キャンプ場にて
日常系小説を書いてみました。
日常が好き。
*朝は早い*
朝は早い。
高校2年生の僕こと山田悠は目を覚まし、目覚まし時計を見るなり、「はぁ……」と溜息を吐き、スリッパを履いてリビングへ向かう。
リビングには誰もいなかった。
「早く起きすぎちゃったかな?」
僕は部屋から持ってきたスマホの電源を入れ、LINEを立ち上げて通知を確認する。通知は0だった。
「暇だなぁ……」
スマホを尻ポケットに入れ、ゆったりとコーヒーを入れ、目覚ましにゆっくりと飲んでゆく。
(はぁ……、今日も平和な一日が来るなぁ……。いいですなぁ~)
僕は、日常というものが好きだ。なんのハプニングも起きない、平々凡々な日々が大好きだ。特別なことはせず、ただただ平凡に日常というものを過ごしたい。『特別な行事よりも日々の日常を大切にしたい』と言えば聞こえはいいが、『実は面倒なので君たちだけでやっっときなよ』という僕のわがままである。
っと、僕がコーヒーの最後の一口を飲み終えたところで、LINEの通知が来た。
「おっ?」
僕はちょっと嬉しくなり、すぐにLINEを開く。人間というものは、人に話しかけられるとちょっと嬉しくなるものだ。
僕は通知がバイト先の店長であることに気づいて、普通に不思議に思った。なぜ店長が?
内容にはこうあった。
『おい悠! 早くバーベキュー場に来い! まさかと思うが、今日約束の日だということを忘れたのか!? とにかく早く来い!』
あーあ、忘れてた。
今日はバイト先の仲間たちでキャンプへ行く予定だったのだ。
とりあえず『実はめちゃくちゃ忘れてました』という本心を裏返したような『忘れてはいなかったのですが朝は忙しくていけませんでした今から出ます』みたいな内容の嘘まみれの返しを送ってから、僕は外出用の服に着替えた。
*キャンプ場にて*
「ごめんなさい遅れました!」
幸いキャンプ場は僕の家からは電車で10分ぐらいの距離にあったのであまりひどい遅刻にはならなかった。
「遅いぞ悠! もうみんな集まってるぞ!」
「いや、そもそもまだ集合時間には30分ぐらい早いですよ。まだ店長と僕しか集まってないじゃないですか」
この広いキャンプ場には、僕と店長しかいない。ほかの客もまだいない。早すぎる。現時刻、5時30分。
「準備が必要なんだ! そのために君を呼んでいたのになぜ来ない!?」
バイト先の店長、葉山麗華さんは大変憤慨しているらしく、僕に向かって怒鳴り散らしてくるが、そもそも僕がつかねばならない時間は6時である。おかしい。
「とりあえず準備をするぞ!」
勝手な店長ですこと。
「とりあえず七輪をあの店から借りてきてくれ!」
麗華店長が指さしたのは、どうやらキャンプ場でいろいろなものを貸出してくれる店のようだった。この人のことだから人の所から盗んでこいとか言うと思ったが、考えてみればそもそもこの時間に客がいるわけない。実際人っ子一人いない。
「はぁ、一人では寂しくて何もできない店長の代わりに僕が七輪やら何やら一通り揃えてきてあげますか」
「私もこう見えてコンビニの店長なんだぞ!」
店長が何か言っているが僕はそそくさと貸出店へと小走りで向かう。
貸出店は結構綺麗だった。なんでも、このキャンプ場自体最近に建てられたものらしく、この施設もあまり使われていないらしい。そもそも端っこの方にある店で、看板の柄がなぜか迷彩なので、気づいてすら貰えないのかもしれないが、口には出さないでおこう。
「借りてきましたよー。というか、あんなに高いとは……」
七輪一台で3000円もするとは思っていなかった。ちなみに僕の今の財布の中身は全部で1300円である。こんなところでお金を遣わされるとは誤算だった。というか、バイト先の店長が普通は支払ってくれるんじゃないの? ブラックなの? ブラックバイトなの?
「おお! これが噂に聞く七輪か!」
「噂に聞くって……。日本人でありながら七輪の存在を知らないんですか?」
「何を言っている、私は生まれてこの方七輪以外を料理で使ったことがないぞ!」
「それは危ないですね。今すぐIHに変えましょう」
まったく困った店長である。
僕は500円で借りたチャッカマンで同じく500円で借りた着火剤に火を点け、2000円で借りた木炭に火を移し、同じく2000円で借りた釣竿でアユを釣った。
普通釣りというのはみんなで楽しむものではなかろうか? というか、今更ではあるがなぜ最初に火をつけたのだろうか? もしかしてうちの店長は馬鹿なんだろうか? いや、今更だったかな。
「おっ、釣れました」
「私も釣れたぞ!」
僕と麗華さんはほぼ同時にアユを釣り上げ、七輪へと持っていった。
「ちっさ……」
「う、うるさい! 釣りなんてやったことないんだ!」
「僕もやったことないんですが……」
「う、うぅ……」
麗華さんは追い詰められると泣き出してしまうのだ。面白くて毎日やってます。
「さて、焼きましょう」
「うぅ、うまくやってくれよ」
言いながら、麗華さんは僕にアユを渡してくる。
「自分で焼いてくださいよ」
「私は七輪というものを、……というか、およそ料理と呼ばれるものをしたことがないのだ」
「まぁ、知ってますけど……」
麗華さんは食事を全て外食でまかなっているのだ。それではお財布的に良くないので、僕が週5ぐらいで食事をつくりに行ってあげている。
「麗華さんも早く料理覚えてください」
僕は溜息をつきながら、火のついた七輪に近づき、アユの口から尻にまで棒を突き刺して焼いた。
焼けたアユを麗華さんに持っていくと、麗華さんはその豊満な胸を自信満々に張り、全力で宣言する。
「悠、朝ごはんだ!」
とっくに済ませてきたんですが……。
まあ、何を言っても朝ごはんは食べさせられるんでしょう。なら食べましょう。準備で疲れたので。
「いただきます」
「いただきます」
僕の優しさで大きい方を麗華さんに渡したので、麗華さんはとても嬉しそうにアユを頬張る。
ちょうど僕たちがアユを食べ終えた時、バイト仲間たちが来た。もう6時か。
「こんにちわーぁ」
「おっすー!」
「にゃんぱすー」
来やがった。こいつら、僕がこの人類上で一番嫌いな奴らである。嫌いと言っても、関わっていると疲れるだけなのだが。
まず最初に眠そうにやる気無さそうに挨拶した奴が霧原夢叶。やる気がない女の子。
次にやる気マックスに挨拶してきた野郎は黒際義人。やる気はあるがミスが多い。
最後ににゃんぱすーしてきやがったやつは、一番有能な檜山寧。有能ではあるが、とっても変わった子。
さて、今日はこのメンバーでどんなキャンプ物語が繰り広げられることやら。
どうもみなさん初めましてスマイルさんです。
初めて小説を書いてみました。
私が好きな日常系を自分で小説にするというのはなかなか新鮮でした。『特別な行事より日常を大切にしたい』と、そういう思いで書かせていただきました。