第114話 「サーチ フォックス」
「私は帰りません!」
強い、強いステフ。
「……」
今度こそ黙りこむルディ。
もう、なにも言わない。
「あー、終わった? お2人とも、いいレクチャーでした」
めちゃくちゃダルそうに吐き捨てるトラ。
ふたたびルディへ視線を向ける。
睨むわけではない、普通に視線を向ける。
「本題に戻ろうぜ。いい加減決めてくれよ。フォックスにぜんぶ教えるのか? ていうか、フォックスにはどこまで教えてんのよ?」
「ぜんぶ教えたさ。ハムハムのことも、オスカーのことも伝えてある。教えていないのは、オスカーが水な義肢を持って行ったことだけだ」
まだすこし、声のトーンの小さいルディ。
トラは語気を強めた。
「それ、フォックスに言うの? いつかは」
「言わないよ。少なくとも今はね。だが……とにかくフォックス君を呼び戻そう。電話してくれるかね?」
「いや、だからスマホ壊れてるんだって」
「あー……しまった。フォックス君を見続けておくべきだったな。心当たりはないかねトラくん、彼女の行き先に」
「逆だろ。さっきから言おうと思ってたんだけど、アンタはなんで知らねえんだ? 俺はてっきり、四六時中、アンタに監視されてるんだと思ってたよ」
そう。
第112話「キャットファイト」にて、フォックスも同じことを言ってたよね。
はたして真相は―――?
「してないよ、そんなこと。本当に私は知らん」
してないと主張する。
ホントに?
いや、まあ……信じるしかないけどさ。
トラはどう思うだろうか?
「信じるよ。先生」
信じるそうだ。
ホントに?
「……」
「……」
また沈黙―――
「……」
「……」
「……フォックスくん、いつ戻ってくるかな。ステフももう怒ってないのに」
沈黙に耐えきれず、地雷を踏むルディ。
「ハア?」
にらむ地雷、じゃないステフ。
歩き出すトラ。
どこへ―――ズシズシ。
「雰囲気がギスってきたな。ちょっくら出かけてくんぜ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタまでどこ行く気よ!」
あわてて止めるステフ。
「散歩ついでに、フォックスが近くにいないか見てくるわ」
ギィイ。
コンテナ教会の扉が開かれた。
外はもう真っ暗だ。
「とりあえず近所は探してみるよ。じゃあ今日はこれで解散な」
ズシズシズシ……バタン。
さっさと出ていってしまった。
礼拝堂に残されたルディ、ステフ。
あと咲き銛も。
重い沈黙のなか、ステフが椅子に蹴りを見舞う。
ガンッ!
「なんなのアイツ……死ね!」
ガン、ガン!
『同感です』
ステフに同意する咲き銛。
ガンッ、ガツッ、ガッ!!
長椅子が凹むまで蹴りを連発したステフ。キッとルディをにらむと―――
「神父様、ちょっと行ってきます!」
「どこへかね?」
「あいつらを連れ戻すに決まってんでしょ! 懺悔しかできない体にしてやる……」
鬼の形相で、礼拝堂を飛び出した。
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場面は変わって、外―――公園。
何百ものテントがぼんやりと明かりを照らしている。黄色や白のランタンが公園を埋めつくす。
頭上には、満天の星。
これが内戦地の光景なのか?
美しい―――
今この瞬間にも、次の爆弾テロが起こるかもしれないのに。しれないのに。
そんなこととは全く関係なく、トラとステフ。
夜の静寂を破るかのような男女の叫び声。
「誰が内緒になんかするかボケ! 全部フォックスにぶっちゃけてやる。どんな反応するかな、あー楽しみだぜ!」
ギャンギャン吠えるトラ。
ぜんぶバラすとか言ってる。もうアホ……
「クソヤローが! そんな勝手なこと許さないわよ!」
ギャンギャン吠えるステフ。
「うるせえな、ついてくんなよ。俺はフォックスを探さなきゃなんねーんだからな」
「いまなんつった! やっぱフォックスの居場所知ってんじゃないの!」
そのステフの顔を指さし、勝ち誇ったような汚い笑みを浮かべるトラ。
「あいにく知らねーよ。フォックスはどこだ?」
「はあ?? 頭パッパラパー女の居場所なんか、私が知るわけ……」
ズシン……
トラの長靴が、勝手に歩き始めた。
探索―――
ズシン、ズシン、ズシン……
「久々だから感覚忘れちまったぜ。おお、楽だこと。じゃあステフ、バイバーイ」
笑顔で手を振る。
ズシンズシンズシン!
どんどん行ってしまう。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
「まっま、ま待ちなさいよ! 待ってっての!」
あとを追うステフ。
夜の繁華街へ2人は向かう。
フォックスを探しに、ズシズシと。
あちこち爆弾で崩落した繁華街へ。
活気もクソもない。
内戦の爪あとを刻む、繁華を忘れた繁華街へ―――




