられない。
沈黙を破ったのは、保安官。
「まず……俺のボスに電話をかけさせてくれ。君たちに、どうしても聞いてほしい話があるんだ」
そこからは話が早かった。
ていうか急展開だった。
「よーお、君たちが呪いの? イカスねぇ、よろしくヨロシク。俺はハワード・スティングレン! こう見えて部長やってまーす、ってな!」
部下10数人を引き連れ、ハワードが派出所にやってきた。なんとうるさい男なのか……それが第一印象だった。彼の率いる集団のなかにジェニファーもいたが、この時はまだ、ともに行動することになるとは思わなかった。
「こんな狭いとこじゃロクに話も出来ねえ! まずはメシでも食いに行こうや」
有無を言わせぬ強引さで、ハワードは2人を食事に誘う。向かったのは空港内の2階にある寿司屋だ。
この国に来たらスシバーに行かなきゃ! というハワードに連れられ、ぞろぞろと総勢15人は移動する。もちろん煙羅煙羅も含めて。
その間、ニニコは不安そうにキョロキョロとしていたが、シーカは薄ら笑いを浮かべていた。
「強い・ね」
一団には、ケタ外れの実力者が含まれている。強い、なんてもんじゃないほどの実力者が。
「手合わせ・願いたいな」
さて、寿司割烹……この国ではスシバーと言うのか?
店の座敷に通されてからは、ハワード部長によるプレゼン大会だった。
「俺たちは魔王さまの命令で動いてんだよね。13の " 神器 " を集めんのが俺たちの仕事でさァ」
単刀直入すぎてよくわからない。
その後、ハワードのスピーチは1時間も続いた。スシをつまみながら聞いた話を要約すると……
①ハワードたちは、魔王軍という組織に属している。
②魔王というのは鎧のひとつ。
③ハワードたちは、魔王の命令で神器を集めている。
④この国には、神器を持った男がいる。
⑤そいつの名前はバスター・ロドニー。
⑥ロドニーの神器は、独楽という。
⑦ロドニーをスカウトするために、ハワードら魔王軍はこの国に派遣された。
⑧しかしロドニーは、別件で逮捕されそうになっている。
⑨彼が国外逃亡しないよう、空港職員に部下をもぐりこませていた。
⑩そしたらニニコとシーカがやってきた。
「いや待て。なんで俺たちが・呪われてることを・知ってる?」
「ていうか、そもそも私たちのことをなんで知ってるの?」
マグロとキスとイクラの合体寿司、もぐもぐ。
⑪言えない。
⑫君たちも、魔王軍に入ってくれたら教えるよ。
「その・魔王軍に・入ると・なんか・いいことあるのか?」
「お給料とか出るのかしら」
ローストチキンをレタスで巻いた寿司、もぐもぐ。
⑬一生、生活の面倒は見る。
⑭そのうえで、警察に追われないよう新しい身分を用意する。
「どうしようかしら? 私わかんないわ」
「話が・急すぎるな」
オクラの手巻き寿司、もぐもぐ。
『そこまでだ、人間ども!』
煙羅煙羅の絶叫がスシ屋に轟く。
『おい、貴様……さっきから黙って聞いておればベラベラと……!』
短い手を振りまわして煙羅煙羅は怒る。テーブルの上を歩いて、ハワードの眼前にやってきた。
『ハワードとやら……魔王さまの手下と言ったな。なにか証拠を出してみよ。まるで信用できぬ!』
大きな目を細めて、うるさい箱をじっと見つめるハワード。
「……失礼ながら。あなたは神器のひとつ、煙羅煙羅さんですかな? もしよろしければ、今から魔王さまに電話いたしましょうか?」
『なぬ!?』
プシュー!
赤い煙、プシュー。
「ブ―――!」
「ブ―――!」
お茶を吹きだすニニコとシーカ。
「ゲホッ、ちょっと待って。魔王ってそんな気軽に話できるの?」
「ど、ど、どうも・調子が・狂うな」
ガハハと笑うハワード。
「君たちのことは、とっくに魔王様に一報入れたよォ。ぜひ話がしたいってさ」
ガッハッハ。
『おい、貴様! 本当だろうな……では魔王さまに電話してみよ!』
ワーワー。
早く早くと煙羅煙羅はせがむ。
ハワードはもったいぶる様子もなく、カバンからタブレットを取り出した。差しこまれたイヤホンマイクを耳につけると、スイスイと太い指でなにやら操作をはじめた。
そして―――
「あ、魔王様。スティングレンです。がはは! 話はつきましたよ」
つながったらしい。
ディスプレイにお辞儀するハワード。
「え? いやあ、お待たせしまして。ちょっとスシをつまみながら話してたもんですから。ええ、代わります」
イヤホンのコードを抜き、タブレットを3人に向ける。
「それじゃ、感動のご対面~」
『魔王さま!?』
大興奮の煙羅煙羅。
と、タブレットから可愛い声が返ってきた。
《その声……本当に煙羅煙羅か》
かわいい声。
「い!?」
「ななな・なな!?」
シーカとニニコが顔を見合わせる。
まさかこれ、これが魔王か?
女の子!?
《私が魔王だよー》
かわいい声。
《初めまして、2人とも。そして……655年ぶりだね、煙羅煙羅》
学生服の女の子。
どうやら車の中から通信しているらしい。
『魔王さま! 昔と変わらぬお姿……ご壮健でなにより』
かしこまる煙羅煙羅に対し、魔王は……
《君は変わったな。なんか、ゆるキャラみたいだ》
「なんて残酷な言いかたを……」
「礼儀・知らずの・娘だな」
ヒソヒソ。
「ねえ……本当に魔王なのかしら?」
「信じ・られないな」
『貴様ら、なんてことを!』
プシュー!
湯気を吹きだす煙羅煙羅。
《あれ? ちょっと待って煙羅煙羅……なんかネジのパーツ足りなくない?》
と―――魔王は画面越しに、煙羅煙羅、シーカ、ニニコを見まわし、ポンと手を叩いた。ぐんとアップになった顔の不気味なことよ。
《ん……ああ、そういうことか。煙羅煙羅、君の一部が「真っ白闇」に吸収されてるのか》
《そっちの女の子が、真っ白闇の宿主だね。いけないな、なんでもかんでも食べちゃ》
《それにそっちのイケメン君。キミが「朽ち灯」と「煙羅煙羅」の宿主か……え、待って。なんで朽ち灯に、「足枷」と「焼き籠手」を含んでるんだ? ダメじゃないか》
……正解。
いままでのストーリーで起こったすべてを、見ただけで言い当てた。不思議なことに、ニニコの " 真っ白闇 " はスカートに隠れて見えない。
というかテーブルに隠れて、スカートすら見えないはず。
つまり、ニニコの顔を見ただけで言い当てた。
それもカメラ越しに。
「……このひと、本物の魔王だわ」
「め、め、めまいが・して・きたよ」
濃いお茶をすする2人。
ズズー。




