第146話 「コミカル」
場面は再びバルコニーと、その階下―――
一触即発の現場に、べつの男たちがやってきた。オスカーの部下たちだ。
「勇者どの、どこですか!」
「勇者どの! シルフィードどの!」
デリック、ウェブナー、そしてイーグル。
覚えてる?
フォックスに恨みを持っていた、元警察のオスカー隊員。1階にやってきた平和維持軍を食い止めていた3人だ。
彼らがここにいるということは、やはり平和維持軍は……
シルフィードが少し笑顔になる。
「お疲れ様です。ルディ神父、亡くなったみたいですよ。いまは穢卑面さんが死体を操縦してるみたいです」
『ケケケ、よろしくな……』
歯を食いしばる3人。
「……ええ。ええ、知ってます。連絡がありましたから」
「オスカー主任も死んじまいましたよ。いますぐ14階に行って、まだ息のあるやつを助けないと……クソッ!」
「急ごうぜ。さっさと片をつけようや」
ジャギジャギジャギ!!
腰のホルスターから銃を抜き、2階に向ける3人。
「バーベキューファイア……くたばれ」
「ヒッ!」
「ッ!!」
ステフの悲鳴。フォックスが身構える。
が―――
「やめてください」
シルフィードの制止。
同時に、彼らの手にあったオートマチック銃の銃身がすっぱりと切れた。
カラン、カラン、カッ。
地面に転がる、銃身の半分。
「うおっ!」
「……ッ!」
「やめてください、お願いです」
シルフィードのジャケットが、一部だけ帯のようにほどけて宙に揺らいでいる。
ジャケットの袖が変化し、鉄筒をぶった切ったらしい。
「……勇者どの」
イーグルが赤鬼のような顔でシルフィードをにらむ。もはや、なんの殺傷力もなくなった銃の残骸をぎゅっと握りしめる。
「勇者どの、なんで邪魔されるんです。我々の任務はもう達成不可能だ。おまけに指揮官は戦死。部隊は潰滅……あの女を生かしてはおけません。絶対に生かしておけない」
「ていうか、いま勇者どのが殺っちゃってくださいよ。楽勝でしょう」
同じく真剣に訴える、もっとも背の低いデリック。
「……いやです。僕には彼女は殺せません」
シルフィードが困った顔を向ける。
「それに、僕が彼女に勝てるとは限りませんよ。いざ戦闘になったら、ここは火の海です」
『ケケケ! ケケケケケ!!』
楽しそうな穢卑面……
「ふぅ……おいバーベキューファイア!!」
3人のなかでいちばん小柄なデリックが、フォックスを見上げて叫ぶ。吐き捨てるように。
「受け取れ、クソアマ!!」
ブンとなにかを2階へ放り投げた。
なにを―――携帯電話だ。
パシッ。
2つ折りケータイをつかみ取ったフォックスが悪態をつく。
「なんだこれ……って、これ! アタシのじゃねえか!」
ケータイ。
シルフィードからもらい、オスカー隊に押収された携帯電話だ。
(第116話 「バー フェアリア」を参照のこと)
「黙って聞け! その中の電話帳に、パムズ製粉って名前と番号が登録してある。見てみろ」
吐き捨てるように指示するデリック。
「指図こいてんじゃねえ! アタシのケータイになにしやがった!」
叫ぶフォックス。
シルフィードが少しだけ笑う。
「元は僕のなんだけど……」
イーグルとウェブナーが叫ぶ。
「おいデリック!」
「なに渡してんだよ!」
だが、デリックはとても冷静だ。
2人をじっと見すえる。
「俺達はまだ、オスカー主任の作戦下にある。最後まで主任のマニュアルを守れ」
「……チッ!」
「……くそっ! クソが!!」
舌打ちして黙りこむウェブナー。
イーグルが銃の半身を投げ捨てた。
「漫才をやめろってのがわかんねえのか、殺すぞ……」
もうブチ切れのフォックス。
あまりに意味不明な展開に、いいかげんガマンの限界らしい。ぐいと握りしめたケータイが、みしみしと音を立てる。
「ていうか、いまなんつった? 最後まで主任のマニュアルを守れ、だ? あのボサボサ頭のオッサン、くたばったのか? じゃあトラとハムハムは無事なわけか?」
質問攻め。
デリックは……すこし間をおいて、正直に答える。
「ああ、残念なことにな」
「なんでいま来たばっかで、そんなに事情にくわしいんだ? 盗聴してやがったのか!?」
叫ぶフォックス。
イーグルの激高。
「盗聴だあ!? ざけんな! 14階にいる瀕死の仲間が電話してきたんだよ、お前らを殺せってな!」
「ンなこた、どうでもいい!!」
怒るウェブナー。
まるでトリオコントだ。
「命拾いしたな、バーベキューファイア! 必ずこっちから電話してやる。そいつは大事に持っとけ!」
デリックのダミ声が響く。
「バーベキューファイア、よく聞け。中央駅西口から、南に50メートルの製粉工場に行け。俺たちの協力者が経営してる会社だ、そこで隠れてろ。くれぐれも俺たち以外の捜査機関に見つかるようなマネすんなよ」
「イヤとは言わせねえぞ。神父がいなくなった今、もう俺たちにすがるしかねえのは分かってんよなあ!?」
イーグルの脅迫。
フォックスの答えは?
「やだね、そんなことはアタシが決めるんだ」
「どうやってこの国から出る気だい?」
シルフィードがほほえむ。
「この国で孤立無援になったら、ほんとに死んじゃうよ。だから一緒においでよ」
「いや、駄目ですよ!」
「もう……いまはダメ!」
「道中で逃げられたらどうすんの!」
オスカー隊からツッコミの嵐。
「カンペキに拘束できる条件が整うまで、バーベキューファイアの移送はムリですよ。いったん本国に戻って、チームを立て直さないと」
冷静なウェブナー。
「さすがに俺達だけじゃ、もう作戦継続は無理ですね……」
イーグルがふたたびフォックスに怒鳴る。
「お前に待ってんのは死刑台か、俺達の飼い犬になるかだ! この国で息をひそめて、よく考えとくんだな!」
フォックスの答えは―――
「さっさと失せろ、さもねえと……」
鬼のような顔で階下の5人をにらむ。
さもないと、どうなるというのか。その答えを知ることはできない。誰にもできない。
だって―――
「ウルアアアア――――――!!」
天から、獣のような雄叫び。
「ひ―――!!」
と、少年の悲鳴。
ザアアアアアアアアアア!!
ビルの側壁を、雪山スキーのようにすべり降りてくる2人組がいる。猛スピードで滑走……ほとんど自由落下のようなスピードだ。
コンクリの壁を削りながら、
トラがバルコニーに降りて来た。ハムハムをおんぶして。
ズドォオオオオン!!
ズドンズドン、ズドンズドン!
「参上ォオオオオオ!!」
「参上!」
息ぴったりのバカとガキ……




