第１５３話 「スプラッシュ」
『ほめてやるぞ人間。我を怒らせるとは大した勇気だ』
口から長い管を２本伸ばし、市長の口に差しこんでいる。
吸血している。
市長は？
死んだのか？
いや、口から血のあぶくを吐いたり吸ったりしている。まだ生きている、かろうじて。
低い、悪魔のような声で「箱」がしゃべった。
『銃弾を当てたことはどうでもいい。そんなことは、どうでもいい。本当にどうでもいい。実にどうでもいい。極めてどうでもいい』
『我の上を飛ぶとはな……我の上を飛ぶとはな！！！！ 言葉どおりの見上げた勇気だ』
『黒人の血ははじめて吸った。なにごとも経験だな。こいつが我に銃弾を……いや、どうでもいいがな』
『どうでもいいので、今日だけは見逃してやる。消えろ』
じゅるじゅるじゅる……ズル、ズル。
『ゲップ』
満足したのか、管をひっこめる箱。
操縦士は答えない。
そのかわり、何十回もがくがくと首を縦に振った。
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バババババ……！！
ヘリが去っていく。
それを見送るロドニー、ニニコ、シーカ。
そして短髪女。
口を開いたのはロドニー。
「貴様ら、いったい何者なんだ？ いや……何者かなど、どうでもいい。さっさと帰れ。私が用があるのはハワードだけだ」
はじめて冷静な口調で、離れた３人に言い放つ。そしてアタッシュケースを突き出した。
「そこの女！ 魔王から依頼された発明はここにある！ 私の要求はすでに知っているだろう！ メールで送ったとおりだ！」
また叫びだした……
「さっさと帰れ！ 次は必ずハワードか、魔王本人をここに呼べ！ これ以上、私を怒らせるんじゃない―――！」
ビリビリビリ……！
今度の怒号はすごかった。大地が震えるかのような大絶叫。ニニコと短髪女が、べたんとシリモチをつく。
「ふざける・なよ」
怯まなかったのはシーカのみ。おそろしい顔で１歩、２歩、進んだ。
「完全に・俺を・怒らせといて・帰れだと？」
カンペキに戦闘モード。
だが……
「シーカ！ やめて！」
背後からニニコの制止。
と、同時に空から煙羅煙羅が降りてきた。
『シーカ、やめろ。いったん引きあげだ』
ボボボボ……！
ロケット噴射を弱めながら、煙羅煙羅は着地した。
ジロリとにらむシーカ。
「なぜ・だ。理由は？」
『……腹の具合がおかしい』
「……は？ え？」
怒りの絶頂から一転、きょとんと目を丸くするシーカ。肝心の煙羅煙羅は、言いにくそうにモジモジしている。
すごく調子が悪そうに腹……どこが腹だかわからないが、自分のボディをさする。
『好奇心で、年寄りの血など吸うのではなかった。血中のコレステロールが異常なほど高い血だった……気持ち悪い』
うずくまる煙羅煙羅。
『う……ッ！ もうダメだ、吐く。オエエエエ！』
ビチャビチャ。
さっき飲んだ血を盛大に吐きだす。血の海―――まるでポンプ。オエエエ！
「よしよし」
煙羅煙羅の背中をさすってあげる、優しいニニコ。
「ヒ―――！ オエエエ！」
短髪女も連られて吐く。オエエ！
「忙しいわね、よしよし」
女の背中をさすってあげる、優しいニニコ。
「よしよしジェニファー。よしよし」
『オエー！ ふぅ、すっきりした。いやダメだ。オエー！ ビシャビシャ』
まだまだ吐く煙羅煙羅。
「～～！！ ……！！」
頭を抱えるシーカ。バカバカしくて声も出ないようだ。
５０メートル遠方―――
「フン……くだらん」
ロドニーはその様子を見て、フンと背中を向けて歩き出した。下半身を覆い隠すほどのアイテム「独楽」をガシャガシャと鳴らし、行ってしまう。
おそらく、１００メートルほど向こうに見える建物へと向かったのだろう。
「あ！ 待、待て！」
シーカは怒鳴るが、ロドニーは振り返りすらしない。
「待て……ク・ソ！ クソ！」
あまりのアホらしさに、追うのをやめるシーカ。すっかり血を吐き終えた煙羅煙羅に当たり散らす。
「え、え、煙羅！ アイツと・なにを・話してた！」
『オエエエ、ベ、べつにあの男と話していたわけではない。ドグラと話していたのだ』
口を真っ赤にして答える煙羅煙羅。
『クイズを出された。ヤツのなぞなぞは、ひどく難しい』
『なんと言っておったか、たしか……』
『大きなアダムと小さなイブは、おとなりどうし。生まれたオズは一人っ子』
『オズとオズは、まぐわって、２合目に行った』
『オズとオズとオズは、まぐわって、３合目に行った』
『オズとオズとオズとオズは、まぐわって、３合目にとどまった』
『オズとオズとオズとオズとオズは、まぐわって、４合目に行った』
『なんのことかわかるか？』
はい。
えー、はい。
いったい、なにが！
なにが起こっている！！
疑問点のすべてを羅列していこう。
①ロドニーはいったい何者なのか？
②独楽の能力、ノルマは？
③ロドニーの言う、ハワードとは誰か？
④ロドニーの言う、リゾート開発とは何か？
⑤そもそもこの建設現場はなんなのか？
⑥ロドニーは魔王と、どんな取引を交わしているのか？
⑦ロドニーの持つカバンの中身は？
⑧ニニコとシーカが、魔王軍を名乗っているのはなぜか？
⑨一緒にいた女は何者か？
⑩ヘリでやってきた市長は、なんだったのか？
知るか。
