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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第15章「息つく暇もないサスペンスを焼き捨てるわずか45分間へ」
122/249

第122話 「トゥー レイト」



前章までのあらすじ。



図のような状態

   ↓



挿絵(By みてみん)




志雄崎あおいさんから頂きました。

チャッカマン・オフロードの3大モンスターですね。


志雄崎さん、ありがとう!






 すまないが長い夜になる。

 覚悟してもらおうか、長い長い夜になる。


 物語の主人公は……主人公なんかいない。


 アホどもはどうしているだろうか。星湾センタービルの様子から見て行こう。


 

※ ※



 ガラスの檻の中。

 捕らわれのハムハム。

 捕らわれのフォックス。

 2人はどんなに(おび)えているだろう。


「お姉さん、怖がらないで。きっと大丈夫だから」 

 健気(けなげ)にはげますハムハム。

 しかし―――


「うるせえ! 黙ってろボケ!」

 どなるフォックス。

 まったく怯えてなんかいない。

「おい、ケータイ持ってねえか!? アタシのケータイ、あいつらに取られちまったクソ……ムカつく!」


 腹をすかせたゴリラのように、檻の中をうろうろするフォックス。


 どうやら、シルフィードからもらった携帯電話を没収されてしまったらしい。づかづかと不機嫌アピールをしながら歩く様子は……ゴリラだなあ、マジに。


 彼女の籠手には手榴弾。

 がっしりと接着されたそれは、とても()がせそうもない。

「くそ、これさえ無きゃこんなガラス溶かしてやんのによ……いっそレバー(はず)してやろうか!」

 もうヤケクソ……忌々(いまいま)しく右手の爆弾をにらむ。



 ハムハムがおそるおそる壁を指さした。

「あの……ケータイは持ってないけど、電話ならそこにあるよ」


「あん!? うお、マジかよ!」

 目を輝かせてフォックスは壁に飛びついた。灯台もと(くら)しだ。ちゃんと備えつけの電話があるではないか。

 受話器をつかみ取ると、うれしそうに番号をプッシュ……できない。

「おい、なんだコリャ?」

 

 本来あるはずの「0から9」までの数字。それがない。「内線1」と「内線2」のボタンしかない。どうやら外部には通電していないらしい。


 フォックスの顔面がゆがむ。かつてないほど、形容できないほど怒りにゆがむ。空腹のゴリラのように。

「へ、へへ。ア、アタシはもう完全にプッツンしちまったよ……は、は……あああああああああ!!」



挿絵(By みてみん)



 バァン!

 受話器を破壊するほどの勢いで叩きつける。


「ヒー!」

 檻のすみに飛びのくハムハム。


「ルディィイイイ!! このガラス開けろァ! アタシは! カンペキに! 着火(・・)してんだよボケァ!」

 ガン! 

 ガンッ!

 ドガァ!!

 ……分厚いガラス板を蹴りまくる。どうやら、どうやら、マジに脳天に着火してしまったらしい。


 怯えるハムハム。

 怒り狂うフォックス。

「ルディ――――――!!」



 時間だけが過ぎていく。

 時間だけが過ぎていく。



 ※ ※



挿絵(By みてみん)



『ケケケ。()(もり)よ、覚えているか』

『いいえ、覚えていませんね』


 懐かしがる穢卑面(エヒメ)。いままでの沈黙の反動とばかりに、しゃべるしゃべる。


 対して、無視をきめこむ()(もり)

 ひたすらルディに語り続ける。

『お願いです、神父さま。正気に戻ってください……おねがいですから』


 ()(もり)懇願(こんがん)もむなしく、ルディはピクリとも動かない。ソファに座ったまま、ぶつぶつとつぶやき続ける。懺悔(ざんげ)を。

「神よ……罪深い私をお許しください……」


 

 時間だけが過ぎていく。

 時間だけが過ぎていく。



※ ※



 ルディを見守る……っていうか、遠巻きに見ている男たち。総勢12人、もちろん主任のオスカー・エイプリルを含めてだ。

 実際には14人だが、うち2人は外出中だ。

 

「おーい、コピー用紙ねえぞ。発注しといてくれ」

「どこにだよ。この町の流通サービスなんか動いてねえっつうの」

 雑談する隊員たち。

 ワイワイ。


「お前、本国に帰ったらなにする? またいつもの釣り三昧(ざんまい)か?」

「またってなんだ。休暇取って家族サービスだよ、家族で釣りに行くんだ」

「よくカミさんが文句言わねえな。ウチのやつなら2秒で実家に帰っちまうよ」

 和気あいあい。

 各ご家庭の話になってきた。


「フィル。お前んとこの坊主、今年受験だっけ?」

「ああ、今年は帰省できそうもねえよ」

「なら俺たちと一緒にサッカー見に行かねえか? ロッキースタジアムの券があるんだ」

「マジか!? あ、いやダメだ。女房に殺される」


「お待ちどうさま。コーヒーが()きましたよ」

 ひとまわり若い隊員が、紙コップの束と電気ケトルを持って来た。深夜のティータイムだ。


「おう、やっと一息つけるな」

「やれやれだ。おいどうする? 神父さんのぶんも()れるか?」

「やめとけ、近づかねえほうがいいぜ。それよかバーベキューファイアとハムハムには用意してやれ」


 好き勝手なことを言う隊員たち。

 ケトルを持って来た若者は、12個も紙コップを机に並べて、コーヒーを()ぎはじめた。


 椅子(いす)に座って手帳をながめていたオスカーが、(あわ)ててそれを止める。


「おいおい、サモン。僕のぶんのコーヒーはいらないよ。カフェインは医者に止められてるからね」


「あ! す、すいません主任」

 しまった、という顔で()びる若者。


 

「いいよいいよ、僕はウーロン茶をいただくさ。冷蔵庫にあったはずだ」

 にこにこと笑顔で返すオスカー。

「しかし今度の作戦は順調だねえ。モーリスとクイックは、いまごろトラ君とステファニー君と合流してるころかな?」

 

 ギシと立ちあがり、冷蔵庫のある隣室に向かった。小さい、本当に小さい声でオスカーは独り言をつぶやいた。

腎臓(じんぞう)のないステファニー君か……かわいそうに。あのリハビリはものすごく(つら)いんだよねえ」

 

 自身の脇腹をさするオスカー。

 

 時間だけが過ぎていく。

 時間だけが過ぎていく。



挿絵(By みてみん)



※ ※



 さて……さっき名前が出たが、モーリス、クイックとは誰なのだろうか? 

 もちろん、トラとステフを迎えに行った隊員たちだ。

 

 彼らが今いるのは、ルディ一行の教会トレーラーの前。どうやらトラとステフが戻る前に、彼らのほうが先に着いてしまったようだ。

 


「こりゃそうとう改造してあるぞ。聖なるトレーラーハウスだな」

 眼鏡をかけた大柄(おおがら)の中年男が、査定するようにトレーラーをながめている。


 おや、彼ひとりしかいない。

 もう1人は?

 

「ふーい、内装もすごいっすよ。ホントに教会みたいスよ」

 ガチャ。

 教会のドアが開き、車内から若者が現れた。

「中に便所あって助かりましたよ。ずっとガマンしてたんス」


 ドアはオートロックになっているはずなのに……と言いたいところだが、どうせ穢卑面(エヒメ)がパスコードを教えたのだろう。

 若者はドーナッツを手にしているではないか。それはフォックスのだ。


「もぐもぐ。半分いかがです?」

 かぶりついた残りを差し出した。


「いるか、お前ちゃんと手を洗ってないだろ。いつも言ってるだろ、現場のものを食うんじゃない」

 


挿絵(By みてみん)



 あきれながら叱る中年。腕時計を見て、またため息をつく。


「しかし遅いな。対象の……トラブリック・オールデイズだったか? わかってるな、そっちは俺が対応する。お前はステファニー・アグリルを見とけ」


「やりい! どんな子ですかね、ステファニー」

「知るか。まったく……さっさと来てほしいね。早くオフィスに戻りたいよ。クイック、帰ったら書類整理手伝えよ」


「もぐもぐ。先輩、ほんとに仕事中毒ですよ。今度の連休は、うんとハネ伸ばしてくださいよ。もぐもぐ」

「ふざけるな。俺にバカンスなんかない。なにしろバーベキューファイアを尋問しなくちゃならん。時間はいくらあっても足りん」


「もぐもぐ」

「ふぅ、なんか腹が減ってきたよ……食いながらこっちを見るな、バカ!」


 トラとステフを待つ2人。

 夜は長い。


 時間だけが過ぎていく。

 時間だけが過ぎていく。



※ ※



 トラとステフはどうしているだろうか。もちろんトレーラーに向かっている。

 おそらくあと10分ほどで着くだろう。


 トラとステフはトレーラーに向かっていた。

 5分前までは。

 

「そうだ、俺は本気だ。えらいさんに代わる気がないなら、アンタの名前を聞かせてよ」 


 トラはいま、スマホで電話をしている。ものすごく(けわ)しい目で。少し声が震えているのは……まさかこの男、ビビってるのか? 


 いったい、どこにかけているのか。


「とにかく急いだほうがいいぜ。保証してやるよ、俺達はなんにも保証しねえ。はあ? 俺たち(・・・)って言ったんだよ。複数犯に決まってんだろ」


「イタズラかどうかよく検討するんだな。じゃ、残業がんばってくれや」



挿絵(By みてみん)



 通話を切った。

 

 ふだんの彼からは想像もつかないような、神妙な顔。なにか覚悟を決めたような……取り返しがつかないことをしてしまった、という顔。


「これでもう取り返しはつかねえぞ。ステフ」


「わかってるわよ……わかってるわよ」

 ステフはもう死にそう。ひざを抱えてうずくまり、トラを見ようともしない。泣いているのだろうか?

「おなか痛い……おなか痛い」


 ズシン!!

 ズシイ!!

 トラが乱暴に歩み寄る。そして……手を差しのべた。


「立てよボス(・・)。これはお前の作戦だ、今さら降りるなんて言わないでくれよ」

 

 ゆっくり、ゆっくりと顔をあげるステフ。

 涙でグシャグシャだ。

「ねえ……私って昔からこうなのよ。信じらんないようなことを思いついて、それをやってから後悔するのよ。でも今度のアイディアは人生最悪だわ……」

 


 トラは―――差し出した手をひっこめた。


「いいぜ、逃げても」

 やはり声は震えている。

「ていうか逃げろよ。もういいだろ、逃げろ」


 しつこいほど、逃げるようにステフに(うなが)す。


 ……こいつら一体、なにをしようとしているのか。さっきの電話と関係が?


 ステフは―――

「なにしてんの……立たせてよ、爆弾魔(・・・)!」 

 ずい、と手をつき出した。

 

「……これは気がつきませんで。テロリスト(・・・・・)

 トラがステフの手を取り、ゆっくりと立たせた。

「だいぶ時間を食っちまったな……おい、いつまで俺の手ェつかんでんだ。離せよ」


「離さないわよ」

 ……ぎゅっ。

 手どころじゃない、トラの腕にしがみついた。

「逃げちゃいそうなのを必死でこらえてんの。このまま連れてって。今度置き去りにしたら殺すわよ」


「ヘッ……鉄パイプはもうごめんだぜ。おい、もっとしがみつけよ。ダブルバーガーみてえに巨乳に挟んでくれ」

「死ねバカ」


「はいはい死にます。ルディとフォックスを助けたらな。さ、行くか……トレーラーはどこだ」


 ズシン!

 ズシン、ズシン、ズシン。

 教会トレーラーに向かって、勝手に歩きだす長靴。ずし、ずし。自動走行のトラに、しがみついて離れないステフ。

「暗いわね、足もと見えない」


「だからしっかりつかまれっての。ああ……いっそ2人で逃げようか」

「イヤよ」



 ―――このあとどうなってしまうのか。最悪の事態にならなきゃいいが。



 時間だけが過ぎていく。

 時間だけが過ぎていく。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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