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戦え、崩陣拳!  作者: 新免ムニムニ斎筆達
第四章 金行の奸計編
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第八話 工藤要は初めて仲間に甘える。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


 要はひどく息を切らせていた。

 どれくらい全力疾走しただろうか。逃げるのに必死だったため、よく覚えていない。でも、確実に二キロ以上は走ったはずだ。


 『軍隊蟻』の追跡は思いのほかしつこく、そして狡猾だった。

 仲間を先回りさせて挟み撃ちにしようとするのは当たり前。籠城するべくコンビニなどの店に入ると、トイレで敵が待ち伏せていたりもした。とにかく、連中はありとあらゆる場所から湧いて出て襲ってきたのだ。この町すべてが敵のような錯覚すら覚えた。


 体力、神経ともに全く休まる時が無く、要は常に走り続けた。

 日々の鍛錬のおかげか、中学時代では考えられなかった時間を逃げ続けることができた。しかし、さらに時間が経つとそれにも陰りが見え始め、とうとう疲労は荒い息という形で現れた。

 それでも、朦朧とする意識のまま、逃げて逃げて逃げ続ける。


 が、それもとうとう終わりを告げた。


 現在要が棒立ちしているそこは、うらぶれた小さな神社の敷地のど真ん中だった。

 塗料の剥がれかけた古い鳥居から、苔むした石敷の道が奥の社殿に向かって伸びている。すすけた社殿には賽銭箱と叶緒(かねのお)まで続く段差が三段あり、その二段目にどっしりと腰を下ろして座っている人物が一人。


「……お前は…………!!」


 要はこれ以上ないほど瞠目した。


 ボブカットをパーマにしたような金髪に、中性的な童顔。鍵と錠前の絵柄で模様付けされた半袖ジャケット。ハーフパンツ。


 段差に座っていた人物は誰あろう、『五行社(エレメンツ)』の「金」の席に座る人物にして、今回の一連の騒動の元凶、三枝窮陰だった。


「みんな、誘導ご苦労様。それと、あともうひと仕事お願い。逃げられないように彼を取り囲んで欲しい」


 三枝が言うや、『軍隊蟻』たちは迅速に、かつきびきびと動き出した。まるで統率の取れた兵隊のようである。

 あっという間に、周囲を人の壁で塞がれてしまった。


 しまった、と要は思った。

 ここがどこであるかは分からない。必死に走り過ぎていたせいで、ここに来るまでの道程を確認していなかった。無我夢中だったのだ。

 『軍隊蟻』の連中は先回りして何度も襲ってきた。その度に、こちらが逃げられる道は決まって一本しかなかった。つまり行く先々で連中が登場したのは、襲うためではなく、ここまで誘導するためのものだったのだ。


 三枝は腰を上げないまま、一見友好的に見える笑顔で口を開いた。


「久しぶりだね、工藤要くん。何日ぶりだろうね? また会えて嬉しいよ」

「……ぬけぬけと」


 要は口に入った砂利を吐き出すように言った。

 腹が立って仕方がない。

 自分に次々と手下を差し向けたのはまだいい。……それも十分ムカつくが。

 だがこいつはこともあろうに、家族や友達にまで手を出したのだ。

 会って、もう自分を襲わないように文句を言うだけにしようと思っていたが、この顔を見たら一発で気が変わった。

 こいつにはまず一度、痛い目を見てもらわないと気が済まない。


「うっわ、怖い顔だねぇ。何をそんなに怒ってるのかな?」

「自分の胸に聞いてみろ。それとも、わざわざ言ってやらないと分からないくらいアホなのかお前は?」

「辛辣だなぁ。せっかくの再開だっていうのにさ。それで……どうするのかな、キミは?」


 三枝の笑顔に影が生まれる。

 それを合図にしたかのように、周囲の男たちが臨戦態勢となる。


 しかし、周囲には目もくれない。要の視線は、三枝へと集中していた。

 狙いはあいつ一人に絞る。

 この連中は、三枝の一挙手一投足にきちんと反応するくらい、統率がとれている。だがその分、判断を三枝一人に一任している。つまりその三枝を叩きのめせば、連中の動きも連鎖的に鈍くなるはずだ。


 要は意を決し、行動を起こした。

 地を蹴らず、片膝のみを進行させて一歩目。もう片方の膝を、骨盤の展開力で前へ送り出して二歩目。そのたった二歩から生まれる高い速力で、距離を一気に圧迫する。高速移動の歩法『箭歩』だ。

 だが、三枝との距離が約三メートルほどにまでなった瞬間。


「――おわっ!?」


 突然、要の足首に何かが強く食い込んだ。

 その何かによって足を取られ、バランスを崩して前のめりで宙を舞った。

 両足の間から、先ほどまで踏みしめていた位置を俯瞰する。その位置の左右には灯篭があり、その根元と根元の間に白く光る線が一本走っていた。


 ――ギターの弦っ?


 要は『箭歩』による慣性のまま、三枝に向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 希望通り、三枝に近づくことができた。だが今の自分は死に体。何一つできない状態だ。

 すでに立っていた三枝は、爪先を木製の段差の表面に引っ掛ける。そのままブルブルと「タメ」を作る。


 そして、要が懐まで来た瞬間――デコピンの要領で爪先を開放した。


「がふっ――!」


 強烈なインパクトが、自由落下状態だった要の腹部で爆裂した。

 まるで蹴り返されるボールよろしく真後ろへ弾き飛ばされる。

 張られた釣り糸の上に背中で着地。


 じんじんと痛みと衝撃の余韻が残る腹を、要は苦痛に顔を歪めながら強く押さえる。

 苦痛と一緒に、既視感も感じていた。

 さっきの蹴りには見覚えがあった。爪先と地面の摩擦抵抗を使ってデコピンの原理で放つあのキックは、六合刮脚の『磨脚』に酷似していた。

 しかも驚くべきことに、その蹴りからは「初動」が見えなかった。見間違いではない、確かに視認できなかったのだ。

 あの技も鴉間の『太公釣魚』と同じで、「コントロールが完璧な技」なのだろうか。あるいは、それ以外の理由が――


「みんな、一度彼をおとなしくさせておくれ」


 三枝がそう命じた途端、周囲にいる男たちが攻撃の意思を露わにした。

 輪を縮めるように、こちらへ向かって来る。


「くそっ!」


 要は痛みから目をそらし、迅速に立ち上がった。考察している時間はない。


 最初に殴りかかってきた男の拳を小さく動いて躱し、そのまま懐に潜り込んで体当たり。後ろの敵もろともドミノ倒しにする。

 しかし安心する間も無く、今度は背後から敵が踊りかかってきた。そいつには振り返りざまに足底を叩き込む。

 今度は横合いから。垂直に振り下ろされた角材を、体のねじりによって紙一重で回避。そのまま間合いの中に入り込んで両腕を掴み、『浪形把』の勁力を込めた頭突きを叩き込んだ。

 飛び込みながらの前蹴りを避けてから、やって来た男の腹に肘を入れる。要の力に、向かって来る力もプラスされたためか、その男はうずくまって悶絶した。


 絶え間なく次々と舞い込んでくる敵に対し、要はギリギリの速さで対応していく。

 ほんの少しでもタイミングが遅れると収拾がつかなくなるが、それでもこの大人数相手に持ちこたえられている。

 が、そんな不安定なものが、長続きするはずもなく。


「がっ!?」


 脇腹辺りに、勢いの乗った回し蹴りがヒットした。

 横向きに打ち込まれた衝撃によって、要は石敷からはじき出され、雑草の多い土の地面を転がる。

 そして、その転がった先で待ち構えていた男によってまた蹴られた。だが今度はとっさの防御が間に合ったため、それほど痛くはなかった。

 また元の方向へと数度転がり、素早く立つ。


 しかし直立した瞬間、背中に硬い衝撃。


「――っ」


 一瞬、息が詰まった。

 後ろにいた敵から、金属バットのスイングを食らったせいだ。


 うずくまりたい衝動に無性に駆られるが、武器を持った相手は早めに片付けておかないと危険だ。要は歯を食いしばって鈍痛をこらえ、そのバットの男に『撞拳』を入れて沈めた。


 今度はすぐ横にいた男の木刀のひと振りを、後ろへ飛び退いて躱す。足元に生えていた大きな雑草を素早く引き抜き、その根に付着した土を前方へと撒き散らす。目を押さえている数人の男の中から木刀を持っている者を絞り込み、一気に肉薄、再び『撞拳』でダウンさせる。


 自分という一点に集まるように敵が複数迫る。だが要は手に持った雑草を振り乱し、まだ根に残っている土を周囲に振り撒く。男たちは総じて目を潰された。

 その隙を狙って、要は一気呵成に攻め立てた。

 『展拳』『開拳』『浪形把』『旋拳』『纏渦』――知っている技をとにかく矢継ぎ早に繰り出す。思い起こすのは林越(リン・ユエ)との戦い。その時のように、自分の持っている技を数珠のように繋げ、隙だらけになった敵を怒涛の連撃で片付けた。


 角材を振りかぶって突っ込んでくる男の顔に雑草を投げつける。顔面を押さえている隙をついて一撃。そして撃沈。


 要は思わず笑みをこぼした。

 いける。この調子で戦えば、勝てる。

 やっぱり、俺一人の力でも楽勝だった。

 俺は、俺自身の力で、自分の困難に向き合っていける。

 達彦や菊子をわざわざ巻き込まなくても、俺一人でなんとかできる。


 ――かに思われた。


 目の前の男が何かを投げつけてきた。(うり)をかたどったような、小さな楕円形の鉄球だ。

 飛んできたソレを、要は軽く体をひねって避ける。

 が、よく見るとその小さな鉄球には縄がくくりつけられていて、投擲した男の片手と繋がっていた。

 そして、それに気づいた時には遅かった。その鉄球付きの縄は、要の右前腕部にぐるぐると巻き付いたのだ。

 要は拘束されてからようやく思い出した。これは「流星錘(りゅうせいすい)」。縄に(おもり)を付け、それを振り回して戦う中国の武器だ。


 解こうとするが、男が後足に体重をかけて引き寄せる方が速かった。


「うわっ!?」


 右腕に縄が食い込む痛みとともに、要の体はぐいっと引っ張られ、石敷に向かって前のめりに転倒した。


 立ち上がろうとする前に、他の男がこちらの背中に乗って体重をかけてきた。


 要は怖気が立った。

 背筋のラインに、膝で自重をかけられている。

 持ち直せない状態に追い込まれてしまった。

 今の自分は、ピンで羽根を止められた蝶のように身動きが取れない。一番許してはならない状態にさせられたのだ。


 視線の先には、今なお社殿の段差で座り込んだ三枝の姿。


 高みから見下ろすような眼差しで、冷笑を浮かべてきた。


「――思い知ったかい? ボクの力を。ボクは間接的にとはいえ、ここから一歩も動くことなくキミを這いつくばらせることができた。あの知略家気取りの鴉間だってできなかったことさ」


 要は地に伏したまま睨めつける。


 そんな視線など歯牙にもかけず、三枝は次のように持ちかけてきた。


「さあ、改めてキミに聞こうかな。――どうだ? ボクらの仲間になる気はないかい?」


 その口調は、以前勧誘してきた時とは明らかに違っていた。威圧的なニュアンスを秘めているように感じた。


 だが、要の答えは以前と全く変わらない。


「……ふざけんな。何が悲しくて、『五行社』なんかに入らなきゃなんねーんだよ」


 その迷いの無い答えを聞いた途端、三枝は何を言わんやとばかりに首を傾げ、


「キミは一体何を言ってるんだい? 『五行社』に入れ? ボクがいつそんな事言った?」

「……は?」


 喉から、思わず間抜けな声が出てしまう。


 認識のズレを感じたからだ。


 こいつは俺を『五行社』に入れたいんじゃなかったのか?


 『五行社』じゃなかったら、一体どこに入れようっていうんだ。


「工藤くん。ボクがキミに入って欲しいのは、『五行社』じゃない――『軍隊蟻』さ」

「何っ……!?」


 予想だにしないその発言に、要は目を見張らずにはいられなかった。


「思い出してごらんよ。ボクは「仲間になろう」とは言ったけど、「『五行社』に入ってくれ」なんて一言も言ってないじゃないか」


 要は、これまで三枝が言った勧誘の言葉を思い出す。


『鴉間が除名になったことで、『五行社』の「水」が空席なんだ。良かったら、ボクらの仲間にならないかな?』


 これが一回目。

 確かに「『五行社』の「水」が空席なんだ」とは言ったが、「その空席に入れ」などとは一切口にしていなかった。

 「仲間になれ」という発言は、考え方を広げれば「『五行社』に入れ」だけでなく、「三枝の傘下に加われ」という意味にも取ることができる。


『どうだ? ボクらの仲間になる気はないかい?』


 これがさっき言った二回目の勧誘。これも言わずもがなである。


 ――そう。三枝はこれまで一度も「『五行社』に入れ」とは言っていない。決まって「仲間になれ」なのである。


 だが、それを知った途端、ますます三枝の考えが読めなくなり、気持ち悪い感じがした。

 仲間にしたいなら『五行社』にすればいいのに、なぜわざわざ『五行社』を遠ざけるような勧誘をするのか。『軍隊蟻』でなければいけない理由でもあるのだろうか。……無論、どちらにせよ仲間になる気などさらさらないが。


 要は得体の知れないものを見るような目を三枝に向けた。


「……どうして『五行社』じゃなくて『軍隊蟻』なんだ? お前、一体何を考えてる?」

「下克上」


 三枝は一切間を置かずにそう答えた。


「工藤くん、キミが鴉間をやっつけたことは、キミが思っているよりずっと影響力が強いんだよ。『五行社』の一人である鴉間がやられたことで、磐石だった『五行社』のネームバリューが揺らぎ始めたんだ。まだ本格的にナメられるには早いけど、それでも、誰にも恐れられなくなるためのきっかけにはなったんだよ。他の三人は揃って難色を示してたけど、ボクは逆に思った。これはチャンスだ、と」

「チャンス?」

「そう――ボクが、新たに天下を取るチャンスだよ」


 三枝は片手を前に突き出し、それを嗜虐的な微笑を浮かべて握りこんだ。


「ボクはいつか『軍隊蟻』を、『五行社』を凌駕するほどのグループにまで成長させる。そして『五行社』を淘汰し、『軍隊蟻』に神奈川県の覇権を握らせるんだ。だけど今の『軍隊蟻』じゃ力不足が否めない。だからこそ、ボクは優秀な人材を集めて、『軍隊蟻』を強化する必要があるのさ」


 要はようやく腑に落ちた。


「お前が俺を欲しがってるのは、それが理由だったのか」

「そうだよ。今のキミは強い。ボクや「火」、ヘタをすると「木」だって敵わないかもしれない。「土」ははっきり言って別次元の強さだけど、アレにはこの先ゆっくりと近づけばいい。どうやらキミには良い師匠がいるみたいだしね」


 見透かしたような眼差しで見られ、要は気分が悪くなる。


 そして三枝はまたしても、こちらの考えを見透かしたような言葉を放った。


「想像に難くないよ。最初に闘った時には手も足も出なかった鴉間を、わずか数週間という短期間で圧倒できるレベルに成長した所を見ればね。キミには間違いなく超一流の指導者がいる。その指導者の元でもう少し頑張れば、きっと「土」だって超えられるさ」


 さて、と三枝は一区切りし、


「もう一度聞こう。工藤要くん、ボクの『軍隊蟻』に入る気はな――」

「お断りだ」


 言い切る前にそう断じた。

 そんなことしたくないし、興味も無い。

 ましてや、易宝の事について言及されたのなら、なおさら首を縦には振れない。

 あの人は自分の母に向かって土下座するほどまで、自分の修行を尊重してくれている。それはきっと、自分が崩陣拳を悪用しないと信じてくれているからだろう。

 ここで三枝の提案に頷けば、そんな彼の信頼を裏切る事になってしまう気がするのだ。


 しかし、三枝はこちらの意見をちっとも聞き入れる気が無いかのように、ぺらぺらと陽気に語りだす。


「メリットはきちんとあるよ。まず一つに、お金がもらえる。ボクは『五行社』の他のメンバーと違ってケチンボじゃない。自分の下部グループが得たお金は根こそぎ持ち帰るのが『五行社』のルールだが、ボクは『軍隊蟻』に、得たカツアゲ金の三割を報酬として渡している。当然バレたら更迭どころか制裁ものだから箝口令を敷いてるけど、ボクには確かに部下に利益をもたらす力があるんだ。そしてもう一つのメリット、それは――キミと、キミの周囲の人たちが傷つかずに済むこと」


 要は息を大きく呑んだ。


 三枝の言わんとしていることが、一瞬で理解できたからだ。


「ここ数日間、キミはたくさんの襲撃を味わったはずだ。それこそ、普段の生活を侵食するほどにね。何度も襲われて疲れただろう? 精根尽き果てそうだろう? もしボクの仲間になれば、もう『軍隊蟻』には襲わせない。ずっと恋しかったであろう、平和で安全な学園生活をキミに返してあげよう。キミだけじゃない。キミが好きな人たちを襲わせるのもやめる。そのご自慢の拳法でちょっと誰かを脅してお金をもらうだけで、お小遣いが増えて、おまけに身の回りの安全まで保証されちゃう! どうだい? この不況続きの時代で希に見る好条件だと思わない?」

「ふざけんなっっ!!!」


 とうとう我慢ならなくなり、要は本気の一喝を発した。


 しかし三枝は少しもひるむことなく、煽るようないやらしい笑みと口調で言った。


「――そういえば、あの髪伸び放題で陰キャラっぽい娘、確か倉橋菊子っていったかなぁ? 調べてみたけど、あんなもっさい見た目に反して相当なお嬢様らしいね。これは絶対死ぬほどお小遣いもらってるよ。良いカモになりそう。一緒にいるリアル執事が死ぬほど邪魔だけど、アレを引っぺがす方法なんてボクならいくらでも思いつくよ? 現に今、使えそうな方法が27くらい頭に浮かんでるし」

「――っ!!」

「そういえば、キミのお母さんって美人だよねぇ。とても高校生の子を持つ親には見えないよ。『軍隊蟻』の中に、キミのお母さんが好みだって奴が何人かいるんだよね。ボクはあまり大それた事はしないように厳命してるけど、連中は勝手に動くかもしれない。さあどうしよう、困ったゾ☆」

「――!!」


 どれも遠回しな言い方だが、いずれも脅しであることは明らかだった。


 人の大切なものを盾に取る卑劣なやり方に、要は憎しみにも似た強い怒りを覚える。


「そう怖い顔で睨まないでよ。キミさえ「うん」と頷けば、キミの周りの人たちは傷つかずに済むんだ。キミは今まで――なんでも一人で切り抜けてきたんだろう? 今回もそうすればいいじゃないか。簡単な話さ」


 空は限りなく黒に近い灰色で覆われている。

 水滴が、天からぽつりと手の甲に落ちる。

 それを皮切りに、一気に無数の雨粒が降り注いできた。

 要の背中と、周囲にあるものを大粒の雫がしたたかに叩く。


 そして次の瞬間、近くにそびえていた白樺(しらかば)の木に青白い閃光が突き刺さり、切り裂くような轟音が耳を貫いた。


 雷が落ちたのだ。


 しかし、そんな大自然の怒号を体現したようなその轟音さえ、今の要には他人事のように感じていた。


 ――そうだ。不本意極まりないが、自分さえ妥協すればすべてが丸く収まる。

 こいつらが襲ってくれば、達彦だって簡単にやられてしまう。

 なら、そうならないようにするしかない。いつでもどこでも一緒にいて、助けられるわけじゃないのだから。


「俺は……」


 もう、答えは決まっていた。

 この答えを出せば、自分はこいつらと同じ穴のムジナになる。

 周囲の人間から軽蔑を買い、今まで築き上げた信頼を失うことになるだろう。

 だが、それでも構わない。


 だって――ずっと一人だったから。


 これまであったものが無くなるだけだ。

 元通りになるだけだ。

 それで誰も傷つかなくて済むのなら――


「俺は……お前たちの仲間に…………」


 あと一言「なる」と口にすれば、それで終わる。


「な――」


 あと一文字。


 そして――











「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」











 けたたましいエンジン駆動音とともに、そんな叫喚が轟いた。


 かと思えば、後ろ側――この神社の入口の辺り――から、ドスンッ、と重い何かが落下するような音がした。


 排ガスの匂いが、鼻腔をきつく突いた。


「ちょっ、危ねぇなオイ! たった二段とはいえ、石段を車輪で乗り越える奴があるか!? モトクロスじゃねぇんだぞ!?」

「す、すまない。走り屋だった頃の血がたぎって、ついね」


 落下音のした方向から、話し声が聞こえた。二人分だ。


 ――その二つとも、聞き覚えのある声だった。


 要は首だけを必死に動かし、後ろを見た。


 そこには、いぶし銀の大型二輪にまたがった二人組。

 フルフェイスヘルメットのせいで顔は見えないが、体格からして両者とも男だとわかる。そして――先ほどの声も判断材料になっていた。


 二人はヘルメットを脱ぎ、素顔を露わにする。


 そこには、予想通りの顔ぶれ。




 達彦と、竜胆だった。




「……なんで」


 要は思わずそう呟く。


 心に三つの情緒が同時に生まれる。

 この二人がここに来た事への驚き。

 ここへ来た意味の不明さ。

 そして、「どうして来たんだ」という非難の感情。


「よお、要。数時間ぶりだな。なんか随分大変そうじゃねぇの」


 達彦は普段の会話のような気軽さで話しかけると、竜胆にヘルメットを渡し、バイクから降りる。


 竜胆もエンジンを止めると、二つのヘルメットをハンドルに引っ掛け、同じく降車した。


「おや、誰かと思えば、工藤くんのお友達の二人じゃないか。一体何の用かな?」


 三枝がそう二人に尋ねる。その声質は温厚そうでいて、歓迎していない冷ややかな響きも含んでいた。


「決まってんだろ。お友達のやる事は一つだ。お前らが今イジメてる俺らのお友達の助けに来たんだよ。ついでに、人のお友達を散々こねくり回した挙句、悪の道に引き込もうと企んでやがるウスラバカどもにお仕置きするためにな」


 そう言う達彦は口元に微笑みこそ浮かべていたが、目が全く笑っていなかった。


 それに反応したのか、男たちが一斉に警戒心を表した。


「……面白い冗談だなぁ、鹿賀達彦くん。キミ風情が、ボクの『軍隊蟻』相手に太刀打ちできると? それ冗談だよね? そうだって言って欲しいなぁ」

「冗談なわけあるかよ。むしろテメーら、自惚れが過ぎるんじゃねぇか? ハナっから相手を舐めてっと、足元掬われるぞ」


 三枝と達彦の間に、剣呑な雰囲気が生まれた。


 要は強い焦りを感じ、慌ててまくし立てる。


「や、やめろ達彦……! 竜胆ならともかく、お前じゃ無理だ! 早くどっか行け!」


 だが達彦は、そんな自分の必死な訴えを一笑に付した。


「おいおい工藤要さんよ、そんな情けねぇカッコで威張られても説得力ねぇぜ。つーか何だ、その体たらくはよ? お前はあれだけ大勢いたヌマ高の連中を一人で叩きのめした逸材だろぉ? そんな雑魚ども相手に何手こずってんだよ」


 変わらず、世間話でもするかのように軽い達彦の口調。


「だがまぁ、仕方ねぇか。お前がどんなに凄かろうと、結局、一人の力には限度ってもんがある。加えてそいつら、狡い手が随分上手いみてぇだしな。真っ直ぐバカのお前じゃなおさらキツかろうよ。だから心優しいお友達の俺らが、そんなアホなお前のお助けマンになってやんよ。ありがたく思いやがれ」


 達彦はそう言って、ニッと人の良い笑みを見せる。


 そして、歩を進め始めた。


「まあ、俺も乗りかかった船ってことで、力を貸そう」


 竜胆も諦めたように小さく笑い、そんな達彦に続く。


 二人は並んで、こちらへ向かって真っ直ぐ歩み寄ってくる。

 眼前には、大勢の男たち。武器を持った者もいる。

 にもかかわらず、二人の一歩一歩には迷いや躊躇が全くなかった。


「誰が雑魚だコラァー!!」


 すると、早速金属バットを持った三人の男が、達彦めがけて駆け出した。


「達彦っ!!」


 要は叫ぶ。


「くたばりゃぁ!!」


 三人は走りながら、同時にバットを振りかぶる。


 達彦との距離が十メートル、八メートルと縮まっていく。


「全然遅ぇよ」


 が、達彦がそう悪態をついた瞬間――その距離がほぼ一瞬にしてゼロになった。


「がっ……!?」


 呻きが聞こえた。

 達彦が三人のうちの一人の懐まで接近し、その土手っ腹に拳をめり込ませていたのだ。

 その男は膝をついてドサリ、と倒れる。

 その音で、残りの二人はようやく達彦の接近に気がついたようだった。


 二人はゾッとした顔で後ずさる。彼らが達彦に向ける眼差しは、異常者を見るソレだった。


 ――かくいう要も、同じ目で達彦を見ていた。


 なんだ、今のスピードは。

 動いたと思った瞬間には、すでに達彦は何人もの残像を追従させながら、敵の一人に急接近していた。とんでもない速度だった。

 ただ速いだけじゃない。動きの質も普通ではなかった。足腰の瞬発力を利用した力強い走りとは全く異なる。速度に途切れがない流れるような動き。

 今までの達彦が、全く見せたことのない動き。


 ――それは初めて見るようで、どこか既視感を覚えるものだった。


 しかし、その既視感の理由を考えている暇はなかった。


 棒立ちしていた二人の男は我に返り、武器を構えて再び達彦に接近していたのだ。


 金属バットが稲光を反射して煌き、達彦めがけて弧状の軌跡を描いた。

 しかし達彦の姿が、バットの目標位置から突発的に消えた――と思った時には、二人のうち一人の側面に移動し、腹に膝蹴りを入れていた。そいつは持っていたバットを落とし、地に膝を付いてうずくまる。

 達彦は残ったもう一人へと急速に肉薄。

 手早い攻め込みにまごついている男の間合いに入ると、達彦は重心の乗った後足と背中を波打つように激しく蠕動(ぜんどう)させ、踏み込みとともに双掌打をしたたかに打ち込んだ。


「――『猛虎推山(もうこすいざん)』」


 ドズン、という重低音がした瞬間、男は背を深く丸めながら大きく真後ろへ吹っ飛んだ。


 そいつがやられた事が、本格的な着火剤となった。静観していた他の男たちも怒号を上げて我先にと飛び出し、達彦と竜胆めがけて襲いかかった。


 人数差は、言うまでもなく歴然だった。

 しかし二人は、その圧倒的軍勢を前に臆する事なく立ち向かい、そして次々と蹴散らしていく。

 竜胆の立ち回りは、相変わらず見事だった。足を手と同等か、あるいはそれ以上の器用さでコントロールしている上、一蹴り一蹴りがとてつもない圧力と鋭さを兼備していた。伊達に毎日修行してはいない。


 しかし、要は竜胆よりも――達彦の戦いにひたすら注視していた。


「おらぁ!!」


 男が竹刀を振り下ろす前に、達彦は瞬時に接近。手のひらで柄尻を押さえて竹刀の降下を止め、正拳を鋭く打ち込んでダウンさせた。

 素早く竹刀をひったくり、地面と並行になるように頭上で構える。そして、後ろから木の棒を振り下ろしてきた男二人の一撃をガード。腕が上がってがら空きとなった二人のボディへ、迅速に爪先蹴りを叩き込んでひるませる。

 横合いからやって来た敵に向かって竹刀の先を伸ばし、胸の片方を突く。その痛みで硬直しているところへ即座に近づき、脇腹に回し蹴りをぶち当てて倒す。


 以降も、驚く程順調に敵を蹴散らしていく達彦。


 要は自分の置かれた状況などすっかり忘れ、食い入るようにそれを見ていた。


 ――今までの達彦とは、何もかもが劇的に違っていた。


 こう言ってはなんだが、達彦は以前まで「ケンカが強い素人」レベルの強さと技術しかなかった。圧力と勢いはあっても、そこにテクニックや鋭さ、速さが伴っていなかったのである。良く言えば盛強。悪く言えば粗雑。

 しかし、今の達彦はどうだろう。

 彼の五体が紡ぎ出す一挙手一投足からは、不必要な勢いや圧力が消え、代わりに速さとしなやかさ、そして鋭さが顕著に見て取れた。まるで無骨な鋼の塊が、美しく切れ味に優れた日本刀に変わったかのように。

 思えば、さっきの掌打。普通、強い打撃を打つには、ある程度距離を取らないといけない。しかし達彦は極めて近い間隔から、それもかなりコンパクトな動作で、人間一人が吹っ飛ぶパワーを発揮したのだ。

 掌打なんて、ケンカではまず使わないであろう打撃方法。それを率先して使ったのだ。

 回避の時も、ただ避けるだけでなく、自分にとって有利な位置取りも同時に行っている。


 何度も言うが、今までの達彦とは、動きの質が全く違っていた。


 そう、明らかに――武術的な匂いがした。


 要がそう考えた瞬間だった。

 達彦は石を投げてひるませた敵に向かって、風のようなスピードで近づき、拳を打ち込んだ。達彦よりも大柄だったその男は、まるで支えを失ったように崩れ落ちた。


 ――先ほどと同じ、謎の加速移動。


 二度目のソレを見た瞬間、ある答えが要の脊髄を電撃的に駆け抜けた。


 それは、さっきまで抱いていた既視感の正体。




 間違いない。あれは――走雷拳だ。




 普通に走ったのでは絶対に出せないであろうスピード。断絶が無い、川の流れのような等速運動。

 これら二要素を兼備する歩法を使う武術は、走雷拳以外ありえない。

 そして、その考えが正解であると言わんばかりに、


「『抜歩衝捶』」


 達彦がグッドタイミングに見覚えのある技を使って、敵を打ち倒した。

 重心の乗った後足を引っこ抜くように浮かせて前に運び、自重を衝突させる突き技。あの技は夏臨玉の元弟子、林が自分に使ったのと同じ技。

 それこそが、確たる証拠だった。


 達彦が使う技が走雷拳であるとなると、習える場所は限られてくる。

 この海線境市で走雷拳を習えそうな人といったら、臨玉しか思い浮かばない。

 いつだったか、聞いた事がある。臨玉から武術を学んだ者は多く、それこそ世界中に存在すると。その点から考えるに、教えを請う者を必ずしも拒んだりはしないはずだ。


 しかし、それを前提にしても、まだ疑問は残る。

 達彦は一体いつから、走雷拳を学んでいた?

 易宝曰く、走雷拳はひとたび身につければ強力な拳法だが、その分、習得に時間がかかるらしい。それこそ、一年必死に修行して、ようやく実用可能レベルの最低ラインに達することができるというくらいに。

 だが、達彦がずっと前から走雷拳を習っていたことは考えにくい。それなら、自分は一度だって達彦にケンカで勝つことはできなかったはずだ。


 一体、どうなっているのだろうか。


 そうこう考えているうちに、分厚い壁のように並んでいた敵の層が、達彦たちの猛攻によって薄くなっていた。


 その薄くなった層の一点を突進して無理矢理こじ開け、二人はその奥――つまり、自分がいる場所まで到達した。


「邪魔だ!」


 達彦は流星錘を持っている男、そして要を押さえつけている男を即座に殴り飛ばす。


 そして、うつ伏せになった要の腕を引いて、立ち上がらせてくれた。


 周囲の敵は緊張した面持ちでこちらと距離を取る。自分たちを一方的に蹴散らす実力を持った達彦と竜胆に加え、要まで復活したからだろう。


「おい、大丈夫か」


 真剣な声と顔つきで達彦は尋ねてくる。


 要はそれに一度頷くと、


「達彦、それって走雷拳じゃ……?」

「ご名答。よく分かったな? さすが拳法少年」

「いや、だって……ていうかお前それ、誰から習ったんだ?」

「倉橋んちの執事やってる、夏臨玉って人だよ」


 ……やっぱりそうだったか。


 だがそうすると、また新しい疑問が出てくる。


 どうして達彦は――


「どうして――拳法に手を出そうと思ったんだ?」


 生まれた疑問をそのままぶつけると、達彦はもったいぶるような顔で、


「知りたいか?」

「いいから教えろよ」

「……はいはい」


 達彦はつまらなそうに頭をかくと、ジッとこちらへ目を向けてきた。

 怒ってるいるようで、それでいてこちらの身を案じているような、そんな眼差し。




「お前が、俺を”除け者”にするからだ」




 静かな怒気を孕んだ声で、達彦はそう答えた。


 言っている意味が分からなかった。


 除け者って、何のことだ?


 それを問う前に、達彦の方から再び話を再開させた。


「お前さ、内心じゃ俺の事見下してんだろ? いや、俺だけじゃねぇ、倉橋も、倉田や岡崎も、みんな自分よりも下だと思ってんじゃねぇのか?」

「え……」


 予想もしない、そしてあんまりな質問に、要は数秒間唖然とする。


 そしてムキになり、反論するように答えた。


「ふざけんなよ、そんなわけがあるか!」

「ほーそうかい。なら、何で一度でもこう頼んで来ねぇ? 「俺を助けてくれ」ってよ」


 ……おそらく、今朝の事を言っているのだろう。


「それは、お前らじゃこいつらに勝てないかもって思って……」

「ほら見たことか。やっぱ見下してんじゃねぇか」


 要は必死に言い返した。自分の置かれた状況などすっかり眼中から外れていた。


「違う! 俺はただ、お前らを巻き込みたくないだけだ!」

「そりゃどうしてだ?」

「決まってるだろ! 仲間だからだ!」

「そうかい、俺らはダチなのかい。そう思うんなら――なおさら甘える事を覚えやがれっ!!」


 突然の怒号に、要は体をビクッと震わせた。


 達彦はこちらの胸ぐらを掴み上げ、火を吹くように言い募った。


「はっきり言ってやる! 俺は今まで、死ぬほどお前にムカついてんだ! そのムカつきが始まったのはひと月前! 女子の先輩に頼まれて『五行社』の手下どもとやりあった時、お前は殴られて尻餅ついた俺に「後は俺一人でやる」と言いやがった! あの時、俺はまだやれた! なのにお前はそんな俺の調子を聞くことなく、遠回しな戦力外通告を一方的にくれやがった! それだけじゃねぇ! ヌマ高の奴らから逃げてばっかだった時期も、お前は誰一人として頼ろうとはしなかった! 極めつけは今朝の事だ! 車が行き交う道路に突き落とすようなイカレ野郎共に狙われまくってるってのに、また一人でなんとかしようとしやがって!! 今まで我慢してたが、もうマジでムカッ腹が立って仕方がねぇんだよクソッタレ!!」


 あまりにも理不尽な言いがかり。しかも長い。


 だが、「やかましい」と耳を塞ぐ気にはなれなかった。


 だって、一声一声に、強い気持ちがこもっているような気がしたから。


「……だから俺は夏臨玉老師を訪ねて、拳法を習った。もう二度とお前に無自覚に見限られて、除け者にされねぇようにな。俺は――工藤要と同じ”高さ”に立ちたかったんだよ」

「達彦……お前……」

「だから、お願いだ。正直に言ってくれ。「一人じゃ無理だから助けろ」って。もうこれ以上、俺を除け者にしないでくれ」


 達彦の口調が、一気に弱ったものになっていく。

 そのトーンダウンを聞いて、要は胸が締め付けられる思いがした。

 こんなふうに弱る達彦は、滅多に見ないからだ。

 それゆえに、自分が無自覚とはいえ、どれだけ彼を傷つけていたのかを痛感した。


 ――俺はバカだ。


 万能人間にでもなったつもりか。

 一人で何でもできる? そんなわけがあるか。だったら、どうしてこんな状況になってるんだ。

 自分が今までやっていたのは、自立でも何でも無い。ただの自己中心的な独りよがりだ。

 苦しむのは自分一人だけでいい、などと自惚れたことばかり考え、走り回っていた。その様子を見ている人の気持ちなど露ほどにも考えずに。

 おまけに、その人たちを傷つけまいと思いながら、その全く真逆の結果になる選択をしようとしていたのだ、さっきまでの自分は。


 本当に、自分の馬鹿さ加減を呪いたくなる。


 きっと菊子だって、達彦と同じか、似たような事を思っていただろう。

 「自分は、自分だけのものではない」。そんな言葉を学校で習ったことがある。

 その言葉の意味と重みを、今日ほど思い知った事はない。


「……そうか」


 そう。自分のスタンスは間違っていたのだ。


 誰かに甘えたり、泣きついてさえいれば、最初からこんなに苦しむ事はなかったのだ。


 それを自覚し、認めた瞬間、心がすっと晴れやかな気分になった。


 難しい事は考えなくていい。


 間違えていたなら――それを正せばいいだけなのだから。


 要は胸ぐらを掴む達彦の手をそっと解く。力が弱まっていたため、簡単に外れた。


「…………二人とも、お願いがあるんだ。俺一人じゃ、ちょっとキツくってさ」


 驚愕したように瞠目する達彦、そしてその傍らで腕を組んで立つ竜胆の両者を見る。


「俺一人じゃ、この状況は切り抜けられない」


 さらに続ける。


「だから」


 再び区切り、大きく息を吸い込む。


 そして、吐いた。




「――手伝ってくれ、二人とも!」




 達彦の目が、これ以上ないほど見開かれた。


 竜胆も、少し目を丸くしている。


 だが、やがてすぐに、


「――おう、任せとけ」

「――心得た」


 二人同時に心強い笑みを作り、頷いた。


 それだけで、要はまるで分厚い鋼鉄の壁に守られているような頼もしさを感じた。


 “三人”は、今なお多勢を保っている『軍隊蟻』を見据える。


 ――勝負は、これからだ。


読んで下さった皆様、ありがとうございます!


最近、オフで面白そうな中華料理の本を見つけて買ったのですが、切り取られた豚さんの頭やお猿さんの(以下略)などの写真がわんさか載っててギョッとしました。そうだった、中華ってそういう凄まじい側面もあるんだった……((((;゜Д゜))))

でも写真付きはさすがに強烈でした。

本ってよく見てから買わないと後悔するから、みんなも気をつけてね♫

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