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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第16章「行くあてもないゴーストを焼き捨てる列福の朝へ」
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第134話 「グレネード」



挿絵(By みてみん)



『生きているぞ! 全員聞け、ステファニーは生きているぞ!』


 穢卑面(エヒメ)が叫ぶ。 

 

 全員が固まった。

 

 仮面だけが絶叫する。


『おのれ……マズい、マズいぞ。2階のフロアを動き回っておる。待て、なにをしているのか……電話だ! 電話を探しておる! なにをする気か知らんが、いますぐやめさせろ! 誰か行って、とどめをさしてこい!』

 すっかり司令官気取りの穢卑面(エヒメ)



 誰も動かない。

 隊員たちがざわざわと、穢卑面(エヒメ)に言い放つ。

「あとにしろ。それどころじゃねえよ」

「そんな大事なこと、わざわざ敵に聞かせるかね……」

 


 手榴弾を突き出したまま、フォックスは笑う。

「あっはっは、口の軽い仮面だぜ。おいてめえら、アタシに近づくんじゃねえぞ。このまま籠手が火を吹きゃ、ドカンといくぜ」


 ぴく、と動くたびに血が吹きだすフォックスの傷。左右の腕は、すさまじい赤色に染まっている。


 こんな状態の、ましてや指名手配犯に爆弾を突きつけられたら平気なはずはない。

 普通の人間なら。


 オスカー隊はどうやら、ふつうの集団ではないようだ。


「だからなんだ? 死にたきゃ死ね」

「調子乗ってんじゃねえよ。カミカゼ攻撃の予告だ? 笑かすな」

「許さねえ、死刑だクソアマ」

 ひるまない。

 男たちは(ひる)まない。


 

 眼光(するど)くにらむオスカー隊の前で、またも笑ってみせるフォックス。本当に死ぬ気なのか?

「誰からでもいいから、そろそろかかってこいよ。アタシはにらめっこが大嫌いなんだ」



 と―――咲き銛。


『フォックス、お願いです。ステファニーを助けに行ってください』

 懇願(こんがん)


 初めてではあるまいか。

 咲き銛がルディ以外の人間に、下手(したて)に出るのは。ましてやフォックスに。



 フォックスは―――


「イヤだね。なんでアタシがアイテムに使われなきゃなんねーんだ。ステフがくたばろうが知ったことかよ」

 拒否。

 歯を(きし)り、申し出を拒否する。


 

『あなただって、この状況を脱出する方法を考えているのでしょう? そのために時間稼ぎをしているはずです』

 説得。


「バラすなアホ! 出来るもんなら、とっくにそうしてるっつーの。おい動くんじゃねえ! 誰かひとりでも近づいてみろ! ドカンといくぜ!」

 牽制(けんせい)

 オスカー隊に怒鳴(どな)る。


 

 そう。

 オスカー隊の面々は、いまにも飛びかかってきそうな顔だ。


 にらみあい―――



 ()(もり)の交渉は続く。


『そこを何とかしてください、お願いします』 


「勝手なこと抜かすな! もう黙ってろ!」



『では―――……バーベキュー(・・・・・・)ファイア(・・・・)。私の依頼を受けていただけませんか』


「……あ?」

 フォックスの表情が変わる。



『地下1階には平和維持軍がいます。いるそうです。まもなく大挙(たいきょ)して押し寄せてくるでしょう』  

 咲き銛は続ける。

『その侵入経路をふさぎ、2階のステファニーを救出して脱出してください。報酬は700万ナラー。いかがですか』


 

 とんでもないこと。

 咲き銛が、とんでもないことを言い出した。

 


 笑うフォックス。

「ひ、いひひひ。あっはっはっは……」


 状況はなにも変わっていない。


 だが修道服の放火魔は変わった。


「あっはっは。さすがに1600年も長生きしてると、違いますねえ(・・・・)。人間の使い方をよく知っておいでですよ、咲き銛の旦那(・・)



挿絵(By みてみん)



 完全にビジネスモード……いや、ピンチであることすら楽しんでいる。


「ステフ嬢の救出と、退路の確保ね。しめて700万。現金で頼みますよ、オーナー(・・・・)

 笑う。

「おい、聞いてるかハムハム。テンカウントだ。作戦通り行くぞ。テーン、ナーイン……」


 カウント。

 カウントが始まる。

 


 ざわっ!

 オスカー隊に緊張が走った。

 

 さすがに迂闊(うかつ)に動くような者はいないが、全員が周囲を警戒する。


 ハムハムは?

 ハムハムがいない……


 

「エーイト。なあ、お前ら。この手榴弾の……接着剤を()がしてえんだけどよ。ベンジンかトルエン持ってたら貸してくんねえか?」

 フォックスの口調は、楽しそう。

 男たちをにらみ籠手を……いや、手榴弾を突き出したままだ。

 


 オスカー隊の視線が泳ぐ。

 ハムハムがいない。

 ……すっかり忘れてた。ハムハムは? ハムハムがいない!!


「……!」

「いねえ……!」


 どこだ、どこにいる?

 明らかにバーベキューファイアは、ハムハムと会話している。

 ハムハムはどこに。

 バーベキューファイアの足もと……机のかげに隠れているのか? 


 それともハッタリ……

 


「セーブン。無視かよアホども。そう来ると思って、勝手に拝借したぜ。シーックス! お前らみたいなプロの銃オタなら、絶対持ち歩いてると思ったよ」


 フォックスはオスカー隊をにらみ……なにかを借りた(・・・・・・・)とか言いだした。

 そして、だらりと右腕を降ろした。

 

 机のかげに手榴弾は隠れてしまう。

 


挿絵(By みてみん)



「おい……おい! なにしてんだ手ェ見せろ、隠してんじゃねえ!」

「よせスコット、こいつの話に合わせるな。ハムハムを探せ」

「バーベキューファイアの足もとだよ。気配がする、耳をすませてみろ」

 

 ……どういう知覚をしているのか。

 オスカー隊員らは、即座に見抜いた。

 


 ハムハムは、机のかげにいる。

 フォックスの足元に。



「茶番だな。出て来いよハムハム」

「ふざけやがって、痛い目にあわせてやるぜ」

 吐き捨てる男たち。


 

「たまげたぜ、まだ脅しが聞くと思ってんのかアホども……痛い痛い!」


 フォックスの顔から笑みが消える。じつに痛そうな顔。歯をむいて足もとに怒鳴りだした。

「おい、そんなに引っぱんじゃねえよ! まだ外れねえのか、肩にひびくんだよ!」

 

 だれかに……どうせハムハムだろうが、右手を引っぱられているらしい。肝心(かんじん)の籠手は机のうしろ。なにをしているのかわからない。

 だが嫌な予感がする。

 

 オスカー隊は、いまにも飛びかかってきそうな顔だ。


「先輩、もう殺しましょうよ。時間の無駄ですよ」

「だめだ。あの位置で爆発されたら、ハムハムも死ぬぞ」

「もうそれでよくね? それよか、なんかイヤな予感がするぜ」



「おっと! 近寄んじゃねえぞ!」

 じりじりと()めよる男たちに、フォックスが笑顔で答える。


「さっきの話だけどな、ちょっと使わせてもらったぜ。あれはなんて言うんだっけ、銃のメンテをするオイルは……ガンオイル(・・・・・)だっけか? あ、ファーイブ」



 ……ガンオイル。

 拳銃のサビ落とし用の石油溶剤(ベンジン)


 もちろん、接着剤を溶かせる―――



「!!!!!!!!」

 ずざっ!

 オスカー隊が、はじめて後ずさる。



 そして……デスクのかげから、バキンと高い音が響いた。


「おっ、外れたか……ぎゃあ! レバーまで取ってどうすんだ、バカ!」

 フォックスが叫ぶ。

 足もとに向かって。

「やべえ! いいから投げろ、フォースリーツーワンゼロ!」


 0.4秒でファイブカウントを終え、サッと身をかがめた。


 代わりにハムハムが現れた。



「や、やああ!」

 ガタッ!

 ハムハムが現れた!


 オスカー隊の言ったとおり、机の後ろから。芸がない。


 フォックスの代わりにぴょんと飛びだした彼は、意を決した表情で()えたてた。


「くらえ、うわああ!」

 (いさ)ましい!

 

 ぽい。 

 ハムハムが手榴弾を放り投げた。

「ひ―――!」

 投げるやいなや、ハムハムはまた身を隠してしまった。



挿絵(By みてみん)



 放物線を描いて飛ぶ手榴弾。ちょっと高すぎる。天井に当たる―――

 


「クッソァああああ、殺してやるアアアアア」

「離れろ、急げ! 殺してやる!」

「殺してやるぁ! 全員ふせろァ!」

 電光石火。

 殺してやると絶叫しながら、8人は一瞬で物陰(ものかげ)に飛びのいた。


 

   瞬間。



 ドオンンン!!



挿絵(By みてみん)



 爆発。

 

 圧縮された空気がオフィスを駆け抜ける。

 衝撃波は遮蔽物(しゃへいぶつ)すべてをブッ飛ばし、窓から外へ―――爆煙と無数のコンクリートの粉が舞う。


 なにも見えない。

 蛍光灯が半分以上吹き飛んだ。

 真っ白だ。

 真っ暗だ。


 ドオオオオオ……


 デスクのかげに隠れたフォックスとハムハム。すさまじい空圧に内臓を圧迫されたのか、2人同時に吐いた。

「オエー!」

「オエー!」

 

 あちこちから同じうめき声が聞こえる。あちらのデスクの奥からも、こちらの棚の向こうからも。

「オエー!」

「オエー!」

「オエー!」



 ……ザアアアアアアア。


 雨が降って来た。

 オフィスに雨が降る。

 

 いや雨じゃない。

 天井の水道管に、穴が空いたようだ。何か所も、何か所も。



 ザアアアアアアアアアアアアア!

 ザアアアアアアアアアアアアアアアア!


 

「うおっ!」

「ウワッ! つめてえ……」


 ザアアアアアアアア!


 水の勢いが増す。

 だが視界は明けない、まだ爆炎が舞ったままだ。


 部屋中、真っ白な闇(・・・・・)のなか―――



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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