第四話 周囲の変化
休日明けの朝。
要は初夏の陽光が降り注ぐ通学路を歩いていた。
ちなみに一人ではなく、両脇には達彦と菊子がそれぞれ並んで歩を進めている。菊子とは潮騒町駅を降りてすぐの広場で、達彦とはそれから少し歩いたところで合流した。
「……暑ぃなオイ。初夏でこれって……先が思いやられるぜ」
「というより……ジメジメしてて気持ちが悪いかも」
達彦、菊子がそんなことを言う。
要も同感であった。
シオ高ではすでに衣替えが行われ、自分と達彦はもちろん、そこかしこを歩くシオ高生も皆半袖ワイシャツを着用している。
ちなみに菊子だけは少し違う。ワイシャツ一枚なのは同じなのだが、彼女が着ているのは長袖ワイシャツだ。休日に易宝養生院へ来たときに「肌が弱い」と言っていたので、おそらく肌を隠すためだろう。別にちゃんとワイシャツ一枚であれば、このシオ高では袖の長さに関して口やかましく言われることはない。
だが、軽量化したからといって暑さがなくなるわけではない。暑いものは暑い。
おまけに昨日の夜、南国のスコールのような豪雨が雷とセットになって降り注いだせいで、暑いだけでなく蒸し蒸しして不愉快だった。その上停電が起きたため、テレビの時刻表示が横線状態になっていた。今朝それを修正するのに余計な手間をかけさせられた。
ニュースによると不快指数は九七パーセント。立っているだけでじっとりと汗が湧き出し、気力が削がれるかのようだ。
「それになんだか……頭もズキズキするし……」
側頭部に触れながらそうぼやく菊子。
達彦は軽く笑うと、
「倉橋って、天気で体調が変化しちまう方?」
「うん……梅雨の日とか、時々体がだるくなったりするの」
「大丈夫かキク? 学校行ける?」
「う、ううん、大丈夫。別にそこまでひどくはないから。心配してくれてありがとう、カナちゃん」
「そっか。何かあったら言えよ? 俺が保健室に連れてってやるから」
「あはは、わたしとカナちゃんクラス違うからダメだよ。先生に怒られちゃう。それに、一人で大丈夫だから」
菊子は口元に手を当て、クスクスとおかしそうに笑声をもらす。
「なんでぇなんでぇ、優しいじゃねぇのー?」
ふと、達彦が眦の下がった目でこちらを見つつ、含んだ言い方をしてきた。
「え? 別に普通じゃん」
「そっかぁ、普通かあ~。要、お前そんなに倉橋のことが大事か~?」
なんだか達彦の口調がいつもよりウザったい気がする。
でも、とりあえず素直に答えるとしよう。
「当たり前じゃん。めちゃくちゃ大事だよ」
要は一寸の曇りもなく、きっぱりと告げた。
だってそうだろう。彼女とはあの危ない状況を共に助け合ってくぐり抜けた仲間なんだ。蔑ろにしていい理由が見当たらない。
「……へ、へぇ…………言い切ったな」
見ると、達彦は驚いたようにこちらへ視線を向けていた。
さらに見ると、菊子がこちらから顔を背けていた。
長々と伸びた黒髪の横から少しだけはみ出た彼女の頬は、トマトのように真っ赤に染まっていた。
その様子に尋常ならざる気配を感じた要は、
「お、おい、どうしたのさ? やっぱ体調悪い?」
「なっ、何でもないのっ! 何でもないんです! 大丈夫だからっ!」
菊子は長い左右の横髪を両手で掴み、それで顔をくるんで覆い隠した。
その不可解な行動に要は首をかしげるが、あまり深い詮索はすまいといつものように歩きを続ける。
学校もすぐ近くになり、道行く人のシオ高生率が約八割を超える。
それよりもさらに近づき、校門まで来て、それをくぐった時だった。
「工藤くん、おはよー!」
通りかかった女子生徒の一人に、そう挨拶をかけられた。
要はいきなり後ろから触れられた犬猫のようにビクッとし、そちらへ目を向ける。
全く知らない女子だった。というか、同じ学年ですらない。胸ポケットに入った校章の刺繍の色を見て、彼女が二年生だと分かった。
だが挨拶された以上、よっぽど嫌いな奴でもない限りシカトはどうかと思う。なので「おはようございます」と後輩の立場をわきまえた挨拶を返そうとした時だった。
「工藤くん、おはー!」
今度はまた別の方向から。
「おはよー!」
また他の場所から。
「おはよう、今日も可愛いね工藤くん」
今度は頭もひと撫でされた。
校舎へと数歩進むたびに、全く名前も顔も知らない生徒から何度も挨拶される。特に女子の割合が多い。
――最近ずっとこうだ。
学校やその周辺をただ歩いているだけで、端にいるシオ高生から声をかけられる。それも一回や二回ではない、結構な頻度でだ。
「……要よぉ。最近お前の近くには女の影がしょっちゅうちらついてるな」
「人を節操無しみたいに言うなっ」
達彦の失言をピシャリと否定する。
「まあ、それは冗談として……お前が新聞に載っちまったあの日以来、ずっとこんな感じだよな。もう一週間以上は過ぎてるってのに、飽きないもんだねえ」
呆れたように笑う達彦。
そうなのである。
倉橋菊子誘拐事件で紙媒体に載ってしまってから、周囲の反応や見る目が今までとはガラリと変わった。
有り体に言うと、ちやほやされるようになったのである。
道を歩いている途中で声をかけられることが増えたり、事件の時のことを根掘り葉掘り聞かれたりと、まるでアイドルのような扱いだ。
別に賑やかなのは嫌いではないが、ここまで人が多いとさすがに鬱陶しく思えてくる。邪険にするのも気が引けるため、口に出したりはしないが。
それからも次々と飛んでくる知らない人からの声かけ。それに辟易しつつ、昇降口まで歩みを進めた。
革のカンフーシューズを脱いですのこに乗り、上履きへと履き替えるべく自分の下駄箱を開いた時だった。
「うわっ?」
要は思わずのけぞった。
下駄箱の蓋を開けた瞬間――中からいくつもの紙がバサバサと流れ出てきたのだ。
「なんだ、これ……?」
しゃがんだ姿勢のまま、要はそのたくさんの紙の一枚を手に取る。
それは、有名マスコットキャラクターによるデザインで彩られた、ファンシーな洋形封筒だった。
ベロのない方の面には、ボールペンによる丸っこい字で「工藤要様へ」と書かれている。
「手紙……?」
思わずそう呟きつつ、他の紙も手を取って調べる。
全て、同じような封筒だった。
これは一体……?
「おいおい、マジかよ……」
達彦の呟き。引きつった苦笑を浮かべていた。
まるで、コレがどういうものか知っているかのようなリアクション。
「達彦、これって何……?」
要は胡乱げに尋ねた。
すると達彦は焦ったそうに数度周囲を見回してから、
「……とりあえず、それ全部一旦集めようぜ。話はそれからだ」
ホームルームまでまだ時間に余裕があったので、三人は校舎裏へと移動した。
今の要は目立つ存在なので、堂々とやり取りをしていると高確率で外野が釣れる。なので、ほとんど人の来ないこの場所で緊急会議をすることにした。
三人は三角州を作るような形で、錆びた焼却炉の傍らにしゃがみこんでいた。
三人の中心には、先ほど要の下駄箱から溢れ出てきた十枚弱ほどの洋形封筒。封はすべて解かれている。
「ラブレターだな」
その手紙全てに目を通した達彦は、ピシャリとそう結論づけた。
要はおっかなびっくりな態度で、すでに分かり切ったことを確認する意図をもって訊いた。
「ら……ラブレターって、あのラブレター?」
「そうだっての。手紙に恋心をしたためて相手に渡すアレのことだ。他に何があるってんだ」
達彦が疲れたようにそう言いつつ、最後に読んだ一枚の手紙を手渡してくる。
要はそれに目を通した。
『工藤要くんへ
好きです。あなたの事が大好きです』
非常に少ない文字数。
だが、要の全身を硬直させるには十分な威力を持っていた。
まさか、ラブレターまでもらうことになるなんて。
他にも次々と達彦に手渡される。それに目を通していく。
『好きです』『大好きです』『愛してます』『結婚してください』『占いの結果、私の未来の結婚相手はあなたでした』『私たちは前世から結ばれる運命だったんです』…………
これでもかというくらいのラブコールの数々。後半はなんだかオカルティックだったが。
「まさかたくさんのラブレターまで呼び込むとはなぁ…………こんなイベント、漫画だけだと思っていたが……いやはや、お前にゃ恐れ入ったよ。大した奴だ」
のんきにそう言い放つ達彦に対し、要は頭を抱えて焦燥のまま口を開いた。
「大した奴だ、じゃねーよ! どうすればいいの俺!?」
本気で焦っていた。
要には決定的に恋愛経験が皆無だった。
女子に告白などしたこともなければ、されたこともない。
というより、それ以前にまともに異性に懸想したことすらなかった。
小学校低学年の頃、仲がよかった友達のお姉さんに好意のようなものを抱いていたが、あれは年上の異性に対する幼さゆえの憧れのようなもので、恋愛感情とは言い難いものだったような気がする。
とにかく、要は恋愛に関してはド素人もいいところだった。
それゆえこのような場合、一体どのような対応をすればいいのか見当もつかない。
苦悩でうんうん唸っていると、
「……カナちゃん…………この手紙の中の誰かとお付き合いするんですか……?」
菊子がそう尋ねてきた。
気のせいだろうか、その表情はどこか哀切そうだった。
「どうしてそんな顔をするのか」を尋ねるくらいは普段の自分ならばできたのだが、今はそんな余裕がなかった。
「いや……流石にこんないきなり来られても、今は判断の付けようがないって」
「そう……なんだ」
要のその意見を聞いて、菊子は安堵したような、それでいてまだ一抹の不安を引きずっているような感情を声色に表す。
「まあ、要も倉橋も安心していいと思うぜ?」
ダウナーな雰囲気を醸し出す二人に向けて、達彦が声を明るめにして言ってくる。
その元気の良さに要は若干イラつきながら、
「なんでだよ?」
「手紙全部に目ぇ通してみろよ。告白の待ち合わせ場所どころか、差出人の名前すら記入されてねぇはずだぜ?」
要と菊子はハッとしつつ、達彦の言うがまま一人半分に分担して手紙を全てチェックする。
「マジだ……どこにも書いてない」
「こっちも見当たらない……です」
チェックを終えた二人は、互いにそう同じ結果を告げた。
手紙の返事を告げるための待ち合わせ場所、差出人の名前。王道のラブレターには最低限書いてあるはずの事柄が、手紙の表裏どころか封筒にすら書かれていなかった。
二人は顔を見合わせた。菊子は困惑した表情。おそらく、自分も同じような顔をしていることだろう。
だとしたら、これらの手紙の送り主は、一体何が目的でよこしたのだろうか。
「俺が思うに、そいつはラブレターであって、ラブレターではない」
まるでこちらの考えを読んだかのように、達彦が定義を口にした。
「どういうことだよ?」
「要、お前はあの事件で新聞に載って以来、この学校では一種のスター的存在になっちまったわけだ。そしてそういう奴に感激して、一部の女子がラブレターを送る。この丸っこい字なんて見るからに女子のそれだしな。ただしその女子連中は、別にお前のことを本気で好きってわけではない」
「意味分かんねーよ。なんで好きでもない相手にわざわざラブレターなんて書くんだよ」
「まあおそらく、身も蓋もない言い方をすれば自己陶酔だよ。今のお前は話題の渦中に立つ特別な人間だ。そんな奴をさも好いている気になって陰ながらラブコールすることで、一時的に陶酔感のようなものを味わう。「恋に恋する」って言葉があるが、それと似たようなもんだ。「工藤要という話題の男子と、それを陰ながら見守り、奥ゆかしく手紙で告白する自分の図」に一種の快感を覚えるんだ。物語の世界ではよくいるしな、そういう立場のヒロイン」
「はぁ? そんな意味のないことするのか?」
「する奴もいるんだよ。まあ、単なるイタズラって線もあるだろうが。ラブレターを渡すわけだが、仮に本気になられて近づかれても困る。元々、本気で好きではないわけだしな。だから素性が割れるような情報は一切記入せず、告白文だけを渡す。まあこうして色々述べてみたが、ファンレター的なものだとでも思えばいい」
「ファンレター、ねぇ……というか達彦、なんでお前そういうこと知ってるわけ」
「一応お前よりは恋愛経験あるからな、俺」
「あっそ……」
要がそんなふうに興味を失った目で手紙を眺めていると、
「――いずれにしても、そんなのひどいですっ!」
不意に、菊子が憤然と立ち上がった。
「好きとか大好きとか愛してるとかっていう言葉は素敵だけど、安易な気持ちで言ったらその分相手は傷つくんです! それをそんないい加減な姿勢で言うなんて! それでもしもカナちゃんが本気で送り主の方を好きになったりしたらかわいそうですっ! だって、好きになってもその人の顔はおろか、どうやって会えばいいかも分からないんですよ!? そんなの残酷です! こんな事をする人たちの神経がわたしにはさっぱり理解できませんっ!!」
張り詰めた声で、爆発させるようにまくし立てた。
拳を握りしめ、肩をいからせ、唇を噛み締め、はっきりとした怒りを見せている。いつもおとなしい彼女には珍しい情緒だ。
そしてそれだけに、要と達彦は我知らず目を見開いていた。
彼女が叫ぶように喋ったのを最後に、その場がしんと静まり返る。
菊子は自分のために、面白半分でこんなラブレターもどきを送った連中を怒ってくれたのだろう。それは理解できるし、その……嬉しい。
だがその怒りようそのものが、普段の彼女とギャップがありすぎて返事に窮していた。おそらく、達彦も同意見のはずだ。
「………………あ」
菊子は今まで取り巻いていた怒気を消したかと思うと、我に返ったように目を丸くする。
そして、その真っ白な頬をみるみるうちに真紅に染めていき、
「あ………………ああああああああああああああああああああ!?」
やがて顔を両手で覆い隠し、羞恥にまみれた声を張り上げながら逃げるようにその場から走り去った。
取り残された男二人。
「……恥ずかしかった、のかな。「思わず言っちゃった」的な?」
「多分な。後でフォローしてやんな」
コクリ、と首肯する要。
あっという間に放課後となった。
「今日は疲れた……」
要はだらりと項垂れながら、学校の敷地をトボトボ歩く。
「嬉しい悲鳴ってやつだな」
隣を歩く達彦がそうのたまってきやがったので、じろりと一睨みして黙らせる。他人事だと思って……。
ちなみに菊子は先に帰ってしまった。帰りのホームルームが終わって廊下を歩いている途中で一度出くわしたが、自分と目が合った瞬間沸騰したように顔を赤くし「さよならっ」と一言添え置いて逃走した。
閑話休題。
今朝からずっと、気の休まる時が皆無だった。
休み時間中では別に仲が良いわけでもないクラスメイトが多数集まって話しかけてくるし、さらに昼休みには他クラスから知らない女子が弁当片手に「お昼、一緒に食べよう?」と言ってくる始末。要は波風を立てぬようやり過ごすのに精一杯だった。
今年の四月に達彦と最初にケンカして勝利した翌日、クラスメイトたちから随分と騒がれたのを覚えている。だが今回は他のクラスにまで波及している分、それ以上の盛り上がりだった。
スクールカーストなんて言葉は嫌いだが、中学までの自分はどちらかというとその下層に位置する存在だったため、人から大仰に賞賛されることに慣れていない。ちやほやされると人は天狗になるというが、要は逆に困ってしまった。
「まあまあ、みんな自分たちのガッコにヒーローを手に入れた気になってんだよ。だからあんまり嫌がってやるな」
疲れた顔をする自分に、達彦がそうなだめるように言ってくる。
「ヒーロー、か……」
要は思わず呟く。
正直、実感がわかない。
自分は少し前まで、ただの矮小な子供だったのだ。
それが成り行きとはいえ、新聞に載り、大勢から賞賛の嵐を受けるような存在へと成り上がるなんて。
だが誘拐事件の時のことは、小さい頃好きだった変身ヒーローよろしく正義や平和のためじゃなく、すべて自分のためにやったつもりだ。
あのまま何もせず、縛られたままでいるのが嫌だった。だから菊子とともに脱出する道を選んだのだ。
だから自分は、自分をヒーローだなんて思わない。いや、思えない。
「話は変わるけど、知ってっか? 最近海線堺市じゃ……シオ高生を狙ったタカリが増えてるらしい」
達彦は急に真剣な顔になり、話題を変えてきた。
要は眉をひそめながら、
「タカリ?」
「カツアゲの事だよ」
「……初耳だぞ、そんなの」
「知らねぇのか? ここ最近酷いんだぜ。シオ高の制服着てる奴が道端を歩いてると、いきなり悪そうな奴が通せんぼして「通行料金よこせ」とかふざけたこと吐かして金を要求してきやがんだよ。ノーと言ってもすぐに殴られて、結局奪われちまう」
「な……なんだよそれっ? まるで強盗じゃんか。誰だ、そんなことしてるアホは」
「お、俺に怒んなよ……多分――『五行社』の下っ端だ」
「エレメンツ?」
初めて聞く固有名詞に、要は眉を潜めつつ首をかしげる。
達彦は呆れ笑いのような顔をしながら、
「お前そんな強いのに、不良界のことには疎いのな」
「うるさいなぁ。興味無いんだよ」
「はいはい。『五行社』ってのは、ここ海線堺市でトップクラスのギャング団のことだよ」
「ギャング団?」
「そう。そいつらはこの辺にはびこる多くの不良グループを従わせて飼い慣らし、あらゆる方法で金集めをさせてやがるのさ。さっき話に出したカツアゲは言うに及ばず、脅迫、盗難バイクの売りさばき、痴漢容疑のでっち上げと枚挙にいとまがねぇ。その上『五行社』自身は自分たちの手を決して汚さねぇときたもんだ。チャカを持ってねぇだけで、やってる事はほとんどヤクザだよ」
要は少なからず驚きを見せた。
まさかそんなとんでもない連中が、この海線堺市にいたなんて。
もしかして、平和な街だと思っているのは自分だけなのだろうか。
「さらに驚くべき事が一つある。『五行社』は多くのグループを仕切ってるとさっきも言ったが、その『五行社』自体の構成人数は――たったの五人だとよ」
「え……!?」
今度の情報は、流石に目を丸くせざるを得なかった。
たったの五人で――大勢の不良グループを従わせる?
「そもそも『五行社』の「五行」ってのは、中国の哲学思想「五行説」にちなんだものだ。万物は「木」「火」「土」「金」「水」五つの要素の存在と影響の及ぼし合いによって成り立ってるっていう思想。連中が五人なのはその木火土金水にちなんだ人数合わせをしているからで、それぞれの奴がその五つの要素のうち一つを自分の称号として持っている。確かに「たかが」五人。だが――「されど」五人とも表現できる」
「どういう意味だ?」
「連中は人数が少ない分、その一人一人がとんでもねぇ強さを持ってやがるってことさ。連中はその力をもって、少数の女王アリが数万もの働きアリや兵隊アリを生むかのような破竹の勢いで勢力を拡大していったんだ。手前味噌だがよ、俺も中学時代はそこそこ名を上げたんだ。そんな俺でも『五行社』とは出来れば関わりたくねぇと思うくらいだからなぁ、それ以外のシオ高生にとっちゃ地獄の鬼みてぇな存在のはずだぜ」
確かに、それは恐ろしいはずだ。
達彦の話から察するに、その『五行社』のメンバーはおそらく、一人で複数の敵を同時に相手に出来るほどの力を持っている。一人で一人分の強さしかない五人に、多くのグループを束ねる事など出来るはずがないのだ。
「――でもさ、俺は思うのよ。そんなシオ高生でも、お前みたいに頼りになる奴が一人でもいてくれりゃ、みんなも少しは安心出来るかもしれねぇってさ」
達彦は枕のように両手を後頭部にやり、そう歯を見せて笑いかけてきた。
「いや、そんな頼りにされても困るんだけど……」
「だけど、助けてくれるんだろ? 目の前でタカリかけられてたり、ボコにされてるシオ高生がいたらよ」
「そりゃあ……うん」
要は小さく頷く。それまでに少し間を作ってしまったが、その首肯は紛れもなく本心だった。
自分は昔「そういう目」にあっていたところを助けられた。だからここにいて、今の自分があるのだ。
だからこそ、自分と同じ目にあっている者を見つけたら、まずは助けようと思う。
もちろん、それは自分がヒーローだからでも、ちやほやされているからでもない。
誘拐事件の時と同じように――そうしないと嫌だから。
そんな風に二人で話していると、向かい側――校門の外から一人の女子生徒が学校の敷地内へ入ってきた。
血相を抱えて周囲を見回しながら下校コースを逆走中のその女子は、徐々にこちら側との距離が近くなってくる。
ここに戻って来るまで結構走ったのだろう。女子は呼吸を乱しながら一度立ち止まり、機敏に首を回して再度周りを見る。
「なんだ、ありゃ?」
達彦が怪訝な声を出す。
その女子のワイシャツを見る。胸ポケットの校章の刺繍は自分と違う色。二年生だった。
彼女は今なおブンブンと頭を左右に振り、血眼で四望していた。
そして――自分と目が合った瞬間。
「き、君! 工藤要くんよねっ!?」
女子は息が上がっているのも忘れ、こちらを真っ直ぐ見つめながら勢いよく駆け寄ってきた。
そして、いきなり要の両肩に掴みかかり、すがるような表情と声色で告げた。
「お願い――私の彼氏を助けて!!」
読んで下さった皆様、ありがとうございます!
最近寝不足だからでしょうか、時間を見つけてキーボードを打っている途中に度々うつらうつらしてしまい、誤字が多発しています。今日推敲してビックリしました……
展開に変化が訪れ始めるのは、あと二話後くらいでしょうか……
眠気に負けず、頑張りたいです(~_~;)




