第1話 「ブーツ」
申し訳ないです。
第一章は漫画のネームを流用してるから絵がひどいひどい。
第二章から、真面目に挿マンガしてますんでご勘弁。
あ、その一章のマンガは下のURLからPIXIVに飛べます。
ドン、ドンッ。
「開けて、出してぇ!」
教会の裏庭に、少年の悲鳴がひびく。
頑丈なレンガを積み上げた、小さな小屋。そこに少年は閉じこめられていた。
いや、正確には自分から入ったのだが。
コケをまとい、教会そのものよりも古びた、窓すらない小屋。
鉄ごしらえの厚い扉をドンドンドンとたたく音と、助けを求める少年の声が、教会の庭に響きわたる。
ドン、ドン、ドン。
ガチャガチャガチャガチャ!
なんとか扉を開けようと、少年がノブを回しているらしい。
「助けて、ここから出してえ!」
※ ※
「まってろボウズ、いま出してやる!」
「おい、もっと力を入れろ! くそッ、なんて重いんだ!」
教会の庭師だろうか。
小屋の外では、大男2人が汗だくになっている。押すんだ、いや引くんだと力任せに扉を開けようと必死になっていた。
だが、ビクとも動かない。
少年の腕力で開いたはずの扉がだ。
「駄目です! カギは開いてるのにビクとも……」
「わ、私、神父さまを呼んできます!」
修道女のひとりが、焦りながら礼拝堂に向かった。
そこへ――――――
「何事です。騒ぞうしい!」
さわぐ声を聞きつけたのだろう。
年老いた神父が、ふうふうと息を切らせて駆けつけてきた。状況がわかっていないところを見ると、呼びに行った修道女とは入れちがいになったらしい。
「あ、神父様……! 子供たちがかくれんぼをしていて、あの、その……」
「男の子が……閉じこめられたんです!」
わあわあとわめきたてる、2人の修道女。
ぞっ、と神父の顔色が変わる。
「なんですって……!」
目を見ひらき、表情が凍りついた。
「こ……この小屋は “ 悪魔 ” が封印された禁断の間! 教会が建てられて300年、誰ひとり入ることを禁じられているのに……!」
ただならぬ言葉に、その場にいた全員が青ざめた。
悪魔、そんなものがこの小屋に……?
「ど、どうすれば……神父様!」
「ああ、神父さま……」
「落ち着くのです! なかの少年に悟られぬよう……」
騒然となる裏庭。
と―――小屋の中から、絶叫。
「丸聞こえじゃ――――――!」
………………
…………
……
聞こえていたらしい。
反響する少年の悲鳴が、中庭にこだまする。
※ ※
「なに、悪魔って!? 何の話??」
少年の声がさらに悲痛なものに変わった。まあ、無理もない。
「あ、ああ……こええよ、怖いよ……」
薄暗がりの小屋のなか、少年が震えあがるたびホコリが立ちのぼる。すすり声をもらすたびに細かい塵が舞い、彼の鼻や口の粘膜が傷ついた。
「ゲホ! ウエエホ、ぺッ……ぺ……!」
少年が咳きこみながら、床にヒザをついた。
その時。
『足…………』
闇の中に、唸るような、低い、低い……悪魔の声が聞こえた。
足、と。
「なっ、だ、誰だ!」
びくり!!
少年が飛びあがり、暗がりの中を見わたす。
だがどんなに目を見開いても、4メートル四方の真っ暗闇には誰の姿も見えない。誰もいないではないか。
では今の声は……?
「う、うそだろ! あ、悪魔……?」
ヒイッと小屋の隅へと飛びのき、室内を上から下まで見張る。だが、やはり誰もいない。
「い、いるのはわかってるぞ悪魔め! 俺なんか食べてもうまいもんか! た、食べる!? 神様……!」
がたがたと震えながら、必死で虚勢をはる少年。かわいそうに、錯乱状態のようだ。
『足だ、足がある……』
『1000万歩歩け……』
『足……足ィイイ……』
小屋の床が、カタカタと震えだした。
壁も、天井も、そこらかしこがカタカタと震えだす。
―――1000万歩?
『足……』
悪魔の声がふたたび聞こえるや、室内のレンガがひとつ、またひとつと浮かびあがった。
「あッ……」
カタ、カタ、カタ、カタ……
あっちでもこっちでも。
5つ、8つ……
カタ、カタ、カタ、カタ……
レンガではない。
立体パズルのようなブロック。
凹凸や突起のついたブロックだ。
皿状の、棒状の、筒状の、様々な形状のブロックの群れ……
あまりに非現実的な光景に、少年は凍りついた。
「あ……お……」
言葉を、失う。
瞬間!
ふわりふわりと浮かぶブロック群が突然、ザアと少年に襲いかかってきた!
「うわあ!」
少年の足に結集してゆく。
ザアアアアアアアアアアアアア……
カチャン、ガチャン、カチャン。
ガチャ、ガチャン、ガチャン。
凹凸を組み合わせ、突起を別のパーツの穴に差しこみ、ブロック群は形を成していく。まるで積木細工!
その形は―――……
長靴だ。
「うわあ、うわああああああ! ああ……」
少年の両足に、長靴が組み上がっていく。
ガチャン……組みあがった。
『1000万歩あるけ……』
長靴がしゃべった。悪魔の声で。
『1000万歩歩け……』
『それまでは決して外れない』
『離しはしない……』
少年が呪われた。
長靴に。
少年の悲鳴が、教会中に轟いた。
「うああああああああああん!」
轟きまくった。