第129話 「スターズ&ベイ セントラルビルディング」
機関銃弾を8~10発ほど食らったモーリス。
詳細に書くと恐ろしいので、簡単に記述しよう。ちぎれ飛んで、コンテナ内に爆散した。ボンって。
「おぎゃあああ!」
トラの悲鳴―――血を浴びる。口にも入った。いや、入ったって言っても、ほんのちょっとだけね。
「ぐええええええええ! オエエエエエエエエ!!」
大げさなトラ。
車体が大きく振動する。
悲鳴はトレーラーの前方でも轟いていた。
「うわああ!」
「ハンドルを切れ、右に切れ! 切れってんだ……ぎゃあ!」
トレーラーが急加速―――体当たりしてきやがった!
ズドォォオオオオオオ!!
とてつもない衝撃がつづく。追突された……いや止まらない! 100キロを超える速度で、1.4トンはあろうかという軍用ジープを押し続ける。
車内はもうパニックだった。
屈強な軍人たちが、少女のように悲鳴をあげる。
「おいおいおい! 冗談だろオイ。ブレーキをかけろ、止めろ!」
「と、止まりません。ブレーキが利かな……た、助けて!」
「バカ野郎、ギアをバックに入れろ! 全速で……聞いてんのかボケッ!」
「だ、ダメだ! 脱出しろ!」
「飛び降りるんだ、飛び降りろクソッたれ!」
屋根のない軍用ジープ。いまだに1人も車外に投げ出されていないのがミラクルだが、絶対そんな場合じゃない。
ジープから脱出せねば。だが飛び降りるものは……いるわけないだろ。
「さっさと降りろ! いまだ、行け……なんで飛び降りねえんだ!」
「ふざけんな、死んじまうだろうが! 死んじまうよ!」
「ちくしょうが止まりやがれ、止まれこの……ぶっ殺すぞ!」
トレーラーは止まらない。
ステフは?
ステフはいま悶絶している。顔面を押さえて。
「痛ででで! ごああ!」
女とは思えぬうめき声で叫ぶ。
衝撃で開いたエアバッグ。ぱんぱんの風船にぶっ飛ばされ鼻を強打した。さらに舌まで噛んだ。耐えがたい激痛が2つ同時にステフを襲う。それでもアクセルから足を離さない。加速―――
2台はそのまま直線距離をまっしぐら。激しい火花を散らしながら、突き当たりのガードレールに激突―――
否!
ガードレールを突き破った!!
ドガンと轟音をたてて障害を突破……した先は、川。
幅5メートルを超える川だ。
飛ぶ。
軍人、ステフ、トラを、無重力のような浮遊感が襲う。教会内に飛び散りまくるモーリスの肉。
放物線を描く2台。仲よく大ジャンプ……
「ぎゃあ―――!」
「うわあ!」
「ひゃあ、死……」
軍人たちが、つぎつぎと落下する。死―――いや、4名全員、川に転落した。
ザバン!
ザバン!!
勢いよく水面に叩きつけられた。はたして無事だろうか。
それどころじゃない。
トレーラーと、無人になった軍用車はまだ空中。まるでCGのように川を飛び越え……
向こう岸へ着地した。
ドガアアアアアア!!!
「ぐわああああ!」←ステフ
「いやああああ!」←トラ
ドガガガガガガガ!!
先に着地したのは軍用ジープ。
ワンバウンド!
ドガガガガガガガガ!
遅れてトレーラーがドガンと着地した!
窓が割れ、バンパー、ミラー、ドアも外れた。激しく上下に振動しながら、地面との衝突によって解体される車体。
執念深い、と表現すべきだろうか。まだジープを押しているトレーラー。
部品をまき散らしながら、まるでミニカーのようにすべり……2台は高層ビルに突っこんだ。
壁をブチ抜き、巨大なホールに突入―――
ドオオオオオオオオオオオオン!!
星湾センタービルに突っこんだ。
ビル全体に、とてつもない振動が起こる。
ドオオオオオオン!!
衝撃は30階建てのビルのすみずみまで走った。
" 彼ら " の待つ、14階にも。
ドオオオオオン……
「うわあっ! な、なんだ!?」
「な、なんだなんだ!?」
とつぜんの揺れに驚くフォックスとハムハム。檻のなかで慌てふためきながら、悲鳴をあげる。
もちろんオスカー達も驚いていた。なんなんだ、この揺れは……!?
「な、なんなんだ? この揺れは!?」
「まさか、て、テロじゃねえだろうな」
「いや待て、こりゃ爆発……じゃねえぞ。みろ、もう治まっちまった」
振動は、すぐに治まった。
オスカーが叫ぶ!
「落ち着かないか! 1階だ、監視カメラの映像を出せ!」
「は、はい!」
机のパソコンを操作するオスカーの部下。
カタカタカタ……ものすごい早さでキーボードを操作し、1階の映像を映し出す。
モニターの前に集まる男たちが叫んだ。
「な!」
「ゲッ!!」
「ウソだろ!?」
映しだされた映像は……横たわる、原型を留めていないトレーラーだった。
「ぎゃあ! なんだよこりゃ!」
「待て待て待て! これは……なに!?」
「おい、冗談じゃねえぞ!」
わおわおと慌てふためく男たち。
オスカーがふたたび叫ぶ。
「取り乱すな! だれか3名、1階に行って見て来い!」
「は、はい!」
「行ってきます! おい急ぐぞ」
3人の男が部屋を出ていった。イーグル、デリック、ウェブナーの3人が。
けわしい顔のオスカーが、恐ろしい声でうなる。
「なんか……イヤな予感がするな。モーリスとクイックに連絡を取ってくれ。それから……」
「ジョーイ。念のために1階のシャッターを下ろしてくれ。全部だ」
※ ※
さて、1階―――
ウィィイイイイイン……ガシャン。
ガシャン。
ガシャン、ガシャン。
シャッターが下りていく。
鉄格子状のシャッターが、すべての入り口と窓を塞いでしまった。完全に外部と遮断された。
もちろん、トレーラーと軍用車が飛びこんだエントランスも。ガラスが粉砕された玄関も、鉄柵によって出入りを封じられた。
その1階内部だが―――ムチャクチャだ。
教会トレーラーは横転し、スクラップと呼ぶしかない有様……コンテナの教会部分は、床との摩擦でだろうか、筐体の壁がめくれてしまっている。大穴―――
トラとステフは生きているのだろうか?
……
…………
………………
「マジに予定と全然ちげーよ! なんだって敵陣に飛びこんじゃったわけ!?」
「うるさいうるさい! 私だって好きでやったんじゃないわよ!」
生きてました。




