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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第13章「身も蓋もないバイブルを焼き捨てる夜へ」
105/249

第105話 「イザベッラ」



 じゃ、トラ、フォックス、ルディの物語へ戻ろうか?

 はい戻ってきました。


 ここは礼拝堂(れいはいどう)―――礼拝堂に、声が響く。



「お届けにあがりましたー!」


 ピザチェーン店「シンフォニア・デブ」のデリバリーのお兄さんが、愛想(あいそう)よくしゃべる声が響く。

「あ、ここにサインお願いします神父さま。えーと、22,000ナラーお預かりしましたんで、お返しが4ナラーです」


「……ありがとう」

 お()りのアルミ硬貨4枚と、レシートを受け取るルディ。チャリチャリと無造作(むぞうさ)にポケット()っこんだ。


 お兄さんは「毎度ありがとうございます」と言って、乗ってきた配送車で帰っていった。どうでもいいが、店名にふさわしくない、じつに()せた配達員であった。



挿絵(By みてみん)


 

 簡易テーブルに並べられる、3種のパスタ、3種のサラダ、8種のフライ、クワトロピザ8枚。ホットサンド4種、ドリンク6本。

 すべてLサイズ。

 礼拝堂がニンニクのにおいに包まれる。


「ガツガツ、もぐもぐ、ずるずる。この照り焼きソーセージサンド、美味いスよ。もぐもぐ」

「はぐはぐ、パリパリ、もくもく。あっ、これクリームアップルピザだ。最後に食べようと思ってたのにミスった。バクバク」


 しあがれとか言われるより前に、ガッツガツ食べだすトラとフォックス。

 丸2日ぶりの食事―――


「酒が欲しいスね」

「酒が欲しいな、もぐもぐ」

 (あつ)かましい。


 そんな2人の食べっぷりを、ルディはテーブルの向かいに座ってじっと見ている。まるで観察(かんさつ)―――ガイコツの仮面でのぞきこんでいる。


「……もぐもぐ」

「……あの、ちょっと……ルディ?」


「なにかね?」

 

「気になってしょうがねえ。そんな見ないでくれ」

「アンタの(おご)りなんだ。アンタも食えよ……食えるんだよな? その仮面は」


 ルディにも食べるように(すす)める。

 食べれるんだよね?



「……いただこう」

 オニオンパウダーをまぶしたカリカリのベーコンをつまみ、ドクロの口元(くちもと)へ運ぶルディ。

 

 ガパッ。

 左右に開くガイコツ面の(くち)

 ルディ自身の口内(こうない)がのぞく。

 

「……」

「……」

 ガン見する、トラとフォックス。



挿絵(By みてみん)


 

「パリパリパリ……うん、はじめて食べたが美味(うま)いな。シスターたちが食べているのは、しょっちゅう見ていたのだがね……ちょっと待ってくれ。君たちのほうこそ、そんなに見られると食べにくいじゃないか」


「見るっつーの」

「よく出来てるなあ……」


 感心する2人。

 穢卑面(エヒメ)の口はふたたび閉じたが、ルディの(あご)はもぐもぐと動いている。


「むぐむぐ……ふふ、いいね。人と食事をするのはいい。私の次男と長女は、生きていたら君たちくらいの(とし)だったかな……」

 さみしそうに、(なつ)かしそうに、ルディがつぶやく。



「生きていたらって……ああ、悪い。アルベル事件でってことか」

 複雑な顔のフォックス。


「え……こ、子供いたの? たしか神父って結婚しちゃいけないんじゃなかったっけ? (かく)()?」

 驚いた顔のトラ。

 さすがコイツは教会のことに(くわ)しい。


「カリカリ、パリパリ」

 ベーコンを食べるルディ。答えない。



「いやルディ、子供……言いたくないの?」

「そろそろアンタ自身のことも聞かせてよ。そうでなきゃ、ワケが分かんねえよ」

 

「……」 

 また沈黙。

 10秒、12秒―――

「私の……私の人生は……幸福だったと思う。聞いてくれるかね」

 

 うかがいましょう。

 ルディの半生記の、はじまりはじまり。



※ ※


 

「まず、私の人生が変わったのは10歳のときだ。実家の近くに教会があってね。そこには、絶対に立ち入ってはいけないと言われた地下室があった」


「私は好奇心(こうきしん)からそこに入ってしまったのだよ。そこに封印されていたのが、この “ ()(もり) ” だ」

 トゲだらけの胸甲に手を触れる。



『懐かしいですね。あれからもう42年になるのですか』

 低い低い、()(もり)の声。



「あの時は絶望したよ。 “ 666人を殺せ、それまでは決して外れない ” と、コイツに言われてね。そうか、もう42年もたつのか……」

 しみじみ。


『コイツ呼ばわりはひどいですよ、神父』

 文句を言う咲き銛。



挿絵(By みてみん)



「……」

 ぽかんと口を開くトラ。

「666人って、それがノルマかよ。いったいアンタ、どんくらい殺したんだ?」



 数秒、黙りこんで答えるルディ。

「レインショットで661人だよ。全員が、アルベル事件の犯人グループだ。だが私はもう、人を殺すことはあるまい。はは……あとほんの少しなんだけどね。私はもう、人を殺すことはあるまい」


「おっと、話が前後したね。呪いにかかって私は、ずっと()(もり)(かた)って聞かせた」


「 “ 僕は絶対に、人を殺したりなんかしない。だから、一生呪いにかかったままで構わない。もしお前が勝手に人を殺したら、すぐさまお前を封印してやる ” とね」




「はあ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」

 スっ頓狂(とんきょう)な声を上げるトラ。

 

「なにかね?」

「封印って? どうやって?」


 肩をすくめるルディ。


「……もしかして知らないのかね? 簡単だよ。呪いにかかった人間が、密室で死ねばいい。そうすれば、鎧は部屋から出られなくなってしまうんだ。当時の私はそれこそ、命と引き()えに、()(もり)を再封印することだけを考えていたよ」

 


『あれには参りましたよ、神父。あなたは毎日、医学書を抱えて、教会の地下室にこもっていましたね。苦しまずに死ねる方法を医学書で調べていましたね……ついに私が根負(こんま)けしたのが、神父が14歳のときでしたか』

 

 あっさり言いやがる。


 


 ボーゼンとするトラ。

「……」


「フン、やっぱしな。封印の方法はうすうす予想してたよ」 

 特に驚かないフォックス。  

「10歳でよくそんなこと決断するな。そういやトラ、お前も教会で呪われたんだっけ?」


「ええ……マジに奇遇(きぐう)だなルディ。俺が呪われたのも教会で、10歳のときだったぜ。なんか物置みたいな小屋ん中で」

 なんか急に親近感。


 

「トラくんの長靴もかね。それはすなわち、前の持ち主がその小屋で死んだことを意味する。むろん、呪いにかかったままね」

 少しだけルディの声の調子が変わる。 


「いかん、また話が前後しているな。とにかく私は、ただの一度も咲き銛を使うことなく10代を()ごした。で、毎日のように教会に(かよ)っていたら、父が勝手に神学校に入学願書を出していたんだ。16の時だ」


「そこで私はイザベッラに……妻だ。イザベッラに出会った」


「さっきトラくんが言ったとおりだ。神父になるものは妻帯(さいたい)が出来ない。いや、実は学校を出て、いちどは神父になったんだがね。父が病気になって家業を()がなければならず、神職を()したんだ。あれは……いくつのときだったかな?」



『あなたが25歳のときですよ。あなたは父上の事業を継がれて半年もせずに、イザベッラに求婚(きゅうこん)されたじゃありませんか』


 思い出話を捕捉(ほそく)する咲き銛。

 ……さすが10歳からずっと一緒に過ごしているだけある。

 


「やるねえ、ルディ」

「へえ、神父って()めれんだ。知らんかった」

 のめりこんで聞いているトラ。

 煙草に火をつけるフォックス。



挿絵(By みてみん)



「まあ、それからいろいろあって子供も3人できてね。で……ここからは思い出したくもないのだが……アルベル事件が起こった」


「たまたま会社の関係者から、ワールドベースボールの観戦チケットをもらったんだ。忙しさにかまけて妻にも子供たちにも、ろくに出かける機会を作ってやれなかったんでね。みんなは喜んでくれたさ……行くんじゃなかったよ。行くんじゃなかった」


「6回の表に、突然スタジアムのあちこちで爆発が起こってね。花火のように、火の玉が何万発も飛んできた。同時に球場が、白煙に包まれて大混乱になったんだ。なにも見えなかったよ。人の波に押し流されて、家族はみな圧死(あっし)した」


「その日から私の復讐が始まった。あとは……さっき言った通りだ」


 おしまい。



「……」

 なにも言えないトラ。

 押し黙る……いや、ルディをまともに見ることさえできない。

 

 フォックスが沈黙を破ってたずねる。

「ルディ……祭壇(さいだん)に、蝋燭(ろうそく)10本あるんだけど。10人分の慰霊(いれい)ってことだよな? 家族のほかに、だれか殺されたのか?」


 ゆらゆらと室内を()らす蝋燭の炎。

 フォックスの言うとおり、祭壇には10本の蝋燭が(とも)されている。 

 死者を鎮魂するための蝋燭が、3人を照らす。



「すべて家族のだよ。妻と長男、次男、長女……それに祖母、父、母、姉、義兄、(めい)だ」



 !!!!!!!!

 

「……家族って、家族全員かよ!」

「まさか、全員アルベル事件で!?」

 凍りつく2人。

 

「ふ―――む……」

 ルディは椅子に座ったまま、長い髪を震わせるほどの深呼吸をして―――続きを語りだした。



 ヘビーだろ? まだつづくぜ。

 


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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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