第十一話 選ぶべき選択肢
「――なぁ、やっぱやめないか?」
前方数メートル先に佇む竜胆に向けて、要は億劫げにそう提案する。
竜胆によってドラッグストアから再びバイクで移動して連れてこられたのは、人気のない小さな空き地だった。
四角形状に切り取られた土地で、一番奥に立ち並ぶ石塀以外の三辺が古い虎フェンスで囲われ、外の土地との隔たりを作っている。しかしそのフェンスのうち一枚が横倒しになって、外との隔たりに穴ができていた。要は竜胆の後をついて行く形でそこへ入ったのだが、見ると、倒れているそのフェンスの表面には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた紙が雨よけのビニールに包まれた状態で貼り付けられていた。鴉間といいこいつといい、自分の周りには平然と不法侵入をやらかす奴が多いと思う今日この頃だった。
……いや、本当に問題なのはそんなところじゃない。
要はその問題に関する疑問を竜胆にぶつけた。
「なんでいきなり試合なんかしないといけないんだよ? やっぱり……俺に恨みがあったりするのか?」
「だからもう無いって。これ言うのもう三度目だよ?」
「じゃあ、なんで試合しようなんて……」
「君の実力を久しぶりに見たいと思ってね。いいだろう? ここならうるさい警察に見つかることもない。案ずることなく存分にやり合えるよ?」
そう言うと、竜胆は片足を退いて半身に構えた。
本人の中ではすでに決定事項になっているのかもしれないが、要からすれば、いきなりこんなふうに勝負を申し込まれても闘争心の一つも持てなかった。
「そんなこと言われたってあんまり気が進まねーよ。あんたは世界一の蹴り使いを目指してるんだろ? だったら半端な気持ちで勝負に臨まれても嫌だろうよ」
要がそう言った途端、竜胆はお手上げのポーズよろしく両手を耳元に掲げ、小馬鹿にするような口調で告げてきた。
「……ああ。なるほどなるほど。オーケー、分かったよ。察した。つまりアレだ。君は怖いわけだ、俺が」
「……なんだと? 俺がいつそんなこと言ったんだよっ?」
思わずカチンと来た要が苛立たしげに返すと、竜胆はさらに饒舌さを保ちながら続けた。
「そうだね、確かに「言っては」いないね。でも心の中では思ってるんじゃないのかい? 「二ヶ月前の一戦はまぐれ勝ちだ。実際の実力では、俺は竜胆には手も足も出ない。だから試合には応じたくない。痛い目にあうのが怖いし、何より勝ち逃げできる」といったところかな」
「そんなこと思ってねーよ!」
ムキになり、思わず大きな声が出た。
竜胆は口端を挑戦的に歪めると、
「なら試合に応じることができるだろう? 痛い思いから逃げたい気持ちがあるわけでもなく、勝ち逃げする気も無いのなら、その証明として俺の挑戦を受けてみたまえ。これは強制じゃない。敗北や痛みを恐れずに立ち向かうもよし。さっきの敗北を引きずり続けて負けグセを付けるのもよし。全ては君次第だ。ああ、ちなみにもし試合に応じなかったら、俺の中の君の評価は「臆病者」に上書きするから。そこのところよろしくね」
「……ああ、わかったよ! やるよ! やればいいんだろ!」
要は投げやりにそう吐き出すと、ドスンと一歩前に踏み出した。言いたい放題言いやがって。
「――よし。さっきよりもいい顔つきになったね。」
狙い通り、とでも言わんばかりに竜胆は薄笑いを浮かべる。
その顔を見て、要はようやく自分が乗せられてしまった事に気がついた。
引っかかった。さっきの敗北まで引き合いに出されたことで苛立ちが助長され、つい感情的になってしまい、竜胆の希望通りの答えを出すように誘導されたのだ。
しかも、もう試合に応じる意思を示してしまった。一度はっきりと宣言してしまった手前、退くのは矜持が許さない。
――くそっ。こうなったらもうどうにでもなれ。
要は忸怩たる思いを抱きながらも、ヤケ気味な手つきで『百戦不殆式』の構えを取った。少なくとも、ここに来たばかりの時よりは気力が湧いていた。
竜胆も納得したように一度頷くと、自らの構えに意気を注いだ。下半身に建築物の基礎のような磐石さが生まれ、姿勢がしっかりしたものになる。
「簡単なルールを決めよう。先に関節を極められたり、脱却不可能な体勢で地面に押さえつけられたりした方の負けだ。異論はあるかい?」
要は無言でかぶりを振る。
「オーケー。それじゃあ――行くよ」
竜胆は言い終えるや、疾駆。
やや低い腰の高さで、地に吹く木枯しのような勢いをつけて急迫してきた――かと思えば、突如時計回りに急回転。
見覚えのあるその初動に、要は反射的に両腕を右側に立てて構えた。
そして、竜胆は予想通りの動きをした。振り向きざまに骨盤を急激に右へ展開。鋭い鞭の一振りと化した右脚が要に襲いかかる。回転による遠心力と骨盤の展開力を用いた強力な払い蹴り。六合刮脚の『旋風擺蓮』だった。
要は全身を緊張させて、その直撃に備えた。以前は防げない一撃じゃなかったはずだ。それに俺だって今では下半身の力が上がってる。前と違って大きく滑らされたりはしないはずだ。
だが、それは甘い想像だった。
竜胆の右足が、要の両腕へ叩き込まれた瞬間、
尋常外な衝撃とともに――足元に浮遊感が訪れた。
え――!?
両腕にやってきた凄まじい圧力と痛みより、要はその浮遊感の方に気を取られていた。
自分が竜胆の蹴りによって吹っ飛ばされて宙を舞っていることに気づいたのは、背中から地面に着地した時だった。
背中に硬い衝撃を感じるとともに、派手に砂煙が舞い上がる。
その空き地の地面には石ころや砂利の類がなかったため、それに体をぶつけて二次災害的ダメージを受けることもなかった。もしかしたら、それも考えた上でここを試合の場にしたのかもしれない。無駄な苦痛を与えぬように、と。
そんな竜胆の心遣いはありがたいが、今はそれよりも看過できない問題があった。
今なおバイブレーションよろしく震えを帯びている両腕を仰向けで見上げながら、要は確信する。
――蹴りの威力が強くなってる。
以前の竜胆の『旋風擺蓮』も強力だったが、地面を大きく滑らされる程度の威力だった。しかし今は違う。人間一人が浮遊して吹っ飛ぶような、常識はずれなパワーを持っていた。
防御しても、その防御ごと相手を打ち破るほどのその蹴りに、要はひたすら舌を巻いていた。
「どうしたんだい? 早く立ちなよ」
遠く離れた所に立つ竜胆が、そう声をかけてくる。
要は仰向けの状態から立つべく、両手を使って上体を起こそうとした。しかしさっきの一撃のダメージが多く蓄積しているせいか両腕がブルブルと震えていて、地に手を付いて力を入れた瞬間、積み木が崩れるようにカクンと力が抜ける。なので腹筋と足の力を使って体全体をゆっくりと起こし、やがて立ち上がった。
両腕をぶらつかせながら、要は眼前の竜胆に目を向けた。
「もう降参するかい?」
そう微笑み、軽く挑発をしてくる竜胆。
してもいいかな――という思いが微かながら生まれるが、慌ててそれを振り払った。一発で降参だなんて流石にカッコ悪すぎる。
要はかじかんだように動きがぎこちない両腕を力ずくでコントロールし、再び構えた。
「そうこなくっちゃね。じゃあ、もう一度!」
そう一言告げるや、竜胆は再度疾走する。
要の二、三歩ほど先の位置まで到達すると、跳躍。ダッシュで付けた勢いも相まってその姿は一気に押し迫り、そこから左右二連続の爪先蹴りを放ってきた。知っている。この蹴りは『二起脚』だ。自分も使えるが、こいつのソレはこちらのよりずっと鋭い。
鉄の芯が入ったような力強さでナイフよろしく一直線に刺突されてきたその二つの蹴りを、要は素早く斜め四五度の位置に移動することでなんとか回避した。
迅速に後ろを振り向く。竜胆が重力に引かれて着地しようとしている最中だった。つまり、足はまだ地についていない。要はそこを狙おうと閃光の速さで思いつく。空中にいる今の竜胆は死に体と同じ状態だ。人間は空中では移動ができない。格好の的というわけだ。
ザッ、とつむじ風のように足底をねじって方向転換し、竜胆めがけて弾丸のように瞬発。
今なお自由落下を続ける竜胆の姿が、くわっと視野のほぼ全体を占める。
そのまま掴みかかろうと両腕を伸ばし、それが彼の衣服に達そうとした瞬間だった。
――竜胆の後ろ姿が、いきなり右側へズレた。
要の両手は目標を失い、代わりに空気を掴んだ。
理解不能な現象に、頭の中がごちゃごちゃになる。
ありえない。どういうことなんだ。あいつはまだ空中だったはずだ。なのに「なぜ移動できる」?
ゼロコンマ数秒の間に、思考をフル回転させる。
すでに着地してたのか? と一瞬考えたが、視界の隅っこに映る彼の両足へ注意を向ける。地面までもう僅差だが、やはりまだ浮いていた。
にわかに信じられないが、この状況証拠を見る限りでは、その信じがたい話を結論として信ずるより他はなかった。
つまり――空中で移動したのだ。
結論付けると同時に、竜胆の両足が着地。
そして右脚を素早く持ち上げると、振り向きざまに足裏を叩き込んできた。
ものすごい重圧に腹を殴られ、要の全身が再び軽々とぶっ飛ぶ。
胎児のように寝た状態で地を滑り、砂埃が派手に巻き起こる。やがて停止した。
「けほっ、けほっ、けほっ……!!」
地面の上に仰臥し、腹を押さえながら咳を繰り返す要。
むせ返って涙目になりながら、竜胆に目を向けた。そして視線で訴えかける――なんださっきのは、と。
その訴えを理解したのかしていないのか、竜胆は滔々と語り始めた。
「これは昔鄧老師に習ったことなんだけどね、蹴りを主体とする六合刮脚では当然、下半身を主に用いる。どの武術でも下半身は大事だが、六合刮脚では特に重要だ。その下半身というのはなにも脚部だけではなく、それを稼働させる股関節も含まれる。そして六合刮脚はある程度の境地まで下半身の功夫を高めると、その股関節でいくつかの特殊な運動を行うことが可能になるんだよ」
竜胆は感慨深そうに続けた。
「俺はここ最近の修行で、ようやくその境地に足先を踏み入れることができた。片方の股関節へぶつけるイメージでもう片方の股関節を引き寄せることで、骨盤に無理矢理推進力を与え、空中での位置移動が可能になったんだ。骨盤は自重が最も集中する箇所だからね、それを動かすことができれば、宙を舞った状態でも相手の攻撃を躱せるってわけだよ」
無茶苦茶な理屈に対し、狐につままれた感じが否めなかった。しかし自分は見てしまっている。空中移動などというデタラメな芸当をやってみせたところを。
要はよろよろと立ち上がり、衣服に付いた砂埃を叩き落としながら竜胆に睨みを効かせた。
やっぱりこいつ、以前よりも強くなってる――その事を再確認した。
もう少し休みたい気分だったが、竜胆はそんな暇は与えないとばかりに三度目のダッシュを開始。
要は仕方なしに全身を奮い立たせ、竜胆の攻撃に備えた。さっきから一発で地面に寝かされてばっかりだが、今度は食い下がってやる。そして隙を見つけたら突き飛ばすなり足を払うなりして地面に倒し、起き上がる前に全体重をかけて身動きを取れなくしてやる。ルールではそれで勝ちだ。
やがて竜胆がこちらとの距離を縮め、蹴りを乱打してきた。
あらゆる位置からあらゆる動きで縦横無尽に襲い来る蹴りを、要は決死の重いで躱し、時には手で弾く。こいつの場合、蹴り足を捕まえても無駄だ。片足を捕まえても、もう片足で器用に蹴りを入れてくる。なので、こうして攻撃をいなしながら、かいくぐれる隙間を探すしか手はない。
飛び交う無数のミツバチのような蹴りの嵐を懸命にさばきながら、じっくりと機を待つ。
そして、竜胆が正面から踏むような前蹴りを放ってきたのを見た時、要はチャンスの到来を感じた。
『閃身法』の一つ――全身を捻って体の軸をずらす身体操作によって、要はその蹴りを紙一重で回避。そのまま竜胆の横合いに侵入した。
目と鼻の先には、右前蹴りを空振らせる竜胆の横顔。
今は蹴りを出している途中なので片足立ちの状態だ。二本足よりは重心の安定に劣る。ここで体当たりして地に転がし、起き上がる前に馬乗りにでもなって動けなくすれば、俺の勝ちだ。
走り出すべく地を蹴ろうとした瞬間、正面を向いていたはずの竜胆の体が――こちらへグワン、と転身した。
「ガッ――!?」
それとほぼ同じタイミングで、右脇腹に衝撃が走った。
脇腹に食い込んでいたのは竜胆のブーツの爪先。見ると、竜胆の右足は鍵爪に似た形となり、要の右脇腹を引っ掛けるように蹴っていた。
竜胆の足の器用さと柔軟性に内心度肝を抜かれる。まさか、あの状態から蹴り足の軌道を変えるなんて。
要は打たれた部位を押さえながら後方へたたらを踏み、竜胆の真後ろで止まった。とっさの行動ゆえだろうか、蹴りの威力自体はさほどでもない。
しかしそれで終わらないのが六合刮脚の蹴り技だった。
竜胆は背中を見せたまま、こちらへ向き直ることはなかった。なんと――後ろ向きのまま蹴りを連発して来たのだ。
まるで馬が後ろ足を跳ね上げるようなキックを、蹴り始め時の足の角度を逐一変えて何度も何度も打ち込んでくる。爆竹が爆ぜるがごとき激しさで放たれるソレを、要は必死にバックステップで避け続けた。
素っ頓狂なその動きとは裏腹に、付け入る隙が全くと言っていいほど見当たらない。足を後ろへ跳ね上げる蹴りは以前も見せていたが、このように連続で放ってはこなかった。おそらく、これもたゆまぬ特訓の成果だろう。
「滑稽に見えるだろう!? だけど俺は至って真剣さ! 忘れたかい!? 六合刮脚の「六合」の意味を! 上下左右前後の全方向へ自在に蹴りを放てるからこその六合刮脚! 後退しながらの連続蹴りくらい、今の俺にはお茶の子さいさいなの――さっ!」
竜胆は力強く吐気するや時計回りに身を翻しつつ、右足による後ろ回し蹴りを振り出した。
要は右肩を力ませつつ、それを両腕でガードした。ジィィン……と衝撃が右半身に染み渡る。相変わらず痛々しい威力だが、今度は倒れずに受け止められた。
しかし――それは竜胆の術中に自らハマる行為に等しかった。
竜胆は、こちらの両腕に接した自身の右足の膝を突然曲げたかと思うと、こちらの上半身を右足の大腿部と下腿部で挟むように絡め取った。
そして腰の回転によって、自らの手前に要の体を引き寄せた。驚くべき事にそれは、足を使った投げ技だった。
こいつ、どれだけ足の使い方が巧いんだ――!
「うわっ!」
その容赦のない足の引力に、要は竜胆の足元へ前のめりに倒された。
ヤバい、早く起き上がらないと。そう焦る思いを抱いた時にはすでに――竜胆の右足がこちらの背中を強く踏んで押さえていた。
懲りずに体を起こそうと踏ん張るが、竜胆の足は要の体を地面に縫い付けて離さない。
「勝負あり、だ」
竜胆はうつ伏せになった自分を俯瞰しつつ、静かにそう告げた。
勝負あり。つまりそれは――こちらの敗北。
敗北――その一単語が、まるで波紋を打ったように頭の中で響き渡る。
敗北、敗北、敗北、敗ぼく、はいぼく、ハイボク…………
まだ残っているはずの気力が、まるで漏斗の底から水が出て行くように抜ける。
また、負けてしまった。
これでさっきと合わせて二度目だ。
敗北に敗北を重ねたのだ。
ルールありの闘いでさえ、俺は勝てなかった。しかも、また反撃の一つも出来ずに。
全身に、ここに来る前と同じような倦怠感が訪れる。
自信がなくなりそうだった。
もう立ち上がらないで、このまま寝ていたい。
そのまま目を閉じようとした瞬間、上から竜胆の声が降ってきた。
「どうだ工藤君――俺は今、君に勝ったぞ」
要はイラッとした。そんなこと分かってる。負けた事実くらいちゃんと受け止めてる。なのになんでわざわざまた教えるんだ。分かってることを何度も繰り返すなよ。
だが竜胆の顔を見上げると、そこにあったのは勝ち誇って口端を歪めた表情ではなかった。
厳しさと優しさが綺麗に混じり合った、どこまでも誠実な顔つきと眼差し。
「仕返しはもう目標じゃないけど、俺は必死に修行した結果強くなり、今、こうして君を破るに至った。以前は負けたけど、今、こうしてそれを挽回することができたんだ」
気がつくと、要は一言一句聞き漏らすまいと耳を傾けていた。
竜胆はこちらの背中を押さえつけていた足を離すと、中腰になり――手を差し伸べてきた。
「今、俺にだってできたんだ。以前俺を倒してみせた君だってきっと可能なはず。二度目の闘いで鴉間匡を負かすことが、ね。あとは選択の問題だ。このまま泣き寝入りするのか。それとも――さらなる高みに手を伸ばすのか。全ては君次第だ、工藤要」
――「鴉間には勝てない」と成長を諦めるのか。
――修行し、鴉間を超えるほどの力を手にするのか。
竜胆は、その二つの選択肢を自分に与えたのだ。
そしてようやく確信する。彼が自分にわざわざ試合を申し込んだりなんかした意味を。
要の力を見てみたい、なんていうのは建前。実際は要を叩き伏せるために勝負を挑んだのだ。
そして、それは悪意や私怨からの行動ではない。
一度負けた者が同じ相手との再戦で勝ってみせることで――勝利を挽回することが十分に可能であると証明するため。
初敗北で気落ちしていた自分に対する、彼なりの励ましだったのだ。
そこには、竜胆の願いが込められている気がした。一度の敗北で潰れるような男になって欲しくない、七転び八起きができる奴になって欲しい、という願いが。
「君次第だ」という突き放した言い方こそしてはいるが、内心では後者を選んで欲しいと思っているのかもしれない。
――高みに手を伸ばすという選択肢を。
刹那、憑き物が落ちたように倦怠感が消えた。
ダメージを受けているはずなのに、妙に体が軽い。クスリと笑みすら溢れる。
ここまでされたら、もう落ち込み続けてなんかいられないな。
こいつの言うとおり、すっ転んだらまた起き上がればいい。そしてまた歩き出せばいい。同じ位置で寝転がり続けてるなんて、あまりにも俺らしくない。
なにより――やられっぱなしは性に合わない!
決意が固まった要は、跳ねるような勢いで体を起こし、しゃがんだ体勢となる。
そして、差し出された竜胆の手を――掴んだ。
「……君ならそう来ると思ってたよ」
竜胆はホッとしたように、それでいて嬉しそうに微笑む。
要は軽く苦笑しつつ、
「本当かよ? 今ホッとしてなかった?」
「いーや、そんなことはないね。全くない」
「……まあ、そういうことにしとくよ」
再び笑みを漏らすと、要は竜胆の顔を真っ直ぐ見据え、気力のこもった声で言った。
「あんたに頼みがある――俺をバイクで今すぐ「易宝養生院」に連れて行ってくれ」
読んで下さった皆様、ありがとうございます!
やばい、風邪引いた……
今日修理に出してた自転車取りに行く予定だったのに、どうしてこうなった_| ̄|○




