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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第15章「息つく暇もないサスペンスを焼き捨てるわずか45分間へ」
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第124話 「ストロング」



挿絵(By みてみん)



「バーベキューファイアを殺すんですよ。そうすれば " 焼き籠手 " の呪いは解けます」

 

 なんかものすごいことを言いだした男。

 以下、彼をイーグルと記載する。


 黒い短髪に、185センチはあろうかという長身……それにムッキムキ。その体をズイと押し出し、オスカーに訴える。

「主任、あの女は3年前の警視庁(ヤード)本庁全焼事件の犯人ですよ。俺やデリック、ウェブナー、それにモーリスにとっちゃ、あの女は因縁(いんねん)の相手ですよ。なあ、お前ら」


 うしろの2人……デリックとウェブナーもうなずく。


「主任、イーグルの言う通りです。なんとかなりませんか?」

「俺達みたいに警察から出向してきた人間は、広域手配犯は全員、その場でぶっ殺せ(・・・・・・・・)と教えられてきたんです」



 とんでもないことを言う連中だ。

 だが、オスカーは3人の顔を順にながめ、首を振る。


「気持ちはすごくわかるよ、しかしだねえ……」

 今度は、ガラスの檻の中へ目をやる。

 声は聞こえないが、フォックスは受話器をもって怒鳴り散らしている。こちらに向けて叫んでいるところを見ると、もっぺん電話に出ろ! と(わめ)いているにちがいない。


 オスカーがほほえみながら3人をなだめ始めた。

「見なよ、あの姿を。犯罪者どころか、()らわれのお姫さまじゃないか。非武装の女の子を殺すなんて、さすがに公務員の僕たちがやっていいことじゃないよ」


 3人もガラスの檻に目を向けた。中では、信じがたい光景がくり広げられているではないか。


 ハムハムは(あきら)めずに、フォックスになにやら(うった)えている。だがフォックスは、一喝(いっかつ)するなり彼を抱きしめた。

 いやちがう、ヘッドロックだ。

 フォックスの胸に顔を埋め、苦しそうに暴れるハムハム。かわいそうに、顔が真っ赤だ。


「……」

「……」

「……」

 絶句する3人。

 

 続けるオスカー。

「ほらね。ハムハム君とも上手くやってるみたいだし、力押(ちからお)しの方法は最後の手段に取っておこうよ」


「……」

「……」

「……」

 冗談はやめてくれ。


 檻の中では2人が激しく格闘していた。ヘッドロックから必死に逃れようとするハムハムが、手当たり次第に腕を伸ばす。

 ふにふに。

 フォックスの胸を(つか)んだ。

 もみもみもみもみ。


 瞬間!

 修道服のスカートをまくり上げて、フォックスの大外刈(おおそとが)りがハムハムを襲う! 宙を舞い、床に叩きつけられるハムハム!

 

 だがまともには食らわない。ハムハムが受身を取った。ついでに頭も打つ。


 まるでカンフー映画……



挿絵(By みてみん)



 拍手するオスカー。

「お見事! 迫力があるねえ、下手なプロレスより見ごたえがあるよ。なあ、みんな」


「……」

「……」

「……」

 答えない。



「さあ、今のうちになにか食っておこうよ。今夜は長丁場(ながちょうば)になるぞ。ははは」

 イーグルの肩を叩き、3人を夜食に(うなが)すオスカー。とてもいい上司だ。


「はあ……」

「主任がそうおっしゃるなら」

 

 大暴れしているフォックスとハムハムを、苦々(にがにが)しい顔で睨む3人。納得いかない様子―――


 ―――イーグルの、意を決した顔。


「俺が " ()籠手(ごて) " に呪われます」



「……なんだって?」

 オスカーの表情が変わった。

 もう笑っていない……イーグルの肩に置いた手をおろす。

「正気かい? 冗談じゃすまないよ」



挿絵(By みてみん)



「おい、イーグル!」

「なにを……」

 デリックとウェブナーも言葉を失う。


 にらみあう、オスカー主任とイーグル。


「バーベキューファイアを殺させてください。解放された " 焼き籠手 " には俺が呪われます。ですから主任……!」



 沈黙。

 5秒、7秒―――オスカーの答えは……


「考えておくよ……おいおい! そんなに深刻になるなよ。ははは、さ、なにか食おう。いつものレトルトだけどな!」


 ふたたびイーグルの肩を叩き、ほほえみながら背を向けた。そしてオフィスの真ん中に置かれたソファに向かい、大きな声を出す。

穢卑面(エヒメ)さん! なにか召し上がりませんか? ルディ神父もお腹()かれてるでしょ」



 いまだソファに腰かけて、微動(びどう)だにしないルディ。仮面だけが静かに答える。こちらを見もせずに。


『酒はあるか』 

 恐ろしく、低い声。


『トラが来るまで退屈でたまらん。我には味覚はないが、ルディに(ささ)げてやってくれ。ケケケ』


『ケケケ。聞き耳を立てていたわけではないが、話は聞こえたぞ。フォックスを殺すとかいうプランについて言っておくぞ。反対だ』


『頭の固いやつらめ。殺さずに、焼き籠手だけを入手する方法もある』


『右腕を切り落とせ。ケケケケ!』

 


※ ※



 さて……檻の中では大騒ぎになっていた。


 投げ技を食らい、床に転がって頭を押さえるモミモミ。フォックスの胸をハムハムしたのがまずかった。

 ……逆だっけ?

 フォックスの胸をモミモミしたのがまずかった。


「なにしやがんだ、このクソガキ! 今度やったら殺すぞ!」


 すでに死にそうなハムハムに、ひどいことを言う。そもそもフォックスがヘッドロックなんかしたのが原因なのに、勝手な女だ。



「わ、わざとじゃ……お、お姉さんがヘッドロックなんかするから」

 

 半泣きのハムハムが、転がったまま訴える。 

 フォックスの興奮はおさまらない。


「ケッ! オスカーのやつ、どっか行きやがったな!」

 

 (おり)の外……ガラスの向こうに、オスカーの姿はない。数人の男が作業をしているのは見えるが、もう誰もこっちを見ていない。

 部屋の中央、テーブルを囲むソファにはルディが見える。腰かけたままピクリとも動かない。

 舌打ちするフォックス。

「チッ……! 無様(ぶざま)なもんだぜ」 


 珍しく、他人のことで気持ちが沈む。

 ルディが穢卑面(エヒメ)に支配されたことは聞いた。なんていうか……2つの気持ちが交錯(こうさく)している。

 

 ①ぎゃはは、なっさけねー!

 ②おいおい、ざまーみろっての!


 ちがった。


 ①ぎゃはは、なっさけねー!

 ②いくらなんでも気の毒に。


 

「気の毒だね、あの牧師さま」

 泣きそうな声でハムハムがつぶやく。


 カチンとくるフォックス―――

「ハン、なにもかも間違ってるぜ。あいつは神父(・・)だ、牧師じゃねえ。それに気の毒な結果になるかは、まだわかんねえさ」


「でも、でも……かわいそうだよ。なんとか助けてあげなくちゃ。お姉さんだって、あいつら(・・・・)はキライでしょ?」

 やっと立ち上がったハムハムの、何度目かの訴え。



「何回言うんだお前は! 九官鳥じゃねえんだからよ。あいつら(・・・・)がどんな悪党だか知ったこっちゃねえし、アタシは連中のヘッドハンティグを断る理由がねえ」


「でも……!」



「でももマルチバーストもあるか。アタシはあいつらの話に乗るの!」

 悪態―――そしてため息。

「あのな……アタシはこう見えて指名手配の身なんだよ。お先は真っ暗だ」


「えっ、シスターなのに!?」

 


「ちがう! この姿は世を忍ぶ……いや、まあどうでもいい。とにかくアタシはオッズの高いほうに(・・・・・・・・・)つくだけさ。頼むから邪魔だけはしないでくれ」

 言い放ち、壁に背をもたれて座りこんだ。

 床に置いてある雑誌を拾い、適当にページをめくる……が、すぐに放り投げてしまった。

「ケッ、この国の字はなんで公用語(オフィシャラング)じゃねえんだ。読めやしねえ、もうサントラクタはたくさんだぜ」



 サントラクタはたくさん。

 その言葉を聞いて、ハムハムの顔は悲しみに暮れる。しかし諦めない。

「でも、お姉さん」


「なんだよ、まだなにかあんのか?」

 うんざりと髪をかきあげるフォックスが、じろりと見上げた。

 今度はなにを言いだしやがるか―――


「お姉さん、たぶん殺されるよ」

 真剣な目で、泣き出しそうな目で訴えるハムハム。ぎゅっと拳を握る。

「あいつらはただの誘拐集団じゃない! どんな裏技でも使える連中なんだ。本当に命を取られかねないよ!」

 身ぶり手ぶり、必死に説得する。



「……あのな」

 フォックスの口元がゆがむ。やれやれと言わんばかりに。

「知っとるわ、そんなもん」


「え?」 


「わかってるっつーの、そんなの」


 キョトンとするハムハム。

 ため息をつくフォックス。


「いいか? お前みたく、自分の国に閉じこもってたら想像もつかねえだろうけどな。こんな籠手でも(・・・・・・・)利用しようと寄ってたかってくる連中は、山ほどいるんだよ」


 ガシャン。

 籠手を持ち上げるフォックスの、心底うんざりといった顔。

「いいこと教えてやるよ。甘い言葉でダマそうとしてくる悪党にいちばん効果的なのは " ダマされたふりをする " ことさ。今はとにかくチャンスを待つしかねえ」


「チャ、チャンス……?」



「連中の人数を見ろよ。あれだけの人間がいたらな、最低1人は出しゃばり屋(・・・・・・)がいるんだ。人間ってのは不思議なもんでよ、予定がスムーズに動いてるときほど、余計なことしたがるもんなのさ」


「……」



「とにかく今は、連中を挑発(ちょうはつ)するしかねえ。トチ狂ってアタシを殺そうとするやつとか、輪姦(まわ)そうとするやつが出てくりゃ追い風だ。ここから出れない以上、出してくれるのを待つしかねえからな」


「……」



「まあ、まずはこの手榴弾をなんとかしねえとな。なにで引っつけやがったんだコレ、()がれやしねえ。まあ、まさかこのまま移送されねえだろうけどよ」

 

「……」



「タイムスケジュールマンの裏をかくにゃあ、ハプニングを起こしてやるのがいちばんさ。チャンスを待つんだよ、じっくりな」


「……」

 


 あっけにとられるハムハム。

 この人は、すごい百戦錬磨だ。僕とはトラブルの経験値がぜんぜんちがう。さっきまでの怒りの絶叫からは想像もつかないほど、クールな女性。すごい。

 ぽかんとフォックスを見つめる。


 急に静かになったハムハムを、口元をつり上げて見あげるフォックス。

「どうした、お小言(・・・)はおしまいか? だったらもう話しかけんのをやめろ。アタシは考えることが山ほどあるんでな」


 ふい、と目をつむるフォックス。

 もう本当に、ルディのこともハムハムのこともどうでもいいらしい。このあとの成り行きをどうコントロールするかしか頭にない。

 身勝手、いや―――これがプロの犯罪者なのか?



 またハムハムが口を開く。

 今度はとても静かに。

「お姉さん」


 いよいよ怒鳴るフォックス―――

「ああ、もう! うるせえな、今度はなんだ!」



「その手榴弾、はずせるかもしれないよ」



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
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アニメーション制作:ちはや れいめい様



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