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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第16章「行くあてもないゴーストを焼き捨てる列福の朝へ」
144/248

第144話 「ダイ」



挿絵(By みてみん)



「ルディ……!」

「神父さま!!」


 フォックスとステフは確かに見た。流星群のようなガラスの雨の中を落ちていく、ルディの姿を。


 ザアアアアアアア……


 やがてガラス雨が止み、ふたたび2階は静寂に包まれる。


 カシャン、カシャン―――

 2階のバルコニーは、降りそそいだ破片でガラスだらけだ。

「し、神父さま! 神父さま……」

「ま、待て!」


 片足を引きずって進むステフ。その表情は焦燥(しょうそう)に満ちている。見間違いであってくれと願う、必死の顔。

「ウソでしょ。うそよね、うそよね」

 

「あぶねえ、つかまれバカ! こ、こりゃヤベえぞ」


 フォックスに介助(かいじょ)され、ステフはバルコニーの手すりにたどり着いた。体を乗り出し、下を(のぞ)きこむが―――


「どこ!? ねえ、見えないわよ!」

 階下は真っ暗だ。

 おそらく駐車場であろう真下は、5メートルも離れてはいまい。だが、なにも見えない。

「神父さま! 神父さまぁ―――!」

 ステフの叫びもむなしく、声はビル群に反響した。



「チィ……! 上じゃどうなってんだ!?」

 上階を見上げるフォックスが舌打ちする。まちがいなく14階でなにかあったはず。だがビルの高層は、なにごともなかったかのように、暗くそびえるばかりだ。

「くそっ……おいルディ!」

 右手を振りあげ、真っ暗闇の地上をにらむ。

 ボウッ!!

 籠手に炎が(とも)った。車輪のように回転する炎だ。


「当たっても(うら)むんじゃねえぞ!」

 ブンと階下に放たれた車輪炎は、地面にぶつかるや真っすぐに走り、一直線にアスファルトを燃やす。

 まるで炎のレール……カーテンライトが当たるように闇は晴れ、駐車場の様子が(あら)わになった。

 

 

「……あ……」

「うそ、だろ……」

 2人の絶句、眼下の光景は―――



 ガラスの山。

 火の光をさんさんと照らすガラス、ガラス、ガラス……そのなかに埋もれるようにルディがいた。



挿絵(By みてみん)


 

 ガラスの布団(ふとん)に寝そべるように、ルディは倒れている。ぴくりとも動かない……背中から伸びる()(もり)の槍は、まるで骨だけになった(つばさ)のようだ。

 

 死んだのか?

 死んでない、よな?


 バルコニーから見下ろすステフは、いまにも気を失いそうだ。意識を(たも)つだけで精一杯(せいいっぱい)

「……うぁ……」

 言葉も出ない。


 ステフにもフォックスにも聞こえていなかったが、このときアイテムたちは深刻な会話を交わしていた。

 絶望的な会話を。




 ……

 …………

 ………………


『ルディ神父。起きてください、返事をしてください……』


 ()(もり)の、かつてないほど弱々しい声。

 ルディは動かない。

『神父さま……神父。ゴースト神父! 立ってください、ルドルフ・ゴースト。どうした、ここでおしまいかルドルフ? 立ちあがれ、立ちあがれ! お願いです、立ってください神父……』



『ケケケ、無駄だ。もう遅い。ルディは死におったぞ、ケケケ!』

 笑う穢卑面(エヒメ)

 せいせいした、とでも言わんばかりの口調。

『ケケケケ。脳波が完全に停止しておる、ケケケ』



 ()(もり)は―――無視。

 必死にルディに語りかける。


『爆風も落下の衝撃も、私が槍をのばして緩和(かんわ)しましたよ。あなたは私がいないと、なにも出来ませんからね』

 泣きそうな声の()(もり)

『私だってそうです。あなたがいなければ何もできない、なにも……』



『ケケケ、ケケ……待て、ちょっと待て。おかしいぞ』

 穢卑面がなにかに気づく。

 恐ろしい異常事態に。

『なぜ、我らはまだルディから解放されんのだ? 死ねば呪いは解けるはずなのに、なぜ……』



『神父さま。あなたが死んだら、教会はどうなるのです。信徒のみなさんに、なんと申し開きされる気ですか。シスターたちはどうなります。ゼルフ教区長さまに、なんと言い訳する気ですか』


『ケケ、ケ……? どうなっている……ルディの脳波はたしかに感じられん。大脳、小脳、脳幹、すべて停止している……なのに心臓と肺は動いておる。血も流れておる。なのに脳だけは死んでいる。バカな……』



『お願いですルディ神父。たのむルドルフ、死なないでくれ。もう私も、意識を保つのが、限界です―――』


『ケケケケ! ケケケケ!! そういうことか(・・・・・・・)()(もり)。お前がルディの心肺機能を代替している(・・・・・・)のか! 器用なことを、ケケケ。無理をするな、このまま死なせてやれ()(もり)



『だ、まれ。だまれ……私はまだルディ神父に……神父はまだ、死んでいない……』


『死んでいる、脳の死だ。すなわちルディの死だ。それとも咲き銛よ、このさきずっと生命維持装置の代わりをする気か? 眠りにつくことになるぞ。そうなったらルディの体は、我の意のままだ』



『ふざ、けるな……そんなことは……』


『だろう? だから()(もり)、そのままルディを死なせてやれ』



『だまれ……わ、私は、ルディ神父と……』


『そうか、好きにしろ。ケケケケ!』




挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)





『ぐ……ス、ステフ! ステフ!!』

 

 ()(もり)が叫ぶ。

 最後の、最後の、最後の叫び。

『ステェエエエエエエエエエエエフ!! 聞こえますかステェフ!』


 バルコニーから見下ろすステフとフォックスが、息をのむ。答えを返したのはステフではない。

 フォックスが声をはりあげる。

()(もり)! ルディは!? 無事なのか!?」

 


『フォックス……! いいえ……ヤバいです……』



「……!」

「……マジかよ」

 絶句。

 いつもの()(もり)とはちがう。いつもの、(にく)らしいほどの余裕はまったくない。


「さ、()(もり)!」

 ようやくステフが声をふりしぼる。

「し……死んでないよね。神父さま、無事なのよね?」

 希望、絶望―――


 

『……よく聞いてください。 " アモロ " を探してください。鎧のひとつです、アモロを……アモロならば、この状況を変えられるはず』

 希望、絶望―――

『お、お願いですフォックス。ステフを助けてください。ルディ神父を助けてください。700万ナラーの報酬は倍にしましょう。あなたがいつか、自由になることを祈っています』

 希望―――


 

「いや……やめてよ()(もり)、やめて」

「おい、どういうことだ! ルディはどういう状況なんだよ!」

 絶望―――



挿絵(By みてみん)



『も、もう話していられません。き……聞いてください。アモロの能力についてです。アモロは……3つの……』


 徐々(じょじょ)に小さくなる()(もり)の言葉。アモロの秘密について伝える……





 ことはできなかった。



『ケケケケ!! ここだァ―――!! ここだあ!!』 

 恐ろしい大音響!!

 穢卑面(エヒメ)が叫ぶ。()きつめられたガラスが震える。照らす炎が揺れる!

『ここだここだ、ここだ―――!!』



 かき消される()(もり)の言葉。

 バルコニーから2人の女が叫ぶ。


「な、なんだ? この声……!!」

 耳をふさぐフォックス。


 泣き叫ぶステフ。

穢卑面(エヒメ)ぇ!! てめえ黙れ! ()(もり)の声が聞こえ……黙れ、黙れぇ!」

 泣き叫ぶ。

「お前のせいで……お前が……やめてよぉ……!」


 女たちの叫び。

 それすらも吹き飛ばすような、穢卑面(エヒメ)咆哮(ほうこう)



挿絵(By みてみん)



『ケケケーケケ!! ここだああああああ!』



『くそ……穢卑面(エヒメ)……ちくしょう……』

 ()(もり)の最後の言葉も届かなかった。


 ―――神には届いたのだろうか?


『天に、まします、我らの神よ……なにとぞ、ルドルフ・ゴーストが負うべき(さば)きは、私に……』


『神よ……』





  穢卑面(エヒメ)の絶叫がやんだ。


  そして。


  ガシャ。



  カシャカシャン。


  ザシュ。


 

  ルディが立ちあがった。



 ガラスの山を踏みしめ、よろよろと立ちあがった。

 ザシュ。

 ザシュ。


 

「あ……あ……し、神父さま……?」

 希望を(たく)すように、ステフが声を投げかける。

「しんぷ、さま?」


 立ちあがったルディを見下ろすステフ。その表情が希望に、そして絶望に染まる。足の痛みなどもう感じない。こんなに神に祈ったことはない。

 神さま、彼はルディ・ゴーストですよね―――


 フォックスの顔は、絶望に染まった。

「……化け物が」



 立ちあがったのはルディではない。

 いや、人間ではない。

 

 ドクロの仮面の目を光らせて、バルコニーの2人を見上げた。青白い、炎のような目で。



『ケッケッケ。ケッケッケ……いい夜だな、ケッケッケ』



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] ステフが無事だったのはうれしいけれど、ルディ神父が……。本当に「アモロ」がこの状況を変えることができるのかしら。 続きも楽しみに拝読させていただきます。
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