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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第2章「紛れもないジョークを焼き捨てる決意へ」
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第15話 「ネクスト」




『119軒に火を付けろ。ただし完成してからだ……』



「……………え?」

「………………へ?」

 喜びの表情もそのまま、2人が硬直(こうちょく)する。 



 同じく。

 1か所()けた右の長靴が、(あざけ)るように言い捨てる。


『ふざけたマネをした(ばつ)だ。一億歩(ある)け』

『完成するまでカウントはしない……』



 静まりかえる室内。


 ま、まさか―――



挿絵(By みてみん) 



 メチャクチャになった室内が、沈黙(ちんもく)につつまれる。

 トラとフォックスが顔を見合わせた。


 まさか……しっかり呪えるのか? 


 1個足りないのに!?


 し、しかも……完全に組み上げないと、ノルマをカウントさえしてくれない……ってか?


 ふたたび沈黙。

 と―――



「「 (ウソ)ォオオオオオオオオオオオ! 」」


 壁を震わせるほどの絶叫。


「い、1億ぅうううううううううう!?」

「じょ、冗談じゃねえ! 金庫、金庫を開けろ!」


「わ、わかってるよ! くそっ開かねえ! 番号は……ええ、ぶっ壊してやる!」


 うおおとトラが金庫を持ち上げた!

 こんな金庫、ぶっ壊してやる!



 その騒ぎに反応したのか、気を失っていた男が目を覚ました。


「う~……ム……うわっ!」

 彼が見たのは、しっちゃかメッチャカに破壊された事務所。


 夜空を(のぞ)く天井の穴、立ちこめる煙。

 そして黒髪の若いメイドと、金庫を頭上に(かか)げた男。

 な、なんてこったい!

「ど、泥棒(どろぼう)……!」


 とんでもない誤解(ごかい)をする中年男。


「ち、ちが……!」

 (あわ)てて釈明(しゃくめい)しようとしたトラだったが……頭上に金庫をかかげる姿は、泥棒でなければなんだというのか。


「金庫を返せ、この野郎!」

 中年男が、ひっくり返った(つくえ)の引き出しから拳銃(けんじゅう)を取り出した。引き金を引く!


 バァン、バァアン!

 チュン、チュンッ!


「ヒィ!」

 弾は2発ともトラの顔面をかすめた。


「に、逃げろ!」

「ぎゃあ!」

 金庫とフォックスを(かつ)いでトラは逃走する。ドッスドッスドッス……遅いのなんの。


 男が追い撃ちをかける。

「待ちやがれ!」 

 バァアン!

 バアン!!

 そのうちの1発は、フォックスの顔面へ―――


 弾丸がフォックスに当たる……


 瞬間!


 籠手(こて)が彼女の意志に反してぐるりと動き、


 バシンッ! 


 なにかを(つか)んだ。 

 籠手が、勝手に!



挿絵(By みてみん) 



「ひゃ! な、なんだ……タマ!?」

 とつぜん右腕が勝手に動いた。

 いや、動いたのは籠手。


 なにかを(つか)み取った―――弾丸だ!


 籠手がピストルの弾を手づかみにした!

 勝手に!!


 ―――籠手が、フォックスを守った?


「こ……なんだ?? このマーク……」


 異常事態はそれだけではない。

 籠手のおもてに、今までなかった模様(もよう)が浮き出ている。


“ マンガチックな目 ” っぽい模様。


 今までこんなの無かったのに……

 



 ドッスンドッスン。

 ドッスンドッスン。


 トラは全身(あせ)だく、目はうつろ……金庫と女を肩にかついで、走る、走る、走る―――


 足はフラフラ。

 あろうことか発砲までされて必死で逃げる。こんな残酷(ざんこく)な現実ってあるか?


「ぜぇ、はあ、ぜぇ……こ、これは夢だ。悪夢なんだ。頼む、()めてくれ……」

 とうとう、うわごとを言い始めた。


 ドッスンドッスン。

 ドッスンドッスン……

 

 トラの長靴の側面にも、同じマークが浮かんでいた。 


  " マンガチックな目 " のような模様。



 ドッスンドッスン。

 ドッスンドッスン……




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 同じころ、町のべつの場所。


 うす暗い路地(ろじ)に、野良犬(ノラいぬ)の悲鳴が(ひび)きわたる。耳を(ふさ)ぎたくなるような叫び。


「ギャン、ギャイン!! ギャン!」


 スマートな男。

 男はノラ犬の首をがっしりとつかみ、すごい(ちから)(ちゅう)づりにしている。細身(ほそみ)の体に、どうしてこんな腕力(わんりょく)があるのか。


「ギャン! ギャン!」

 半狂乱(はんきょうらん)抵抗(ていこう)をくりかえす犬を、冷たく見つめる男。


「わ、ワン、ワグ……」

 犬の(あば)れかたはすさまじく、必死に4本の(あし)をふり(みだ)している。だが、むなしく(くう)をかくばかりだ。


 犬をつかむ、男の左手―――

 男は左腕に、フォックスのそれ(・・)とそっくりの籠手をしているではないか。

 

 ガチャリ。

 (つか)む力が強くなった。それにあわせて、籠手の(てのひら)がボンヤリと赤い光を(はな)つ。


「ア、ギャオア! ……ア…………」

 息絶(いきた)えた犬。

 だが普通の死にかたではない。


 ボン!!

 頭部が破裂(はれつ)……いや(くだ)けた。


 いや分解された。


 ザラザラザラ。

 サアアアアアアア……


 消えていく。

 いや、崩れていく。

 砂のようにさらさらと、(こま)かい(つぶ)に分解されていく。


 犬の頭が、無くなった。



『犬……うまいいい……』



 籠手が(しゃべ)った。

 ……美味(うま)い、だと―――?



「右手と両足は、近いのですか。“ ()() ”」


 男が丁寧(ていねい)口調(くちょう)で、籠手に話しかける。


 …………朽ち灯?

  


『あっちだ……移動しているな……』


足枷(あしかせ)()籠手(ごて)……』


『はやく、はやく喰いたい……』


『どこだ……あっちだ』



   ガシャ……


    ビシッ!



「あっちだ」と籠手が言うや、すぅっと持ち上がって遠くを(ゆび)さした。


 ビシッ!

 籠手が……いや “ ()() ” が()(しめ)したのはどこか?

 

 どこもなにも……

 いまごろ大騒ぎになっているであろう、あの事務所の方角だ。


 籠手がしゃべっている。


 まぎれもなく、トラとフォックスと同じ呪い。

 彼の籠手の(こう)にも、やはりあの模様が刻まれていた。


 マンガチックな、目のような模様が―――



挿絵(By みてみん) 



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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