第13話 「エスケイプ」
「「 わ――――――――――――!! 」」
部屋中を埋めつくす無数のブロック……
トラとフォックスの脳裏に、かつての恐怖がよみがえる。呪いにかけられた、あの日の恐怖。
錯乱状態になる2人。
「ひいい!」
「ぬわあ!!」
悲鳴、悲鳴!
隠れるところなんかない!
逃げるところなんかない!!
「ぎゃあ! ぎゃあ!」
「ギャ―――!」
「助けてオーナー! ウギャー、ひー!」
パニックをおこしたフォックスが、トラを盾にする。あ、アタシだけは……
「アタシだけは! アタシだけは……!」
「ば、バカ! やめ! しがみつくんじゃねー!」
暴れまくる男女。
ブロックが迫る!!
「おるあ――――――!!」
ドバァアアン!!
ブロックをかき分け、玄関のドアを蹴りやぶるトラ!
脱出―――走る、走る!
表通りを全力で逃げる。
その背にフォックスをおんぶして―――
……おんぶじゃなかった、フォックスが勝手にしがみついている。首に。
「オ、オエ……は、はなせ……降り……」
「ぎゃあああ! にゃああああ!!」
夜の町に絶叫がとどろく。
「ば、バカ! 離せ、苦し……!」
「離すもんか、私を捨てないでオーナー!」
メイド服のスカートが、バタバタと音を立てて捲れる。パンツまる見え……そんな場合じゃない!
ダダダダダダダ……!
路地裏を走り抜け、入りくんだ裏通りへと向かう。超特急!
あっち……いやこっちだ!
はやく、はやく……!
『待て……』
『足がある……』
『腕がある……』
ザアアアアアアアアアアアアアアア!
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
蜂の大群のように、ブロック軍団は2人を追う。トラの猛スピードに匹敵する速さだ!
ギャリリリ!
ガン!
バリン!
ガガガ……!
せまい路地のあらゆる所へぶつかるブロック。壁に、道に、無数の傷が刻まれる。まるで嵐―――
『逃がさん……』
『そうら、もう追いつくぞ……』
「うわー! うわー!! 追いつかれる! はよ走れ! ダッシュダッシュダッシュ!」
「だ、黙れ!!」
死にもの狂いのフォックス。
本当に死にそうなトラ。
追いつかれてたまるか!
くっ、苦しい……
カーブのたび、フォックスの体は遠心力で振りまわされる。そのたびトラの首は絞めつけられた。
さすがのトラも、人間ひとり背負って疾走したのではたまらない。だんだんスピードが落ちてきた。
「ぬうううううううううええ……!」
ドドドドドドドドドドドドドドドド……!
それでもトラは走る!
全霊全速で走る!
死んでも止まるもんか!
だが――――――
ドガア!!
「ぶべ!」
「にゃあ!」
ギャギャギャと角を曲がった先は……
コンクリート!
コンクリートの壁だった!!
顔面から突っこみ、壁に全身を叩きつけられた!
たまらず蹲って顔を押さえるトラ。
滝のような鼻血……
「ボタボタ。ぐええええええええ!」
「コラ立てよ! バカじゃねえの! 何してらっしゃるの! カモーン!」
トラの背中でメチャクチャに暴れるフォックス。降りたらどうなんだ。
「や、やがまじい! 言われなぐでも……うわあっ!」
ぶわあ!!
もと来た道いっぱいにブロック群が広がる。
なんてこった、引きかえせない!
囲まれた……!
ブワアアアアアアアアア!
『追いついたぞ……』
『さあ! 1000万歩歩け……』
『119軒に火をつけろ……』
ザアアアアアアアアアアアアアアア!
どこにも逃げられない。
右も左も、うしろも壁……絶体絶命!
しかし!!
「とおおおおおおおおお!」
「ひゃあ!」
上!!
ドドドドドドドドドドドドドドォ!
7メートルはあろうかという直角の壁を、なんと足だけで駆けあがるトラ。フォックスを背負ってだ!
「にゃっ、に゛ゃん!」
ふり落とされそうになったフォックスが悲鳴を漏らす。
ザアアアアア……!
バラバラバラ、ガラガラガラ!!
ブロックは竜巻のごとく、1本の柱となって2人を追う。
『マズいぞ……そろそろ限界だ』
『まずい。眠くなってきた』
『これはまずい。もうすぐ追えなくなる』
『まずいな。じきに限界だ』
『まずい。はやく憑依せねば……』
『まずい……もうすぐ飛べなくなる』
『まずいぞ、眠い……』
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
―――ビルの屋上。
「ぶわ! ハァ、ハァ……ぐ!」
ずしゃ!
なんとか屋根に飛び上がったトラだったが、ガックリと膝を落とした。
ハァ、ハァ。
も、もう限界……だがフォックスは容赦なく喚き散らす。
「なにやってんだ! 立ち上がるんだ! このまま屋根伝いに逃げるんだ! 私を困らせるんじゃない! ワーワーワー!」
「降りろバカッ! ゲッ……!」
『つかまえた……』
『間に合った……』
『ギリギリだ……』
『つかまえた……』
ガシ、ガチ、ガチン……
「あ―――ッ」
「ギャ―― !」
トラの足に、フォックスの右手に、ブロックが貼りついていく。2枚、7枚、16枚……数えきれない!
「わあああああああ!」
「ひゃあ!」
2人に襲いかかるブロック群。
これは……マズいぞ。




