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戦え、崩陣拳!  作者: 新免ムニムニ斎筆達
第三章 水行の侵食編
47/112

第二話 十数年来の勝負(ゲーム)

「フェイフォーン。うりうりうりー」


 易宝養生院の居間にあるダイニングテーブルの一角に座する菊子は、胸に抱いている白猫フェイフォンの顎を指で優しく撫で回す。


 ゴロロロロ…………フェイフォンは気持ちよさそうに喉を転がした。


「肉球も、ぷにぷにー」


 菊子はさらに片足の肉球もフニフニと摘み、夢見心地な顔になっていた。


 だが少し刺激が強かったのか、フェイフォンはじたじたと暴れだした。


「ひゃっ、ご、ごめんねフェイフォン。痛かった?」


 菊子はびっくりした様子でそう謝罪しながら、フェイフォンのお腹や頭を柔らかい手つきで愛撫する。


 するとあら不思議、大人しくなりました。


「よしよし、ごめんねー。次からはもっと優しく触るからね」


 菊子は前髪で目元が隠れていても分かるような満面の笑みを浮かべ、フェイフォンの小さな体を大事そうに抱きしめた。


 そんな彼女の幸せ百面相を、要は向かい側の席で和むように見つめていた。


 だが、そんな幸福な空間と陰陽を分かつかのように、横合いからは打って変わって負のオーラが漂っていた。




 テーブルから少し離れた所で――易宝と臨玉がブチブチと言い合いをしていた。




「やあ易宝、こうして会うのは一体何年ぶりだろうねぇ? 久しくそのふてぶてしい面構えを拝めて僕は幸せだよ」

「ふんっ、おぬしこそ全然変わっておらんではないか。眺めているだけで鬱病や自律神経失調症にでもなりそうな陰険なツラ、最後に会った頃のまんまだ」

「いやぁ、君のふてぶてしさには負けるよ。中国のペットショップで犬と偽って販売されているタヌキそっくりだ」

「またまた、心療内科を開いたら半年と待たずに廃業しそうなおぬしの陰険顔に比べたら大したことはないさ」

「………………」

「………………」


 ――ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ。


 無言で互いの脛を蹴り合う二人。


 長年の宿敵同士である彼らは、もう十分以上こんな調子で言い合いをしているのだ。よくもまぁ悪態のネタが尽きないものである。


 だが、実は内心少しだけ安堵もしていた。


 あの飄々とした易宝があれほど悪し様に言っていたほどなので、会った瞬間即バトル的展開も懸念していたのだが、繰り広げられたのは血で血を洗う拳闘ではなく、子供のような口喧嘩であった。


 いつまでもケリのつきようがない水掛け論のオンパレード。時々出てくるちょっかいレベルの蹴り。とても大人のケンカには見えない。


 特に臨玉に驚きだった。あれだけ理知的で冷静な人――菊子が絡むと発狂するような面にはとりあえず目をつぶっておく――が、これほど幼稚な口論にヒートアップするなんて。これが「易宝の宿敵である一面」なのだろうか。


 しかし、いい加減見ていて居心地が悪くなってきた。


「あのー……そろそろ終わりにしない? ずっとそんな風にしてたら疲れるでしょ」


 要はそう易宝にやんわり告げることで、口論を打ち切らせようとした。大体のケンカは片方が妥協して引き下がれば終わるものだ。


「…………うむ、一理あるの」


 易宝も分かってくれたようで、臨玉から離れてしぶしぶ台所へと移動し始めた。


 だが途中で一度立ち止まって振り向き、臨玉とガンを飛ばし合ってから移動を再会した。ダメだこりゃ。


「わしはこれから茶でも飲もうと思うが、カナ坊はいるか?」

「俺、冷たい麦茶が欲しい」

「あいよ。んじゃ、嬢ちゃんはどうする?」

「あ、お構いなく」

「僕は凍頂烏龍茶を頼もうかな」


 さりげなく会話に参加している臨玉に、易宝はじろりと目を向け、


「おぬしには聞いとらん」

「客は茶でもてなすのが華人の礼儀だと思うよ?」

「やかましいわメガネ。そこのコップで水道水でも飲んどれ」

「いいじゃん師父、入れてあげようよ」

「君の弟子はこう言ってるけど?」

「……ち」


 そう舌打ちすると、易宝は茶の用意を始める。


 それから少しすると、湯気立つ小さな茶杯を片手に持った易宝が、目の前に冷たいお茶の入ったグラスを置いてくれた。要は軽く感謝をする。


 そして易宝は台所からもう一つ小さな茶杯を持って来ると――臨玉の目の前に「ドンッッ!!」と叩きつけるように置いた。茶杯の中に入った黄緑色の液体が荒波のように暴れて端から少し溢れる。


「……易宝、確か君に茶を教えたのは君の師だったよね? こんなやり方をしろと教わったのかな」

「手元が狂っただけだ。そんなつまらんことをいちいち鵜の目鷹の目で見よって、本当に小さい男だなおぬしは。もっと大人になれ」

「こんな大人気ないことしてる君に言われたくないなぁ」


 再び二人の間に剣呑な空気が生まれ始める。


「カナちゃん……このお二人って、仲が悪いんですか……?」

「……まあ、色々あるんだよ」


 おずおずと今更な質問をしてきた菊子に、要はぼかした言い方で返す。


「あれ? カナちゃん、そういえばその格好……」

「え? ああ、その、修行の時に着るやつ。さっきまで修行の最中だったんだよ」

「そうだったの? ごめんなさい……邪魔だったね、わたし」

「いや、気にするなって」


 むしろあのデンジャラスな修行から開放してくれて感謝してます――その言葉はあえて出さない。


「そういうキクこそ、いつもと違う感じの服じゃん」

「う、うん…………」


 何気なく問うと、菊子は頬をうっすら桜色に染めて項垂れた。


「その、もうセーターじゃさすがに暑いかなって思ったし、でもわたし肌があんまり強くない方だから半袖だと日に焼けちゃうし、だから生地は薄めで、それでいて可愛い服をお母さんに選んでもらったの」

「そうなんだ。ていうか、制服以外でスカート履いてる所見るのって初めてだな。今までジーパンばっかだったし」

「あ、こ、これは、その……これもお母さんに薦められて…………」


 声を尻すぼみにさせながら、頬を一層赤くする菊子。


 要は軽く相好を崩しつつ、


「いいんじゃないか? 似合うぞ、ソレ」

「……っ! あ、ありがと……カナちゃん……」


 菊子は赤面させて恥ずかしそうな、だがそれでいて嬉しそうな表情を浮かべて小さめに言う。


 そんな彼女の態度に、要もつられて自分の言ったことに照れくさくなってくる。


 二人の間に、奇妙な雰囲気が生まれていた。


「――あー、んんっ!」


 ふと、そこで咳払いをする声が割って入り、雰囲気が破られる。


 声のした方向を見て要はギョッとした。臨玉が頬杖を付きながら、面白くなさそうにジト目でこちらを見つめていたのだ。


 臨玉はジト目をやめると、一度心底悩ましげな溜息をついてから話題を変えてきた。


「そういえば、君もとうとう弟子を取るようになったんだね易宝。昔から引く手あまただった入門希望者全てを袖にしてきた君が……ね」

「……ふん、まぁの」


 すでに着席していた易宝は涼しげに、かつ意味深に微笑む。


 その易宝の一笑に――要はなぜか深いニュアンスが秘められているように思え、心のどこかがざわついた。


 しかし易宝はすぐにその笑みを引っ込め、からかうような表情に転じる。


「そういうおぬしこそ、しばらく見ない間に宮仕えなんぞしとったのか。ふふふ、雇用主のご機嫌伺いでさぞストレスまみれな毎日だろうよ。自営業のわしが羨ましいか?」 

「とんでもない! むしろ僕はとうとう天職を見つけたと思って神に感謝しているよ。何せ――こんな可愛らしいお嬢様のお側にいて面倒を見れるのだからね。むしろ旦那様から給料を頂くのが申し訳ないと思うくらいだよ」


 そう言って臨玉はほんわかした顔で菊子に目を向けた――そこには先ほどまで易宝と睨み合っていた歴戦の武人の姿は欠片もなかった。


 途端、易宝は自分の椅子をあからさまに臨玉から遠ざけ、汚物でも見るような表情で、


「うぉえっ…………貴様、幼女趣味だったのか……なるほど、それなら今まで多くの女に言い寄られて一度も靡かなかったのも頷ける話だ」

「下卑た表現をするのはやめてもらいたいね。これは父性愛のようなもの。そもそもお嬢様は立派なレディーだ。幼女扱いは許さないよ」

「や、おぬしとの年齢差を考えれば十分幼女だと思うがの……」


 易宝は呆れたように笑いながら呟く。


「あの……臨玉さんと劉さんは、お友達なんですか?」


 菊子は素朴な感じで、目の前の二人にそう問うた。


 すると、臨玉はにっこりと満面の笑みを浮かべ、


「お嬢様? その可愛らしいお顔でそんなタチの悪いジョークは似合いませんよ?」

「そうだぞ嬢ちゃん? わしはこんな根暗顔の友達を持った覚えはないぞ?」


 ものすごい勢いで互いの顔を向き、ガンを飛ばし合う二人。


「や、やっぱり仲がお悪いんですかっ?」


 大人同士のそんな大人気ないやり取りにオロオロとした口調で言う菊子に対し、臨玉が慌てた態度で弁解に入った。


「ああっ、驚かせて申し訳ありませんお嬢様っ。何といいますか……易宝とはその、昔からの腐れ縁のようなものです」

「……まあ、それが適切な表現かものう」


 易宝も苦笑しつつ肯定する。


 そしてそこから自然と、二人は互いに出会った頃のことを話し始めた。


 二人が初めて出会ったのは――1970年代後半。


 長かった文化大革命がようやく終わりを迎え、これまで紅衛兵の影に怯えていた立場の人々がポツポツと表舞台に出始めた頃。


 ずっと時代の影になりを潜めていた武術家たちも堂々と外を歩けるようになり、あちこちで腕試しや技術交流の集まりを行っていた。中国人は同じ目的や志を持つ者同士で大人数のグループを組む傾向があり、それは武術家も例外ではなかった。

 

 当時まだ「若かった」易宝も引きこもっていた山から降り、その集まりの一つに参加した。


 そこで――臨玉と出会った。


 初めて目を合わせた瞬間、二人は訳のない直感で「こいつは気に入らない」と感じたそうで、お互い若かったがゆえの血気もあってすぐに試合へと発展した。腕試しというのはキリの良いところでやめる怪我の出にくいもののはずだったが、二人が行った試合は周囲がドン引きし、そして慌てて止めに入るレベルの苛烈さだったそうだ。


 互いの服が裂け、血が流れ、骨を軋ませた末に立っていたのは――臨玉だった。

 初の敗北に悔しさを感じた易宝は、次の日に再び試合を申し込み、それに勝利した。

 さらに次の週、今度は臨玉が再戦を仕掛け、それに勝つ。


 そのような小競り合いが長年かけてズルズルと続いていき、いつしか二人で(つる)んで何かを行うのが当たり前になっていた。


 二人はあらゆる荒事をともに経験し、それと並行して互いに競い合った。


 そして十数年前、二人は一度別々の方角へ別れ――そして今日再会した。


 まさしく腐れ縁である。


「……初対面で「気に入らないから」なんて理由で殴り合いって……師父がそう言うのは多少想像できるかもだけど、夏さんがそんな事するなんてあんまり想像できない」

「いや、あの頃は若かったんだよ僕も。医者だった父が強制労働で過労死したばっかりだったから、そのショックで相当捻くれてたんだ」

「……すみません、俺……なんか悪いこと思い出させちゃいましたか」


 自分の言葉が元で身内の死を連想させてしまった事を、要は素直に謝った。


 そんな自分に臨玉は不愉快そうにするどころか、優しく笑いかけてきて、


「君は易宝に似ないで良い子だね、工藤くん。気にしなくていいよ。まあとにかく、昔の僕はすごくとんがってたんだよ」

「目つきもかなり悪かったしのう。あ、今も同じか」


 そうほくそ笑む易宝を、臨玉はじろりと一睨みして黙らせる。


 だが要にはもう一つ――無視し難い事実があった。


「あの、夏さん……もう一ついいですか」

「うん?」

「その話って文革が終わったばっかりの頃の事で、その時二人ともまだ「若かった」んですよね? てことは夏さんの年って……」

「わしと同い年(タメ)だ」


 要は椅子ごとひっくり返りそうになった。


 見た目的には二十代半ばか後半、しかし年齢は最低でも四十は過ぎているという年齢不詳の我が師、劉易宝と同じ年。しかも見た目も彼同様、女が放っておかなそうなほど若々しく、見目麗しい。


 ――嘘だろ、おい。もう一人いるのか。


 そんな自分の声無き驚愕が伝わったのか、菊子も口元を押さえながら、まるで未知の生物でも見るような目で臨玉を見る。


「そういえば、臨玉さんがおいくつなのか、わたしも聞いた事ありません……」

「そうですねぇ……何歳なんでしょうね?」

「あの、聞いてるのはわたしなんですけど……」

「易宝、僕って何歳? ずっと数えてないから忘れてしまったよ」

「知るか」

「じゃあ君の年齢は? 僕と君は同い年だから、君の年齢がそのまま答えになるよ」

「残念ながらわしも四十から先は覚えとらん」

「なるほど、じゃあ僕も四十歳は過ぎてるってことだね」

「ま、そうなるのう」


 異次元すぎる二人の会話に、要と菊子は冷や汗を流しながら顔を見合わせる。


「カナちゃん……この人たちって一体……」

「わ、わからん……」


 やっぱり不老不死の薬でもやってるんだろうか? 中国ってそういう伝説多いし。


「ところで工藤くん、君はさっきまで修行していたそうだが、いったいどんな修行だったんだい?」


 不意に、臨玉が屈託ない口調で訊いてきた。


 先ほどまでにやっていたことを思い出して背筋を寒くしながらも、要は説明する。


 すると、臨玉は突然爆笑しだしたかと思うと、茶をすすっている易宝に冷ややかな双眸を向け、


「やれやれ易宝、君は相変わらず前時代的な修行法を捨てていないようだね」

「……なんだと?」


 易宝の持つ茶杯にぴしりと薄いヒビが走るのを見て、要は一瞬悲鳴を上げかけた。


 だが臨玉は微塵も臆する様子もなく、冷笑を交えて続ける。


「弟子を殺しちゃったらどうするんだ、という意味だよ。君自身が無茶をするのは大いに結構だが、それを弟子に強いるのはいかがなものかと思うね」

「やかましい、他門の修行に口を挟むんじゃない。そういう貴様こそなんだ? 走雷拳基本歩法の『游身』は実戦使用可能レベルに至るまで最低でも一年はかかるらしいじゃないか。ふんっ、そんなチンタラやってたらあっという間に後ろから首ちょんぱだ」

「走雷拳への侮辱は許さないよ? そういえば君は何かと僕を根暗だの陰険だのと腐してるけど、こう見えて僕は世界各地に学生がいて、なおかつ武術界以外にも顔が広い。根暗なのは一子相伝なんて流行らない事を清代からずっと貫いている、君たち崩陣拳なんじゃないのかい?」


 バァン! と二人同時にテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。


 菊子が「ひぅっ」と縮こまり、睥睨をぶつけ合う大人二人をおずおず見る。要も同様のリアクションだった。


「そういえば、この前カナ坊にくそったれな伝言を聞かされたばかりだったのう。「386勝385敗72引き分け。僕が一勝リード中だ。早く来ないと死んで勝ち逃げするよ」だったか? だったらその一回の負け分――今ここで取り返しても構わんのだぞ?」

「――面白い。逆に負け星を一つ増やしてさらに差を付けてあげるよ」


 二人を取り巻く雰囲気が今までで最高潮に重々しさを帯び、風船のように膨れ上がって部屋全体を覆う。


 ヤバい。これは――爆ぜる。


「お、お二人ともっ、ケンカはダメですよっ」


 菊子が慌ててそう呼びかける。


 すると、二人は全く同じタイミングでこちら側をぐるりと振り返り、


「――カナ坊!」

「――お嬢様!」


 そして、今度は声をハモらせて告げてきた。


「「リンゴを一つ用意してくれ(ください)!!」」


 ……………………え?











 さんさんと日差しが降り注ぐ正午の空。


 日光を腕で避けながら見上げると、まるで巨塔のような積乱雲がいくつかできているのが確認できた。だが雲と太陽の間隔はあまりに遠く、今日の日中は熾烈な日差しが止む事はないと見受けられる。


 そんな空の下、易宝と臨玉は立っていた。


 易宝養生院の中庭に広がる黄土色の地面からもわもわと湧き出す熱気など全く歯牙にもかけず、二人は間を置き、ただ向かい合って宿敵の顔を見据えている。


 易宝はよく着る漆黒の長袖唐装で、臨玉は黒い執事服。両者ともに長袖長ズボンな上に、黒という熱を蓄積させやすい色。どう考えてもこの暑さの中で過ごす格好ではないが、それを纏う二人の顔には汗の雫一つ見られなかった。

 

 だが何より一番目を引くのは、両者の頭頂部に乗っかった――真っ赤なリンゴ。


 真剣な顔で睨み合った状態で頭にリンゴを乗せているという図は、なかなかシュールなものに見えた。


 ちなみに、臨玉のリンゴには「夏」と、そして易宝のリンゴには「劉」と、マジックペンで各々の苗字が書かれていた。


「――えーっと、ルールの確認をします……」


 日を少しでも避けようとつば広帽子を深々と被った菊子が、先ほど二人に聞かされたルールをたどたどしく諳んじ始める。


「勝利条件は、相手の頭に乗ったリンゴを、自分の頭のリンゴが奪われるよりも先に掴み取る事。敗北条件はその逆の立場となる事、またはこれから説明する補足ルールに抵触した場合です。補足ルールは三つ、「もし頭からリンゴを落としても、それを自分の手でキャッチしてはならない。足でリフティングのように蹴って頭へ乗せ戻すのは可」、「相手を殺傷、あるいは重大な障害を負わせるに足る技法を用いてはならない」、「上記の二つに抵触しなければ、どのような技法や戦術を用いても可」…………以上の勝利条件、ルールに合意しますか……?」

「「(シィ)!!」」


 鋭い気迫で合意の返事をした二人に、菊子はビクッと身を縮める。 


 そんな場面を見ながら、要は呆れと安堵の入り混じった笑いを浮かべた。


「いやあ……一時はまた血を流すほど殴り合うんじゃないかと肝が冷えたけど、そうはならなくて安心してるよ俺……」

「阿呆、それは若い頃の話だ。そんな勝負をしょっちゅうしとったら体がもたんわい」


 聞くと、今まで幾度もしてきた勝負も、年齢を重ねるとともに内容が変わっていったのだという。最初のような流血武闘ではなく、ゲーム性を持った比較的安全なものへと変化した。そうし始めた頃にはすでに二人は周りを寄せ付けないほどの実力を身につけていたらしく、そんな二人が本気でやり合えばどちらかが廃人になるか、あるいは死んでしまうからだという。


「それにのうカナ坊、手加減するというのは、ある意味相手をなぶり殺しにするより難しいのだぞ? 特に――自分と同じレベルの相手とやり合う時にはな」


 そう、易宝は挑戦的に微笑む。


「なんで?」

「乱暴に表現すると、相手を殺したいのなら殺意をもった全力の攻撃を何発も叩き込むだけでいい。だがその力を加減した状態で、同じレベルの相手と戦う時は大変だ。手加減するなら強く打ちすぎるのはまず論外。しかし、かといって弱く打ちすぎても通用しない。なにせ相手は自分と同レベルなのだからのう。だからこそ強すぎず、それでいて相手がそこそこ痛む「ちょうどよい」力加減を見つけなければならない。そして、そういった加減が実に面倒くさい。しかし――それもある意味修行になるもんだ」

「何の修行だよ?」

「手加減することの、だ。確かに拳法は戦う手段である以上、必殺の威力を手に入れてナンボだ。しかしその必殺、つまり「相手を必ず殺す力」を見境なく人に振るってしまえば、そいつはいつか塀の中だ。そうならないために手加減というのは大事なんだ。特に——わしらのような存在にはのう」


 ――「存在」? 


 その引っかかる物言いに要は目をぱちくりさせるが、


「さあ、そろそろ始めようか、易宝」


 臨玉がそう促した事で、意味を問うタイミングを失ってしまった。


 おしゃべりがなくなり、中庭は静謐さを持った熱気に包まれる。


 しかし、微動だにしないまま対峙し続ける二人の間の空気だけが暴れ渦巻いているようなプレッシャーを感じる。まさに静中の動。 


 先ほどまでと違い、汗はだらだらと流れるのではなく、皮膚表面からじとりと浮かんでくるように出てくる。


 実際に過ごしている時間はたった数秒のはずなのに、まるで十分以上経過しているかのような錯覚に襲われ、立ちくらみを起こしそうになる。


 自分と隣り合わせで勝手口のそばに立つ菊子は、まるで怯えたウサギが耳を垂らすようにつば広帽子を深々とかぶり、やや不安げに二人の様子を見ていた。 


 未だに直立状態のまま動かぬ二人の鋭い双眸は、相手を真っ向から睨みつけているように見えて、実はもっと違う「何か」を見ているような気がした。あくまでカンだが……。


 だが、やがて――変化が訪れた。


 不意に、易宝が急激に全身を捻りつつ、臨玉に向いた方の肩にある腕を勢いよく伸ばしだした。


 その次の刹那、臨玉の姿がLEDライトを消灯させたかのように立ち位置から消え、易宝の眼前へ転移。


 その時にはすでに、臨玉が易宝のリンゴがある位置と同じ高さに片手を伸ばしていた。距離は申し分ない。しかしリンゴは少し横にずれていたため、その手は空気を掴んでいた。


 易宝も臨玉同様のポーズ。先ほど伸ばした手はギリギリでリンゴの位置を横へずらされたせいで、掴み損ねていた。


 ――まだ一秒と経っていない。


 だというのに、目の前にはリンゴを掴み損ねた二人の構図が、瞬きする間もないうちに出来上がっていた。


 要は思わず舌を巻く。




 だが、それは氷山の一角だった。




 易宝がもう片方の手を臨玉のリンゴめがけて突き出し、風を切る。


 対して臨玉はその手が到達するギリギリのところで、リンゴを乗せた頭の位置を真横へ移動させた。

 

 しかし、その頭を動かした場所は――易宝が最初に伸ばした手のある位置だった。


 待ち構えていた易宝の手の指が、臨玉のリンゴを包み込みにかかる。


 だが、その手が掴んだのは赤い残像。


 臨玉は易宝の懐から足を退け、距離を取っていた。


「――フッ!!」


 次の瞬間、易宝が細く鋭い吐気とともに急激に腰を落とし、片足を激しく踏みおろした。


 ズドォン――人間のものとは思えない、重機が落下するような重々しい足音が轟くとともに、中庭の物々が一瞬小さく跳ね上がる。


「うわっ」

「きゃっ」


 要と菊子も瞬間的に意図せぬ浮遊感に襲われ、着地とともに数度たたらを踏む。


 知っている。あの自分を体を落とすような足踏み。あれは――『震脚』だ。


 だが、自分のソレなどとは月とスッポン、いや、火星とスッポンくらいの爆発力の違い。地面に深くめり込んでいる易宝の踏み足がそれを雄弁に物語っていた。


 一度感嘆は捨てて、勝負の行方を予測する――これほどの威力ならば、臨玉も一瞬だろうがバランスがおぼつかなくなっていることだろう。


 そう思い、顔を上げて臨玉の立ち位置を見たが――そこに臨玉の姿はなかった。


 視界の上端っこから、見覚えのあるスーツの裾と革靴に包まれた両足が伸びているのに気づき、視線を上昇させる。


 なんと臨玉は――二メートル近い高さまで跳躍していた。 


 おまけにこんな時でも立身中正を忘れていないため、頭頂部に乗ったリンゴには全くぐらつきが無い。


 臨玉の体はアーチを描く軌道で易宝の元へ落下していく。


 易宝は左拳を脇に構えながら臨玉の真横――右側へと移動。


 それから半秒と待たずに、先程まで易宝のリンゴがあった位置を、臨玉の左爪先蹴りが通過した。その蹴りは槍の刺突のように鋭かった。


 臨玉が着地した瞬間――


「――『旋拳』ッ!!」


 大型台風の瞬間最大風速もかくやというスピードと、鉄球のごとき重量を併せ持った易宝の左拳が、下半身と体幹の時計回りの捻りとともに放たれる。足元に立ち上る微かな砂煙が、彼を中心に渦を巻くように拡散していた。


 しかし臨玉は軽やかなステップで一歩後退し、その爆速の拳打を紙一重で躱す。


 突き出された拳の外側の位置を取った臨玉は、そのまま彼の頭頂部のリンゴに手を差し出した。


 だが易宝は先ほどの『旋拳』で捻った方向とは真逆のベクトルで全身を捻り返しつつ、その勢いを利用してもう片方の腕で臨玉の手をしたたかに払った。


「ぐっ……?」


 それによって、伸ばした腕に繋がる肩が必要以上に上がってしまい、臨玉の全身に姿勢とバランスを保つための無駄な硬直が生まれる。


 ――そこを見逃す易宝ではなかった。


「もらったぁ!!」


 嬉々として臨玉の懐へ飛び込み、リンゴめがけて片手を勢いよく突き出した。


 だがそこで、突如易宝は笑みを一転、ハッとした表情を浮かべる。


 かと思えば、伸ばした方とは別のもう片方の手を、迅速に腹部の前に掲げた。


 刹那、まるで予定調和のように、その掲げた手に臨玉の前蹴りが叩き込まれる。


 受け止めたことでクリーンヒットはまぬがれたものの、余剰した勢いによって易宝の両足が大きく後方へ滑った。


「ってて…………この馬鹿力が……」


 停止した後、ぐらついたリンゴを頭の動きで整えながら、易宝は蹴りを食らった手をプラプラさせて痛みをこらえていた。


 地面に線を引いた両足の跡から、もくもくと砂煙が舞う。


 その煙が完全に空間に溶けるのと同時に、要は思考する余裕を取り戻した。


 凄いなんてもんじゃない――はっきり言って異常だ。


 相手の一手先を読んだ上で動き、相手もまたそんな動きを読んで対処する。そしてそんな互いの動作はさらに次の攻防への繋がりを秘めており、そこから再び読み合いを交えた立ち回りが始まる――そんないたちごっこの上で成り立っているがごとき攻防。まるであらかじめ動作順序の決まったデュオダンス、もしくは約束組手と錯覚しそうになる。


 二人は違う「何か」を見ている――この闘いが始まる直前にそんなカンを抱いたが、あながちデタラメではないのかもしれない。


 易宝、臨玉は距離を取り、再び視線をぶつけ合っている。


 動きこそ止まっているが、精神や思考はものすごい速度で回転しているのかもしれない。それを裏付けるかのように、二人の目つきは普段通りに見えてどこか凄みを帯びていた。さっきまで汗一つなかったはずの額にも、ほんの微かにだが雫が浮かび始めている。


「カナちゃん……」


 菊子がやや不安げに、要のズボンの裾をちんまりと摘んでくる。


 彼女の気持ちは分かる。今の二人は見ていて少し不気味だった。


 しかし要は――それ以上にこの先の展開が楽しみで仕方なかった。


 自分には決して真似できない高度な攻防の応酬。


 それをどこまで行い、どれだけ変化させ、そしてどのようにして風呂敷を畳むのか、それを早く見せて欲しいと心のどこかで催促している自分に気づいていた。


 やがてそれに応えるかのように、ずっと向かい合って止まっていた二人が距離を狭め始めた。


 驚くべきことに、その手段は『震脚』を交えた瞬発でも、走雷拳の神速の歩法でもなかった。




 ――歩いた。




 直立二足歩行動物たるヒトが最もよく行うであろう単純な動作。


 本来隠すべきはずの正中線をさらけ出し、まるで街路を歩くかのような軽く、ゆったりとした足取り。


 予想の斜め上を行くその行動に、要の思考は早くも混乱を禁じ得なかった。


 しかし、互いに一目置くこの二人の闘いだ。無意味な行動では決してないはず。相手を侮る行為をした方から敗北の味を知る。これは紛れもなくそういう勝負なのだから。


 構えず、飾らず、一歩一歩近づく二人。


 一歩。一歩。また一歩。


 手が簡単に届くほどまでに距離が近くなっても、二人は行動を起こさない。それどころか相手のリンゴに見向きすらせず、真っ直ぐ向いて歩き続ける。


 近づき、横に重なり、やがてすれ違う。


 何も起こらなかった――そう緊張を一旦緩めようした瞬間だった。


 互いに背を向けた二人の体が、急激かつ迅速に転身。振り向きざまに右腕を横から振り出し、それらをぶつけ合わせた。


 そこで終わらないのが二人。


 易宝は×(バツ)状に重なった右腕同士の下から左手を潜り込ませ、そのまま臨玉のリンゴに向かって伸ばした。しかし臨玉の左腕がいち早く易宝の左腕に接触し、滑らせるようにして軌道を外側へそらす。


 掴まれて引っ張られる前に、素早く左手を懐に引っ込める易宝。


 次に臨玉が自身の右腕を下へ円弧状に動作させて、ソレと接触していた易宝の右腕を真下へ流す。そこから手の甲側へ曲がっていた右手首を反対方向へスナップさせ、その勢いで手を伸ばして易宝のリンゴを奪おうとした。


 しかしそれを、易宝は先ほど引っ込めた左手で真横に払い除けた。


 そこから先も二人の手技のやり取りはとどまる事を知らず、目にも留まらぬ速さで息つく暇もなく手を伸ばし合い、そして弾き合う。


 一見ふざけているようにも見えるが、二人の表情は真剣そのものだった。


 再び先の見えぬ攻防が繰り広げられる。


 そんな二人を、要はひと時も目を離すまいと見つめ続けた――









 ――はずだったのだが。


「はわわ…………眠たいね、フェイフォーン……」


 あくびを噛み殺す菊子の胸に抱かれたフェイフォンが「うなーう」と気だるげに鳴く。さっき足元に擦り寄ってきたのを、彼女が抱き上げたのだ。


 要も重いまぶたを必死で支えながら、今なお闘い続けている二人へ目を向ける。


 二人は十分前と変わらず――高速の手技による攻防を繰り返していた。


 最初は確かに目を離すまいと思っていたのだが、こうも長く同じようなやり取りが続くと、段々見飽きてくるものだ。


 おまけにもうもうとした熱気と陽気も手伝って、眠気まで襲ってきていた。


 だがやはり二人は必死な様子で、額の汗の量も十分前より格段に増していた。


 こんなやり取りを十分も続ける体力が一体どこにあるのか、聞いてみたい気もする。


 もういっそその辺に畳まれてるバーベキュー用の椅子でも引っ張り出して観戦モードになろうかと考え、歩き出そうとした――瞬間だった。


 今まで手技を繰り返していた易宝が突如両腕を左右に広げたかと思うと、『震脚』によって加速度を高めつつ、胸による体当たりを仕掛けてきた。


「残念、見え見えだよっ!」


 しかし、臨玉は体当たりを食らう直前にその場から姿を消し、易宝の遥か向こうにある木塀の前まで一瞬で退いて見せた。


 二人の間に大きな間隔が出来上がる。


 徒手格闘である以上、勝負はその距離を縮めなければ始まらない。なので易宝の次の行動は、臨玉に近づくことであると自信を持って予想した。


 しかし、その予想はあっけなく――それもとんでもない形で裏切られた。


 易宝はなんと頭頂部に乗っていたリンゴを、首の振りで真上に放り投げたのだ。


 赤い点が空を舞っている間に、易宝は片足を軸にして自身の身を小さく縮め、静止する。


 やがてリンゴが垂直に落ちてきて、それが易宝の額へ接触した瞬間。


 易宝は縮めた体を一気に伸ばしつつ、もう片方の足で一歩前に深く踏み込んだ――まるで波のような動き。


 すると、易宝の額にあったリンゴは――――弾丸のような勢いで飛んでいった。


「――な!?」


 あまりに唐突かつ型破りな行動に、要は眠気など忘れてまぶたを一気に限界まで開く。臨玉すら驚きを見せていた。


 そのデタラメなリンゴの速度を生み出した身体操作にも目を見張るものがあるが、あのリンゴはこの勝負の中で命そのもの。それを平然と敵地に吹っ飛ばす根性が全く理解出来なかった。


 見ると、リンゴはダークレッドの軌跡を作りながら臨玉めがけて――正確に言うならば、その頭に乗ったもう一つのリンゴに向かって一直線に飛行していた。


 まさか――夏さんのリンゴを撃ち落とすために!?


「なるほど、そういうことか!」


 臨玉もそれに気づいたのか、驚きを捨て去り、真っ直ぐ飛んでくるリンゴを眼前に捉えて不敵に微笑むと、


「だが――愚策と言わざるを得ないね!」


 頭の位置を、小さく真横へずらした。 


 それによって易宝の飛ばしたリンゴはその標的を失い、臨玉のあさっての方向へと飛んでいった。


 臨玉はすぐさま真後ろを向き、飛んでいったリンゴへと狙いを定める。


 マズイ。これで師父のリンゴは隙だらけ。夏さんが拾ったらその時点で負けだ。


 絶望的な状況。


 だがそこに立たされているはずの易宝の表情は――なぜか笑顔だった。


 そして、次の瞬間――


「いまだ――『箭歩(せんほ)』ッ!!」


 ――彼は黒い一閃と化した。


 臨玉とどっこいどっこいのスピードで、易宝は一瞬で肉薄。


 そこからすぐに、敵の頭に乗ったリンゴを掴みにかかった。


「っ――このっ!」


 易宝のリンゴに気を取られていたであろう臨玉は反応が少し遅れてしまったのか、易宝の指が自分のリンゴを軽く触れた瞬間にようやく払い除けた。


 触れられたせいか、臨玉のリンゴは軽く揺れている――しかしまだ頭上に健在だった。


「くそっ、しくじったか!!」


 易宝は悔しげにそう吐き捨てると、再び臨玉のリンゴへ幾度も手を伸ばすが、全て無慈悲に弾かれる。


 自分の弱点(リンゴ)をあえて放り投げることで、そちらへ相手の注意を向けさせ、その隙にリンゴを奪い取る――それが易宝の作戦だったのだろう。


 しかし今、その策は失敗に終わった。


 二人は今、先ほど行われたのと同じような手技の攻防を再び繰り返している。


 この状況が最終防衛ラインだ。この攻防が瓦解したら、その時点で臨玉は自慢の神速の歩法で、易宝のリンゴを奪い取るだろう。この状態を保てなくなったら今度こそ終わりだ。


 弟子としては、やはり師の勝利を願いたい。


 要はハラハラとした心持ちで、易宝を見守り続ける。


 だが、不意に易宝は手技を繰り出すのを止め、




 一歩――――後ろへ退いた。




 ずっとリンゴを守っていた臨玉の手が、ようやく自由を取り戻す。


 何考えてんだ、そんなことしたら一瞬でリンゴを取りに行かれて負けるぞ――そんな言葉が喉で引っかかる。


 しかし、易宝の表情は――まるでイタズラを成功させた子供のように嬉しそうだった。


 全く彼の考えを理解できない。


 そう混乱している時だった。


 視界の端――正確には臨玉の背中と木塀の間に「赤い点」が映った。






 それは――――マジックペンで「劉」と書かれたリンゴだった。






 易宝のリンゴが、背を向けている臨玉のリンゴめがけて空中を進んでいたのだ。


 そんなバカな。前から投げたはずなのに――どうして後ろから(・・・・)飛んでくる(・・・・・)んだ!


 ついそう叫びそうになった瞬間に、要はその理由を確信した。


 その答えは、臨玉の真後ろにあった。


 ――木塀。


 つまり、易宝が飛ばしたリンゴは臨玉を素通りした後――その背にしていた木塀を跳ね返って戻ってきたのだ。


 そして、その跳弾を利用して臨玉のリンゴを弾き落とし、それをキャッチして勝利する。


 それこそが、易宝の真の策だったのだ。


 臨玉は後ろを見ていないにもかかわらず気づいたのか、すぐに驚愕で表情を歪めたかと思うと、焦ったように腰を落として自分のリンゴの高度を下げにかかろうとした。


 だが、易宝が踏み込みとともに放った鋭いアッパーカットがそれを阻止。当たりはしなかったが、臨玉はそれを躱すために頭ごと顎を上げざるを得なくなった。


 やがて――二つのリンゴが激突。


 後ろから飛んで来た易宝のリンゴは、まるでだるま落としのように臨玉のリンゴをすっこ抜いた。


 そして、それを易宝がキャッチし、嬉々として天高く掲げる。


 そのリンゴには――確かに「夏」という字が書かれていた。


 臨玉は、そんな易宝をただ呆然と立って見つめていた。


「え、えっと…………」


 菊子はしばしオロオロするが、やがて意を決して、


「りゅっ――――劉さんの勝ちですっ!」


 そう声高に告げた。


読んで下さった皆様、ありがとうございます!


それと、すみません。

この話はもう少し続ける予定でしたが、分割した方が読みやすいかと思い、残りは次回に持ち越すこととしました(~_~;)

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