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戦え、崩陣拳!  作者: 新免ムニムニ斎筆達
第三章 水行の侵食編
68/112

おまけ 登場した門派・用語・技法

★登場した門派


奇影拳(きえいけん)

 燕青拳(えんせいけん)の不規則かつ複雑怪奇な移動パターンと、酔八仙拳(すいはっせんけん)狗拳(ぐけん)などのアクロバティックな動作を組み合わせて作られた拳法。

 変則的な動きを最大限に活かして、形式にとらわれない、ありとあらゆるフェイントを得意とする。さらにそのフェイントによって、相手の体のどこかに「(きょ)」を作り出し、そこを攻撃する。

 「虚」とは、人間の意識外に置かれた身体部位のこと。殴られると分かった上で殴られるのと、何も知らされずにいきなり殴られるのとでは、例えパンチの衝撃は同じでも、受けるダメージは後者の方が大きい。奇影拳ではフェイントによって相手の意識を偏らせて「虚」を作り、そこを打つことによって、実際の威力以上のダメージを与える打法を得意としている。まさしく「正々堂々、真正面から不意打ちができる拳法」である。

 アクロバティックな動作に対応すべく、習得には優れた体幹力が要求される。


蛇鞭掌(じゃべんしょう)

 ???


艮拳(こんけん)

 ???


★登場した用語


高手(ガオショウ)

 中華武芸を嗜む者の究極体。中国語で「名人」や「達人」という意味。

 自身の肉体に最も合った拳法を気功術とともに高い水準で身につけ、なおかつ途方も無い数の実戦経験を積むことで、ある日突然到ることができる。しかし肉体に最も合った拳法は人によってそれぞれ異なり、なおかつ『高手』になるまで分からない。そのため才能ではなく、自分に合った拳法と出会うことのできる良運が求められる。

 高い身体能力に気の功夫、弾丸の動きすら先読みできる攻撃予測能力を持ち、常人をはるかに超える戦闘力を誇る。単独の実力は、最低でも軍の特殊部隊一個小隊に比肩する。

 また、老化スピードが常人に比べて緩やかであるため、外見と実年齢の齟齬が激しい者が多い。




★登場した技・技術


『「初動」を見る能力』

 人間や動物が、動作を行う直前で無意識に見せる微細な動きを「初動」といい、それを見抜く眼力。

 さらに、見抜いたその「初動」から相手の次の動きを先読みし、ワンテンポ速く対応することができる。

 ただし、肉体の操作を極めた『高手』の動きや、長年の反復練習によって動作過程のコントロールが上手くなった技からは「初動」が読み取れず、先読みできない。


『「点・線・面」の理論』

 崩陣拳だけでなく、太極拳や八極拳でも用いられている攻防理論。

 防御などによって相手の体に触れ、そこから接触面の形を「点」「線」「面」のいずれかに交換することによって、相手の死角や間合いの中へと容易に入り込む事ができる。

 最小限の動作で防御や反撃を行えるため、体力の温存にも役立つ。


箭歩(せんほ)

 崩陣拳の高速移動の歩法。

 たった二歩で、十メートルもの距離を一気に詰めることができる。

 前膝を進めて一歩目。着地後、ウエストと骨盤を同方向へ捻る力を用いて足を前に出し、二歩目――それらの二歩を、前方へ伸びる一本の線上をなぞるように踏み出すことで、運動量を小さく圧縮し、推進力を倍増させる。

 おまけに、二歩とも後ろ足で地を蹴らずに踏み出すため、普通に二歩踏み出すよりワンテンポ速い。

 ストップすると同時に『撞拳』を放つことも可能。


浪形把(ろうけいは)

 崩陣拳の実戦技法の一つ。『展』の発力法を応用した技。

 『展拳』と同じ要領で後ろ足と腰背部を真上に伸ばしてから、すぐに重心を前足へと移動させる。その踏み込みによって、後ろ足と背中の伸びで作った力のベクトルは、前へ波打つようなアーチ状に変化する。そのアーチ状の勁の流れに好きな打撃部位を乗せ、敵に叩き込む。

 全身のあらゆる部位で勁力をぶつけられるため、変化が多彩。

 「(ろう)」とは、波のこと。


纏渦(てんか)

 崩陣拳の実戦技法の一つ。『旋』の発力法を応用した技。

 寸勁の一種。

 相手の体表面に拳を添える。その状態から足底と腰の捻り、引き手の力を同時に引き出し、それによって添えた拳を突き出す。さらにその拳にもジャイロ回転を加えることによって、足底と腰で作った螺旋力をさらに極大化させ、相手へ抉るように正拳を突き刺す。

 ゼロ距離から莫大な勁力を叩き込むことができ、その威力と貫通力は凄まじく高い。

 力の伝達が非常に速く、動き始めた瞬間からすでに勁力を発しているため、一度発動されたら走雷拳でも避けるのは困難。


三才擊脚(さんさいげききゃく)

 六合刮脚の技。

 高速で放つ三連蹴り。

 一撃目で顔面を蹴りつけて相手をひるませ、二擊目で緩んだ足元を払い、そして死に体となった相手の腹に三擊目の蹴りを叩き込む。

 一撃一撃にきちんと意味があり、上手く決まれば自分より大きな相手も容易く吹っ飛ばせる。


仆腿式(ぼくたいしき)

 中国拳法の基本的な立ち方の一つ。

 重心をかけた片足を深く沈め、もう片足を足刀にして真横に伸ばすという、変わった立ち方。

 伸ばされた足刀には(くさび)を打つような、横へ突っ張る力が働いている。その力を利用して、敵の足を払うこともできる。


献酒腕打(けんしゅわんだ)

 奇影拳の技。

 沈めた腰を回転しながら急激に上げ、遠心力を込めた鶴頭で相手を打つ。

 腰を落とすことで相手の意識を下半身に偏らせてから、「虚」となった上半身を打つ攻撃。

 酔八仙拳にもこれと似た動作がある。

 鶴頭にした手の形が酒杯を持っているように見えるため、この名がついた。


騰空戳穿(とうくうたくせん)

 奇影拳の技。

 空中を回転しながら移動して、相手の背後を取る。そこから回転運動を直線運動に変える要領で爪先蹴りを突き出し、背中へ叩き込む。


黒虎出洞(こっこしゅつどう)

 奇影拳の技。

 深く屈曲させた軸足のバネを一気に開放し、その力を利用して突きを放つ。


公牛頂貫(こうぎゅうちょうかん)

 奇影拳の技。

 全身を回転させてから、その回転運動を膝の突き出しによって直線運動へと変換し、推進力へと変えて高速移動する。

 ハンマー投げと同じ原理。

 技名は「雄牛が角で突き刺す」という意味。


太公釣魚(たいこうちょうぎょ)

 奇影拳の技。鴉間の切り札。

 相手の至近距離から急激に後退することで、相手の視線を引き寄せ、同時に無意識に足を前へ進ませる。そして、我知らず近づいてきたその相手に向かって突っ込み、打撃を叩き込む。

 相手は、自分から敵のいる方へ進んでいることに気がついていない。そのため、相手の目にはあたかも敵が瞬間移動してきたかのように見える。そして、対応も間に合わずにやられてしまう。

 また、無意識とはいえ足が前へ進んでいるため、その途中で方向転換しようとすると足の進路がどっちつかずになり、重心が崩れてしまう。そのため、一度技が始まったら、相手は多方向へ逃げることもできなくなる(ただし、前へ進む分には問題ない)。

 理屈を見破られない間は非常に重宝する技だが、一度見破られたら途端に役に立たなくなるという両極端な技。

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