おまけ 第二章で登場した門派・技法
★登場した門派
『走雷拳』
迅速かつ流れるような歩法で敵を翻弄、あるいは先手を取り、反撃すら許さずに打倒することを目的とした拳法。
別名「神速の拳」。
その持ち前の速さを作り出すには基本にして主軸となる歩法「游身」を身に付ける必要があるが、その独特の修行法ゆえに実戦使用可能レベルにまで鍛え上げるまで長い時間を要する。そのため落伍者も多いが、一度身に付ければかなりの強さを発揮する。
また、浸透勁などの強力な打法も伝わっているため、攻撃力も決して低くない。
★登場した技法・技術
『蹴り技』
中国拳法に存在するあらゆる種類の蹴り。
他の格闘技に比べて巧妙な動きが多いので、これらを反復練習することで足の器用さを向上させ、バランスを崩すことなく歩法を円滑に変化させることができるようになる。
・『正踢腿』……正面への蹴り上げ。
・『蹬脚』……片膝を胸に抱え込むように上げ、そこから踏みつけるような前蹴りを前方へ放つ。相手を後ろへ押し出し、硬直時間を作るのに役立つ。
・『擺脚』……骨盤の展開による遠心力を用いて、片足を半円を描くように後ろへ薙ぎ払う。真横に立つ敵の背中や脇腹に叩き込むのが主な使い方。
・『斧刃脚』……足裏で相手の脛を踏むように蹴る。地味だが低い蹴りなので使いやすく、下半身の功夫が高い者なら膝をへし折ることも可能。
・『側踹腿』……真横へ向けて片足を突き伸ばし、足裏で押し込むように蹴る。ブルース・リーのサイドキックに似ている。
・『二起脚』……飛び込みざまに放つ二連続の爪先蹴り。
・『旋風脚』……後足の膝を胸に一気に抱え込み、その勢いが続いているうちにもう片方の足で跳躍、それによって身を翻すと同時に、跳躍に使った方の足でそのまま内回し蹴りを打つ。
等等……
『游身』
走雷拳の基本にして、命ともいえる歩法。
高低差や断絶の全くない一定速度「等速」の歩法をゆっくりとした速さから行い、長い年月をかけてその「等速」の固定値を少しづつ伸ばしていき、やがて目で追えぬほどの「神速」を手に入れる。
だが普通に歩くのではなく、徹底的に運動エネルギー的なロスを省いた歩き方を用いる。現代人の歩き方にはロスのある動作が多いため、この歩法において大切な「等速」に断絶を生み出してしまうからである。
①「腰をひねらず歩く」……いわゆる「ナンバ歩き」。反対側の手足同士を出し、腰を左右にひねりながら歩いてしまうと、ひねった後に反対側へひねり返す際、直前までのひねりの慣性がまだ余剰しているため、その慣性を打ち消すために必要以上に力を入れてしまう。これだと腰に負担をかけるだけでなく、体に余計な強張りを生んで「等速運動」に断絶を作ってしまう。なので游身ではそうならぬよう、同じ側の手足を一緒に出して歩く。
②「平起平落」……足裏を地面と平行に付く。かかとを付けてから爪先も付けるという踏み出し方だと「かかとを付ける」→「爪先を付ける」という2プロセスになってしまい、その余計な1プロセスが「等速」の断絶となる。なので足裏を地面と平行に着地させることで「足を着地させる」という1プロセスのみに省略する。八卦掌で用いられている足の使い方。
③「後足で地を蹴って進もうとしない」……後足の瞬発力を使うと、地を蹴る力を溜める時間が大なり小なり生まれるため、そこが「等速」の断絶となってしまう。なので游身ではその後足の蹴りを使わず「印堂(眉間の経穴)、両肩、両肘、両手首、両股関節、両膝、両足首が、進む方向から同時に引っ張られる」という意念(簡単に言うとイメージ。詳しくは後述)を用いながら足を進める。これらの部位は皆、人体の重いパーツを支える、あるいはぶら下げている部位である(印堂は頭の重量が最もかかりやすい場所であり、手首・肘・肩は腕のパーツの一つ一つをぶら下げている。股関節・膝・足首は全身を支えている)。それらが引っ張られるイメージを浮かべることで、まるで全身の関節が滑車に繋がれたように軽くなり、スムーズな足運びと体捌きが可能になる。
これら三つを守った上で、歩法を「等速」で行う。
実戦で使える最低レベルにまで昇華させるだけでも時間がかかり、体力面よりも精神面できつい修行法。ゆえにこれのせいで修行を断念してしまう者も少なくない。
『意念』
中国拳法で用いられる、イメージ力による動作クオリティの向上法。
人間や他の動物の筋肉は、脳からの指令を運動神経を介して受け、その通りに膨張・縮小を繰り返す。イメージというのも同じ脳が行う活動であるため、動作中に浮かべるイメージというのは、その時の筋肉や関節の働き方に大なり小なりの影響を与える。
イメージ次第では、普通の動作では動かせない関節、筋肉なども作動させ、打撃の殺傷力を向上させることができる。意念とはそういった「有用なイメージ」のこと。
『麒麟頂肘』
走雷拳の技。
一直線に進んでいる最中、前触れなく九十度横に移動して肘打ちを叩き込む。
伝説の動物「麒麟」は、曲がるときは直角に移動する。由来はそこから。
『巻臂衝』
走雷拳の技。
両腕を上半身に纏うように構え、顔面と胸を隠しつつ体当たりする。
急所を守りながら攻撃できる。
『迎門三不顧』
走雷拳の技。
攻撃を受け流しつつ相手を手前に迎え入れ、三連続で攻撃を仕掛ける。
八極拳や翻子拳にも存在する技。
『抜歩衝捶』
走雷拳の技。
重心を乗せた後足を引き抜くようにして前へ移動させることで、重心を勢いよく衝突させるような正拳を叩き込むことができる。
崩陣拳の「撞」の力に似ているが、威力はそれよりやや低め。だがこの技は相手との距離を離さなくても、比較的強力な威力を発揮できる。
『打水勢』
走雷拳の技。
脊椎を反る力を利用したアッパーを膝蹴りとともに叩き込む。
『劃船捶』
走雷拳の技。
腰を急激にくの字に折り曲げることによって生じた「前へ倒れる力」を使い、拳を打つ。
『滑歩沖拳』
走雷拳の技。
重心を乗せた前足を正拳の直進に合わせて滑らせることで、自重をそのまま相手に衝突させる。
空手の「セイサン」の型にも同じような力の使い方がある。
『陰拿』
相手の体の一部に手で触れ「一定の軽い圧力」を与えることで、相手の脳に「同じ力で押し返さないとバランスを崩す」と勘違いさせる。そうすることで手で触れられている箇所へ向けて、無意識に全身の筋肉を前のめりに作動させてしまう技。
これは「進むことはできても、下がることは一切できない」という状態であり、軽く押すだけで簡単に後ろへ倒すことができる。
『黒虎偸心』
走雷拳の技にして絶招。
「突き出した拳が相手の体を突き破り、はるか向こうへどこまでも飛んでいく」という意念を用いて正拳を突き込むことで、関節のリミッターを外して腕の可動域を増幅させ、打撃の衝撃を体の表面だけでなく体内まで浸透させることができる。いわゆる「浸透勁」。
打たれると、痛みよりも強烈な不快感が先行して襲ってくる。
「相手を突き破る」というイメージを強めるため、この技は目の前に仮想の敵を意識しながら空打ちで練習する。
第二章の技の説明となります。
第三章開始かと思ってしまった方、紛らわしい真似をして申し訳ありません(ー ー;)